もしもオネストが綺麗だったのなら   作:クローサー

15 / 32
そろそろ、一旦締めくくりに入る段階かなぁ…書きたいキャラはいるが、未だにこれだというネタが浮かばないし。


不意の邂逅

帝国北部の、とある村。

其処のやや郊外の見晴らしが良い所にある、小さな学校。町の子供達が教育を行う場であり、昼間の今は教師と共に勉強を行う日常の場でもある。

 

 

──だが、今は1人の男によって殺戮の場と化していた。

 

 

唯一の教室。其処はあらゆる場所が荒らされ、血に染まり、子供達の死体が転がっている。唯一の大人であった教師の死体の状態は特に酷い。全身に渡って激しく損傷し、顔面に至っては原型さえ留めていない。

其処に生きている者は、1人の男と1人の子供のみ。

 

 

「ンフフフ、可愛いなぁ、素敵だなぁ…たまらねぇ」

 

 

その男…シリアルキラーの「チャンプ」は肥満の体にピエロの衣装とメイクを施し、そして子供達の返り血で所々を赤く染めていた。

そして、最後の生存者である少女を愛でている(嬲っている)。少女は既に呻き声さえも出せない程に弱っており、その命が尽きかけていた。

 

 

「さぁ、君も汚い大人になる前に、天国へ行こu」

 

 

ドロップキック。

 

何の前触れなく突如チャンプの脇腹に着弾した攻撃は、彼の身体を吹き飛ばし、窓と少しの壁を突き破って外に蹴り飛ばすには十分な威力を持っていた。

そしてドロップキックを放った当人は、その反動を利用して身体の体勢を空中で整えて見事に着地した。

 

 

「…酷いな」

 

 

改めて教室の状態を確認し、アカメはその一言を呟いた。

 

「………ケホッ」

「!」

 

そのタイミングで、つい先程までチャンプになぶられていた少女が余りにもか細く咳き込み、その音を聴いたアカメは少女の側に駆け寄って身体の状態を調べる。

 

「………………」

 

そして、分かる。どう手当しようにも、どういう手段を用いようとも、この命はもはや助からないと。

 

「ごめんな、もっと早く来れなくて。…今、楽にさせるから」

 

村雨を抜刀。そして刃先を慎重に、なるべく心臓に近い位置の傷に挿入。これ以上新しい傷を作る事なんて、彼女自身が許さない。村雨の呪毒は、既存の傷に刀身を入れるだけでもいい事はこれまでの実験と戦いの中で分かっていた。

今回もその流れの通り、挿入された刀身から呪毒が少女の身体に流れ始める。それを確認し、村雨の刀身を傷口から抜く。

 

ピクン、と少女の身体が動き…そして、二度と動く事は無くなった。

 

「…おやすみ」

 

そっと少女の瞼を閉ざし、冥福を祈る。

 

 

 

「天使とのまぐあいを邪魔すんなよクソがァァァァァ!!」

 

 

 

ドロップキックの衝撃から漸く回復したチャンプの怒号が、周囲に響き渡る。

 

「…子供を狙うシリアルキラーか。…通りで、こんなに匂う訳だ」

 

教室が戦場にならぬよう、チャンプが突き破っていった所から学校の外に出る。其処からまっすぐと憤怒の表情で此方に走ってくるチャンプを目視。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、構える。

 

 

「お前の番が回ってきたぞ、ロクデナシ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学校までもうすぐだ、警戒を怠るなよ」

 

村から学校までの道を最大巡行速度で進む、帝国特務隊 護衛部隊ガンマ4の部隊員8名。

なぜこんな所に彼等がいるのかというと、一つの事件と一つの目撃情報がきっかけだ。

数日前にここから少し離れた町の学校にて、数十名もの少年少女が惨殺される事件が発生した。其処に「指名手配の人相と似ている男を見かけた」との情報が寄せられた。更なる調査の結果、手口、人相共に指名手配中のシリアルキラー「チャンプ」の特徴と一致。更に目撃情報の位置と移動方向から、更なる事件と被害者を生み出す可能性が極めて高いと判断され、機動力の高い護衛部隊が緊急派遣される事となった。しかし幾ら機動力が高いとはいえ、帝都から目的地までの距離はある。休息を最小限にした強行軍でここまで来たが、目標の移動速度を考えると、果たして間に合ったかどうかは半々の確率。

 

「…ッ!!」

 

そして学校の前に到着した彼等は、半分の賭けに負けてしまった事を、外からも見える学校の惨状を見て悟った。

遅かった。ただそれだけの事実が、数十人の子供達と教師の末路を物語っていた。

 

「…隊長」

「…行くぞ、慎重にな」

 

道から外れ、しゃがみの姿勢で極力音を出さぬよう、しかし迅速に接近を開始。まだ目標(チャンプ)が学校内に留まっている可能性はある。相手は帝国警察を何度も返り討ちにした手練れ、だからこそこうやって特務隊が動いている。その戦闘能力の詳細は不明、もしかしたら情報が失われた帝具を所持している可能性もゼロでは無い。故に決して1秒たりとも油断も慢心もしない。

 

だからこそ、彼等は学校の中で動く影に先立って反応できた。

 

瞬時に伏せ、草むらの中に隠れて気配を同化。そっと各々の銃の狙いを学校に向ける。

その影は、何かを引きずりながら教室から出てくる。

 

 

(…何?)

