「――あはっ☆レベルが一桁になったから、これで私もサンラクくぅんと一緒に楽しい激しい大冒険にイけるねぇ……?」
ディープスローターに拘束されて一五分が経過した。
いまだ抱きついたまま離れようとしない変態女に抵抗する気力はもはや失せ、道行くNPCやプレイヤーに奇怪なモノでも見るような視線が刺さるのを感じつつ、俺は突きつけられたステータス画面を見る。
「確かにレベルは一桁だけどステータスがレベル一桁のそれじゃねぇんだが?」
「まぁ装備が含まれてる数値だからねぇ…。お望みならキャストオフするけどぉ…?」
「初期装備買って着替えりゃいいだけだろ。なんで脱ぐ必要があるんだ…」
「えっ、私の身体に興味ないのぉ…?」
「少なくとも自分から脱ぐ恥じらいのない奴は興味ないね」
「へぇー…ふぅーん…なるほどねぇ…? メモメモ」
「……つーかいい加減離れてくれ。流石に鬱陶しい通り越して殺意しか湧かねぇ」
「私は君に殺されるなら本望だけどぉ…?」
「おーし、じゃあ華々しくPKデビューしてやるからそこ動くなよ?」
「ああっ! いいねぇその冷え切った目ぇ…! 最高だよサンラクくぅん…!!」
意外とすんなり俺の言う事に従い拘束を解くディープスローター。
そして往来のど真ん中で両手を広げ、すべてを受け入れるかのような構えを取る。
…まぁいくら『神ゲー』だからといって、バカ正直に開拓者としてロールプレイしてやる必要もないのかもしれない。
様々なクソゲーを渡り歩いて、己の魂に染み付いたクソゲニウムによる高濃度の汚染を撒き散らすのもまた一興か。
いや普通に迷惑プレイヤーだわ。スンマセン垢BANだけは勘弁してください。
――などと逡巡するが、それはそれ。思考の片隅にボッシュート。
とりあえず滾る殺意は収めねばならない。
そもそも俺の殺意を掘り起こしたのが目の前に立つにやけ面を浮かべた女であって、俺は悪くない。こいつが悪い。
悪者は斬らねばならぬ。古事記にも書かれている。
あと死にたがりがいるのなら、こちらも殺らねば無作法というもの。
初期装備の『傭兵の双刃』を装備し、ディープスローターの心臓目掛けて刃を振り下ろそうとした直後だった。
『――賞金狩人が来たぞー!!』
「あ?」
往来の先から響き渡る男達の野太い声に意識が割かれる。
『おっしゃァァァァ!! よく殺ったァ!!』
『ティーアスちゃんはいるかァ!?』
『駄目ですサバさん!! グリッチです!!』
『クソッタレがァ!!』
『せめてルティアさん出てこいよぉ!!』
遠方から飛び交う怒声、咆哮、轟音。それに遅れて悲鳴が上がる。
「……なんだ?」
「賞金狩人が『着せ替え隊』と交戦してるみたいだねぇ」
「なんたら着せ替え隊ってヤツか。街中歩いてたら何回か聞いたな。有名なのか?」
思わぬ方向から冷や水を浴びせられた気分になり、殺意の炎が鎮火したので装備を解除してディープスローターに問いかける。
うん、やっぱ人は清く正しく生きないと駄目だわ。命は尊ぶモノですわ。
いくらゲームとはいえ人の命を奪うなんて、そんな外道に堕ちるのは円卓と幕末だけで十分。
「私もあんまり詳しく知らないけどぉ、街中でPKをしたプレイヤーを処理するNPCが賞金狩人でぇ、それがプレイヤーを処理すると防具を上書きするって仕様を逆手に取って着せ替えようとしてる集団らしいよぉ…?」
「なるほどわからん」
「どのゲームにもシステムを悪用するプレイヤーはいるってことだよねぇ」
「システム悪用して詠唱を軒並みAVのタイトルとあらすじに塗り替えたお前がそれ言うのかよ」
「当時は私も若かったからねぇ…仕方ないねぇ…」
「仕方ないでゲーム一本潰してんじゃねぇ。運営とユーザーに謝れ」
こいつのせいで路頭に迷ったゲーム社員がいたのかと思うとホント…。