…
ザンクは、勝利を確信していた。
スペクテッドの
そう、今眼前に広がっている状況というものは、そういう領域にまで達している。
その筈、だった。
「グッア!?」
前触れなく、横から超音速で飛来した1発の銃弾。
それはザンクの額を抉るように、そして額に付いていたスペクテッドを勢い良く弾き飛ばした。同時に少なくない面積の皮膚を抉った事により、大量の血が吹き出し始める。
その時遠くから響く、1発の銃声。
突如走った痛みと流血によって塞がった視界に驚き、行動が中断。額を抑えながら数歩下がる。
(何だ、一体何が!?クソ、目が見えない…!視界が無ければスペクテッドが──)
(………待て、スペクテッドは何処だ?)
抑えてた両手の位置に、スペクテッドは付けられていた。スペクテッドがあるならば、額に両手が付く前にスペクテッドに触れるはず。
それが無いということは、スペクテッドが弾き飛ばされているという事を、今ようやくザンクは把握した。
そして、スペクテッドは直前までアカメに「幻視」を発動していた。だが、弾き飛ばされたという事は。
(マズイ)
瞬間、幻視が解けたアカメから繰り出された村雨の一撃が、無防備なザンクの身体を叩き斬った。
「ごッ」
身体が斜めに真っ二つになってしまえば、村雨の呪毒など関係無い。切断面から身体の中身を撒き散らしながら、石畳に大量の赤い染みを作り出した。
「………」
残心を終え、振り下ろした構えを解く。この時チラリと左を見れば、ザンクから弾き飛ばされたスペクテッドが転がっているのが見えただろう。
しかし、アカメはスペクテッドに興味を持つ事はなく、寧ろ無惨な姿になったザンクだったものに向けて、村雨を振り下ろし始めた。
…
アカメから右約100m先、建物の屋上にて。
「アルファ4-8より全部隊へ。間一髪目標への狙撃に成功、ミセバヤの攻撃により死亡した」
『アルファ1了解、俺達の出番は回らなそうだな』
『スズランより、アルファ4-8へ。ミセバヤの、様子は如何なっていますか?』
「…自分には錯乱状態に見えるな。刀を使って人間の
『ベースよりアルファ4-8へ、ミセバヤは其方に気付いている様子はあるか?無ければそのまま観測を続けてくれ』
「アルファ4-8了解。観測任務を継続する」
通信機をしまい、双眼鏡に手を戻して再び覗き込む。その視線の先には、ザンクに向けて刀を振り下ろし続けているアカメの姿。
「…にしても、よくスペクテッドを器用に弾き飛ばしたな。頭吹っ飛ばした方が早かったろうに」
「
隣で膝を立てた状態で、その上に両腕をクロス。その腕の上にハンドガードを載せた姿勢でスナイパーライフルを構え、スコープを覗き込んでいるアルファ4-7に問いかけたら、そんな返事が返る。
「俺達が此処に来た時、ミセバヤが目標に殺される寸前の所だった。そんな状況で10cm程度の物体を狙うよりも、頭を撃ち抜いた方が圧倒的に手っ取り早い」
「…だよな。ただの偶然か」
「というより、引き金を引いた瞬間に突風が吹いた。外れたかと肝を冷やしたが、結果オーライだっただけだ」
「不幸中の幸いだな」
其処で、一度会話が途切れる。
「…スズランの言葉、届くと思うか?」
「さぁな。少なくとも、他人を信じれなくなった人間に
「だな」
…
「ッアアアアアアアッ!!!!」
最後に、一際大きな力と速度で村雨を振り下ろし、ザンクだったものの返り血が身体に付着する。
ザンクの死体は、最早原型を留めていない。
肉、骨、内臓、血、服、武器。それら全てが混ざり合い、ペースト状の肉塊に成り果てたそれは。もう「人間だったもの」とすら、事前知識が無ければそうだと認識する事は絶対に不可能だと断言できる。
その残骸から村雨を抜き出すと、刀身には夥しい量の血と肉片が付着し、より重量を増していた。そのせいで一回振り払っても、付着していた血と肉片を完全に除去する事が出来ない。もう一回払って、漸く刀身が綺麗な姿を見せる。
荒ぶっていた息と気持ちを
一息吐き、歩き始める。自らの怪我も、傷口から流れ出る血液も、身体や服に付いた返り血も、今はどうでも良かった。
「…ッ」
しかし、流した血の量が多過ぎたらしい。グラリと視界が揺らぎ、身体のバランスが崩れる。咄嗟に村雨の鞘の固定を強引に外し、支えにする事で転ぶ事を防ぐ事に成功する。
「…クッ、フフ…」
(…え?)
その時。アカメの鼓膜を、一つの声が叩いた。
そうなれば当然の反応として、視線は声の方向…後ろの方向を見ようとした。その瞬間、後ろから抱きしめられた。
(…………嘘だ、嘘に決まってる)
背中から伝わる感触や声で朧げながらも分かる。
もし
だからこそ、
しかしそれを
相反する2つの本能。相反する心。相反する想い。
ボロボロに擦り切れたにも関わらず、
(動け…動け、動け、動け!!)
歯を食いしばる。両脚を踏み締める。両手を握りこむ。
しかしそれでも尚、身体が石になったかのように動けない。
(これは幻覚だ、都合の良い夢だ!!そうに決まってる、だって、だって…!!)
「お姉ちゃん」
「違う…違う、違う、違う。そんな訳ない、そんな都合の良いことなんて、ある訳無い…!!」
涙が溢れる。声が震える。足から力が抜けて、
この世界は無慈悲で、残酷だ。だからこそ彼女は失い続けた。守りたかった
だから。
やはり、この2人は救われるべき姉妹だった。
没になった5つのIFルートの果てに、このお話が選ばれることとなりました。
たった1話に此処まで書いて拘り抜けたのは、これまでの中でも初めての事です。この作品を読んで下さっている皆様の感想や応援のお陰です。本当にありがとうございます。
恐らく次に投稿される話で、一旦この物語は纏める事になるかと思います。
次回を、お楽しみに。