もしもオネストが綺麗だったのなら   作:クローサー

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無垢な若者達

帝都近辺の街道。

そこは森を開拓し、通行の便を良くした道の一つ。そこに一台の馬車、そして馬車に乗る2人の商人が通っていた。

ゆっくりとした速度で進んでいる馬車。不意に、前方の地面が盛り上がる。

 

「ん?」

 

騎手がそれに気づいた瞬間。その盛り上がりは更に大きくなり、轟音と共に、地中より巨大な節足型生物が這い出てきた。その衝撃で馬が驚き、更に馬車が横転してしまった。

 

「土っ竜だぁぁぁぁぁ!!!?」

「聞いてないぞ、なんでこんな街道に出てくるんだよ!?」

「知るか、早く逃げるぞ!!」

 

奇跡的に無傷で済んだが、目の前の脅威に対して2人の商人に立ち向かえる力は無い。すぐに逃げ出す。その方向は帝都とは逆方向。

 

 

1級危険種「土竜」。

そも危険種とは、幾多の生物の中でも特に獰猛で凶暴な生物。独自の生態を有し、3級、2級、1級、特級、超級の階級が存在する。多くは肉食で、動物や人間を襲う事もあり、中には村ごと食い尽くす危険種も存在しており、あらゆる国家の悩みの種となっている。中でも超級危険種は伝説の存在として人々に伝えられており、それらは千年前の帝国にて製作された帝具の素材にもなっている。

つまり眼前に現れた生物は、数ある危険種の中でも3番目に危険なカテゴリーに入るという事だ。

 

「ヴォォォォォォォォォォォ!!!!」

「ッヒィィィィ!!」

 

逃げる為に駆け出した2人の商人だったが、しかし肉食の土竜が獲物を逃がすわけもなく。雄叫びを挙げて2人の商人を追いかけ始める。その巨大さと走るスピードは常人である商人を凌駕。30秒もあれば追い付き、2人は仲良く土竜の食料となってしまうだろう。

 

 

だが、此処で2人が()()()()()()()()()()()()が、2人の儚い命を救う幸運となった。

 

 

 

ヒュオッ!!

 

 

 

何の前触れなく飛来した、一本の矢。それは素晴らしい精度で土竜の右目に命中。例え外殻が硬くとも、目の部分まで硬い訳は無い。右目に命中した矢は容易に角膜と水晶体を破って目の内部に入り込み、硝子体の細胞を蹂躙。完全に目の機能を喪失させ、甚大なる痛覚を土竜へ与え、盛大な悲鳴をあげさせる。

 

 

「そのまま走って下さいッ!!」

 

 

土竜が突如悲鳴をあげたことに驚いた2人の耳に、少女の叫びが耳に入る。其方に視線を向けると、弦が揺れた弓を構えた黒長髪の少女と剣を抜いた2人の少年。

 

「土竜は俺たちに任せろ!」

「すまない、助かる!」

「ヴォォォォォォォォォォォ!!!!」

 

そのまま商人達が走るが、右目を射られて激怒した土竜が再び疾走を開始。

 

「二人共!!」

「ああ、行くぞイエヤス!!」

「其方こそ遅れんなよ、タツミ!!」

 

少女…「サヨ」の言葉を合図に、2人の少年…「タツミ」と「イエヤス」は疾走を開始。商人達とすれ違い、囮となって商人達の安全を確保すると共に土竜の討伐を目指す。更にサヨは2本目の矢を弓につがえて照準、そして発射。

 

放たれた二の矢。それもまた見事な精度、見事な弾道、見事な未来予測によって残された土竜の左目に命中。土竜の視界を完全に奪い、その戦闘能力の殆どを奪い取る。しかしその武力は未だ健在。走りながら2本の腕から伸びる鋭い爪ががむしゃらに振られる。

 

「ッと!!」

「そらっ!!」

 

しかしがむしゃらに振られるその攻撃は、とても見極めやすい。タツミはスライディングし、イエヤスは逆にジャンプして攻撃を回避。土竜の懐に潜り込む。

 

そして3人の猛攻が始まる。

タツミとイエヤスは足元から上へと怒涛の斬撃で土竜を切り刻む。サヨは弓矢を速射。三の矢は土竜の頭部…いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その衝撃を以って更に矢が土竜の頭部の奥へ侵入する。余韻無く放たれる四の矢、その矢も2本目の矢の矢尻に命中。更なる衝撃によってその矢の列は更に頭部の深部へ侵入。遂に土竜の脳に到達し、脳細胞を破壊する。

