もしもオネストが綺麗だったのなら   作:クローサー

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この話を書く為に、今日を頑張りました。(休日なのに全然休めてない)


彼女の旅の終わり

帝国に於いて、とある一文が存在する。

 

帝具使い同士が戦えば、必ず何方かが死ぬ。

 

そう言われる所以は、帝具の絶大な威力によって担保される、殺意の増大化。そして帝具の性能に対して、人間の身体は脆い。殺意を持ってぶつかれば。何方かが無傷で逃走を成功させない限り、もしくは相討ちでない限り、必ず何方かは死ぬ。それは「歴史」が証明しており、ほぼ絶対の法則と言っても良い。

 

故に「一斬必殺 村雨」を持つアカメと、「五視万能 スペクテッド」を持つザンク。

 

 

この2名が相対すると言う事は、何方かが死ぬ「帝具戦」の始まりを意味していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、此処が良い」

「…漸く足を止めたか」

 

逃げるザンクと、それを追っていたアカメ。機動力はアカメの方が上だった為、何度もザンクに向けて村雨による攻撃を行なっていた。しかし、ザンクはその度に的確に防御し、一太刀を入れる事は遂に叶わなかった。そして今、2人は建物群の屋上から石畳の地面へ降りて、相対している。

 

場所は先の時計台からかなり離れた場所にある、帝都の廃墟施設。周囲に人目は全く無く、そして帝国の部隊が近くに居ない場所。2人きりで戦うには最高の舞台だ。

 

「んふふふ、此処に来るまでの戦いで分かる。凄く強い、堪らないねぇ、俺の干し首コレクションに加えたいなぁ」

「…」

「ほぉ、無心になれるのか。凄いな」

「…その額に付いてるのは、帝具か」

「ピンポーン♪帝具スペクテッド、五視の能力を操れる帝具さ。と言っても、君が無心になったから「洞視」は使えなくなったが、しかしまだ「未来視」がある!故に──」

 

刹那、アカメはザンクに向け急速接近、村雨を振るう。ザンクはそれに的確に対応、両腕の服の袖に仕込んでいる剣を伸ばし、迎撃。攻撃が受け止められたアカメは舌打ちをし、更に連撃を繰り出す。

 

()()()()()()、お前の次の行動が視える!!」

 

その悉くが、ザンクの肉体には届かない。数十撃の攻防の末、アカメが下がって仕切り直しを図る。

 

「とはいえ、素晴らしい速度と腕力。油断すれば、その()()()()()()で斬られてしまいそうだ」

「…お前は、随分と喋るんだな」

「趣味はお喋りだからな。特に獲物と決めたのと最期に話すのは大好きだ。首を斬られた時の表情…「えっ?」ていうキョトンとした顔が、堪らなく良いんだよねぇ」

「…」

 

平突き。

右腕の筋力による突きの速さ、そして瞬時に最高速に乗った脚の筋力。この二つの要素が合わされば、その先端の速さは目にも留まらぬ速さへと昇華される。

 

「っと…!!」

 

当然、筋肉の機微によって一瞬先の未来を見る事ができるザンクはそれに対応。左腕の剣の腹で受け流すと同時に右に身体を逸らし、間一髪の所で回避。突きを流された村雨の刀身とアカメの身体は、隙だらけの状態でザンクの横を通り過ぎようとし。

 

「…!!」

 

右足の着地と共に、両足でその場に強引に踏みとどまる。その反動が全身に襲い掛かるが、構わずアカメは次の行動に移る。

アカメが繰り出していた攻撃は平突き。つまり村雨の刀身は地面と並行にある。そしてアカメは右利き。突きを繰り出した腕は左であり、刀身の向きは左。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

横薙ぎ一閃。

 

アカメの身体が一回転する程のパワーに任せて振られたその威力は、横薙ぎを受け流していた剣ごとザンクを押し出し、それどころかザンクを大きく吹き飛ばす。吹き飛んだ身体は勢いそのままに石柱に叩きつけられ、肺の空気を吐き出す。

 

(奴の帝具による「未来視」とやらの威力は絶大。私の一手が常に読まれ、防がれる)

(だが所詮は「先読み」、その防御行動は奴の身体能力に依存している。なら奴が防げない速度と力で叩き切れば良い!)

