霞編でございます。
まぁいつものごとく低レベルなので自己責任でお願いします…
「あーもう!やめなさいよ!とっとと仕事に戻りなさい!このクズ!」
こうやって、本心を隠して、好きな人に対して思ってもいないことを言う自分が嫌いだ。今日だって、司令官はMVPを取って戻ってきた自分を褒めて、頭を撫でてくれた。それなのに、私は司令官に対してまた「クズ」なんて言い放ってしまった。こんな態度なら、もしもミスをすれば、解体待ったナシだろう。それだけは…それだけは嫌だ。解体が嫌なわけじゃない。司令官に、会えなくなるのが怖かった。
────────────────────────
「朝潮姉さん…どうしよ…またやっちゃった……。」
トボトボと部屋に帰り、真っ先に姉の朝潮に報告する。
「またやっちゃったって、何を?」
「司令官に、また暴言吐いちゃった……。」
「また…ですか………。」
と、とても困った顔でそう言う。
何度も何度も同じことを姉さんに相談しているから、もしかすると、心の中では呆れ返ってるのかもしれない。
「思ってることを素直に言えない自分が情けなくて情けなくて大っ嫌いなのよ…もう………。」
「だからって、諦めるの?そしたら司令官は、余計遠くに行くよ?霞はそれでもいいの?」
「良くないわよ!私は司令官が大好きだもの!」
「なら、俯いてる暇は無いんじゃない?謝りに行ったら?」
何も言い返せない自分が情けない。すぐに謝りに行こうとできない自分が情けない。うじうじすることしかできない自分が情けない。
「………わかったわ。」
姉さんの真っ直ぐな視線に追い出されるように、私は部屋を出た。
────────────────────────
執務室の前まで来てみたはいいけど、素直に謝れる気がしない。出直そう、そう思った時
「あ、霞ちゃん、ちょうど良かった。提督が、お話があるって、呼んでいますよ。」
分厚い書類の束を抱えた大淀さんが執務室から出てきた。あまりにも唐突で、逃げ出すなんて出来なかった。
「………その…霞、さっきはすまんかったな。お前が嫌がってるって気づかず、無神経に触ったりして。」
静まり返った、2人きりの執務室で、司令官がそう口にした。その表情はどこか辛そうで寂しそうで、悲しそうでもあった。
なんで?なんで?暴言を吐いたのは私じゃない。なんでアンタが謝んのよ。
そんな思いが、私の心の中で交錯する。
「謝ったところで、どうにかなる話じゃないよな…。それでもこれだけは言わせてくれ。ほんとに申し訳なかった。」
椅子から立ち上がり、私に向かって頭を下げる。
「………私も、クズなんて言ってごめんなさい。」
長い長い沈黙の後に、やっと一言だけ紡ぐ。何とか捻り出したその言葉は、混乱している自分にもわかるほど素っ気なく、ゾッとするほど無感情だった。
「………ははは。俺、そんなに霞に嫌われるようなことしたかなぁ…。」
軽口を叩くその声はどこか震えていて、司令官のその顔は、いつもの笑顔とは全く違う、深い悲しみに満ちていた。
「えっ、ちょっ!ちがっ!そーゆー訳じゃっ!」
「…いいんだよ、霞。わざわざ慰めようとしてくれなくても。俺は霞の言う通り無能だし、クズだ。戦果だって、階級に釣り合わない。」
反論しようとしたところを遮って、司令官が話し出す。
「俺は…な。もう、ここを辞めようと思ってる。いや、もう辞めるんだ。辞表も用意したし、引き継ぎの資料も用意した。本当は、まだ辞めたくなかったんだが、最古参の霞が、何を思ってるのか、欠片も感じ取れなかった俺は、ほんとに提督失格だ。だからもう、辞めるんだ。」
苦渋に満ちた顔でそう切り出した司令官は、いつも以上に真剣で、軽口を言ってはみんなを笑わせていた司令官とは思えなかった。
「いきなり何言い出してんのよ!」
司令官が…私たちの司令官が……提督を辞める?私のせいで…?
混乱した頭ではそうやって噛み付くのが精一杯だった。
「…ははは…自分勝手……だよな。自分勝手で種を撒いといて、嫌われたから逃げるように辞める。そう…思われても仕方ないだろうな…。………最後だから伝えるよ。俺は…本当は、霞のことが好きだった。霞には叱られてばっかりだったけど、気づけば好きになっていた。だけどまぁ…好きになった相手の気持ちすら推し量れないんだから、俺は提督失格だよ。」
そう言いながら、肩を竦める。
司令官が…私のことを……好きって言った…?私の気持ちを量れなかった?
「………………ほんとに、提督失格じゃないのよ。」
「あぁそうだよ。提督失格だ。」
そう言いながら、うなだれるように椅子に座る。もう、何があってもいい。もしかすると、最後のチャンスになるかもしれないんだから。ちゃんと伝えなきゃ。
「あーもう!ほんっとにクズね!」
思いっきりそう怒鳴りつける。落ち込んでいた顔がさらに酷く辛そうな顔になる。だけど…ここで止めたらダメだ。素直に伝えられないなら、私らしく伝えればいいじゃない!
