ANNIHILATOR   作:オンドゥル大使

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EPISODE133 面影

 

「言え。誰の命令で、アタシを手こずらせた?」

 

 イグニスは下したEスーツ部隊に詰め寄っていた。

 

 こちらに接触してきたEスーツ部隊は八人。

 

 多目だな、と思っただけで後は容易かった。

 

 コアモードになるまでもなく、イグニスは全員を倒し切っていた。

 

「い、言えるか……」

 

「そ。じゃあもっと分かりやすい結果を残してやる」

 

 双刃を振るい上げると、通信が開いた。

 

『イグニス、今は退け。エスプリがやられた。こっぴどく、な』

 

 ユリーカの声にイグニスは胡乱そうに言い返す。

 

「こっぴどく? いくらエスプリでもEスーツ相手にそこまでやられるとは思えない」

 

『新型だ。名をロストイクスパンションスーツ。私としても全くの予想外であった。一度退却し、作戦を練り直す』

 

 その言葉にイグニスはEスーツを突き飛ばした。

 

「運がよかったね。死なずに済んだ。でもま、今度来たら殺す」

 

 踵を返すイグニスへとEスーツの生き残りがナイフを掲げて肉迫する。

 

 完全に不意をついたつもりだったのだろう。

 

 イグニスは振り返りもしない。振り返りもせず、双刃を振るい上げてそのヘルメットへと突き刺していた。

 

「言ったろ。次は殺すって。アタシ、嘘はつかないよ」

 

『エレメントトラッシュ』の音声が響き、相手のヘルメットを叩き割った。

 

 息をついてからイグニスはヘルメットの破片を手に取る。

 

「エクステンドスーツ。まさかこんなに量産していただなんて。でも、気になるな。一つ一つの性能は落ちている気がする」

 

 これも収穫になるだろうか。

 

 イグニスはその破片を手にミアレの高層建築を跳ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「国際警察、カレン・ビショップ、ね」

 

 ユリーカは早速、同行してきた女性の素性を調べていた。

 

 だがユリーカが明らかにする前に相手が名乗ったのだ。国際警察、と。その名称にマチエールも全くの門外漢というわけにはいかなかった。

 

「じゃあ、ハンサムの……おやっさんと知り合いで?」

 

「ハンサムというのは代々、国際警察のある一定のポストの人間にのみ与えられるコードネーム。貴女の言っているのは十三代目のハンサムでしょうね。彼は殉職した、と聞いていたけれど」

 

 その言葉にばつが悪そうにマチエールは顔を伏せる。思い出したくもない過去だろう。

 

 ヨハネはじっとカレンと名乗った国際警察官の顔を眺めていた。

 

 見れば見るほどに、似ていた。

 

 ボブカットに近い髪に、漆黒の瞳。違うのは耳に付けた赤い真珠のピアスくらい。

 

 他は全て……自分の姉と同じ姿である。

 

「何かついている?」

 

 逆に問い返されてヨハネは、いえ、と顔を逸らす。

 

「と、いうかさ。何で今頃国際警察? 今の今まで何やってたわけ?」

 

 コルニの質問は至極もっともだ。カレンは渋い顔をして話し出した。

 

「今までは、フレア団の犯行だと判断する材料に乏しかった。決定的であったのは、前回の大爆発の際。それでようやく、ミアレでのっぴきならない事が起こっているのだと、上も重い腰を上げたのよ」

 

 赤の金の力が思わぬところで誘発したわけか。黙り込むマチエールに、ユリーカは質問を重ねる。

 

「マチエール。どれとどれを奪われた?」

 

「……ニョロトノとアギルダー、それにクリムガンも」

 

「ほぼ全部、か」

 

 嘆息を漏らすユリーカにマチエールは言い返そうとして、やはり口を噤んだようだ。

 

「そんなに強かったの? ロストイクスパンションスーツだっけ?」

 

 コルニの疑問にヨハネは応じていた。

 

「強かった……というよりも、戦い慣れていた、というほうが正しいと思う。エスプリ以上に、戦闘のエキスパートだったように思える」

 

「彼の判断は正しいわ。実際、連中は戦闘のエキスパート。いいえ、戦争のエキスパートよ」

 

 差し出されたのは写真と書類である。

 

 ユリーカが引っ手繰って読み漁ると、ふんと鼻を鳴らした。

 

「なるほど。傭兵、か」

 

 傭兵。その響きにヨハネは残った書類に目を通す。全員が何かしらの紛争に関わっており、今までの経歴は血に塗れていた。

 

「本物の、戦い慣れした人間が来たって事なのか……」

 

「彼らはこう名乗っている。アドバンスド、と」

 

「アドバンスド……、ルイ、検索を」

 

『はいよ。まったく、機械遣いの荒いこって』

 

 ユリーカにかかればルイもほとんど検索用である。カレンはテーブルに置いた書類の内、一つを指差した。

 

 精悍な顔つきの男が写っており、双眸には隠しきれない野生がある。

 

「アマクサ・テトラ。今回の首謀者と思しき人物よ」

 

「アマクサ・テトラ……」

 

 口中に繰り返す。この男が全員を率いているというのか。

 

「元々、原因はこの男が単身でクセロシキに追いつき、その荷物を奪った事に起因している。奪われたそれは新型のEスーツであったとされている」

 

「ロストイクスパンションスーツ、って事?」

 

