もしもオネストが綺麗だったのなら   作:クローサー

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八房のオリジナル能力、感想を見る限りでは皆様に好評を貰っていて何よりです。
やはり「死者行軍」なんて二つ名があるのなら、この位ぶっ飛んでも良いよね。


蹂躙

初手、ティガレックス(轟竜)

 

『ゴァアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

特級危険種、別名「大地の暴君」。

黄色の外殻に青い縞模様の体躯と、歩行に適した形状に発達した前脚を特徴に持ち、ドラゴン種の中では特異的な進化を遂げている。それらしい飛膜こそ存在するものの、「翼」としては未発達。故に飛行は苦手としている。だがその分の能力を強靭な脚力とバネに注ぎ込み、陸上での運動能力に徹底的に特化している。

 

その鍛え上げられた四脚を駆使した突進の平均速度は、時速50kmを超え、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そのティガレックスが、ざっと15。揃って雄叫びを上げれば、当然革命軍はそれに注目する。

 

 

「「「「「はっ?」」」」」

 

そして絶句する。

そこにいるのは、大地を覆い尽くさんと言わんばかりに迫る多種多様な生物の津波。それが真っ直ぐ、大地を揺らしながら、木々を薙ぎ倒しながら此方に向かってきている。

なぜ?どうして?いやそんな事を考えている暇など既に無い。

 

 

「敵ッ襲ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

「何でも良い鉄砲持ってこォイ!!1秒でも多く時間を稼ぐんだ!!!!」

 

見えるだけでも数十のティガレックス、そして幾万もの生物の津波。これだけで分かる。

ハクバ山前線基地の陥落は免れられない。そして此処にいる殆どの者達が生きて此処から帰れないという事も。それを自覚した時点で、彼等の防衛目標は自然と決定付けられた。

 

1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()1()()()()()()()()()

 

自らの生還などは度外視されたその目標に、彼等は一歩も引かない。こんな異常事態は自然に引き起こされたはずがない。考えられるのは、未知の帝具の能力を利用した、帝国の襲撃。それも生半可な者では無い、明らかに戦略レベルの威力を秘めたもの。

そんなものが帝国にあるとしたら、悪夢以外の何物でも無い。この脅威を伝えねばならない。この危機を伝えねばならない。

 

防衛部隊の武装の大半は剣や槍、斧やレイピアなどと言った近接武器を装備している。だが眼前に迫る敵の大群に対する相性は、明らかに悪い。その為に彼等は可能な限り銃器を掻き集め、少しでも対抗しようと

 

 

「上だァ!!!!」

 

 

着弾。

 

特級危険種リオレイア(雌火竜)リオレウス(火竜)ナルガクルガ(迅竜)レイギエナ(風漂竜)の群れによる上空からの質量攻撃。通常ではまずあり得ない、肉体の損壊さえも度外視された特攻攻撃だが、しかし既に死んでいるなら何ら問題は無い。

 

数十の砲弾(肉塊)が次々と、そのまま地面に着弾していく。着弾地点にあった物体は次々と宙を舞う。それは土であり、壁片であり、武器であり、人である。

全ての着弾が終わり、そこにあるのはボロボロになった防衛設備、幸運にも着弾の被害から逃れられた者、不幸にも着弾の被害を受けて負傷した者、直撃を受けて即死した者の肉片、そして着弾によって文字通りの肉塊となった危険種の残骸。しかしその残骸の様子が変だ。それは少しずつ地面に埋まって消えていっている。いいや、正確には八房に再び取り込まれている。八房に取り込ませた肉体は、全てが八房(クロメ)の思うがままに操作出来る。例えば損傷部分に別の個体の肉体を継ぎ足し、元通りに()()事だって容易な事。肉片に余す物は無い。

 

だが、そんな明確な異変に革命軍は気付く余裕など存在しない。

混乱状態ながらも銃器による遠距離攻撃を開始した革命軍。しかし、山賊に扮していた為に砲台などは設置されていなかった。更に直前の質量攻撃によって多くの防衛設備が粉砕され、死者も少なくない。トドメに、あまりの物量の前にその火力は余りにも貧弱。

更にその先頭を突き進んでいるのは、特級危険種のティガレックス。貴重な対危険種弾頭を湯水のように撃ちまくっているが、しかし相手は既に魂無き死体。硬い防御を破って肉体に傷を付けても、一切怯む事など無い。寧ろ獲物が近付くにつれてその速度を限界以上に上げつつある。

 

「来るぞォ!!」

「ウォオオオオオ!!」

 

特級危険種ティガレックス、前線到達。

 

15の轟竜が目の前の餌達に喰らい付き、屠り、咆哮を上げて暴れ回る。近接距離となった事により、近接武器を持った革命軍兵士も交戦を開始。近接戦闘を得意とする革命軍によってティガレックス達は次々と傷付いていくが、やはり怯む事どころか倒れる事さえない。それどころかより一層凶暴化し、ティガレックスから千切れ飛んだ肉片が革命軍兵士に襲いかかっている。

