自分の求める文月像はこんな感じです。
「ただいまぁ〜!艦隊が帰投したよぉ〜!」
そう言いながら駆け寄り、文月は司令官へと抱きつく。
「おかえりなさい、文月さん。」
そう言いながら、優しく抱きしめ返す。
ここは日本の最前線から程遠い小さな小さな鎮守府。資源の備蓄、保存。近海の哨戒を主任務とした、司令官1人と駆逐艦4人からなる小部隊の鎮守府である。
「お疲れ様でした、文月さん。他の皆さんは?」
「他のみんなは補給を取りに行ってるよ〜。」
文月はいつも通り補給を受け取るよりも先に、執務室へやってきた様だった。そして司令官の膝に乗り、定位置へと移動する。
「文月さんは補給、取りに行かないんですか?」
「あたしは、司令官のそばがいいから。…ダメ?」
上目遣いで司令官の顔を覗き込む。彼女のその綺麗で美しい琥珀色の瞳に、吸い込まれそうになる。
「いえ…。僕も文月さんのそばにいると、癒されるので、そばにいてくれるのは嬉しいですね。」
なんということはなく、本心からそう答える。だが、その奥の奥にある思いは、あえて無視する。その思いが、感情が、彼女を傷つけてしまうことになってしまうかもしれないから。
「えへへ〜。それなら良かったぁ〜!」
文月は特に何をするでもなく、司令官の膝の上に乗っている。遠征から帰投したばかりのはずなのに、その体はとても暖かい。司令官は書類に書き込んでいた右手を止め、そっと文月の頭を撫でる。
「なでなでしてくれるのぉ〜?あたし、なでなでされるの好きだから嬉しい!」
さらさらとした麦色の髪が指と指の間を駆ける。
「んへへ〜…。司令官のなでなではとっても落ち着く〜…。幸せぇ〜。」
ゆったりとした口調がいつもよりもゆったりとした口調になる。
「やっぱり、文月さんの髪も綺麗です。とってもサラサラで触り心地もとてもいいですし。」
「実はね、この髪、皐月ちゃんがお手入れしてくれることが多いの〜。あたしは逆に、皐月ちゃんの髪をお手入れしてあげてるんだよぉ〜。皐月ちゃんの髪は金髪で綺麗だよねぇ〜!」
彼女の口から仲のいい姉妹艦の自慢が出てくる。
「そうなんですか…。それは知りませんでしたね。」
「皐月ちゃんはすごいんだよぉ〜。」
「えぇ。あの子もすごい子ですよね。」
「さてと…。あたしは補給を受け取ってくるよぉ〜。またすぐ後でね!」
そう言って膝から降り、司令官をめいっぱい抱きしめる。
「えぇ。行ってらっしゃいです。」
それから抱きしめた手を離し、部屋を出ていく。すぐそこにあった温もりの恋しさと、なんとも言えない肌寒さが司令官を身震いさせた。
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「それでね!それでね!文月ったらそんなこと言っちゃったんだよっ!」
夕食後の団欒中に文月のことについて話す皐月。睦月型姉妹の中でも特に仲のいい二人である。
「やめてよぉ〜、皐月ちゃ〜ん!」
元気いっぱいに話す皐月と対照的に顔を真っ赤にしてオロオロしながらやめてという文月。
「あははははは、それは傑作だな。」
「文月ちゃん、それはおかしいよ!」
と長月と水無月が笑ったせいで余計真っ赤になって縮こまってしまうその姿を見て、さらに愛おしいと感じてしまう。
「さてと…僕は片付けをしてきますね。」
頃合を見計らって司令官が声をあげる。
「あ、あたしが今日はお手伝いするよ〜!」
先程の話題のせいか、恥ずかしさでまだ顔が赤くなっている文月が着いてくる。いつもはお手伝いを誰がするかでちょっとした取り合いになるのだが、さすがに今日は何も起こらなかった。
「まだ顔が赤いですけど…大丈夫ですか?」
「ほぇっ!?ほ、ほんとに!?だ、大丈夫だよぉ〜!」
頬に手を当て、びっくりしたような顔をする。
「また真っ赤ですよ…?今度は耳まで。」
「〜〜!!///」
急にしゃがみ込み、目を合わせたせいでさらに真っ赤になってしまう。それと同時に文月は声にならない悲鳴をあげる。それを見かねて、そっと頭を撫でる。余程安心感が生まれたのだろうか、緊張感が瞬く間に消えていく。
「はぁぁ〜…。司令官のなでなで、とっても落ち着くよぉ〜…。」
気持ちよさそうな声が漏れる。落ち着いたのを見計らってそっと手を離す。そして元の目的のために歩き出す。
「片付けが終わったら、またなでなでしますから、一緒に頑張りましょうね。それと、皐月さん達も待ってますから。」
「は〜い!」
そう、元気に返事するのだった。
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「この時間だと、まだまだ寒いねぇ〜…。」
フタフタマルマル、鎮守府内の見回りに出た文月と司令官は懐中電灯を手に歩いていた。
「ねぇ司令官、手、繋いでもいーい?」
「えぇ。いいですよ。」
「えへへ〜ありがとう!」
心底嬉しそうに感謝を告げる。そして指と指を噛み合せるように手を繋いでくる。司令官は幼い体に見合った小さな暖かいその手を包み込むように握り返す。
「恋人繋ぎだよぉ〜。どうかな、どうかなぁ〜?」
「…文月さんの手は、すべすべで柔らかくて、なんだか心まで暖かくなってきますね。……僕の手は、冷たくないですか?」