 

石畳が割れる程の力が両足に込められ、そして駆け出す。

もう一度、突きを繰り出す。次は当たる(殺す)、必ず当てる(殺す)。その絶対の殺意を以って繰り出された突き。

 

「ッお…!!」

 

その突きは、しかし未来視を使えるザンクに軌道を読まれて防がれる。間一髪、眼前で両腕の剣の腹で。

 

「…!!」

 

ギチギチと、金属同士が大きな力で接触している嫌な音が鳴る。

その力の均衡はザンクが上に振り上げ、村雨の刀先が石畳に食い込む事で崩れる。ザンクが背中の石柱を起点に勢いを付けて斬りかかるが、アカメは素早くかつ大きくバックステップ。石柱に深く突き刺さった村雨から手を離すが、一瞬遅くザンクの攻撃を右腕に貰った。新たな傷が刻まれ、決して少なくない量の出血が始まるが、それを意に介すことなく戦闘を継続。村雨を手放した代わりに、左の腰に装備させていた予備の無銘刀の柄を右手で掴み、抜刀。

 

刀を振り下ろし、石畳に突き刺す。

 

「!」

 

次の瞬間、アカメは其処から刀を振り上げた。すると石畳が粉砕され、多量の破片がザンクに向けて飛び出した。

 

「む…!!」

 

それに対してザンクが選んだのは、回避ではなく防御。右腕で顔を隠し、左腕でアカメの第二撃に備える。

しかしアカメにとってザンクへの追撃は「ついで」でしかない。防御の為に一瞬だけ視線を切ったザンクの横を通り過ぎるついでに横薙ぎ。一瞬だけアカメから視線を外した事によってザンクの反応は僅かに遅れるが、しかしザンクの硬い防御を突破出来る程の隙とはならず。だがそれでも良い、最優先は村雨の回収。

 

位置が入れ替わり、左手の逆手で背中の石柱に突き刺さったままの村雨の柄を掴み、力任せに振り抜く。すると突き刺さった地点から左側の側面が斬られ、其処から全く損傷の無い村雨の刀身が姿を表した。

右手の無銘刀も逆手に持ち替え、逆手二刀流へ戦闘スタイルが移行。

 

「愉快愉快、楽しいなぁ♡」

 

ザンクの言葉を合図に、三度目の激突。

共に二刀流、手数は同等。しかしパワーは、違う。

 

「…パワーは、此方が上らしいな」

 

アカメが呟いた通り、三度目の攻防はザンクが少しずつ下がっている。幾ら一瞬先の未来が見えようとも、たかが辻斬りをやってきただけの首切りザンクと、数年もの時をかけて1人で多くの戦いを生き残ってきたアカメとは、戦闘経験と戦闘技術が違う。

 

しかし、此処でアカメの戦闘スタイルが戦いに影響を及ぼす。

現在の戦局はアカメが優勢だが、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり優勢とはいえど、決してそれは「良い意味」での優勢では無い。

 

「ああ、愉快愉快、これは堪らないなぁ!!」

「…しぶとい!」

 

平均して数撃毎に、何方かの身体に新しい傷が刻まれていく。アカメは傷を出来るだけ浅くするように、ザンクは決して村雨の斬撃を受けぬようにしつつ。

 

ギィンと一際大きい金属音を立てて、2人は同時に距離をとった。

2人の身体には大小の切り傷が複数刻まれていたが、致命傷は一つもない。ザンクは笑顔を浮かべ、アカメは表情を一つも変えず。

アカメが無銘刀の刀身を見ると、刀身がボロボロになって来ている。これ以上今の戦いには使えそうに無いと判断し、納刀して改めて村雨を構える。

 

「やっぱりその刀(村雨)、ちょっとでも受けたら大変な事になりそうだねぇ…帝具かな?」

「…さぁな」

「つれないねぇ。こうして戦ったお陰で分かったけど、君も俺と同類なんだろう?「声」は、どうしてるんだ?」

「…声?」

「ホラ、黙ってると次第に聞こえて来る…殺してきた人間達の、地獄から此処まで聞こえて来るうめき声だよ。俺を恨んで、早く地獄に来いって言い続けてる、この声」

「刑場にいた時から聞こえてたけど、最近は酷いったらありゃしない。俺は喋って誤魔化してるけど、お前はどう対処してるんだ?」

 

