まだまだ寒さの残る冬のある日
「バレンタインだ」
「バレンタインだな」
部屋には炬燵の魔力に負けてぐでぐでしている幼女と青年。幼女の前には果実酒。しかも幼女は顔が赤い。酔ってることは明らかだった。
「わたしはやさしいのでチョコをあげようと思うんです」
「やさしい」
そうして手渡されたのは彼女が食べている途中のトッポ。酒飲んでると甘い物が食べたくなるらしい。
しかし、半分食べたものを分けるのは如何なものか
「知ってた」
「あげるだけ温情。美少女から食べかけのチョコを貰えるのは君くらい」
「はぁ」
「反応が薄い。もっと喜んでくれないと来年からは無しにする」
なんせ幼女になる前の姿を知っている彼からすればあんまし違和感はないらしい
男友達は一定数そういうの気にしない層がいるのを知ってるし、実際そうだった。
幼女になってからもおんなじことをするもんだから心臓に悪い。
「お前その酒も俺が買ってこなかったらなかったんだからな。むしろお返しもらいたいのは俺の方だわ」
「しょうがない。おさけがないと生きていけない。これは必要経費。でも仕方ないからこれ、あげる」
隣に置いてあったバックから綺麗な包装の箱を取り出した幼女は、変わらず赤い顔でにへりと笑いながらそれを差し出した
「...ちゃんと用意してあったのかよ」
「ふふん。いいでしょ。君は聖ウァレンティヌスに感謝したほうがいい」
「左様で」
中にはハート型の可愛らしいチョコがいくらか入っていた。一つつまんで食べてみる。
「どう?おいしい?」
「まあ美味いけど...」
「けど?」
「ちょっと苦い」
彼女は今の姿になる前からだいぶ料理が上手かった。彼に料理を教える位には。
しかし、姿は変わっても前の随分大人びた味覚は変わっていないらしい。ビターよりビターなくらいには苦い。
「女の子はお砂糖とスパイスでできてるから、チョコぐらいは苦くないと。あますぎる」
その発言がもはや甘いのだが、そんなこと指摘する人物はこの場にはいない
「おとこのロマンとしてわたしがバレンタインチョコになるのも考えたんだけど、ちょっと今の時期はさむすぎる」
ふるふると首を振る幼女を見ながら彼はちょっと戦慄していた。
そんなことをされたと知られた日には周りの目が冷ややかになることは確定的に明らか。彼は彼女の将来が不安になってきた。
「俺の外聞が地に落ちるんだが」
「そんなものはそんざいしてない。幼女の家にちょくちょく出入りしてる時点で信憑性はぜろよりのぜろ。世間的にはロリコン」
「そんなこと言ってるといつか襲われるぞ」
「...君ならぎりおっけー。君はわたしでいたしたりとかしないの」
「ぎりってなんだ!ぎりって。それから、幼女がいたすとかいうもんじゃありません」
「ぎりは義理と掛けた高度なバレンタインみーにんぐ。中身はおとこなので猥談もできる幼女。おとこに一定の理解がある。つよい。さいきょう」
フンスと無い胸をはる幼女。酔いが回ってるのに立ち上がったせいでよろけて倒れそうになってしまう。色々よくないからと止められたはずなのに、頼み込まれて渋々酒を買ってきてしまった過去の己に苦い顔をしながら、随分と軽くなってしまった彼女を受け止める。果実の甘い香りがする。果実酒だけでなく女の子特有の甘い香り。湯たんぽのように暖かい子供の体温。それらが前より一層変わってしまったことを残酷に告げるようだった。彼の胸に顔を伏せ、ちょっとアンニュイ気味になった彼女がぽつりぽつりと言葉を漏らし始めた。
「あのね」
「うん」
「バレンタインは好きな男の子にチョコを送るイベントなんだって」
「うん」
「だからね、がんばったんだよ。つくるの」
「そうか」
「わたしのきもち、うけとってね」
魔性のような微笑みを浮かべて真っ赤な顔をさらに染めながら彼女は彼の頬に口付けた。恥ずかしくてこの場にいられないのか、この家のお姫様は二階の自室に帰ってしまったようだった。彼は数分固まっていたが、やがて動き出した。柔らかい感触が残ってる頬に手を当ててみる。いくら彼が鈍くてもここまでされたらわからないわけがない。彼女がいなくなったリビングはしんとしていて、手持ち無沙汰になってしまった。
ふとビターチョコが入ってる箱に目が行き、底に何か書いてあることを発見してしまった。数個つまんで口に入れると段々と文字が見えてきた。
「あなたに溺れています」
今はこれくらいのほろ苦さのほうがちょうどいいのかもしれない。そう思うことにした。
この後襲われた