 問うたコルニにカレンは頭を振った。

 

「もっと恐ろしい、そういうものよ。データに乏しいから何とも言えないけれど、それは最新鋭の、観測された全てのEスーツを超える存在であるとされている」

 

 全てのEスーツを超える。

 

 その謳い文句が正しいのならばこちらの手持ちのEスーツで勝てるのだろうか。

 

「でもさ。そんなに強い連中が何でこの街に? フレア団と戦争したいのかな」

 

 コルニの疑問はもっともだった。フレア団がこの街を牛耳っている以上、Eスーツで敵対するのは不利のような気がする。

 

「フレア団がどう動くのか、そこまで込みの作戦なのかまでは分からないけれど、連中は本気よ。戦争のプロを嘗めてはいけない」

 

 今までの敵とは違う、という事か。ヨハネが唾を飲み下しているとマチエールが出し抜けに声にした。

 

「関係ない。あたしは、今まで通り、敵を全て薙ぎ払うだけ」

 

 そう言ったきり、マチエールは別室へと歩んでいく。その背中を眺めてコルニが口にした。

 

「ショックなのかね、やっぱり」

 

「だろうな。ハンサムにもらったポケモンも奪われ、自分の力だと思っていたもののほとんどを無力化されたエスプリでは、自信がなくなるのも分かる」

 

「分かるんだったら、何か言わないといけないんじゃないですか。僕、行ってきます」

 

 そう言って踵を返そうとしたヨハネの肩を掴んだのはカレンである。

 

 ゆっくりと首を横に振った。

 

「今は、そっとしておきましょう」

 

 やはり、だ。

 

 ヨハネは確信を新たにする。

 

 やはり、彼女は姉に似ている。

 

 だが、何故……。

 

 何故、姉に似ているのだろう。

 

「その、カレン、さん……。前に会った事、ありますか?」

 

「いいえ、ないと思うけれど。貴方は?」

 

「……似た人を、その、知っていて」

 

 そう濁す他ない。初対面であなたは姉に似ているなど言えるものか。

 

「そう。私も似ている人を知っている気がするわ」

 

 やはり、あなたは――。

 

 そう言いかけたヨハネの声を遮ったのはルイであった。

 

『出たぜ。アドバンスド。フレア団が実質戦力に加えようとしていた履歴がある』

 

「実質戦力……? どういう事?」

 

『つまり、だ。このアドバンスドなる存在は、Eアームズと競合した戦闘装備だったって事だぜ』

 

 その意味を判ずる前にカレンは歩み出ていた。

 

「また、情報があったら、こちらからも話を。今はミアレホテルに泊まっているから、用があったら来てもらえると助かるわ」

 

「こちらも、国際警察の情報網は是非とも活かしたい。協力を」

 

 手を差し出したユリーカとカレンが固く握手する。

 

 ハンサムハウスを出て行くカレンの姿をヨハネは目で追っていた。

 

「何か、気になるの?」

 

 コルニの見透かした声音にヨハネは誤魔化すべきか、と考えて首を横に振る。

 

「いや……ちょっと似ている人を知っていて」

 

 そこまで言って、コルニには意味がないのだと思い出した。彼女は自分のビジョンを見た事がある。

 

「ヨハネ……もしかしてあの人は」

 

「情報、来たぞ。アドバンスドの追加情報だ。……こいつは厄介だな。アドバンスド。その名が示すように、連中は進化した人類だ」

 

「……どういう」

 

「有り体に言おうか。連中は死なない。擬似的ではあるが、不死の軍団だと、言ってもいいだろう」

 

「不死の……」

 

「軍団って……」

 

 コルニと二人で絶句する。ユリーカは書類とルイが持ち出したデータベースを照合する。

 

「経歴を見れば分かる事だが、こいつらの参加した戦歴の死傷者数、及び生存者を計算した。すると、これだ」

 

 全ての経歴における生存者が計算される。

 

 導き出された答えにヨハネは息を呑んだ。

 

「全部、生存者、ゼロって……」

 

 全ての戦闘における生存者がゼロの扱いになっている。これはどういう事なのか。

 

「連中を生存者として数えていないのだろうな。つまり、奴らが参加した以上、その戦争では草一つ残らない焦土だという事だ。連中は己の命を度外視して戦える。それだけでも充分なアドバンテージだが、それ以上に言えるのが、奴らは死ねない。不死の兵士という夢の技術の実現した存在なんだ」

 

「不死って……そんなのあるはずがない」

 

 ヨハネの言葉にユリーカは腕を組む。

 

「私も、あるはずがないと思いたいんだが……事実、データ上はそうなっている」

 

 不死の軍団。それは何よりも性質の悪い冗談に思えたが、冗談ではないのはユリーカの表情を見れば明らかだ。

 

「倒す手段がないって事?」

 

「今のところは、な。しかもそいつらがEスーツを得たとなると、もっと厄介だ。ウォーター、バグ、ドラゴン、か……。こちらの主戦力がほぼ奪われた形となった」

 

「アタシが、いざとなればイグニスコアハートを使って……」

 

「コアハートでも、連中の熟練度ならば通用しない可能性もある。それくらい今回の敵は警戒しろ、と言っているんだ。正直、今までのフレア団のやり方なんかよりはよっぽど、えげつないぞ」

 

 その宣告にヨハネは言葉を失う事しか出来なかった。

 

 

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