 

陰から出てきたその姿を、彼等は捉える。

 

肌が見える箇所だけでも幾多の古傷の痕が見え、其れでも尚見せる、寧ろ傷痕が一種の化粧にさえ見える儚い美しさ。そして、彼女が放っている最高かつ限界ギリギリまで研ぎ抜かれた刃のような雰囲気。

それは、まるで──

 

 

「…其処(草むら)に居るのは誰だ?」

 

 

突然彼女(アカメ)の目線と隊長の目線が、合った。

 

「…4、5…いや、まだ居るな?…8人か。革命軍に、こんな芸当が出来る奴が居たのか…? …いや、どうでも良いな」

「…お前達は、「敵」か?」

 

刀を構える音が、静寂の中に響いた。

数秒後。ガンマ4の面々は誰に合わせる事なく、しかしほぼ同時に草むらから立ち上がる。銃口こそ逸らしているが、戦闘に移行次第いつでも撃てる体勢を維持している。

アカメの方はというと、少し目を見開いて驚愕の表情を垣間見せていた。

 

(…あの装備は、帝国軍?しかも今の統率と隠密力…精鋭の上澄みだけを集めているのか)

「失礼した。我々は指名手配中の男を確保する為に派遣された部隊だ。その男がこの村に向かっているという情報を手に入れて駆け付けたのだが…」

(…成る程、此奴らがそうか)「…遅かったな。私が来た時にはこの惨状だった。…中に生存者はもう居ない、こいつ以外はな」

 

そう言ってアカメの左手で掴んでいたソレを、間の空間に向けて放る。それは重力、質量、空気抵抗による物理法則によってドスンという音を立てて地面に落ちて少し転がる。

それはチャンプの成れの果て。両腕両足は消失し、残っている胴体にも凄惨な拷問の跡が見て取れる。そして全ての傷に手荒く焼灼止血が施されており、出血多量による死亡を阻止している。…だが、遠目から果たして生きているのかどうか、確信は持てない。何せ白目を向いて、表現し難い表情に顔の筋肉が固定されてしまっているのだから。

 

「此奴は…」

「…間違いありません、目標です。随分と「ダイエット」したみたいですけど」

 

転がったチャンプに近付き、人相が書かれた紙を取り出して顔を確認した1人の隊員が、作戦目標のチャンプであると確認。各隊員が銃口を下げると同時、アカメも抜いていた刀を納刀。

 

「…6、最寄りの帝国警察に現状を報告しに行け。5は目標の監視を。抵抗は無いだろうが、念の為だ。3と4は学校を確保。警察の到着まで何者にも荒らさせるな」

『了解』

「さて…指名手配犯の確保、ありがとうございます。お陰でこれ以上の被害を防ぐ事が出来た。…此処が間に合わなかったのは、遅かった我々の責任です」

「…礼を言う必要は無い。私がやりたい事をやっただけだ。…後の事に私は邪魔だろうから、失礼する」

「いえ、その前に我々に少し同行願います」

「………何故?」

「理由は2つ程。一つは、此奴(チャンプ)に懸かっていた懸賞金の満額支払いを。一つは、貴女が此処に到着して此奴を捕らえるまでの過程に関する調書を取りたいのです」

「…」

 

アカメが、側に転がしていた荷物袋を肩に掛ける。

 

「…もし、断ると言ったら?」

「このタイミングを逃すと、懸賞金の支払いは出来なくなります」

「…そうか」

 

ゆっくりと歩き、この場に残っているラムダ4の隊長と隊員の間を通り過ぎた所で、立ち止まる。

 

「…お前達が、噂に聞く帝国特務隊なんだろう?」

「…」

「一つ聞かせてくれ。お前達は、何の為に戦っている?」

 

 

「1の悪を裁き、100の無辜を守る為に。3の悪を挫き、1の故郷を守る為に」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが我々(帝国特務隊)です」

 

 

「…成る程」

 

隊長から放たれた言葉に、アカメはそう呟いた。

 

 

 

──そして、なんの前触れなく2人の前からその姿が消え去った。

 

 

 

「!」

 

一瞬まで其処にいた人物が跡形もなく消え去った事に、隊長に付いていた隊員は思わず驚愕の表情を浮かべる。周囲を見渡すが、その姿を捉える事は二度と出来なかった。

 

「…隊長、宜しかったので?」

「お前も感じ取っていただろ?彼女の強さを。万が一戦闘になったら、我々ラムダチームじゃ歯が立たない。最低でもアルファやベータチーム(戦闘部隊)を引っ張ってこないと、対抗すら出来んだろうな」

「…ですよね。気迫だけで分かる、明らかに出鱈目だ。それに…似ていました。あの時のスズラン(クロメ)に」

「その上、スズランの言う特徴の多くが一致している。引き止められれば良かったが…仕方あるまい」

「人相と特徴は脳に叩き込んであります。直ぐに諜報部隊に連絡しましょう。今すぐなら補足出来るかも知れません」

「頼んだ。スズランへの報告は大臣の許可を待て、この件の独断行動は決して許さん」

「了解」




チャンプ
子供を「天使」と呼び、「汚い」大人になる前に愛でた(嬲った)後に殺害するシリアルキラー。原作ではイェーガーズの後発的組織「ワイルドハント」の一員として所属し、帝都で多大な暴虐を振り撒く。その結果、数多くの犠牲者が生まれる事となり、その中にはボルスの妻と子供も含まれていた。
メタ的な解説も挟むと、ワイルドハントのメンバーの殆どが最初期の段階から碌な結末にはならない事が約束されていた。(というか作者が碌な扱いにする気が無いともいう)
今回の結末も、そうなるべくしてそうなった。

因みに現段階で登場不可なワイルドハントメンバーは以下の通りになる。
1.シュラ(オネストが家族を持っていない為、どう足掻いても存在出来ない)
2.コスミナ(シュラの消失により、精神崩壊時に助け出せる人物がいなくなった。生きてる可能性はゼロでは無いが、もしも登場するならば、おそらくR描写が不可避になるだろう)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。