『花は咲いた、か。これで終わったな』
『いや、まだ早いぞ。たった今「ロイヤリティ」より「ガーベラ作戦」のフェーズ3への移行が宣言された。出撃中のアルファ及びベータ全部隊は、スズラン及びミセバヤの護衛任務に移行。護衛対象が帰還するまで、あらゆる障害を実力で以って排除せよ』
『了解。早速仕事に戻るとしよう』
…
首切りザンクの討伐、及び「
帝具使いの討伐任務という事で、投入可能な戦闘部隊を全て投入した今作戦。しかし蓋を開けてみれば死傷者無しで首切りザンクはアカメによって殺害され、帝具 スペクテッドの回収に成功。それに加え、数年前に実施された腐敗派暗殺部隊の育成施設急襲作戦「A-1」*1に於ける延長線として展開された捜索作戦「ガーベラ作戦」の完遂。
これ以上に大円団な終わり方は無いと断言しても良い。
「ハッキリ言って、あんな状態でよく生きてたわね。あの子」
「…それ程の状態ですか?」
そんな雰囲気を出来るだけ壊さぬよう、しかしそれ以外の配慮は全くせずにDr.スタイリッシュはその言葉を紡いだ。
場所はアカメが寝ていて、クロメが看病をしている病室から少し離れた廊下の1箇所。そこに壁に背を預け、向き合うようにスタイリッシュとオネストは話していた。
「ええ。身体中に刻まれた古傷の状態だけでも相当なもの。数十に及ぶ切創や銃創、中には危険種に咬まれた痕さえあった。それも
「………………」
「純粋に1人の人間として言うならば、彼女が望むならば絶対に戦いから離すべきよ。聞いた話じゃ、身体だけじゃなくて心も限界ギリギリみたいじゃない?何方にしろ一旦休ませるべきよ」
「無論そのつもりです。そもあんな歳の子供が戦場に立たざるを得ない「現在」が狂気であり、そして我々の「罪」そのものです。本来ならば、戦場とは無縁の日常で教育を受け、友を作り、失敗や成功を重ね、そして自分で自分の道を選ぶ筈だったのです。なのに我々大人が手前勝手な理由でこんな世界に引き摺り込んで、2度と引き返せなくしてしまった」
「「帝具使いになれる」なんて理由は、子供を戦場に立たせる免罪符などでは無い」
「…相変わらず、貴方って帝具が
「この世で一番嫌いですよ。帝具の素質があるというだけで、子供にも戦場に立たせる馬鹿共が今も居るのでね。
オネストは額を抑え、苦々しい表情を浮かべる。
「ええ、理屈ではわかっていますとも。帝具の威力は強大で、その威力故に帝国の安全保障の一端を担っている事も。それを完璧に操り、己の力にした極地が帝国最強のエスデス将軍であると言う事も。しかしそれは闘争こそが彼女の生き甲斐であり、人生目標として掲げていた
「
「しかし、私が何を言ってもスズランは離れないでしょう。彼女の本質は無垢で優しい。彼女の守りたいものの一つに
「…だからこそ、それに甘えるしか無い我々の無力さが憎い。大人が子供に頼らざるを得ない現状が、情けなくて仕方ない」
其処で大きく息を吐き、
「…話が逸れましたね、本題に戻りましょう。それで、「科学者」としての意見は如何なのですか?」
「そうね…彼女は立派な研究対象であり、
「…」
「さっきも言ったように、彼女の身体は普通ならボロボロ。とっくに死んでて当たり前であるべき状態よ?なのに、つい一昨日まで五体満足で、帝具戦を行っていた。其々の応急手当てもおざなりな状態でそこまで動けていたのは、シンプルに規格外なのよ、彼女の生命力が。それもただ規格外なだけじゃない、もしかしたら千年前の人類に匹敵するかも」
「…「先祖返り」とでも?」
オネストの言葉に、スタイリッシュが意外そうな顔を浮かべる。
「あら、もしかしてあの研究資料読んでくれてたの?」
「監査の時に報告は受けています。最初こそまさかとは思いましたが…強く否定する理由も特に無かったので、妙に印象に残っていただけです」
「なら話は早いわね。単刀直入に言えば、彼女はエスデス将軍と
「銃の概念さえも無かった時代の、
「科学者として、こんな可能性をドブには捨てなくないわ。ええ、ええ、今私の心の底は歓喜と畏怖に満ちている!彼女が一体如何言う選択をするのか、楽しみで仕方ないわ…!」