 

そしてティガレックスばかりに目を向けていれば、本命は容易に到達出来る。

 

「しまっ…!?前だ、前を見ろ前ェ!!!!」

「速い、もうこんな距離までッ!?」

 

 

およそ12万5千の人間、3級危険種、2級危険種、1級危険種による生物津波、前線到達。

 

 

「アアアアアアアッ!!」

「来るな、来るんじゃねぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」

 

それは蹂躙、という表現さえ物足りない。その津波の前に次々と革命軍兵士は呑まれ、その姿を消していく。

 

「グァ!!」

 

また1人、その津波に飲まれた兵士。彼は幸運にも受け身を取り、衝撃によって即死する事は免れる事は出来た。しかし不幸にも、一瞬後に開始される地獄を生きたまま味わう事が決定付けられてしまった。

 

彼に群がる死者達。

殴られる、引っ掻かれる、蹴られる、切り裂かれる、踏まれる、噛まれる、掴まれる、噛まれる、引き千切られる、裂かれる、食われる、引き摺り出される、折られる。

其々が行使できるあらゆる暴力が同時に数十、途切れる事なく、たった1人の生者の身体に叩き込まれる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()という壮絶な感覚に、彼は血反吐を吐きながら叫んだ。だがその叫び(断末魔)は、誰にも届く事はない。

近くにいた仲間達は皆死者の津波に呑まれて同じ運命を辿っているし、仮にそれを奇跡的に逃れていたとしても戦闘の音によって掻き消されて聞こえる事はまず無かった。

 

呑まれていく。あらゆるものが。

飲まれていく。あらゆる生命が。

 

死者達の行軍は、今ここにいる誰にも止めることはできない。彼等はただ1人と一刀に服従し、思うがままに絶対的な破壊を振り撒く。

そしてそれに飲まれ死んでいったものは例外無く、八房の呪いによって八房に取り込まれ、新たな戦いに存分に利用されていく事だろう。それが操り人形としてか、それとも修復用の素材としてか、それとも骸人形として利用されるかは、クロメと八房次第だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…相変わらず、出鱈目な…)

 

今作戦に於いて、基地外縁部の警戒線攻撃を担当しているセリュー。彼女は今、戦闘の僅かな合間に革命軍基地に視線を向け、死者行軍の光景を見やり、すぐに戦闘を再開する。

 

クロメの死者行軍による攻撃開始と同時に、帝国特務隊の部隊も攻撃を開始している。死者行軍によって基地制圧は急速に進みつつあるが、基地の警戒線を殲滅するには少々向いていない。

死者行軍はあくまでも八房と、八房の保有者であるクロメによって動かされているに過ぎない。つまり彼女が知り得ない所で何か状況が大きく変化したとしても、彼女がそれを認識しなければそれに対応する事ができない。死者行軍はあくまでも()()()()であるが故の欠点と言える。

 

それを補う為、ベータチームとセリューはクロメの認識が困難な基地外縁部の攻撃を行なっている。

革命軍からしたら死者行軍に巻き込まれるよりはまだマシだが、しかし帝国最精鋭の帝国特務隊に襲われるという事は変わりがなく、結局幸運か不運かという議論は意味を成さないだろう。

 

彼女の前方にある偽装されていた監視塔が、巨大化したコロ…否、「魔獣変化 ヘカトンケイル」の右腕が監視塔の基礎を破壊。支えを失った監視塔が中にいた人間ごと倒壊していく。

その側ではベータチームの銃撃によって物陰で身動きが取れない革命軍の兵士数名。内2名がアサルトライフルで反撃しているが、火力差が大き過ぎてあまり意味の無さない牽制しか出来ていない。

 

「ふっ…!」

 

自分には全く注目が向けられていない。そう確信したセリューは銃撃の邪魔にならない位置に回り込み、攻撃する事を決断。

両手に持つ2つの旋棍銃(トンファガン)の銃撃機能を解放。側面のカバーが格納され、銃口が出現。大雑把に狙いをつけて掃射。薬莢は廃莢されない。トンファガンに使用されている弾薬は、この武器の為に新開発された無薬莢弾(ケースレス弾)だ。*1

仕込み銃故の命中精度の低さ、そして拳銃弾という威力の低さを一帯の掃射という力技で解決。正面の対応に手一杯だった彼等はまともにセリューが繰り出した銃弾幕を食らい、倒れていく。必殺を狙っていた訳ではない為に虫の息程度だが生きている者もいるが、後は交戦してたベータチームに任せれば良い。セリューの主な役目はコロ(ヘカトンケイル)の援護だ。

 

発射感覚と重量感覚で装弾数が少ない事を再確認、再装填(タクティカル・リロード)。コロが再び獲物を見つけ、コロからすれば豆鉄砲のような攻撃を気にせず飛びかかっていく姿を見ながら新たな弾倉をトンファガンに叩き込んだ。

