もしもオネストが綺麗だったのなら   作:クローサー

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お久しぶりです。
活動報告でも話しておりましたが、リアル情勢のせいで番外編:War of Empiresの更新は完全に停止しております。
故に、じっくりと番外編:Short peaceを書いていく予定です。

今回の話の時系列は、本編とNext storyの間です。
…ブランクがあるから変な文章になっている気がする。それに感想返信もやれる時にやりたいのに一切出来てねぇ…


例え強者であろうとも

帝国宮殿にある、練兵場。

そこで普段からブドー大将軍や近衛兵が訓練を行い、高い練度を常に保っている。しかし今日に関しては、彼等は見学者として遠巻きに見守っている。

それは何故か?

 

「っ、そ…」

 

練兵場の中心。そこに立っているのは一人の少女。二刀の木刀を悠然と逆手で構え、周囲を囲む兵士達を牽制する。

二人の少女を囲む7人の兵士もまた各々の木刀を構え、二人の少女を睨む。その周辺には攻撃をモロにくらい、死亡判定となって倒れている者もいる。

 

7対1。

頭数だけで見れは圧倒出来る。しかし、質という点を考慮するとその差は寧ろ逆転すると言って良い。

 

 

──トン、トン。

 

 

垂直に立てられたアカメ(少女)の右足のつま先が、練兵場の草を叩く。静かな環境下に於いて、その音は周辺によく伝わっていく。

 

 

──グ、グ。

 

 

アカメを囲う兵士の内の4人…アルファ1の隊員の筋肉が僅かながらに膨張し、筋力が一時的に増加。来る戦いの増加に備え

 

縮地。

 

それは、帝国のはるか東の国にて生まれた「古武術」が一つ。その概念としては「体を大きく前傾させ、重力を利用して素早く移動する」というものである。

だが、たった今アカメが繰り出した縮地は()()()を行く。前傾姿勢による重力を利用した加速は、彼女にとってオマケに過ぎない。

 

その本命となるのは、千年前に存在した危険種「人類種」の先祖返りによる、強大な身体能力の活用。

前傾姿勢による極限な空気抵抗の削除、地面をギリギリ割らない脚力の絶妙な調整、標的(訓練相手)の瞬きの瞬間。

この3つの要素が合わさった結果。

 

(ふ──)

 

アカメの正面、距離10mに立っていたアルファ1の隊員(アルファ1-3)の眼前に、刹那に到達した。

間髪入れず、右逆手の打撃(斬撃)が飛んでくる。

 

(ざ──)

 

瞬時に木刀の峰に左手を添え、片手かつ逆手であっても強力な一撃を受けながら、衝撃を少しでも横に逸らす。だが、ここからだ。

脳のリミッターを外したことによって、スローモーションに流れる視界の端々に、此方に向かって駆け始めた仲間達の姿。しかしそんな事を気にする暇もなく、左逆手の打撃(斬撃)が。

 

(け──!)

 

三撃、四撃、五撃、六撃、七撃、八撃…息をする暇もない連撃。全力の集中と見極めによって、それを薄氷の如き危うさで防ぎ切る。

九撃目が振られようとしたその時、アルファ1-3の伸びた頭髪の集合体(即席の槍)による一突きが、左下からアカメに襲いかかる。

 

「…」

 

気配を察知して攻撃を中止し、強引に攻撃目標を槍に変更。やや不安定ながらも強力な一撃が槍を上に弾くと同時に、数歩下がる。

しかし間髪入れず、残存するアルファ2隊員の近接攻撃とアルファ1隊員の擬似的な遠距離攻撃のコンビネーションが複数の方向から襲いかかって来る。更に後備えに敢えて攻撃を控え、追撃に備える者もいる。

特務隊の完璧な連携。それに対しアカメは。

 

「…フゥッ!!」

 

一息吐き、右足を強く、強く床を踏み叩く。己に影響が出ないよう慎重に、しかし躊躇なく踏み砕いたその一撃は、まるで爆弾が爆発したかのように周辺の床にヒビを走らせ、表層を破壊。床の破片と草、そしてアカメの攻撃を喰らい死亡判定(一撃死)してほぼ無防備に倒れていた隊員をも巻き込み宙に打ち上げた。

 

「うぉあああああああ!!!?」

 

多少の惨事を巻き起こしつつ、アカメはその姿を粉塵の中に隠した。まだ無事な隊員もアカメの予想外な行動と攻撃に一歩引かざるを得ず、動きかけた場が再び仕切り直される。

そう殆どの者が思った次の瞬間、アカメは文字通り目にも止まらぬ速度で粉塵から飛び出し、無慈悲な一撃を振るった。

 

 

「…尋常ではないな」

 

 

その光景(模擬戦闘)を離れた所で見続けていたブドーがふと、言葉を漏らした。その隣にはオネストとDr.スタイリッシュがおり、共にこの光景を見ている。尚、スタイリッシュは並行してレポート用紙に何かを書き留め続けている。

 

「あの華奢な身体で、どうやればあれ程の事が為せるのだ?」

「「人類種」の先祖返りの力を使いこなせれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()よ。現在の人類とは比べ物にならない程の身体能力、過酷な自然環境に対する高度な適応力。そして何よりも、「人類種」が「人類種」たる能力が──」

 

スタイリッシュの視線が、アカメに固定される。

彼女は今、両手を木刀を逆手に、時には順手に切り替えながら。5名に減らされながらも、全方位から止まる事なく繰り出し続けられる特務隊の連携攻撃をたった一人でいなし、対等に戦闘を継続している。例え視界の外…それこそ真後ろから攻撃しても、彼女は視線を向ける事なく、しかし完璧に攻撃を防御。一撃の擦りすらも許していない。

