バカ女とテストと召喚獣   作:53860

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祝バカテス15周年!
いつも読んでいただき本当にありがとうございます。
読者の皆さまのおかげで何とか続けられております。
感想やここすき(仮)なども繰り返し見ては喜びに震えています。
至らぬ点は多々ありますが、今年もよろしくお願いいたします。



鉄鍋のバカ

 

 文月学園全体を巻き込んだ模擬戦の翌日、憤怒の猛火をまとった優子は放課後の校内を探し回っていた。ゼッタイニユルサナイ。アノバカコロス。ぼそぼそと呪詛をこぼしながら徘徊する優子はさながらスプラッターホラーの怪物だ。

 事の発端は今朝!まったく知らないBクラス男子が次々と優子に絡んできたのだ!彼らの口から飛び出すのは、酷いじゃないか、あんまりだ、という非難の言葉。猫を被って優しく丁寧に男子を宥めつつ話を聞いてみたところ身に覚えのない暴力沙汰に自分が関与したと言うではないか。

 模擬戦でFFF団と結託してだまし討ち。間違いない。瓜二つな容姿をした愚弟が自分を騙ったのだ。これには(自称)温厚な優子も大激怒。こうして彼女は憎悪と憤怒に身を落とした怪物になったのである。

 そんな悲しきモンスターを正気に戻すのは姫君の役割だろう。長い黒髪をなびかせた現代日本の大和撫子である翔子が家庭科室から顔をのぞかせていた。

 

「……ねぇ優子。ちょっといい?」

「…………ア?……え、えっ!?代表!?ど、どうしたの一体?」

「……いいから。こっちおいで。こっち」

「えぇ?なに?何なのよ、もう」

 

 ちょいちょいと手招きする翔子に引き寄せられるように優子は教室へと入った。すると中には3人の女子が可愛らしいエプロン姿で調理台の前に並んでいた。

 

「第1回!姫路さんの(マジでヤバイ料理センスをどうにか直す)お料理教室!」

「……わーわーぱちぱち」

「どんどんぱふぱふー」

「は?」

 

 なんだこれ。

 栗毛色のロングヘアーとカチューシャがトレードマークのバカ女こと明奈が威勢よくタイトルコールする。すると、気の抜けたほんわかした声で翔子と瑞希が合いの手を入れた。人知れず開催されていた謎イベントに巻き込まれた優子は眉をひそめている。

 ふと顔を背けるとため息交じりにおでこに右手をあてている赤茶髪のポニーテール女子がいた。Fクラス有数の常識人でありパワー系女子でもある美波だ。自分と同じように引きずり込まれた優子を見ると、美波は苦笑しながら近くに寄ってきた。

 

「あぁ、秀吉のお姉さんも巻き込まれてしまったのね」

「えっと……島田さん、だっけ?その、これは一体なに?」

「壊滅的な料理センスの瑞希を矯正するプログラムよ」

「……姫路さんってそんなにヤバイの?」

「ヤバいわよ!」

 

 残念ながらガチャは無料にならないが、とにかくヤバイのは確かだ。先日の模擬戦で悪用された瑞希のクッキーは近年稀に見る大戦果をあげている。

 累計被害者数は20人強、そのうち病院送りになったのは15人。現在も昏睡状態の被害者は4人もおり、そのキルレシオは圧倒的だった。そんな瑞希の殺人的な料理音痴を心配した明奈が開催したのが今回の矯正プログラムだ。

 その主催者はラーメン屋の店主のように腕を組んで自信ありげな笑みを浮かべていた。

 

「ふっふっふ……1人ではできなくても3人いればモジャモジャの知恵!4人いればさらに凄い!今日で姫路さんのお料理スキルをカンストさせちゃうからね!」

「……3人寄れば文殊の知恵。間違えた明奈は後でお仕置き」

「ヒエッ……!と、とにかくっ!みんなで協力してどうにかしようって作戦だから!しかも今日はなんと特別ゲストもいるからね!」

 

 知らぬ間に明奈の斜め後ろには眼鏡をかけた高身長な男が立っていた。禍々しいオーラをまとった男の目は血走っており見るからに危険だ。思わず優子と美波は後ずさりしてしまう。

 

「ジャーン!学校の近くを徘徊していた自称、中華料理のプロだよ!」

「料理は“成仏”だぜ!陰陽五行により全てを支配するオレの力を見て驚け!キシャシャシャシャシャー!」

「あの、私は吉井さんに料理を教わりたいのですが……」

 

