ANNIHILATOR   作:オンドゥル大使

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EXTRAⅠ 星の銀貨+EXTRAⅡ 黄金の羅針盤

「ポケモン犯罪発生! 総員、出撃準備!」

 

 ミアレの街が忙しく赤色光に塗り固められる。

 

 表通りを射抜くように一体のポケモンと、それに騎乗する人間が声高に吼えた。

 

「誰も止められまい! ゴーゴート!」

 

 新緑のポケモンが警官隊を薙ぎ払っていく。

 

 その進路を阻むものなど存在しないかに思われた。

 

 その時である。

 

「待て!」

 

 夜を割るような声音と共に、ミアレの高層建築に降り立ったのは仮面に黒装束の人影であった。

 

「エスプリだ!」

 

 声にした警官が希望を見出したかのように指差す。

 

「何の、探偵風情が!」

 

 ゴーゴートが角を突き出して猪突する。

 

 エスプリはモンスターボールを放った。

 

 中空で割れたモンスターボールからクリムガンが飛び出す。

 

 堅牢な表皮を持つクリムガンが約束するのは鉄壁だ。

 

 ゴーゴートの突進を風と受け流す。じりじりと追い詰められていくゴーゴートに犯人が舌打ちする。

 

「時間稼ぎにもなりゃしねぇ!」

 

 ゴーゴートから降りた瞬間を狙ったのはフーディンであった。その思念が犯人を束縛する。

 

 金縛りにあった犯人に追い討ちをかけたのはクロバットによる風の刃であった。峰打ちの風が足を払い、警官隊が一気に纏いつく。

 

「確保、確保―!」

 

 手錠をされた犯人が縛り上げられたその時には、もうエスプリの姿はミアレの街頭にはなかった。

 

「毎度……犯罪者を捕まえるのを手伝ってはくれるのに、絶対に長居はしないんですね」

 

 一人の新人警官のこぼした文句に上司が小突く。

 

「馬鹿、それがこの街の守り手に相応しいんだろうが。多くを求めず、ただ街の人々の幸せだけを願う。本当の、……正義の味方だよ。エスプリはな」

 

 誇らしげに発せられた声に新人警官は先ほどまでエスプリのいた高層建築に敬礼を送った。

 

「さーて、まだ仕事は残っているぞー!」

 

 腕捲りをした上司に新人警官は付き従った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロバットに掴まってエスプリが辿り着いたのはハンサムハウスだ。その屋根瓦で座り込んでいるのは一人の金髪の少女である。

 

「お疲れ、エスプリ」

 

 クロバットをモンスターボールに入れ、エスプリは屋根からハンサムハウスに入る。

 

 コルニがその足を指差した。

 

「一応、土禁」

 

 エスプリは、あっちゃー、と間の抜けた声を出す。

 

「何だか、そんな事言われると気分が削がれるって言うか……」

 

「仕方ないじゃん。アタシは所長の身分なんだから。従ってもらわないと。……もう脱げば? その服装。暑苦しいって」

 

「一応は正装なんだけれどなぁ」

 

 エスプリがヘルメットを脱ぐ。汗を散らして、その素顔を晒した。

 

 白髪の混じった髪をかき上げた――ヨハネ・シュラウドはポケモン達を労う。

 

「お疲れ、クロバットにクリムガン、それにフーディンも。いい働きだった」

 

「勤労を称えて今日のご飯はとびっきりの作るから」

 

 コルニが腕を鳴らして厨房に立つ。ヨハネはそれを眺めながら、黒装束のボタンを外した。

 

 以前のようなEスーツではない。ただの黒い衣装であった。

 

 テーブルについてヨハネは頬杖をつく。その視線の先に便箋が留まった。

 

「これは?」

 

「ああ、それ? 裏見て」

 

 裏返すと見覚えのある筆跡で「ヨハネ君へ」と書かれている。まさか、とヨハネは立ち上がっていた。

 

「マチエールさん達が?」

 

