ポケットモンスターHEXA NOAH   作:オンドゥル大使

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イノセントドリーマー
第0話「あなたの人生の物語」


 

 物語の体裁を取った本だった。

 

 少女は最後に書かれたその一文を読み終えてから、そっと読後感に浸る。

 

 奇妙な物語だった。それぞれの人々の三人称で描かれるのが普段だが、時には一人称の時もあり、さらには全体を俯瞰しているような視点もあった。少女はもう一度、革表紙のその本を見やる。

 

 金色の文字でタイトルが描かれているがどこの言葉なのか皆目見当がつかない。黒い革表紙で読めるのは崩れたフォントの「HEXA」の文字だけだ。ところどころ破れているページもあった。誰が売りつけたのだろう、と少女は考える。

 

 古本屋の店主は半分眠りこけたような様子であり、万引きも出来そうだったが、少女はご丁寧にレジへと持っていった。するとようやく少女の存在を認めた店主は、「おお、買うのかね」と口にした。

 

「うん。ねぇ、おばあちゃん。この本って何の本なの?」

 

 年老いた女店主はふふっと、まるで一瞬にして若返ったように笑った。

 

「これはね、聖書だよ」

 

「聖書?」

 

 自分の知っている聖書とは随分と違う。少女はその違和感に黙りこくっていたが、「世界はね、いくつもあるんだよ」と店主は告げた。

 

「この世界だって、たった五分前に創造されたんじゃないと、誰が言い切れるかね? 聖書だってその数あっても不思議はないさ。これを信仰している人間は見た事がないが、これが聖書である事は紛れもない事実さ」

 

 少女は言葉を受け止めてから、「じゃあ」と口を開く。

 

「これを書いた人は誰?」

 

「それこそ、知るも無粋、というものだろう」

 

「でも知りたいよ」

 

 少女のせがむ声に、「やれやれ」と店主は枯れ枝のような指先でページを繰った。

 

「記述者は不明だね。でも、有力な説だと、途中から登場する小説家ってのが書いた事になっている」

 

「ええ? あの人が?」

 

 少女は信じられなかった。なにせ、ただ単に登場人物達を掻き乱しただけに見えたキャラクターだ。

 

「でも、彼女以外、誰に書ける?」

 

 少女は考え込んだが答えは出なかった。パタン、と本を閉じ、「買うのかい?」と再び問いかける。

 

「うん。気に入ったし」

 

「五百円だよ」

 

 少女は五百円を支払い、本を手に取った。身を翻す直前、店主が声をかける。

 

「お嬢ちゃん、ポケモントレーナーかい」

 

 腰のホルスターを見つけたのだろう。少女はモンスターボールを手に取り、「あたし、強いよ」と口にする。店主はさもおかしそうに笑った。

 

「手持ちのポケモンは?」

 

「ヒトカゲ。あたし、進化させずに育てるんだ」

 

 その言葉に店主は、「まぁ、頑張りなねぇ」と含んだような声を出した。

 

「名は? 本が好きな未来のチャンピオン」

 

 少女はホルスターにボールを戻し、胸の前で本を抱えて名乗った。

 

 店主はそれを聞き届け、「いい名だね」と応じる。少女は一時の間さえも惜しいとでも言うように駆け出した。

 

「じゃあね。本をありがとう」

 

「ああ、いい旅を」

 

 店主に見送られ少女は旅立つ。

 

 ポケットモンスターの世界へ。物語は終わらない。

 

 ――もう行かなくっちゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 ポケットモンスターHEXA NOAH 完

 




これにてHEXA三部作は完結です。あとがきを後日上げます。ありがとうございました
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