もしもオネストが綺麗だったのなら   作:クローサー

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お菓子好きな女の子

「……………」

 

今日も今日とて、オネストは執務室にて書類仕事をこなしている。

通常の業務もそうだが、他にも良識派の1人として、帝国大臣として犯罪組織の撲滅、腐敗派の掃討、治安向上、革命軍への備え、etc。これらをこなさなければならない。ハッキリ言って並の人間ならオーバーワークも良いところだが、常人以上の体力を持つオネストなら、多少の無理をすれば許容範囲だ。

 

「はぁ…」

 

数時間の書類の山との格闘も、漸くラストスパート。菓子を一つつまみ、不足する糖分を補給する。

 

(進捗は順調。腐敗派や犯罪組織が溜め込んでいた資金のお陰ですね)

 

オネストは、腐敗派や犯罪組織の撲滅の際に入手する大量の資金の一部を治安向上や経済政策、軍備増強や「帝国特務隊」の資金源に流用。帝国の国力の礎にした他に、「計画」の資金源としても利用している。

 

(順調とはいっても、果たして革命軍が蜂起してしまう段階までに間に合うかどうか…必要とはいえ、やはり規模が大き過ぎます。この際もう少し完成度は目を瞑って、ガワの完成だけでも優先させるのを検討してみるのもアリですかね?)

 

ズキリと、酷使していた頭が悲鳴を上げた。

 

(…もう少しですけど、まぁサインする訳でもありません。休憩するとしましょう)

 

そう思い、彼は菓子をもう一つつまみ…

 

「………あれ?」

 

菓子を摘もうと伸ばした左手が空を切り、書類から視線を移す。左手の先にあった筈の、皿に乗せられていた菓子が、皿ごと無くなっている。

そう思っていたら、サクサクと菓子を食べる音を拾う。続いて視線を少し上げると、ソファに座り、執務机に置いていた菓子の皿を勝手に取って食べている、セーラー服を着た黒髪ショートの少女の姿を認める。彼の認識ではついさっきまで居なかったのだが、自分が集中していた事もあって、コッソリ入ってきていた事に気付いてなかったのだろう。

 

「…クロメ、私の菓子を勝手に食べないで下さい」

「やだ。お義父さんのお菓子は私のお菓子だもん」

「何ですかその理屈は。…まぁ良いですけど」

 

ちょっとしたジャイアニズム理論を展開した彼女の名前は、「クロメ」。

帝国の腐敗派によって秘密創設されていた違法養成機関に、彼女は両親によって姉と共に売られた。そして暗殺者として育てられていく過程で姉と離別させられ、薬物漬けにされていた所を怒れるオネストが直々に率いる帝国特務隊に救出される。その後、保護された被害者達には全員、Dr.スタイリッシュの協力で薬物の治療が行われており、其々が望んだ道を可能な限りオネストが応え、其々の道を歩んでいった。

クロメはというと。離別してしまった、恐らくは腐敗派の勢力下に居るであろう姉を探す為、オネストに付いて行く事を選ぶ。帝国大臣の力があれば、きっと他の方法よりも早く助け出せると信じて。オネストとしても、腐敗派から守る為にも可能な範囲で庇護下に入れておきたかった為*1、クロメの提案を受け入れ、オネストの護衛兼帝国特務隊特別隊員の身分を用意した。

関係が進んだ現在では、クロメはいつの間にかオネストを「お義父さん」と呼んでいたり、オネストもそんな呼び方を受け入れていたりと、養子関係みたいな事になっているが…まぁ当人同士では大した問題では無い。寧ろ、姉が帝国の腐敗派をいつの間にか抜け出し、行方不明になってしまっている事の方が問題になってる。

 

 

閑話休題(そんな話はそろそろ脇に置いて)

 

 

時間を見ると、どうやら昼下がりらしい。菓子を多少摘みながらだったとはいえ、腹が空腹を訴える(鳴る)のも道理だろう。

 