と、同時に背後から忍び寄って襲い掛かってきた革命軍の兵士の攻撃を躱し、顎に向けて振りかぶったトンファーのカウンター攻撃。攻撃を躱されて無防備にそれを食らい、顎が粉砕される音が響いて横に崩れ落ちていく。更に追撃、勢いそのままに回し蹴りで吹き飛ばす。

 

「ごえっ!?」

 

粉砕された顎から大量出血しながら地面に倒れ、其処にセリューの踏み付け。

躊躇なく頭に踏みつける。踏みつける(罅を入れる)踏みつける(骨を砕く)踏みつける(頭を粉砕)

 

飛び散って脚に付着した血や脳漿は気にもせず、前進を再開。記憶してある作戦図と現在地を照らし合わし、外縁部の作戦は半分以上完了している事を確認。しかし逆に言えばまだ4割程度は作戦が残っているという事。ならばそれを全力で遂行するのみ。

 

「行くよコロ!」

「ギュアアアアアアア!!」

 

正義執行は、彼女の絶対使命。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早くバリケードを構築するんだ!!急げ!!」

「待て、それじゃ外の連中はどうなる!?」

「どうも何ももう手遅れだ!!諦めろ!!」

「谷が突破された!!アイツら自分達の身体を踏み台にして強引に登って突破してきやがった!!」

「ハァ!?一体何の冗談だ!!あの谷は20mの高さがあるんだぞ、それを下から突破したって言うのか!?」

「俺だって信じたくねぇ、だけど現実なんだよ!!早くバリケード積んで時間稼ぎをするんだ!それと何でも良い、上に重いもの持ってこい!!」

「来るぞ来るぞ来るぞ!!危険種達が突っ込んでくる!!」

「対危険種弾を撃ちまくれ、近付けるな!!」

「奴等も来たぞ!!」

「…嘘だろ、何であの中に子供も居るんだよ…!?」

「バリケードが突破された、もう駄目だ逃げろ!!」

「後ろから来るぞ!!もう回り込んできやがった!!」

「クソッタレこっち…駄目だ包囲されてる!!」

「やだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でこんなことに…!!」

 

革命軍基地の秘密通路を走る数十人の影。ハクバ山革命軍基地の司令官 スザクと高官、そして護衛の兵士達。

彼等は帝国特務隊の攻撃(死者行軍による殲滅)開始直後から基地からの撤退を開始。最高速で機密書類の持ち出しや最低限の情報収集を行い、ハクバ山からの撤退を開始していた。

 

突然の襲撃。しかも明らかに帝具の能力でなければ有り得ない、人間と危険種が完全に混合した軍団規模の襲撃。

いくら攻撃しても途絶えることのない生物による津波。それは危険種のみならず、銃弾の1発で即死し得る人間でさえも。

 

スザクは見た。津波に飲まれて解体されていく仲間達の末路を。

スザクは見た。あの津波の中にいて良いはずがない、子供達の姿を。

スザクは見た。銃弾に次々と撃ち抜かれながらも、一切怯むことなく突き進む人間(化物)の姿を。

 

(あんな事を出来る帝具が、存在して良いわけが無い…!!ましてやそれが帝国にあるなんて事が…!!)

 

しかし、現実はそれを匂わせる状況証拠ばかりが揃っている。ならば伝えなければならない。

これはハクバ山基地壊滅、などという小さな事には収まらない。もしこれが帝具の能力によって引き起こされた事ならば、それは革命軍の危機どころか、周辺国家の危機にもなり得る。

 

(ここを逃げ延びて、伝えなければ…!?)

 

前方に気配。それを感じ取った全員の足が止まる。

秘密通路はその隠匿性を維持する為、スザク達が持っている松明以外には必要最低限未満の明かりしかない。しかし、その微かな灯りが僅かに前方に人影がある事を証明している。

 

コン、コン、コン。

 

静寂の数秒の後、前方から石の上を歩く音。それは一つに留まらない。数人、いや十数人。

各々が武器を構えて備えるのを他所に、彼等は堂々とその姿を表した。

 

帝国軍の中では最も軽装とも言っても良い程に防御機能が削られたライトアーマーに身を包み、最新鋭の銃器を両手に持った彼等は。

 

「特務隊ッ!?」

「捕らえろ」

 

誰にも知られることのない地下の中、連続した銃声が響き渡った。

 

 

 

この日、革命軍は新たに前線基地とおよそ2万の人材、そして多数の情報を失った。

*1
この弾薬はセリューの専用装備…トンファガンの為に新開発され、その構造の複雑さからコストは通常の弾薬の3倍になる。威力は拳銃弾据え置きの為費用対効果はつり合っているとは言い難いが、正式配備で量産される訳ではない為、敢えて度外視されている。




本当はもっと色んな危険種が暴れ回ったりしてるけど、内容の割には無駄に文章が長くなっていたのでバッサバサとカット。
結果、半分以下まで削れるという事実。最初は興が乗りすぎた。

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