それは、まるで。

 

 

「未来予知じみた危機察知能力と第六感」

 

 

「…何だと?」

 

スタイリッシュが発した言葉に、ブドーは思わず困惑の一言を発した。

それが事実だとすれば、あまりにも()()()()力と言わざるを得ない。たかが人間1人が、帝具すら持っていないにも関わらず未来予知のような事をしでかせるなど、とても考えられないのは誰だってそう思う事だろう。

 

「私もこの光景を見るまでは話半分で認識していたんだけど。けど、こんなのを見せられたらねぇ…」

 

スタイリッシュの視線の先にいるのは4人となり、しかし未だ脱落者が居ないアルファ1と対等に戦いを推移させるアカメの姿。全く息を切らさず、獣じみた瞳の鋭さで攻撃を見極め、二刀流による苛烈な攻撃と鉄壁な防御を取り続けている。

 

 

『…戦っている時、脳裏に何回も、何十回も私が死ぬビジョンが見える。一瞬先に切られる瞬間を、喰われる瞬間を、貫かれる瞬間を』

『…私はそのビジョンを信じて、避ける。そうやって勝ってきた』

 

 

彼女(先祖返り)でこれなら、千年前の人類(完全な純血)はどれ程に強かったのやら…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約3分後。

 

「そこまで!」

 

ブドーの一言が練兵場に響く。それは、6分経過した事によってアカメと特務隊による模擬戦闘が終了条件を満たした合図。

 

「…ふぅ」

「はーッ…!」

 

皆が一斉に木刀を下ろし、倒れていた隊員達も一斉に起き上がる。

 

「お姉ちゃん!」

 

影からこっそりと見守っていたクロメが飛び出し、残心を解いたアカメに抱きついた。アカメも笑顔でそれを受け入れて、抱きついたクロメの背中に手を回す。

それを横目に、オネストもアカメと時間一杯まで戦い抜いたアルファ1隊長に近づき、話しかける。

 

「お疲れ様です」

「大臣。 …無様な姿を見せてしまい、申し訳ありません」

「貴方達が無様というより、彼女の強さが私達の予想以上だったというだけです。…模擬とはいえ、彼女と戦ってみてどうでした?」

「…はっきり言えば模擬戦闘でなく、かつ特定の条件下に置かれれば、我々は壊滅的な損害を負って撤退を強いられるかと。彼女の本来の武器は一撃必殺の帝具。擦り傷ですら許さない戦闘を強いられるとなると、近接戦闘は論外です」

「銃器による中遠距離戦闘、ですか」

「そうなります。彼女に近づかれてしまえば、我々の敗北は避けられません。 …戦闘能力は、我々(特務隊)が保証します」

「…そう、ですか」

 

オネストは視線を、姉妹に向ける。2人共仲睦まじく笑い合いながら、何かを話し合っている。その姿だけを見ると、全く戦いや戦争など知らぬ平和な世界の住民のようだ。

しかしクロメはエスデスと同等以上の帝国の切り札であり、アカメは帝国最強クラスの剣士である事がたった今証明された。そしてそれらは、帝国の腐敗によって生み出されてしまった才能と実力でもある。その事実が、今の微笑ましい光景の裏に隠されている。

 

「…しかしそれでも、彼女達を戦場には立たせたくないですね」

「そうさせない為にも、我々も改めて気を引き締めて参りましょう。この国を護るのは我々(軍人)であるべきです」

「えぇ、仰る通りです。貴方方には、より一層の活躍を期待させて頂きますよ」

 

2人の会話はそこで途切れ、逸らしていた視線を改めて姉妹に向ける。

クロメを抱きしめるアカメの表情は、決してクロメ以外には見せることのない、穏やかで優しげな笑顔だった。

未だ他者不信が拭えないアカメにとって、心から信頼している相手は、クロメしかいない。それ以外の者には、たとえクロメが信頼を寄せる特務隊やオネストであっても、絶対に心の内を見せる事はないだろう。

だが、それでも良い。今の彼女には心の休息が必要なのだから。限界以上に張り詰めた心の糸を緩める、そんな時間が。

 

例えどんなに強くても、彼女達はまだ子供であり、子供を守るのは大人の義務だ。

だからこそ、オネスト(特務隊)は彼女達を必要以上に戦わせる気など一切ない。これ以上の重荷を背負わせる理由は、何処にも無いのだから。




「人類種」
人類が文明を獲得する以前の、危険種が跋扈していた時代に存在していた「危険種」。
現在の人類とは比べ物にならない程の身体能力、危機察知能力、自然環境に於ける高度な適応力、隔絶した第六感を兼ね備えていた。特に危機察知能力と第六感の能力は突出しており、一種の読心術、未来予知と言える迄の正確さを持っていた。
しかし知能の発達による文明の獲得、個体数の増加に伴って次第に退化。「個の力」を捨てて「群の力」を手にし、現在の「人類」となる。
しかし、全ての人類種が手放したかという問いは「否」である。全盛期の人類種の強靭さは現在も「遺伝子」に刻み込まれており、極めて過酷な環境下で生き残り続ければ長くても僅か数世代、短ければ「数年から十数年」で「人類種」の力を再び手にする事が出来る。これに該当するのは極めて少数に限られる。
最も「人類種」の力を覚醒させているのはアカメだが、アカメでさえ全盛期の「人類種」には遥かに劣る。だが、現代においてアカメ以上の「人類種(先祖返り)」は存在しない。
尚、帝国最強とすら謳われるエスデスは、帝具 魔神顕現デモンズエキスによって危険種の血が混じっているせいで、「人類種」の力は中途半端に覚醒させる事しか出来ていない。

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