ストーリー組んだらズルズルと長編化していきそうな予感がした。
帝都の治安維持に関わる組織は、大きく区別して3つ存在する。
一つは帝国警察*1。
主に平時の治安維持…つまりはパトロールの他に小犯罪の解決や現場保存、捜査などを中心に活動する、最も規模が大きい組織となる。
一つは帝都警備隊。
警察と同じく平時の治安維持を行うと共に、警察では対処が困難な案件の解決…犯罪組織への実力行使、帝都周辺に確認された賞金首の討伐等、帝都厳戒下に於ける治安部隊として存在する。
そして一つは、帝国特務隊。
オネスト大臣が直々に組織した特殊部隊であり、帝都の治安に直接的に関わる事は少ない。彼等の主な活動は帝国に根付く犯罪組織や革命軍、
しかし彼等の場合、その活動範囲を必要ならば帝国全土に跨ぐ為、帝都の治安部隊に数えるには少々適さない。が、帝都の治安維持に少なからず関わっている事には変わりがない。
この3組織の指揮系統は、帝国警察<帝都警備隊<帝国特務隊という形に明確に位置付けられている。単純に権限の差異や実力部隊であるか否かであると言う事にも関わるが、帝国特務隊に関しては大臣直属部隊である為に、彼等が保有する権限は帝国警備隊を遥かに上回る効力を持っているのだ。それ故に帝国特務隊は帝国の中でもトップクラスに厳格な規律と統制が敷かれている。
故に場合によっては、特務隊は帝国警察にも帝都警備隊にも通知しないまま、帝都内に於いて隠密に作戦行動を行うケースが存在する。
…
「ふーぅい、やっぱ酒は美味ぇな」
帝都の大通りの真ん中で、顔を赤らめながら歩く大男。帝都警備隊の装備を纏い、左目が潰れた隻眼が特徴的だ。
「鬼」のオーガ。帝都警備隊隊長であり、「鬼」という二つ名を持つ程にその剣術の練度は磨かれており、犯罪組織からも恐れられる程だ。その見た目とは反して職務には忠実。普段から多くの部下と共に帝都を見回り、非番の日も宮殿付近のメインストリートで飲酒をしている姿を帝都民はよく目撃している。その為帝都民にとってはオーガは割と顔見知りであり、帝都民からそこそこは慕われている。
「オーガ様」
「んあ?」
「お勤めご苦労様です、先日はお世話になりました」
「おう、困った事があったらいつでも言ってこい」
今しがたオーガに声を掛けた商人に対し、酒が入っていた彼はいつもよりも明るい声で返答し、そのまま去って行く。
(この街じゃ俺が王様、権力ってのは良いもんだな)
「あっ、居た!オーガさーん!!」
「キュー!」
背後からオーガを呼ぶ声。振り返ると、小さなパンダのような生き物を連れたポニーテールの少女が、手を振りながら小走りで近付いている。オーガは彼女に見覚えがあった。
「おう、久しぶりだなセリュー」
セリュー・ユビキタス。元帝都警備隊隊員、現帝国特務隊隊員。帝都警備隊の頃から「悪の断罪」を目標に掲げ、誰よりも精力的に活動をしていた。ある事をきっかけに「そのような人材を帝都警備隊にさせておくには勿体無い」とされ、帝国特務隊へ異動命令が出され、以降は帝国特務隊の一員として活動している。
帝都警備隊所属時、セリューはオーガに格闘術を教わっており、彼女にとってオーガは格闘技の師匠であった。
「異動先はどうだ?よりにもよって
「あはは、確かに色々とやるべき事は多くなりましたね…けどそれ以上に、とっても充実してます!」
「そりゃ良かったな」
「あ、そうだ!折角此処で会えたんだし、少し話しておきたい事が」
「ん?」
するとセリューはするりと自然な形でオーガに近づき、声量を絞って話の続きを始める。
「特務隊の諜報部隊が、貴方を暗殺しようとする動きを察知しました」
「!」
「此処だと人目が付きます、続きは場所を移しましょう」
「…ああ」
…
セリューとオーガはその後、近くにある人気のない場所…裏路地へとその姿を移していた。
周辺に人の気配がない事を確認し、2人は足を止める。
「…此処なら良いだろ」
「そうですね…案内ありがとうございます」
「で、俺を暗殺しようとしてる動きってのは何だ?」
「それなんですけど…」
セリューはポケットの一つから折り畳まれたメモ用紙を取り出し、オーガに差し出す。
オーガはそれを受け取る為、手を伸ばし
次の瞬間、オーガの視界は空を向いていた。
(は?)
