前の世界線とは全く関係ないということも同じく抑えといてください。
ではでは。
「しれーかーん!おっはよー!!」
執務室の扉がバァンと開け放たれると同時に、金髪の少女が自分の腕の中に飛び込んでくる。
「司令官、おはよっ!」
「おはようございます、皐月。」
自分の腕の中でもう一度、しっかりと目を見て言う。
彼女の名前は皐月。この鎮守府のメンバーの中でもそこそこの古参のうちの一人だ。
「ギューーーッ!!やっぱり司令官は暖かいね!」
「皐月も、暖かいですよ。」
そう言いながら頭を撫でると幸せそうな顔で
「んへへ〜。」
と言う声が漏れる。そして
「今日のお仕事は何?ボクの出番はあるかい!?」
と元気いっぱいに尋ねてくる。
「今日は長距離偵察任務があるから、皐月の出番は無いかもなぁ。」
と言うと
「ちぇ、ボクの出番は無しかー。でもでも、秘書艦として司令官と一緒にいられるから、結果オーライ、だね!」
表情をコロコロと変えながら笑顔でそう締めくくる。
「書類業務も、頼りにしてますよ。」
「まっかせてよ、司令官!ボク、頑張っちゃうんだから!」
そう言った皐月の頭を撫でると「えへへ〜」と間延びした可愛い声を出す。口には出さないが、ほんとに可愛いものだ、とつくづく思った。
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「ふぅー、こっちは終わったよ!」
皐月がペンを置き、伸びをしながらそう言う。
「こっちもおしまい、ですね。」
自分もペンを置く。そのタイミングを見計らって、皐月が書き上げた書類を渡してくる。
「じゃあ今日の業務は…おしまい?」
自分が担当した書類と皐月の担当した書類、それぞれに目を通し、確認を行う。
「えぇ、おしまいです。」
ふぅ。と一息ついて書類の束を執務机に置く。
長距離偵察任務に出ている龍驤達は明日になるまで帰らない。名実共に、業務を終了させたのだった。
「司令官、何するー?」
業務はおしまいと聞いてからすぐに膝の上に乗り、足をパタパタさせながら皐月が聞いてくる。
「そうですねぇ、何しましょうか。」
「ボクは司令官と一緒だったらなんでもいいよ!」
屈託のない笑顔でそう言う。そんな時の皐月の瞳はいつもに増して輝いていて、美しい。
「ちょ、司令官!聞いてるー?そんなにじっと見つめないでよ…」
「ごめん、皐月の瞳が綺麗すぎて思わず見入ってしまいました。」
「ふぇっ!?ボクが…綺麗?そ、そうかなぁ〜……。」
褒めるとすぐに照れて顔を真っ赤にしてしまう。そんな仕草が可愛らしくて、愛おしい。
「照れてる皐月も、可愛いですね。」
「ちょ!そーゆーところ、ずるいってぇー!」
「ははは、ごめんなさいね。」
そう言いながら皐月の頭を撫でる。最初の頃は頭を撫でようとして近づいて、怯えて逃げられたしまったのだが、今となってはいい思い出だ。
「ん〜……。司令官のなでなでは落ち着く〜…。司令官の手は暖かいからねー…。」
すっと体の力が抜けていくのがわかる。
「司令官、もっとなでなでして〜……。」
もっと、もっとと要求される。重い艤装を背負って、海を駆け、戦っているとはいえ、艤装を下ろせば年相応のただの少女。甘えん坊の少女。そう思うと急に庇護欲を掻き立てられる。ずっと、自分の手の届くところで、笑顔でいて欲しい。
その願いに庇護欲以外が絡んでいるとは、まだ気づかない。
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「へっへーん。どう?改装されたボクは!」
左手に、大型の三連機銃。右手にいつもの単装砲。白いシャツに黄色のタイ。そして上から羽織った濃紺のブレザー。改装前の黒一色の制服よりも、元気いっぱい、個性溢れる皐月らしい制服になっていた。
「うん、可愛い。」
気づくとそう、言っていた。
「なっ、なぁっ!?そーゆーの恥ずかしいからやめてぇ!」
顔を真っ赤にしてポカポカと叩いてくる。その仕草も、皐月らしくて可愛らしい。
「思わず本心が漏れてしまいました。」
「あーもう…とにかく、これでもっと戦えるね!」
「えぇそうですね。期待してますよ、皐月。」
「よぉ〜し、ボク、司令官のためにもっと頑張るぞぉ〜!」
ニコニコ笑顔で左手を空に突き上げながらそう宣言する。それを見ながら、皐月のために用意した物を手に取る。
「皐月さん改二になった記念です。これを受け取ってください。」
差し出したのは、白木の鞘に包まれた短い日本刀。皐月の身長にちょうど合うサイズの刀だった。
「わぁ〜!これ!ほんとに僕にくれるの!?いいのかい!」
目をいつも以上にキラキラと輝かせ嬉しさに飛び上がる。
「皐月のために、用意したものですから。」
「ボク、これ使いこなせるように、もっともっと頑張るね!司令官も、一緒に鍛錬頑張ろうね!」
皐月が日本刀を欲しいと言ったのにはきっかけがあった。
1度だけ、深海棲艦に防衛線を突破され鎮守府に突撃されたことがあった。その時、まだ練度の低かった皐月は陸上で待機していたのだったが「深海棲艦が上陸した」と聞いていてもたってもいられなくなり母港へと飛び出した。しかし飛び出したはいいもののまともに艤装も展開する余裕もなく、深海棲艦に狙い撃ちにされた。死んでしまうかも…皐月がそう思った時に自分が刀を使い、上陸していた深海棲艦を切って倒したのだった。皐月はそれ以来、自分に近接戦闘に師事し、「いつか司令官のようなかっこいい刀が欲しいなぁ〜」と口癖のように、言っていた。
