第一話 隠してる からだじゅうぜんぶに《前》
ガラス
誰かが、つい1時間前までのすがすがしいほどの青空の情景を、カンバスからナイフで切り取って、代わりに干からびた古着を
これをぼうっと見ていた私は、はて第三者の目に、どのように
今どき自分のことを
ただ、学校の昼休みにもかかわらずひとりお弁当を食べて、することもなくぼけっと外を
なんてったって私を取り巻くのは、話題の合わないお母さんに、出会って3か月たったかどうかという
私の日々は、学校に来て、学校から帰って、教科担任に課された宿題に手をつけて、スマフォでネットニュースとかSNSのとりとめのない記事を見て、明日の学校のために22時、遅くても24時には
友だちですか? そうですね、あの二人なら……でも今はあんまり。そんな気分にならないんです。きっとこれから、二人が私を
「あのさ……」
「おはよう、
「ああ、うん、おはよ」目が合うなり声かけをくれたのは、短いツインテールがチャーミングな佐仲
「
「おはようーん」彼女の
例の、高校で
「じゃなくてユキ、朝からシカトとかどういう
「別に……」
「わたしだって、今朝から何べんも目からビーム送ってたのに、気づかないなんてー!」
「送られすぎて突然変異起きるかもしれないから、ちょっと控えてね……」
「上沢の目はUV出せるのか。レジンアクセ作って売れば、金になるな」
「どうしよー、わたしさらわれちゃう……」
「頭だけ落とされて、
「いやあー!」
「グロい話やめ!」だいたい私がそんなことさせな……こほん。
「ごめん。べつに二人に不満とかあるわけじゃなくて……ちょっと、不幸がね」
すると佐仲さんも上沢さんも、示し合わせたようにそろって顔をしかめます。
「ああ。それは、悪かったな」
「いいよ気にしなくて! 私なんか全然。ちゃんと、会いに行ってなかったし」
「おじいさん?」上沢さんがぽつりといいました。
「よくわかったね」
「だって、前にお風呂で転んでから
そこで二人は顔を伏せてしまって、
と、佐仲さん、胸をおさえる手を震わせながら「えっと! こんなときにいうのもなんだけどさ! 来週の月曜に!」
「海行かない?」「あー! うわーん、上沢が
「……で、結局なに?」
はじめ佐仲さんの話を聞いていたはずなのに、今は何がなんだかよく理解できていない私がいました。
「あ? いや、今度の祝日に海でも行かないかって。毎日学校やら親の
「その使い方あってんの? それに」
いいんでしょうか? 親族の一人が亡くなったというのに、
「?」
「きっといま海を見たら、これまでで
「バカ、それなぐさめになってねえわ!」
いわく、
「まあ……そのなんだ、ユキがしょげてるとあたしらも張り合いないっていうか」
「佐仲さん……」
「天国のおじいさんも元気ビンビンになるくらいはしゃいじゃおうよー!」
「上沢さん……それただのエロジジイじゃん」
「さすがに
二人のはげましがうれしくて、いつしか私の目には熱いものが浮かんでいました。このやりとりがあって学校から帰るときの私の心は、悪天候なんて気にならないくらいの、満天の晴れもようになっていたんです。面と向かってだと恥ずかしくて伝えられなかったけど、二人にはすごく感謝しています。ヘタすぎたけど。
「――
「はあい」
ちょうど家についたところで郵便屋さんに声をかけられ、直接はがきを受け取りました。おばあちゃんからでした。裏には季節のあいさつと、肉筆でおじいちゃんの
私はずっと、誰かの死の前に立つことを
「(もし、私がお葬式に出ることが、おじいちゃんにとってうれしいことだったら……)」でも、受け入れなきゃだめですよね。本当にその場に行って、ちゃんと自分の気持ちに決まりをつけないと、いつまでたっても弱腰なままですよね。きまってますよね。
「――よし!」すかさず私はSNSで、友だち二人に宣言しました。”海たのしみだね!”って。
週末、私は隣町にでかけました。歩きと、電車と、歩きでもって。自転車は前に事故しちゃったから不安で乗れないし、お母さんの車はもう半年近く油を差していないから乗れないしで、これしかなかったんです。ていうかそもそも自転車の姿はありませんでした、また勝手にお母さんが使ったんでしょう。すべて、自転車に乗れば痩せられるという
うちの家周辺には
そうして私が目指したところは、お母さん行きつけのお店でした。でも、私は今日が三回目です。ドア上のチャイム機が鳴ってから席に案内されるまで、あまり歓迎されていなかった気がして、自分はガラポン抽選会の残念賞ティッシュの立ち位置なんじゃないかと不安になってしまいます。
「いらっしゃいませ。今日の気分はいかがですか」
はきはきとした
そういえば偶然か必然か、過去二回の美容師さんもこの人でした。ヘアセットやメイクアップは、お客さんとの信頼関係が第一だとテレビで。もしかすると美容室には表面に見えないだけで、キャバクラみたいな永久指名制度があるのでしょうか。
「あの、その、リッチな感じでお願いします」注文は女性の腕に任せるつもりで、冗談めいたふうないい回しをしました。
「リッチな感じとはなんでしょう……」
面と向かって聞き返さないで! 女性は、まゆ毛をぴくりとも動かさず、いたって真剣な表情をしています。それはともすると投げやりな要求に腹を立てているようにも
「ひえ! す、すみません!」
「そうですね。わかりました。全体的にエアリーにして、毛先を少し巻くというのでどうですか」
「あ……はい。それでお願いします」
私の無鉄砲な注文も、かるがるとごく自然なものに
「以前も来ていただきましたね。高校生さんですか」
「はい、そこの私立で」
「これから夏休み……いいですね。さぞ楽しみでしょう」
「はい! ちょうど昨日友だちと海に行く約束をして、ってそれは夏休みの話じゃないんですけどね」
「それは。(髪型を変えたら)お友だちからも大好評ですよ、きっと」
「そんなー」
「
ああ、今まで私はなんてもったいない真似をしてきたんでしょう。この美容師さんが、こんなにもやさしい人だったなんて……知りませんでした。知ろうともしませんでした。以前にもこうして世間話をしようと何度も試みてくれていたのかもしれないと思うと嬉しくて、私はつい向こうのメンドウも考えずに話し込んでしまったのです。学校での話、家での話、なんでもしました。並みのカウンセラーさんより気持ちよく話せたかもしれません(未経験でしたけど)。だからこそ、帰りぎわには寂しさが
「おじいちゃんとは、次が最後になるのかな……」
ついでに散歩がてら立ち寄ったショッピングモールで、気がつくと洋服店の水着コーナーにいました。海に行くことに乗り気ではありましたけど、さすがに一人で買い物にくるほどの熱意はなかったわけで。使命感ってコワイ。
私が会計をすませてお店を出たのは、ほんの10分後のことです。えらく即決でした。美容室代に
人前でアガりやすい自分としては、これが英断とはいえませんけど、せっかくオシャレに
そして火曜、おじいちゃんのお葬式当日の空は、天災さえもけっ飛ばし、あらたなお