 

滅茶苦茶に暴れていた土竜も、この猛撃には耐えられない。タツミとイエヤスが離れると同時に断末魔をあげて崩れ、地面に倒れると同時に大量の血を地面に流す。其処から2度と動く事は無い。

 

「…すげぇ…」

「助かったよ君達!危険種を3人で倒してしまうなんて…!」

 

その様子を見ていた商人達は、驚愕と感謝を織り交ぜた表情を浮かべつつも3人に感謝を述べる。

 

「あはは、ありがとうございます。それよりも何か怪我h」

「当ったり前だろー?俺達にかかればあんな奴楽勝だって!」

「俺達は帝都で有名になってやるんだからな!俺達の事覚えといた方が良いぜ!」

「2人共調子に乗らない!」

 

3人の会話を聞いて、商人の2人の様子が少し変わる。

 

「…アンタら、もしかして帝都で一旗上げようとしてるのか?」

「おう!帝都で出世、田舎者のロマンだろ?」

「……………」

「…?どうしました?」

「…帝都はそんな風に夢のある場所じゃないぞ。確かに帝国の中で最も賑わってる。けどこの土竜よりもタチの悪い奴等が居る」

「街中で危険種でも出んのか?」

「いや違う、人だ。人だけど心は化け物。そんな連中がいる。偉い人が頑張ってるから昔よりはマシになってるけど、それでも危ない所は危ないぞ」

 

3人は少し顔を見合わせる。が、直ぐにその意思は固まったようだ。

 

「…忠告ありがとうございます。けど、私達はこのまま行きます。村を助ける為にも、私達は行かなきゃ行けないんです」

「…そうか。気をつけるんだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後。

無事に帝都に着いた3人は、兵士になる為に街中にある兵舎を探し出し、その建物に入って其々が列に並び、最初に順番が来たタツミが受付に声を掛けていた。

 

「お前も入隊希望者か?」

「ああ!」

「それじゃ、この書類を書いてまた俺の所に持ってきてくれ」

 

そう言って渡された一枚の書類。タツミの中で疑問が湧き、質問をする。

 

「…これって一兵卒からスタートって事?」

「いや、まずは訓練兵からだ。一般志願はまず軍事訓練を行って、一人前の兵士になれると認められて初めて兵士になれる。隊長や将軍から推薦書があるなら話は別だが、そんな奴はまず居ないし、別途訓練が必要になる。けど其処を越えて下積みを頑張れば、誰だって上に上がれるチャンスは来るさ」

「そんなのんびりやってられっか!!」

 

そう言ってタツミは受付の机に書類を叩きつける。3人組の中でもストッパーの役目を務めていた、列の中にいるサヨは思わず頭を抱える。

 

「俺の腕を見てくれ!使えそうなら隊長のクラス辺りから士官させてくれよ!」

「………そうかそうか、お前は腕に自信があるんだな?」

「ああ、そうだ!」

「…」

 

タツミの返事を聞いた受付の男は、笑顔の表情を作って立ち上がり、机の横を通ってタツミの前に立つ。

 

 

「これが答えだクソガキィ!!」

 

 

瞬間、タツミの頭頂部目掛けて拳が振り込まれる。まさかの事にタツミは反応が遅れ、マトモにそれを食らって悶絶する。

イエヤスが飛び出そうとしたが、咄嗟にサヨが止めた。

 

「いっっってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…!!!?」

「さっき俺が話した事をもう忘れたか?えぇ?一端の兵士になる為には「訓練」が必要だって俺は言ったよな?俺にお前を兵士に任命する権限は無いし、仮にその権限があったとしても、お前をいきなり隊長クラスに士官させる気は無い!腕っ節だけの奴が隊長になれる訳ねぇだろ」

「何でだよ…!強いから隊長になれたり、将軍になれたりするんだろ…!?」

「まずそっから違うんだよ。確かに強い事は大切な事でもある。けどな、それ以上に軍隊で偉くなるって事は、自分が部下を、その下の兵士達の命を預かるって事だ。隊長でも数人の部下の命を。将軍にもなれば最低でも数万の命をだ。そして自分の指揮の一つ一つが部下達の命を賭けて行われる。それが万が一失敗すれば、部下達の命がどんどん無くなっていく。成功しても無くなるかもしれない。そういう事に部下達は自分達の命を賭けてんだ」