「手が冷たかったとしてもそれは心が暖かくて、優しい人って証拠だよぉ〜。それに、司令官の手が冷たかったら、あたしがこうしてあっためてあげる!」
純真で、真っ直ぐで、優しすぎるほどに優しい彼女は繋いだ手を自分の頬に当てて、司令官の手を温める素振りを見せる。
「ふふ、文月さんは暖かいですね。ずっとこうしていたいくらいです。」
「司令官がお望みとあらば、いつまででもこうしてるよぉ〜?」
司令官の手を、自分の頬に当てながら言った。
「それは嬉しい限りですねぇ。ですがこのままじゃ文月さんをなでなでできないです…。」
「それは困るなぁ〜…。あっ、いいこと思いついちゃったよぉ〜!あたしが手をあっためてからなでなですれば、万事解決だよぉ〜!」
とても嬉しそうな笑顔を浮かべ解決策(?)を提案する。
「確かにそうです。一緒にいられる時間も増えますし、万事解決ですね。」
「えへへ〜そうでしょ〜。褒めて褒めて〜!」
司令官はすっとしゃがみ、片手で持っていた懐中電灯を床に置いて頭を撫でる。
「んへへ〜。司令官のなでなで好き〜。とっても心がポカポカしてくるよぉ〜。」
彼女は自然と頬が緩み笑顔になる。そんな笑顔につられて、笑顔になる。文月にはなにか、人を笑顔にする才能があるようだった。
「文月さんとこうしていると、なぜだか心が満たされますね……。」
気づくとそう、言葉が溢れていた。
「あたしも、とってもとぉっても幸せだよぉ〜!」
彼女は本当に幸せそうな顔をしていた。そんな表情を見て愛おしさが加速し、そのままでいてもらいたいという思いと、自分だけのものにして、ずっと守っていたいという思いが交錯する。しかしあえて、決断を下すことはしないつもりだった。そのはずだった。
どれほどの時間がたっただろうか。体感的には数瞬のようでもあり、無限にも感じられる時間が過ぎていた。撫でる手を止め、名残惜しさに後ろ髪を惹かれつつも彼女の頭から手を離す。
「先に、見回りを済ませてしまいましょうか。」
余程彼女を安心させ、落ち着かせたのか今にも眠りに落ちてしまいそうなほど目はトロンとし、体の力も抜けていた。それでも
「了解だよぉ〜。」
と気力で返事をする。いつも以上に甘く、ゆったりとした口調が心をくすぐる。あえて意識することを無視していた感情が鎌首をもたげる。その感情を隠し通すことは既に限界は超えていた。そしてその仕草がひとつの決心をする後押しをしたのだった。
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司令官が、執務室へ文月を呼び出す。呼び出しをかけることはかなり稀で純粋に疑問を抱きながら文月はやってきた。
「司令官、わざわざあたしを呼んでどうしたのぉ〜?」
「実は…文月さんに渡したい物がありまして…」
机の引き出しから青色の小箱を取り出す。今までは無視していたその感情に対して、いや彼女、文月に対してまっすぐに向き合うことにしたのだった。傷つけてしまうことになってしまうかもというのは、自分に対する言い訳だった。ただ心を決めていない、それだけだった。
「えっ!?それって!?ふぇぇぇっ!?」
それを見た文月が素っ頓狂な声をあげ、見る間に顔を真っ赤に染め上げる。ひとつの決心。それは、彼女にその指輪を送ることだった。艦娘の彼女には戸籍というものがない。だから指輪はあくまでも仮の話である。しかし思いは、仮では無かった。
「必ず、あなたを、文月さんを幸せにして、絶対に守ることを誓います。だからこれを…受け取って貰うことは出来ますか?」
片膝をつき、彼女の方に向けて開けたその小箱を右手に乗せてゆっくりと差し出す。
「ほんとに、ほんとにあたしでいいの?」
不安そうに、目の端に涙を貯めながら聞き返す。
「僕は…僕が大好きな文月さんに送りたいんです。」
まっすぐ見つめ、そう返す。すると彼女の琥珀色の美しい目から、涙がとめどなく溢れ出す。ただただ彼女はそれを拭う。そして、泣き腫らした瞳と笑顔でで一言。
「はいっ!喜んで!」
それは未だかつて見たことのないほどの幸せと嬉しさが溢れるている笑顔だった。文月は小箱から指輪を取り出し、それを左手の薬指に嵌める。それから今までにないほどの精一杯の強さで司令官を抱きしめる。それに応えるように司令官も力強く抱きしめる。
「司令官、あたし、すっごく、すっご〜く幸せだよぉ〜!」
耳元でそうつぶやき、ひとしきり抱きしめた後離れる。それから彼女は薬指に嵌めたそれを、幸せそうな恍惚とした表情で眺める。
しばらくして何かを心に決めたような文月がこちらにやってくる。今まで見たことないほどに頬を紅潮させ、かなり緊張しているのが見て取れた。
「司令官、ちょっとしゃがんでくれる?」
言われた通り、目を合わせられる高さまでしゃがむ。そうすると彼女は司令官の頬に、小さな右手を添え、左手で司令官の頭を抱えるように回す。それから目を閉じ、小さく、優しく、口付けをする。それから一言。
「大好きだよ、司令官!」
それはとても甘い、甘い日常の始まりにしか過ぎないのだった。
もしも好評なら続編を書くかも知れません。
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