「アタシが開けちゃ悪いと思ったから。後でいいよ。さーて、今日はスタミナのつく料理といきますか!」

 

 クロバットが部屋を飛び回り、ヨハネの肩口から便箋を覗き込んでくる。ヨハネはそれを掲げてやった。

 

「マチエールさん達、今はシンオウにいるみたいだ。国際郵便になっている」

 

 封を切ってやると一葉の写真と手紙が入っていた。写真はテンガン山から望んだ景色なのだろう。遠く、地平線まで写っている。

 

 ヨハネはそれを持ったまま、所長室に入った。すると、部屋の一区画から水色の髪を短く切り揃えた少女が飛び込んでくる。

 

『何それ! どうしたの? ヨハネ』

 

「君のマスターから」

 

 言ってやると少女は目を輝かせた。立体映像なのに、妙に人間味のある彼女の名はルイ・マテリアルという。

 

 あの戦いの結果、生まれた存在でもあった。

 

『マスターから? やったー! 楽しみ!』

 

 性格はアストラルとオルタナティブを足して三で割ったような感じであった。奔放なのはオルタナティブに似ており、律儀なのはアストラルに似ている。

 

 ヨハネは手紙をゆっくりと読み出した。

 

「拝啓、ヨハネ・シュラウド様。いや、今はエスプリかな? ……変わらないな。ユリーカさんの皮肉は」

 

 微笑んで、ヨハネはその先を読み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達はあの戦いで多くのものを失った。

 

 家族、あるいは信頼する存在。愛するものを。だが、それらが全て絶望的な結末を迎えたわけではないことはキミの知る通りだ。

 

 ルイ同士の補完の結果、残骸となったEスーツの合間から生まれたルイ・マテリアル。彼女は新しいルイだ。私達のしがらみを理解させる必要もないだろう。どうか元気に育ててやってくれ。あ、ただ、あまりにうるさかったら言ってくれよ。修正パッチくらいは作ってやる。

 

 さて、本題だが、あの戦いの結果、全てのEスーツは破壊を確認した。

 

 カウンターEスーツとフレアEスーツのぶつかり合いが結果的に、Eスーツへの打開策を完全に掌握させる形となり、もうEスーツなど、前時代の遺物と言ってもいいくらいだ。

 

 ここシンオウはいい。空気も澄んでいるし食べ物も美味い。

 

 私達はあの後、旅に出る事にしたのは、もう何回目だ? 九回目くらいか。何回こうして文に起こしても、どうしてだか実感出来ないよ。

 

 出不精だった私がマチエールと二人旅に……おっと語弊があるな。ポケモン達を含めて、六人の旅に出るなんて思わなかった。

 

 無論、キミがエスプリを継ぐ事になるともね。

 

 そっちは毎日忙しいかい? こちらはマチエールの体力についていくのが苦しいくらいで特に変わった事はない。

 

 まったく、少しばかり運動をしておくべきだった。この間なんてテンガン山で高山病にかかってしまって、とても苦しい目に遭ったよ。

 

 しかし同じくらい、満たされているんだ。

 

 私達の戦いには意味があった。

 

 結果論になってしまったが、カロスは見た目上、平和にはなったし、フレア団もあの後の報告は聞かない。

 

 イイヅカ氏から順次、情報は受け取っているから安心して欲しい。最後の最後まで、トップ屋であろうとした人間の言葉はある種信用出来る。

 

 まぁ、私達の近況なんだが……、こうして文字に起こすとさほど大した事はない。

 

 平穏無事。その言葉が相応しいほどだ。

 

 だが私達は知っている。この平和のために流れた血がある事を。そして、これからももしかしたら、流れる血があるかもしれない事を。

 

 だが、心配は無用だろう。キミはよくやってくれている。

 

 エスプリとして、これからもミアレをよろしく頼む。

 

 追伸、テンガン山から望んだ景色は最高だった。疲れが消し飛んだよ。ただまぁ、マチエールの体力についていくとろくな目に遭わない。キミが毎回怪我を作って帰ってきたのがよく分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやらユリーカはシンオウで平和に過ごせているらしい。