 

 

「軍隊で偉くなるってのはな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()奴になっていくって事だ」

 

 

「お前はどうだ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

「ッ…」

 

タツミは、思わず目を逸らした。それが答え。

 

「…そんな覚悟も出来てねぇ奴が「隊長になりたい」なんてほざいてるんじゃねぇ!!!!」

 

受付の怒号が周辺に響き渡った。悪目立ちしている事は自覚していたが、彼もこの位の悪目立ちは覚悟して起こしていた。

 

「話は終わりだ、さっさとこの書類書いて持ってこい。お前に書類を渡せるかどうかくらいの権限なら俺は持ってる。訓練兵から始めんなら俺もこれ以上の文句は言わねぇ。けど、もう一回同じ事を言ってみろ。兵舎から放り出してやるからな。後ろつっかえてるからさっさと退けクソガキ」

 

机に叩きつけられていた書類をタツミの前に放り、彼は業務を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後書類を書いて提出した3人は、書類審査の後に訓練兵として任命する為、4日後に再度兵舎に訪れて欲しいと言われてその場を後にする事となった。

夜になった現在。宿を見つけて男女別れる為に2つ部屋を取り、食事を取って寝る前に3人はひとまず集まっていた。

 

「タツミ、殴られた所は大丈夫?」

「ああ、一応な。あの人もちょっとだけ加減してくれてたみてぇだ」

「けどアレは幾らなんでも酷えだろ。サヨも何で止めたんだよ」

「あれ以上騒ぎを大きくしたら、私達3人共兵士になる前に捕まっちゃうわよ。そもそも、タツミがいきなりあんな事言って怒らせちゃったんだから…」

「う…」

「取り敢えず、切り替えていきましょ!訓練を受けて、私達3人共兵士になって、それで偉くなっていけば村を助けられるんだから!そうでしょ、2人共?」

「「おう!」」

 

3人は貧しい故郷を救う為、改めて軍隊で成り上がる事を決心する。

果たして3人が見事に昇進の道を突き進むか、それとも一兵卒で燻り続けるか。それは分からない。

 

だが確実な事が一つ。3人の想いは、容易にへし折れるものではなく、その友情は誰にも破壊できる事でも無い事だ。




タツミ
原作主人公の1人。原作では兵士になる事が出来ず、成り行きでナイトレイドに加入する。
今作では無事にイエヤス、サヨと共に帝都に着き、兵士の道へのスタートを切る事が出来た。

イエヤス
タツミとサヨの友人。原作では帝都到着前に夜盗に襲われてタツミとはぐれ、サヨと共に先に帝都に到着。其処で帝都の闇の手に掛かり、最期は偶然再会出来たタツミの腕の中で死亡する。
今作では夜盗に襲われる事が無かった為、3人無事に帝都到着。タツミとサヨと共に兵士の道を歩み始めた。

サヨ
タツミとイエヤスの友人。原作では帝都到着前に夜盗に襲われてタツミとはぐれ、イエヤスと共に先に帝都に到着。其処で帝都の闇の手に掛かり、拷問を受けて死亡。タツミが見つけた時は全裸で右脚を失い、全身傷だらけの悲惨な状態だった。
今作では夜盗に襲われる事が無かった為、3人無事に帝都到着。タツミとイエヤスと共に兵士の道を歩み始めた。
余談だがタツミ曰く「強い」との記述があった為、戦闘能力は少し盛っている。

受付の人
モブ。原作ではタツミを蹴っ飛ばして帝国兵士の道を閉ざし、ナイトレイド加入の道をシフトさせた人物。
今作ではキレつつも書類を渡し、兵士の道は閉ざさなかった。


夜盗の襲撃消失→良識派による治安改善
3人無事に兵士になれた理由→イージス計画により、兵士は絶賛募集中。何人来ても大歓迎状態。
レオーネどうした?→お馬鹿なタツミ1人なら兎も角、常識人なサヨが混ざってる状態で詐欺れる訳も無く。(ナイトレイド加入フラグ喪失)

と、言うわけで原作主人公の1人とその友人達のお話でした。少しだけでも平和になるだけで、2人の運命が救われるんだなぁ。

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