こんなことがあってから、皐月は陸上での走り込みや木刀を使った近接戦闘訓練までやった。そのおかげか、練度もメキメキと上がり今となっては鎮守府最精鋭の一員でもある。
「使いやすいような反りのない直刀。無骨ではあるものの最高の逸品だそうですよ。」
「ほんっとにありがとうね!司令官に守ってもらったみたいに、今度はボクが司令官を守る番だよ!」
元気よくそう宣言する。
「頼もしいですね。私も、負けてられないですね。」
そう言いながら、皐月の様子を見る。興奮しきっていて、それこそ子供のようにはしゃぎ回ってもおかしくなかった。
「司令官。刀、抜いて見ても、いいかな?」
遠慮がちにそう聞いてくる。
「いいですよ。」
止めることもないので、すぐに許可を出す。
スー。という音と共に鞘から現れたのは見事な刀。美しい鋼色の直刀に皐月も自分も見とれていた。
「……綺麗…。」
皐月が思わず呟いてしまうことも頷ける。
そんな皐月を横目に見ながら、皐月の頭を撫でる。興奮からか体の強ばっていた皐月の体から途端に大人力が抜ける。力が抜けたことで、自然な動作で刀を仕舞う皐月。
「体から力が抜けるぅー……。司令官のなでなで、やっぱり最高……!あ〜……司令官、気持ちいいよぉ……。」
ついさっきまではしゃぎまわっていた皐月だが、頭を撫でられ始めるとすっと落ち着く。
「ん。司令官、もっとなでなでして〜…。」
手を止めて離そうとすると要求される。その声はどこか虚ろで、ゆったりとしている。と思ったら急にふらふらと皐月が抱きつき、司令官の制服の裾をがっちりと握った。
「……司令官、もっと、もっとなでなで、お願い〜……。」
顔を見上げて、自分へそう言った黄色の瞳は光少なく、少し潤んでおり、上気した頬と相まってとても艶やかだ。窓から入ってくる太陽の光を、見事な金髪がキラキラと反射し、見るものをハッとさせる程の美しさだった。
「司令…官?大丈夫?」
皐月からそう声をかけられるまで、じっと見入ってしまっていた。いやその美しさに魅入られていた。それほどまでに妖艶で美しい。
「あっ…。ごめんなさい、皐月。」
そう言ってなでなでを再開した自分だったが、どこか上の空だった。
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「司令官!今日は一緒に寝よっ!」
パジャマに着替え、枕を抱えて皐月が自分の私室へとやってきた。
「あー……。うん。いいですよ。おいで、皐月。」
一瞬の逡巡の後にそう答えると、ぱっと花が咲いたような笑顔になり自分の腕の中へと飛び込む。
「やった!ありがと、司令官!」
未だに昼間に見た、いつもとは全く違う皐月の一面に完全に囚われていた。
「……司令官、どうしたの?お昼頃からずっとボーッとしちゃってさ。」
心配そうな顔でこちらを見てくる。その顔はいつも通りの無邪気で、可愛い顔だ。
「少し、疲れてしまいましてね。」
「じゃあ司令官も早寝しよっ!今日の分の執務はとっくに終わってるんだからさ!」
少し困ったような笑顔でそう返すと、心底心配そうな顔で、だけど声は底抜けに明るく言ってきた。その優しさが、何故か分からないがいつも以上に心に染みる。「早く早く」と急かすその顔は、心無しかいつもより嬉しそうだった。向かい合うようにベッドの中に入ると、
「にひひ〜。やっぱり司令官は可愛いね!」
と笑顔で言う。窓から差し込む月光と、それを反射して輝く金髪。どれもが皐月の笑顔を引き立てていた。その笑顔に自分は、昼間に見たあの表情を思い出す。
「司令官、どうしたの?」
心配そうな顔で自分の顔を覗きこんでくる。真っ直ぐなその金色の瞳に、心の奥底まで見透かされていそうだった。
すると皐月が不意に、自分の頭を抱き寄せる。
「司令官、ボクに言いたいことがあるなら聞くよ?司令官の顔、すっごく寂しそうだった。その…大好きな司令官の寂しそうな顔はボク、見たくないな。ボクがギューってしてあげるから、元気だして!司令官!」
ピッタリとくっついている皐月の体温がグーっと1段階上がって、心臓が早鐘を打っているのが分かる。
「……皐月。」
「なんだい?司令官。」
「私は…いや、俺は、皐月ことが好きだ。どうやら皐月ことが大好きになったみたいだ。」
顔を離し、皐月の目を真っ直ぐ見つめ端的にそう告げる。
「ほ、ほんと……なのかい?」
怯えたように皐月が聞き返してくる。
「…ほんとです。」
少し溜めて、そう返す。皐月の華奢な体は嬉しさからか、微かに震えていた。
「…っ……!ありがとう!ありがとう司令官!ボクも司令官のことが大好きさ!」
目に涙を湛えながらも満面の笑顔でそう返してくれる。
上気した頬に涙を溜めた瞳。外からの美しい月光とそれを反射する綺麗な金髪。昼間の皐月と同じだった。ただ違うとすれば、それは夏の夜空に大きな花火が咲いたように見事で、ただひたすらに美しかった。
ここまで三作、書いてみて思ったのは、自分、眼の描写をするのがかなり好きみたいなんですよね。
他のシリーズでも同じように、目を使った描写がすごく多くて。
困った時に、目の描写に逃げる、なんてことは避けたいとは思うけれど、やっぱり容姿も素敵だけど艦娘は目も綺麗だからなぁと思ったり。
次週は霞。
ツンデレ頑張るよ