 

 自分も、この役目を果たせているかは疑問だったが、今は一つでも現状をよくする事だ。

 

「そして、もう一つは、この手紙への返信を考える事」

 

 ヘルメットを文机に置き、筆を執ろうとしてヨハネは仮面を見やった。

 

 あの激戦を繰り広げた、伝説の探偵。エスプリの仮面には一条の亀裂が走っている。Eスーツの時の機能は完全に停止し、ただのプロパガンダの意味でしかないが、自分はこれを継げた事を誇りに思っている。

 

 それはきっと、今日を生きるミアレの人々も同じであろう。

 

 早速、手紙に取り掛かろうとして、別室からコルニの呼ぶ声が聞こえた。夕食が出来たらしい。

 

「ヨハネー! ご飯だよー!」

 

「分かった。今行くー!」

 

 身を翻した間際、ヨハネはエスプリの仮面に言い置く。

 

「きっと、相応しい男になってみせる。エスプリの名を、本当の意味で継げるまで」

 

 夜風がカーテンをなびかせ、星柄の便箋が机の上を滑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シンオウは標高の高い山々が多い。

 

 前を行く人間の影を頼りにマチエールとユリーカは縦走を試みていた。思っていたよりも過酷なせいか、ユリーカは何度も休憩を挟む。

 

 マチエールはペットボトルを取り出し、ユリーカに手渡した。礼も言わずにユリーカは水にありつく。

 

「もうちょっとで頂上だ」

 

「もうやめないか? 私は頭脳派なんだよ」

 

「駄目だって。ヨハネ君に書くネタがなくなるって嘆いていたのはそっちだろ」

 

「ヨハネ君には適当な嘘をでっち上げる」

 

「そんな度胸ないくせに」

 

 言ってやると、ユリーカはやる気を取り戻したのか、すくっと立ち上がった。

 

「度胸くらいあるさ。これまでやってきたんだ。これからだって」

 

 頭の上でデデンネが跳ねる。足元を行く〈もこお〉が擦り寄ってきた。

 

 マチエールはその身体を抱えて山頂を目指す。

 

 雲間に沈んでいた山間部が途端に晴れ、山頂の三角点が視界に入った。

 

「ほい、登頂!」

 

 三角点を踏んで、マチエールは周囲を見渡す。

 

 テンガン山、槍の柱からの眺めは絶景であった。

 

「来てよかっただろ?」

 

「どうだか。写真写りが悪いと意味がない。そこで、私の造った写真アプリが役立つわけだ」

 

 ホロキャスターを取り出したユリーカの得意そうな声音にマチエールは微笑む。

 

 失った割に得たものは少ないのかもしれない。

 

 だが、得たものは決して無駄ではない。

 

「来たぞ。夜明けだ」

 

 遥か彼方から黎明の輝きがテンガン山の山脈を照り輝かせ、闇を払う。

 

 それはきっと、明日への道標だ。

 

「ああ、夜が明ける」

 

 マチエールは被っていたフードを取り払って、ふぅと息をついた。

 

 夜は明ける。

 

 そして明日が始まる。

 

 当たり前のような奇跡の繰り返しで、世界は回っている。

 

 ふと、その視界の中に見た事のない黄金の鳥ポケモンが横切った気がした。改めて目を凝らすと、その姿は黎明の光の中に溶けていく。

 

「どうした? 写すぞ」

 

 ユリーカがタイマーをセットする。

 

 マチエールは三角点を踏んで、〈もこお〉を解き放った。

 

〈もこお〉のパワーが太陽の光を受けて宝玉のように煌く。

 

 それは宵闇を貫く流星に似ていた。

 

「ああ、きっと、生きている事は、それだけできっと……」

 

 シャッター音が朝焼けを切り取り、それを告げる。

 

 明日が来る。

 

 

 

 

 

 ポケットモンスターHEXA7 ANNIHILATOR 完

 




後日、あとがきを上げて完全完結します。ここまでありがとうございました
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