「時間も時間ですし、昼食を取りましょうか。店も予約してありますし」

「あれ、もしかして帝都のお店で食べるの?」

「コッソリと視察するついでに、庶民の味を楽しもうと思いましてね。席もテーブルで予約してありますし、1人増えても問題ありません」

「やった♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で、2人は宮殿から帝都の飲食店に姿を移していた。

クロメは兎も角、帝国大臣のオネストが素顔で出歩いていたら多少の騒ぎになることは確定している為、彼は軽く変装して、帝都市民の一人として紛れ込める様にしている。クロメがオネストの事を「お義父さん」と呼ぶ事も相まって、何も知らない人が見ればただの親子の様に見えているだろう。

ただ、それとは別で二人は少し注目を集めていた。クロメが持参している刀もそうだが…

 

「…」(モグモグ)

「♪」(パクパク)

 

オネストは肉料理の皿の山を、クロメはスイーツの皿の山を築き上げている。(補足すると、クロメは普通の料理を食べた後のデザートである。ただその量がおかしいだけで)

なぜこんな事になっているのかというと、オネストは日頃のストレスや頭の労働、鍛錬によるエネルギー不足と食欲過多が合わさり、クロメは親の大食漢が姉と同様にそっくりそのまま遺伝している。結果、こんな事になってしまったという訳だ。

 

「…ふう」

 

漸く腹が程よく満たされたのか、彼は軽く息を吐いてナイフとフォークを置く。クロメもケーキの一切れを切り分けながら、美味しそうに食べている所だ。

 

(さて、代金は…)

 

積み上がっている皿の数と、二人が食べていた料理を思い出しつつ大雑把な代金を計算する。大雑把故に多少多めに用意するが、余った分はチップの代わりで良いだろう。

 

(…ん?)

 

ふと、視界の端に1人の男が映る。それだけなら何のこともないが、彼には見覚えがあった。

 

(……………)

 

男の近くを見れば、3人の少女の姿。装いを見る限りでは帝国の僻地からやって来たらしい。そして、少女達を連れている男の詳細を思い出し始めた。

その内容を思い出したオネストの表情が、変わる。

 

「…クロメ、どうやら少し仕事が出来たようです」

「…ん」

 

オネストの様子と言葉で、クロメも何かあったと確信。少女の可愛らしい表情から、暗殺者としての冷たい表情に一瞬で切り替わる。

 

「あの男を見張って下さい。無いと思いますが、勘付かれぬように。私も会計を手早く終わらせます」

「分かった」

 

残っていた最後の一切れを食べると、脇に置いていた刀…八房を手に取って店の出口に向かう。

オネストも素早く会計を済ませ、店から通りへ出る。すぐ側にクロメが付き、クロメの視線を追って男の姿を再確認。周囲からも怪しまれぬよう、2人は他愛の無い会話をしながら、適度な距離で尾行を開始。

 

(…腐敗派と繋がっている犯罪組織のリーダーと、こんな所で出逢えるとは。何という僥倖でしょうか)

「…お義父さん、特務隊は呼ばなくて大丈夫なの?」

「いつしでかすか分かりません。それに出動準備は既に発令済みです」

 

クロメの問いに、オネストは右手に握られていた小さな機械をチラリと見せる。

 

「後は、現場を押さえるだけです」

 

その後、尾行を続ける事数十分。男と少女3人は帝都郊外の人気の無い店に入っていった。2人は店に入る事なく、しかし店の中の4人が覗ける位置にそれとなく移動。気配を消し、様子を見る。

 

数分後。店の奥から黒服の男が十数人、そして犯罪組織と繋がっている可能性があると報告されていた3人の男が姿を表し、黒服が3人の少女を取り押さえる。

瞬間、2人は動いた。最早尾行は不要、情けも無用。帝国の平穏の為に、3人の少女の安全の為に、殴り込むのみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日のオタノシミ(少女3人)を捕らえ、さぁどう壊してやろうか。彼等がそう思っていた矢先だった。

 

バァンッ!!