「…言っておきますが、選択するのは彼女達の意思です。もしそれを捻じ曲げるような事をするなら…」
「分かってるわよ。折角綺麗な研究資金を渡してくれるスポンサーを怒らせたりしたくないもの」
「なら良いのですが」
壁にから背中を離し、スタイリッシュに背を向けて歩き始める。
「では、私はこれで失礼します。彼女の治療は貴方に一任します。それ相応の報酬も保証しましょう」
「ええ、任せなさい」
…
思考の海に入る。
つい先日終結した、北の異民族と帝国の国境紛争の経緯と結末、それに伴う結果と影響。
まず始まりとしては、やはり北の異民族側からの侵攻を受け、帝国軍はこれを防衛。帝国北部は過酷な環境故に、ウォール・イージスの建設が遅れており、既存の防衛陣地による防御戦を強いられることとなった。だが、帝国の不幸は異民族の指揮官が一味も二味も違う、極めて手練れな強者である事だった。
ヌマ・セイカ。
北部異民族の王家の一人であり、次期国王として注目される彼は「北の勇者」とも呼ばれている。
その二つ名に負けぬ実力と軍略を併せ持ち、民からの信頼も厚い。現時点に於ける最も警戒すべき帝国の脅威。彼に率いられる軍隊も精強であり、国境沿いに建設された要塞都市を拠点として活動し、帝国への侵略を強めつつあった。
段々と劣勢になりつつある戦況に、帝国はエスデス軍を派遣。北部異民族軍の撃破と要塞都市の破壊、そしてヌマ・セイカの捕縛もしくは討伐を戦略目標とし、反抗作戦は開始された。
その結果、戦線に配置されていた異民族軍の5割を撃滅。要塞都市は陥落し、北の異民族の侵略阻止に成功した。
だが、ヌマ・セイカの
幾ら隠蔽が不可能な軍隊の移動とはいえ、此処まで上手く撤退させられたとなれば、帝国内部に異民族の情報網が構築されていると考えていい。
(そうなれば真っ先に考えられるのは…革命軍と異民族の繋がり)
更に思考を回す。
(革命軍と異民族の繋がりは前々から確認されていた。しかし此処まで密接な繋がりを見せているとなると、脅威を上方修正する必要がありますね)
(北の異民族の軍隊の打撃は大きい、しかし再生不可能というわけでもない。何よりヌマ・セイカの生存が痛い。恐らくより一段と成長し、再び帝国への侵攻を開始する)
(…いや、待て?そもそも何故単独で帝国に侵略した?異民族同士の繋がりもある今、此方に攻めるならば共同で来ない理由は果たしてあるのか?)
(…………………陽動、もしくは威力偵察?いや、陽動は考えにくい。軍隊が大打撃を受けてでも為されねばならない陽動なんて物、こんな段階で実施される筈がない。となると消去法で威力偵察。もしくはそれ以外…)
(…何方にしろ、今考えても仕方のない事ですね)
其処で思考を打ち切り、手渡された書類とソファに座っているチェルシーに移す。
「…将軍の離反。それもナカキド将軍とヘミ将軍の2名ですか」
「うん。内偵の結果は真っ黒。革命軍との合流計画書もバッチリ発見出来たし、何なら革命軍との使者と密会してる所も見ちゃった。詳しくは書類に書いてるよ」
「…………………ハァーーーー」
「アハハハッ、帝国大臣は大変だねぇ?」
オネストの様子を見て、チェルシーはカラカラと笑う。
「貴女達の苦労と比べれば軽い物です。私は最後方で頭を悩ませつつ口と手を動かすだけで良いんですから。…特務隊本部に伝達を。ベータチームは第二種出動待機態勢に移行。任務内容はナカキド将軍及びヘミ将軍両名を革命軍合流前に暗殺。詳細は追って連絡すると」
「了〜解っ」
チェルシーは執務室より退室し、オネストは再び思考の海へと潜った。
(…両名の離反までの期間はまだ数日ある。しかし今此処で強引に釣り出そうとしても怪しまれてしまう。幸い脱走計画は完璧に把握している。ならば合流の途上で奇襲を仕掛け、2部隊で包囲して確実に仕留める)
(計画書の内容を見る限りでは其々1部隊でも十分そうではある。しかし最終的に部隊を半壊させたロクゴウ元将軍の二の舞を防ぐ事を考えると…やはり2部隊は必要)
(大まかに纏めたら後は
(後は帝都に帰還してくるエスデス将軍の褒賞…それにエスデス将軍の帰還で変化するであろう革命軍の予測…)
