穏便派→良識派
突然だが、帝国は北の異民族、西の異民族、そして南西の異民族、そして東の海に囲われた場所に存在する。
帝国は千年前の建国期に於いて、これらの異民族国家に侵攻。領土を占領する事で絶大な国力を手に入れた。しかしその代償は今現在も帝国を蝕んでおり、異民族国家は国土奪還を狙って度々帝国への侵攻を起こす。
その度に帝国は返り討ちにしているが、出兵の度に重なる安くない戦費は帝国の国力を少しずつ疲弊させてきているし、何よりも失われる人的資源は何物にも変え難いものだ。
オネスト大臣はこの現状の改善策、一つの「計画」を打ち出した。
計画名、「
シンプルに言えば北、西、南西の国境線から約10キロ離れた
異民族が国土奪還を狙う為に国土を狙うならば、
これが
そもそも帝国建国期ならまだしも、千年経った現在では元異民族領土はほぼ完全に帝国に順応しており、帝国式の経済と法律で動いている。そこに
そして帝国としても、確立させた領土をわざと手放す程阿呆ではない。しかし3つの異民族国家との国境紛争には些か国力の消費が大きい。
だが要塞線が構築出来れば、幾分かはマシになるだろう。要塞線と駐在部隊の維持の為の物資は変わらず必要になるが、戦場が固定されれば輸送部隊の負荷も減少出来る見込みはある。更に要塞線である以上、その防御力は極めて堅牢。それも周辺国家で随一の国力と技術力を未だに保有している帝国が作るとなれば、それは筆舌に尽くし難い事になる。
要塞線に守られた帝国軍が、帝国へ侵攻してくる異民族の軍隊を悉く殲滅し、その度に異民族国家の体力は殆ど無意味に削れていく。国家の体力だけではない。戦いに散っていく
無論遺族達は死んでいった意味を、戦果を求めるだろう。だが、帝国が作り上げた要塞線は突破させはしない。そうなれば、戦いを重なる度に凄まじい勢いで生み出される遺族達は、やがて国家に怒りや不信感を抱くだろう。そこまで行かずとも、きっかけさえあれば良い。
幾ら彼らでも、煙も立たぬ場所に火は付けられない。しかし
全てが上手くいくならば。その大火は国家の全てを燃やし尽くて
勿論、そこまで上手くいくのは理想論。本気でそこまでやろうとするならそれ相応の支援と人員、手間と時間が掛かる。それが帝国の成長に繋がるなら兎も角、この話は異民族の内紛の話。そんな事に貴重な帝国の人員と物資を必要以上に浪費させるつもりなど、オネストには毛頭なかった。
最低でも、異民族国家が無駄な体力を浪費すれば良い。帝国だけに革命軍という火種が燻っているハンデを背負っているなら、向こう側にも同じ状況を作ってやる。
オネスト大臣は確かに民を愛している。それは異民族の血を受け継ぐ者達でも、帝国の民の血を受け継がぬ者達でも同じ事。しかし同時に帝国の愛国者でもある。今は傷付いているが、しかし愛する民達が住まう、愛する帝国に害する存在に容赦は出来ない。故に、容赦無い策を立て、実行する。
しかし計画始動の際、この一連の策の問題は少なくなかった。
要塞線建設の為に必要な資材、人手、資金、時間。そして要塞線維持に必要な軍隊。大きな問題はこれ程にあった。
特に前者の問題は凄まじい。どれだけ楽観的でも10年単位で帝国に重い負荷が掛かり続ける。いや、そもそも要塞線構築前に万が一異民族の侵攻が成功してしまえば、この計画の全てが白紙となってしまう。そもそも、これ程に大規模な計画は一介の官僚如きに発動出来る物では無い。それこそ大臣クラス、それも良識派が主導しなければならない。この計画を腐敗派が主導するなど、結末は目に見えている。
故に良識派が大臣、もしくはそれに近い地位の座に就き、計画の正式な認可を得る事が最低条件だった。
激しい政治闘争と混乱の末、良識派が辛うじて勝利。計画の骨組みの立案者であるオネストが大臣の座に付き、自らが主導してウォール・イージスは始動した。
今現在では、ウォール・イージスの進捗はおよそ6〜7割は完了している。