 

店の扉がブチ破られる轟音が響き、直後、扉が壁に衝突する音が響く。全員が驚き、店の出入り口を見やる。

 

「「遅い(よ)!」」

 

瞬間、蹂躙が始まった。クロメとオネストは瞬間的に敵との距離を詰め、接敵。クロメは八房を抜刀、少女達を捕らえている黒服達の両肩を深く切り刻み、戦闘不能に陥す。オネストは1人を蹴り飛ばして数人を巻き込み、その流れで1人の襟元を鷲掴み、投げ飛ばす。加減無しでぶん投げられた黒服は悲鳴を上げ、数人を巻き込みつつ壁に衝突した。

 

「ヒッ…!!」

 

咄嗟に首謀者達が逃げようとするが、そうはさせない。オネストはリボルバーを抜き、4速射。発射された全弾が精密に首謀者達の太腿に命中、筋繊維を破壊して歩行不能とする。その隙に背後から残っている黒服が凶器を持って襲い掛かろうとするが、更に背後を取ったクロメに背中を切られ、内臓まで到達した壮絶な傷によってショック死、崩れ落ちる。

 

制圧完了。救助対象の3人の安全を確実に確保、敵対対象の戦闘不能を確認。

 

「クロメさん、3人をお願いします」

「うん」

 

八房に付いた血を払って納刀したクロメが、呆然としている3人に歩み寄って行く。トラウマにならないよう、明確に死んでいると見えるような死体は作っていない。後は特務隊が到着するまでクロメがどうにかしてくれるだろう。

 

「さて…」

 

オネストは首謀者の3人の口をテーブルの布で塞ぎ、拘束。尚も這って逃げようとしている犯罪組織のリーダーの太腿…正確には銃創を踏み付ける。

 

「ギャアアアアアアッ!!?」

「逃げようとしないで下さい」

 

蹴飛ばして仰向けに姿勢を強制的に変え、胸元を踏み付ける。

 

「さて、貴方には聞きたい事が色々とあります。しかし今は場所が悪いです。場所を移した後に行いましょう」

「お前、お前何をやってるのか分かってるのか!?今すぐ僕らを解放しろ、そうすれば報復の内容も考えてやる!!さもなければお前に生き地獄が待ってるぞ!!」

「何を阿呆な事を言ってるんですかね、貴方は」

 

そう言ってオネストは変装を解き始める。隠されていた素顔を見たリーダーの顔色が、みるみるうちに青くなっていく。

 

「………な、なんで大臣がここに居るんだよ!!?」

「貴方が知る必要のない事です。確実なのは、貴方方は帝国にとって癌の一つであるという事。そして、貴方方はもう2度と太陽の元に戻る事が無いということだけです」

*1
一般臣民となった被害者達にも隠密に護衛が付けられている。




クロメ
原作主人公の1人「アカメ」の妹。原作では養成機関に売られ、薬物によって帝国を離れられなくなり、姉と敵対して離別。愛し合う(殺し合う)関係となる。
今作では薬物漬けにされ始めた段階で腐敗派の所業に激怒したオネストによって救出され、その後はオネストの護衛として付いていく。オネストとの関係は「お義父さん」と呼ぶように、実の両親よりも父親として慕っている。身体を侵していた薬物も治療によって殆ど抜き取られており、体調は万全。普通の女の子として生きられる。
唯一の問題はやはり姉であり、いつの間にか腐敗派からも抜け出して行方不明になっている事がクロメの一番のストレスとなっている。捜索は現在も続けられている。
メタ的な事も挟むと、「もしかして手遅れにされる前に救えるのでは無いか?」と閃いた結果、いつの間にかこんな立ち位置に転がり込んでいた。お義父さん呼びにするつもりも無かったんだけど、なんかしっかりと来てこうなった。

帝国特務隊
本作オリジナル要素。オネストが設立した対腐敗派実力部隊であり、(現時点では非公開)。詳細は登場時に解説予定。

犯罪組織のリーダー、3人の少女
5巻の特別編に登場するキャラクター。原作では最終的に全員死亡するが、今作では偶然犯行前に見つけたオネストとクロメによって、少女達は救出される。その後はオネストが安全な仕事などを斡旋する事だろう。

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