ANNIHILATOR   作:オンドゥル大使

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EPISODE112 眼光

 

『……って事で、いいんだよな? コルニ』

 

 ルイがこちらに視線を投げる。ハンサムハウスに訪れていたコルニは首肯した。

 

「ヨハネにアタシの事は知らせないで欲しい。それが叶えばいい」

 

『分からないもんだよな、お前も。何だってそこまでこだわる?』

 

「もう一度会えたとすれば、それはきっとアタシの生きる意味を問い質した後だ。それからでいい」

 

 ルイにそう返してコルニは眼前の老人へと目を向けた。

 

 オーキドが項垂れたまま、その暗い瞳を床に落としている。

 

「ユリーカから全て聞いた」

 

 それだけで了承が取れたのだろう。オーキドはフッと笑みを浮かべて面を上げる。

 

「では、この戦いが一体、何を巡って行われているのかも」

 

「ミュウツー、特異点」

 

 簡潔にキーワードを言ってやると、オーキドは呟いた。

 

「なるほどな。お前さんがワシの死か」

 

「殺しに来たつもりはないけれど、真実を言わないならば長くないと思ったほうがいい」

 

 コルニの本気の声音にオーキドは口火を切った。

 

「どこから話せばいいものか」

 

「四十年前のポケモンリーグ。それ以降、途絶えたあなたの足跡。トレーナーとしてあの時より先、あなたは再起不能になった。何故か」

 

「弱かったんじゃよ。というのは、もう通用せんか」

 

「第一回ポケモンリーグの戦果を確認した。あなたは最終ステージまで残り、最後の最後、戦った相手はサカキ。あの戦いでのもう一人の、特異点であった」

 

「サカキ、か。何もかも皆、懐かしい。あれほどに強いトレーナーを、他に知らん。今思えば、ワシの全盛期にはとんでもないトレーナーばかりじゃった」

 

「サカキはしかし、あの戦いにおいて優勝成績を収めたにもかかわらず行方不明となり、二位以下が繰り上げ。周知の通り、第一回ポケモンリーグの王者は、ツワブキ・ダイゴ。これが何者かによる仕組まれた結果であった可能性は」

 

「分からん。ただ、あの戦いそのものが大きなうねりの中にあったのは確かじゃ。最後の最後に残ったのが純粋に運であったのは、どうにも皮肉じゃよ。あれほど弩級のトレーナーが出揃った結果、最後の最後が運頼みじゃったのがのう」

 

 コルニは聞くべき事を優先させる事にした。ここも時間がない。

 

「ミュウツー。あなたは会っているはず」

 

「フジ博士、という稀代の天才がおった。彼奴の前では否定したがのう。フジ博士は確かにおったのじゃ。彼とワシは……友人であり、短い間ではあったが友情を育んだ。とても優れた研究者であり、なおかつ、彼がミュウツーの生みの親じゃ」

 

「ミュウツーはしかし、四十年前の技術では再現不可能と聞いた」

 

「そう、強化外骨格。今で言う、Eスーツが必要であった。それは現段階でも変わらないという。つまり、彼奴……シトロンの最終目的は戦闘経験値を踏ませたミュウツーに、Eスーツを装着させ、切り札とする事」

 

「それは、恐らくフラダリに感知されていない」

 

「そうじゃろうとも。フラダリが理解しておったら、こんな声明は流さんはず。フレア団の内部も一枚岩ではない証明だとて」

 

 フラダリの目的とシトロンの目的は根本で異なる。

 

「フラダリは、何を考えていると?」

 

「言っておる通りじゃと、ワシは思う。美しい世界、行き過ぎた選民思想。これがフラダリという男の全てじゃろう。だがシトロンは……彼奴は読めん。何を思っておるのか。破壊か、破滅か、何を願って、この戦いに割って入ったのか、全てが不明と言ってもいい。じゃが、邪悪には違いないのじゃ。シトロンも、フラダリも。止めねばならぬ邪悪なのじゃよ。……しかしワシは老いた。今のワシではどちらも止められまい」

 

「止められるのは、エスプリか、今を生きる人間だけ」

 

「じゃろうなぁ……。じゃが、彼奴がワシの力を必要としていたのは確かのようじゃ」

 

「特異点、だったか。アタシ、にわかには信じられない。育てるだけで、そのポケモンの性能を引き出す存在なんて」

 

「そうかのう。ワシは随分と会ってきたぞ。そういう才能に。いるんじゃよ。確かに。十人に一人か、百人に一人か、あるいは何億人に一人かの確率までは分からんがこの世に存在する。特別な機器を必要とせず、何も介さずとも、ポケモンの感じている事が分かり、その行くべき道を理解しておる、稀代の英雄が。……何度も見てきた。眩しいほどの才能の輝きを。……ワシはそちら側ではないが、どうやらそちら側に極めて近い能力を持っているようじゃよ」

 

「育てるだけで、ポケモンの性能を引き出し、最大値に設定出来る、というのは」

 

「計測した事はないが、四十年前のワシの相棒は恐らくその能力の範疇を超えていた。後から分かった事じゃよ。オノノクスにはあのような強さはない、と」

 

「博士……あなたは本当に、特異点と呼ばれる次元の優位性を持っているのか」

 

「ワシにもそれはハッキリとせん。しかし、特異点というものが存在するとすれば、その人物にポケモンを優位に育てられる能力の一つくらいはあっても驚きはせんな」

 

 オーキド本人が認めたわけではない。だが数々の事象が彼を特異点だと断定している。

 

 コルニは切り札となる言葉を口にしていた。

 

「今、ユリーカがミュウツーの管理をしている。ミュウツーを育てまいとしているが、それは無理のような事を言っていた。圧力か、何か不可抗力が働いているらしい。博士、あなたはこの先、フレア団の協力を仰ぐつもりは……」

 

 返答如何では、とコルニは拳を握り締める。

 

 しかし、オーキドはハッキリとした口調で断言する。

 

「ワシは、もうろくしたが正義を失ったわけではない。フレア団には指一本とて協力はせん」

 

『でもよ、そうなってくると、フレア団本気でエスプリとイグニスを排除しようとしてくるぜ。そうなった場合、不利なんじゃねぇのか?』

 

 問いかけるルイにコルニは首を横に振った。

 

「アタシ達が戦うだけでいいのならばそれでいい。今は、その返答が聞けてよかった」

 

 コルニは拳を解き、オーキドの肩を叩く。

 

「お願いします、博士。アタシ達に力を貸してほしい」

 

「……何にも出来ない老いぼれじゃよ」

 

「あなたの言葉には力がある。フラダリの、思うがままに進ませないだけの力が」

 

「……なるほどな、ワシが言えば少しばかりはエスプリとイグニスを動きやすく出来るか」

 

 オーキドが安楽椅子から立ち上がる。ようやく自分のやるべき事を見据えたかのように、その眼光には力が宿っていた。

 

「じゃが、テレビ局に行く前にやられればそれまでじゃ」

 

「水先案内人は、アタシが」

 

 イグニスへと変身を果たし、オーキドを導く。

 

「ここから先の戦いには一手遅れた側が敗北する」

 

「なるほどな。ワシを使おう、というのか」

 

「勝つために。全ては勝って何もかもを取り戻すために」

 

「いいじゃろう。どうせ老い先短い命、好きに使ってくれ」

 

 

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