此処で一度息を吐き、背もたれに身体を預ける。
(全く、目の前の問題を一つ片付ければ次の問題が3つ4つと埃のように出てくる。しかしまだ戦争の前準備、本番はまだ先にある)
(戦争とはただ軍隊と軍隊がぶつかるのではない。そうなる前に
(私が今こうやって苦労する分だけ、
今日もまた、オネストは「己の戦争」を始める。
帝国の未来の為、愛する国の為に勇猛果敢の姿勢を持ち続ける彼の姿は。
という訳で、「もしもオネストが綺麗だったのなら」の本編は、これにて終了とさせて戴きます。これまでの閲覧、本当にありがとうございます。
オネストが主人公というより、オネストが綺麗だった場合の群像劇?シミュレーション?みたいな感じになりましたが、それでも尚多くの方が見てくれて、お気に入り登録して頂き、感想を書いてくださり、評価して下さりました。
現時点でもお気に入り登録4417件、評価投票者数201人、調整平均8:25、総合評価が7030pt…
ハーメルンの中でも上位約1.6%に入る程の高評価を皆様に頂きました。
いや、もう何て言えば良いのか…只々感謝以外の言葉が思い付きません。重ね重ね、本当にありがとうございます。
自分も、この作品を書いてて凄く楽しかったです。
今後の予定としては、本編で書きたくても煮詰まらずに書けなかったネタや、時系列の問題で書きたくても書けなかったネタなどを投稿していく「番外編」をマイペースで書いていこうかと考えてます。特務隊の活躍が思った以上に薄くなってしまったんで、そこら辺も描写出来たら良いなー…(願望)
という訳で、後は一部のオリジナル設定に関する個人的な感想を以って、後書きも締めさせて戴きます。
番外編の投稿も、のんびりとお楽しみに。
1.帝国特務隊
原作に於ける「羅刹四鬼」枠。今作のオネストがあんな奴ら採用する訳無いだろという事で、折角なら取り回しやすいようにオリジナルの精鋭部隊作ろう、という訳で誕生した。
実際に登場させると、彼等は痒いところに手を届かせてくれた。そう言った意味では、この作品に於ける縁の下の力持ち。
2.アカメの過去
間違いなく今作最大の被害者。(作者視点)本当にすまない…
クロメを完璧に救った影響はどうなると考えた時、「これ立場逆転してしまっているだけなのでは??」と気付いた時の焦燥感は今も覚えている。
「どうやったらアカメも救う事が出来る!?」「いやそもそもアカメとクロメが会う事自体が果たして出来るのか!?」という思考がつい先日までずっとあった。だからこそ前話に於いてルートが合計6つも出来て、3週間もの間、睡眠時間を少し削る勢いで書き続ける要因にもなった。
ちゃんとアカメも救えて良かった…
3.八房の奥の手『死者行軍』
オリジナル設定によって一番とんでもない事になった帝具。
この設定の原型は約4年前に出来ており、スマホメモ帳の奥に眠り続けていた。
だがこの作品の執筆中に「何か設定作ってたよな…?」と思い出し、約500にも及ぶ「設定メモ集」の中から発掘された。後はこの作品に合わせて加筆や修正を重ねつつ出すか出さないかを考え続け、現在に至る。
ハッキリ言ってパワーバランスを根本的にぶっ壊す「デウス・エクス・マキナ」じみた威力だが、書いてて楽しくもあった。番外編でこれが登場したら、敵にとっての絶望になる事間違いなし。
ちなみに、現段階で『死者行軍』発動後にどうにかしようとするならば、以下の手順が必要になる。
1.どうにかして最低十数万単位の『死者行軍』を突破します。(既に無理ゲー)
2.背後から追いかけてくる『死者行軍』をどうにかしつつ、どうにかしてクロメの直衛を務める特務隊の部隊を突破します。
3.全方位から迫る『死者行軍』と直衛の特務隊をどうにかしつつ、クロメをどうにか倒して下さい。
最早無理ゲーというレベルではない。
追記
その他、一部キャラの個人的感想を下の活動報告にて。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=273253&uid=56685