完全とは言い難いが、最低限要塞線として機能は可能。完成している要塞には既に駐在部隊が配備され、建設中の要塞には定期的にアドバイザーとして、数々の戦果を挙げてきたリヴァ将軍が視察。建設中の要塞の改良点や改善点を現場の視線から見て、より強力な要塞の建設に精力的に協力している。
後数年の時を稼げればウォール・イージスは完遂し、帝国の絶対防衛線は確立する。そうなれば、異民族国家も容易に帝国の国土に手出しはできなくなる。
…例え完遂したとしても、問題は一つあるのだが。
それはエスデス将軍の存在だ。10歳頃に帝国軍に仕官し、比類無き闘争の才能に裏打ちされた戦闘能力、戦術及び戦略思想によって帝国最年少の将軍となった、帝国最強と名高い帝具使いの軍人。
彼女は何よりも戦争と闘争を愛し、その為に数多くの戦争の火種を生み出してきた。そんな彼女が、平和を嫌うのは当然の事。つまりオネストが主導しているウォール・イージスには良い顔はしていない。そして帝国の腐敗を取り除き、帝国を平和にしようとしている現状を快くは思っていないだろう。今はまだ帝国の将軍として帝国の力となっているが、闘争を求めて平和となった帝国に弓を引く可能性は、否定出来る物ではない。彼女に帝国への帰属意識は皆無であり、やろうと思えば容易くやってのけるメンタルと実力を併せ持っている。正直オネストにとって、彼女の存在はある意味最も厄介な存在だ。
だからこそ、帝国特務隊がいる。
創設初期こそは対腐敗派実力部隊としての特色が強かったが、部隊規模が拡大した今現在では
そうなった際は直接被害、二次被害は共に甚大な物となるだろう。しかし
帝国が平和になる時、彼女との戦争が始まるだろう。
…
帝国某所の森林。
その中を駆ける、1人の男。恐怖に顔を歪ませ、全速力で何かから逃げている。
「クソッ、クソッ、クソッ、チクショウ!!何だよアイツゥ、何なんだよぉ!?」
仲間は全員死んだ。「
「うわっ!?」
木の根に足を引っ掛け、盛大に地面に転がる。直ぐに立ち上がろうとして…全身に寒気が走った。
(いや、いやいやいや嘘だろ、そんな馬鹿な)
その予感を否定する為に強張る身体を強引に動かし、後ろを振り向いた。
果たして其処に、「亡霊」はいた。
「ヒィィィィ!!」
堪らず後退って背中から木の幹にぶつかり、立ち上がって剣を抜く。
「来るんじゃねぇ!それ以上来たらぶっ殺してやるぞ!!」
「…葬る」
「………ッオオオオオオオァッ!!!!」
男は耐え切れずこちらから走り出して、「亡霊」に剣を払った。
ヒュンッ!!
…そして、
「は…?」
男は呆然としていた、その時。
男の心臓が突然止まり、突然の死を迎えた身体は崩れ落ちた。
「…」
そして刀を納刀し、3つ目の首を持つ。
目的を達成した「亡霊」は森林の出口を目指し、姿を消した。
ウォール・イージス
帝国の防衛計画。広大な要塞線を建設して国境線を確立させ、国力の消費と人的資源を最小限に止め、異民族国家なら多大な出血を強いる事を狙った計画。要塞線の建設にリヴァ将軍がアドバイザーとして協力している。
リヴァ将軍
原作ではオネストへの賄賂を断った為に冤罪を被せられ、死刑になる所にエスデスに拾われて従僕となる。その後はナイトレイドと交戦し、1人を道連れに死亡。
今作ではそもそも賄賂の要求や冤罪も被っていない為、帝国将軍の一人として居続けている。ついでにナイトレイドのメンバーの1人も帝国から脱走していない。(その人物は、リヴァの冤罪に巻き込まれる形で脱走するのがナイトレイド加入のきっかけ)
エスデス将軍
原作最強の敵。
今作ではウォール・イージスと勢力を拡大しつつある穏便派に良い顔を示しておらず、オネストは最終的に敵対するだろうと想定している。
帝国特務隊
エスデスとの戦争に備え、エスデス暗殺計画の立案、及び対エスデス戦闘訓練を極秘裏に行なっている。
「亡霊」
???