人為的に発生させられた慣性と重力がオーガの身体を落下させ、背中から石畳に着地。何も受け身を取れなかったオーガの身体は、石畳と装備の硬さを背骨を中心に全身に受け取る事となり、その発起点となった背骨からボキリと嫌な音が響いて激痛を発し始める。
「グ、アアアアアアッ…!!?」
「暗殺などと言った事は偽りの話題です。帝都警備隊隊長、貴方は此処で捕らえさせていただきます。理由はお分かりですね?」
オーガを投げ飛ばしたセリューは淡々と、事務的にこの言葉を紡ぐ。
アッサリとセリューに投げ飛ばされたオーガだが、何も完全な無警戒であった訳ではない。セリューからメモ用紙を受け取ろうとした瞬間も、セリューが妙な動きをしないか警戒をしていた。そしてセリューも何一つ妙な動きを見せていなかった。
セリューは
セリューにとって悪を断罪する事は、生涯に掛けて行われ続ける至上命題。
セリューにとって悪を断罪する事は、生き物が自然と呼吸を行う位に自然な事。
だからこそセリューは気配や動きに一切の揺らぎを見せず、手を伸ばしたオーガの右腕を掴み、背負い投げの態勢に移行し、その勢いでオーガを投げ飛ばす事も、
「容疑は賄賂収賄罪、冤罪作成、冤罪の死罪判決による無実の一般市民の虐殺、その他複数。残念です、貴方とはもっと違う形で会いたかった」
両手両足の順番で、手錠と縄による四肢の二重拘束を進めるセリューの声色には、落胆が混じっていた。しかし背骨の激痛に悶えるオーガに、それを気付く余裕は一切無い。
「セ、リュー、テメェェェ…ッ!!」
「煩い、周りの迷惑です」
「ガッ!?」
雑にオーガの顎を殴って軽く脳震盪を発生させ、その隙に無防備に空いている口に口枷を突っ込み、固定。僅かに手に付いた唾をポケットティッシュで丁寧に拭き取り、二重拘束に問題無い事を再確認。
帝国特務隊の為に特注された携帯無線機を手に取り、電源を入れてトークボタンを押す。
「此方コンビクト。
『了解。目標β*2の確保も先程成功した。作戦は8割完了、後は無事に目標を連れて帰ってくれ』
「了解、コンビクト通信終了」
通信を終えて通信機をしまい、両手を拘束している拘束から伸ばした縄を掴み、オーガを引き摺りながら合流地点へ目指し始める。
「────────ッ!!!!!?」
折れた背骨を全く考慮しない搬送方法に、信じがたい程の激痛に襲われて混濁した意識から覚醒したオーガは、反射に叫ぼうとした。しかしそれは口枷によって阻害され、周りに響く事は無い。
「暴れない方が良いですよー、下半身が永遠に動かなくなっても知りませんからね」
まるで大きな麻袋を引き摺ってるかのような気楽さでセリューはオーガに声を掛けた。彼女にとって、オーガは格闘術の師匠とは最早認識していない。帝国を腐らせる「
そんな様子を、建物の屋上から見守る数人の影があった。
「おーおー、おっそろしい運び方でやってんな」
「あの勢いじゃ背骨折れてるだろうに、容赦無い。そりゃ帝国特務隊
「本人は否定してるけどな」
「あれでですか?」
「あれでだ」
「…えぇ…」
「ま、あんな運び方だけど死にはしないだろ。俺達は周辺の警戒を続けるぞ。作戦行動を警備隊と警察、市民達にも気付かれたら面倒だ」
「了解」
今日も、帝国特務隊は帝国の闇と戦っている。
セリュー・ユビキタス
原作では帝国警備隊、後にエスデス将軍が組織する特殊警察「イェーガーズ」に所属。
今作では帝国特務隊に所属し、性格面も幾らかマイルドになっているが、本来は狂気的な正義心を持っており、「悪」は全て死罪を下す事が正義と考えていた。それが例え、人の命を奪っていない罪であったとしても。
余談だがセリューのコードネーム「コンビクト」の意味は、断罪となる。
オーガ
違法行為を繰り返す帝国警備隊隊長。原作ではナイトレイドに暗殺されている。
今作では帝国特務隊の存在もあって幾らか自重していたが、結局バレてセリューに背骨を折られて引き摺られていった。
セリュー「悪人は断罪ですよー」