 

 

()()()()()

 

 

 

「…何?」

 

笑顔を浮かべていたザンクの表情が、変わる。

 

()()()()()()()()()()。それだけだ」

「…受け入れる、受け入れるか。お前なら、もしかしたらこの悩みを分かち合えるかもと思ったんだが…」

 

 

「悲しいねぇ!!」

 

 

ザンクがそう叫ぶと同時に、ザンクの額に装着されていたスペクテッドのカバーが開き、目の装飾が中から現れる。そして次の瞬間、アカメの視界に強烈な閃光がスペクテッドから放たれ、ザンクの姿を完全に隠した。

思わず顔をしかめ、ザンクの次の行動に備え────

 

 

 

「────」

 

 

 

そう思っていた全ての思考が中断される。

閃光が消えた後、其処にいたのはザンクではなかった。

 

其処にいたのは。数年前、お互いの身を守って、助け合って、そして何処とも分からむ森の中も化け物達(危険種達)から守り合った、()()()()()()()()()()()()()()()()()()世界で一番大切な人。

 

 

 

「クロメ…?」

 

 

 

右手にナイフを持った、「幼少期のクロメ」が其処に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五視万能 スペクテッドには、奥の手が存在する。

その能力の名は、「幻視」。それはたった1人に絶大な催眠効果を与える事により、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

これを受けた者が自力で解除する事はほぼ不可能。解除方法はあるにはあるが、それは何大抵な神経と覚悟が無ければ遂行出来るものではない。

 

解除方法とは、幻覚(世界で一番大切な人)ごと、装着者に攻撃を加える事。

これを行う事が出来れば、ザンクに勝利出来る可能性は大きく上がるだろう。

 

 

「………………………」

 

 

果たしてそれが出来れば、だが。

 

「やはりどんな者であろうとも、最愛の者を手にかけるなど不可能…」

 

幼少期のクロメ(ザンク)」が一歩近づく。アカメは動けない。

幼少期のクロメ(ザンク)」が三歩近づく。アカメはまだ動けない。

幼少期のクロメ(ザンク)」が五歩近づく。漸くアカメが一歩だけ下がる。

 

アカメの構えは既に解かれ、無防備な姿を 「幼少期のクロメ(ザンク)」に晒している。

当然だ。アカメにとってクロメとは、「守れなかった大切な妹」であり、「世界で何よりも大切な宝物」であり、「決して傷付けられない不可侵領域」。

例えクロメが殺意を持って自分を殺しに来ても──

 

 

「──おいで」

 

 

アカメはこうして、両腕を広げて受け入れてしまった。

この戦いに於いて、アカメは明確に為さねばならない条件が、ひとつだけあった。それは、「ザンクが奥の手を使用する前に決着を付ける事」。

 

今回の帝具戦に於いて、アカメにとって首切りザンク(スペクテッド)の相性は()()()()()()()()

アカメは「幼少期のクロメ」に手をかけるなんて事は()()()()()()()。それはアカメが己の命を自らの手で断つ事よりも、遥かに重く、遥かにあり得ない事であるが故に。

 

「幼少期のクロメ」がアカメの自害を望むなら、喜んで自害しよう。

「幼少期のクロメ」がアカメを殺す事を望むなら、喜んでそれを受け入れよう。

アカメの精神的支柱を担う彼女の言葉は、どんな事であっても肯定しよう。最早、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

つまり、今この瞬間。アカメの敗北は決定付けられた。

そして帝具戦に於いて、敗北者とはそれ即ち死者である。

 

 

「愛しき者の幻影を見ながら、死ね!!」

 

 

 

 

──紅い鮮血が、宙を舞った。




彼女に、妹を切り捨てる覚悟と勇気は無かった。

彼女は、目の前に迫る「死」を受け入れてしまった。



だから、彼女の旅路は此処でお終い。

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