「私の気持ちが量れなかったから提督失格!?それなら大失格もいい所じゃないの!私は、アンタのことがずーーーーっと前から大好きなのよ!アンタなんかの何倍もね!」
司令官の顔が驚愕の色に染まる。自分でもわかるくらいに頬が熱い。だけど…ここで止まる訳にはいかない。
「いい!?確かに、私は感情表現が下手よ。下手くそもいいところよ。朝潮姉さんみたいに素直でもないし、睦月達みたいにわかりやすい訳でもない。それでも頑張ってバレンタインチョコ作ってみたり、クリスマスには精一杯楽しんでもらおうとしたり、喜んでもらえるようにって、誕生日プレゼントまで用意した!私には、それくらいしか出来なかった!それなのに…それなのに……司令官は、私が司令官のこと嫌いだって決めつけて、勝手にどっか行こうとして……、本心すら確かめようとしないで……。ほんとにクズよ!クズもいいところよ!だから…私一人を置いてどこかへいかないでよ……。寂しくて……辛いのよ……。だから……置いていくなんて言わないでよっ………!」
気づけばボロボロと涙を流していた。涙で霞んで何も見えない。
不意に暖かい感触が身を包む。
「ほんと……なんですか?」
耳元で控えめに、問う声が聞こえる。
「………私が、いつ、嘘をついたことがあるかしら」
「…………ありがとう…。ありがとう……!」
抱きしめてくれる力が一段強くなる。包まれる感覚が幸せを増幅させる。
やっぱり私は、司令官のことが大好きだ。
────────────────────────
結局、司令官は提督を辞めることも無く、晴れて私と司令官はケッコンすることになったのだが…
「起きなさいよ!このクズ!今日も私が朝ごはんを用意したんだからとっとと起きなさい!」
と相変わらずだった。
「あと5ふん"ん"!?」
「少しは目が覚めたかしら、クズ。」
駄々をこねる司令官を思いっきり酸素魚雷で殴り飛ばす。
「さすがに魚雷で殴らなくてもいいんじゃないかなぁ……。」
朝ごはんを食べながら、そう文句を言うが…
「ふん。それくらいしなきゃ起きないでしょうに。」
そう、素っ気なく返す。私の司令官には、これくらいしなきゃ意味が無いのだ。
────────────────────────
「艦隊が帰投。今日も完全勝利よ。そして今日もMVPは私よ。」
執務室で戦果報告をする。
「そうか、お疲れ様。下がっていいぞ。」
いつもとは全く違う返答に戸惑っていると─
「どうした?霞。何かあるなら、言ってくれなきゃわかんないぞ?」
いつも以上に意地悪な顔でこっちを向いてきた。私が、何をして欲しいかわかりきってるくせに、である。ただ、こうなったコイツは、絶対に考えを曲げない。だから
「……司令官、頭をなでなで…してくれないかしら?」
一言言うだけで、司令官のなでなでが満喫できて、そばにいられるもの。言わないという選択肢はないわ。
「はぁ……。疲れた体に染み渡る……。」
ゴツゴツとした手のひらだけど、暖かくて、優しくて、本音を言うと、ずっと撫でて貰いたいくらいだ。
「すごく気持ちいい……。はう……。」
思わずそんな声まで漏れてしまう。それほどまでに、心地よかった。
「いつも、それだけ素直だったらもっと可愛げがあっていいんだけどね。」
そう言われても、言い返す気力が無くなる。それほどまでに幸せな気分になるのだった。
────────────────────────
「それじゃ、電気落とすぞ。」
司令官がそう声をかけてくる。そんなに一々気遣ってくれなくてもいいのに。とは思うが、心の中に閉まっておく。
「はいはい、早く落としなさいよ、全く。明日の朝も早いんだからとっとと寝るわよ、このクズ。」
「そんなにクズクズ言わなくたっていいじゃないか。」
口ではそう言うものの、別段、以前ほど嫌そうな声ではなかった。
「うっさいわね。アンタがクズなことに変わりはないじゃない。」
「ははは、前に比べたら全然だと思うんだけどなぁ……。」
「まだまだ見てられたもんじゃないんだから。及第点には遠いわよ。」
司令官の目を真っ直ぐ見つめて返す。
「いつかちゃんと、満点を貰えるように、霞と二人三脚、頑張りますか。」
司令官の目は、真っ直ぐ前を見据えていて、いつも真剣で。それでいておどけて笑ったりすると素直に可愛くて、そんな表情に惹かれたことを思い出す。
「そうね。私が最期まで付き合ってあげるんだから、せいぜい頑張りなさいな。」
そう言われた司令官の顔は、見たこと無いくらいに嬉しそうで、幸せそうで。
「ありがとうな、霞。」
抱きしめて、頭を撫でてくれる。
何があっても、この幸せだけは守る。守りきる。船の私は守りきれなかった。だけど違う。ここには司令官が居る。
そう心の奥底から決意するのだった。
次回は古鷹さんを書きます。
投票無しではありますが……。