私は生涯この”雪”という名前の本来の意味を知ることはないだろう、と思っていました。なんてったって私は、人に誇れるような長所はないけど、人を傷つけたりお母さんに叱られたりするようなことを今までしたことがなかったのですから。何を雪ぐことがあるだろうと高をくくっていました。
そんな私がここ最近に犯した決定的な間違い……もしかしてお母さんは”もし悪いことをしても、ちゃんと償いができるように”という気持ちでこの名前をくれたんじゃないかな。自己擁護にしか聞こえない考え方ですけど、それでも私は自分にできる限りの償いをして、今回のことにケリをつけようと思います。そのためにできることなら、進んでなんでもやろうと。
雨のにおいがする午前8時の学校正門前、家のほうから歩いて来た私と、駅のほうから歩いて来たさなっちゃん、カミカミは当然のようにそこで出会うことになりました。
「おはよう……」
私のあいさつはいつになく元気なさげに聞こえたでしょう。二人は顔を見合わせて、なんだろうと考え込みました。
するとさなっちゃん、トレードマークの直毛ツインテの先端を持ち上げてみせ「そ、そろそろ夏休みだし、虫取り行こうぜぇ?」発言も行動も意味不明すぎてその場が凍りついたことを感知すると、おでこのあたりを真っ赤にしてうつむいてしまったのです。
「また自爆したねー」
「うん……」
カミカミはというと落ち着き払って、もうなんにもなく私のことを”かわいいねー”といって褒めてくれたり、場所構わずハグしてきたりしませんでした。
「なんかさ、カラオケ行った次の日って、顔合わせるの恥ずかしいよねー?」
「ね、なんでだろうね」
返事をして視線を送ると、カミカミは急に無機質な表情になっていました。「……なんか、今日ヘンだぞ」さなっちゃんが空気を察したみたいでした。
「いつからマジメになったんだ? 自分という人間を考えてみろ、そうだ、お前はクソカスギャグしかできない。あたしもカミカミもバカしかできない。いいな?」
「さなっちゃん、ちょっと静かにして?」
ーがない! カミカミ怒ってる……もしかして、私がいい出そうとしてるの気づいて、待ってくれてるのかな。そうかもしれない。カミカミ以上にこのグループを大切にしている人なんかいないんですから。私は、ほんの少し勇気をもらえた気がしました。
「あのね……もし、私が例の露出魔だったら、どうする?」
しばらく、校門前での時間が静止したみたいに感じたのです。
やっぱり、疑ってたのかな――今ごろになって、いわなければよかった、二人にはちょっとでもそう思われたくないという感情が噴き上がってきた私の心は、破裂寸前でした。そのとき突然、私の頭の上に何かふってきました。
「いたっ」
大げさに声が出ましたけど、そんなに痛いこともありませんでした。
でも、ふってきたものが目の前の友だちたちの空手チョップ(というか唐竹割り)だったこともあって、もろもろ痛い気がしました。
「じゃあ、ユキちゃん、これからはしちゃだめだよー?」
「何かあってからじゃ遅いからな。もうあそこには近づくんじゃないぞ」
すなおに笑顔を作って、二人はそういってくれたのです。私はさいしょ返すべき言葉が見当たらずあせりました。でも、なんだか、そんなのいらないかなって思えてきたんです。そのまま私たちは三人で校舎に向かって歩き始めていました。
「(二人には敵わないなー)」