 申し訳なさそうに生徒役の瑞希がお断りすると、モジャモジャ髪の男は肩を落として家庭科室から出て行った。先ほどまでのハイテンションから一転してトボトボと歩く彼の背中は心なしか小さくなっていて哀愁が漂っている。かわいそう。

 ラリった不審者が去ったことで美波と優子はひとまず安堵した。ただ1つ懸念は残る。果たして学園最底辺のバカである明奈は料理を教えることができるのだろうか。

 

「ねぇ島田さん。吉井さんって料理できるの?」

「料理はできるみたいだけど……瑞希にちゃんと教えられるかが不安ね……」

「まぁ見てロッテ明治ブルガリアヨーグルト!タイタニック号に乗ったつもりで安心してくれて大丈夫だよ!」

「……明奈、タイタニックは事故で沈むから不吉」

「え!?じゃあ~ヒンデンブルク号!」

「それ爆発して墜落するやつじゃないのっ!」

 

 イマイチ不安が残る会話だったが料理の腕はホンモノ。ゲームにたくさん課金するため節約生活を送っている明奈にとって、自炊なぞ日常茶飯事である。料理初心者に教えるなどお茶の子さいさいだろう。胸に手をあてている明奈はどこか得意げで自信満々。

 そんな可愛らしい彼女を翔子は微笑ましく見守っている。ふと、優子は翔子が料理をどこまでできるのか気になった。

 

「そういえば、代表って料理できるの?」

「……料理は乙女の嗜み。これは雄二のお義母様と作ったカニの丸焼き」

「へぇ~結構良い感じ……って!カニじゃねぇよ!ザリガニだよ!」

「……ドジっ娘属性も乙女の嗜み」

「え……翔子ちゃん?」

 

 翔子が提示した写真は明らかにザリガニの丸焼きだ。信頼していた代表のあり得ないミスを目の当たりにした優子。動揺のあまりどこぞのクリーチャーが憑依してしまう。

 能天気バカの明奈も当てにしていた親友が若干、地雷かもしれないという想定外の事実に頬をひくつかせる。嘘だと言ってよ、といわんばかりに翔子のことを見つめるが渦中の人物は顔を背けて知らんぷり。

 これもすべて雄二の母親に料理を習ったのが運の尽き。調理はできるが食材や調味料の区別がつかない立派な料理音痴が誕生してしまったのだ。

 

「勘弁してよ代表。私だって料理がそこまで得意じゃないんだから」

「あれ?もしかして秀吉のお姉さんも手伝ってくれるの?」

「まぁ、ね。代表に頼まれちゃったし」

「……私のおかげ。ぶい」

 

 可愛らしくVサインを作る翔子に思わず和んでしまう明奈だが、その横で優子は渋面を作っていた。あの愚かで卑しい弟のお姉さんと呼ばれたくなかったのだ。

 

「……その秀吉のお姉さんっていうのやめてくれる?優子って呼んでくれて構わないから」

「あの、私のことも下の名前で呼んで欲しいです。苗字で呼ばれるのは寂しくて……」

「おっけー!優子ちゃん、瑞希ちゃん!」

「あ、ずるい!ウチもいいかしら?」

「……みんな仲良し」

 

 わきあいあい。そんなこんなでバカ女と優等生たちの親睦も深まったところで、お料理教室の開始である。まずは何を作るのか決めなければならない。

 幸いにして食材などの利用は家庭科の教師から許可が出ているため、一般的な家庭料理であれば大体のものは作れるだろう。

 

「とりあえず手軽にできる料理がいいよね~。バカのアホ炒めとか。瑞希ちゃんは何か作りたいのある?」

「病気の人でも食べられる料理がいいです。昨日からお父さんが体調を崩していて」

「となると、お粥かサムゲタンだねぇ……」

「どうしてその二択になるのよ」

「……多分お粥が良いと思う」

 

 そう言って翔子はスマートフォンを取り出してレシピを調べ始める。検索ワードに「簡単」「風邪」と入れて調べると、すぐにいくつものサイトが出てきた。その中から比較的簡単に作れそうなものをピックアップして5人で吟味する。最終的に選ばれたのは卵雑炊だった。

 材料はそれほど多くなく、調理工程自体もシンプルで時間がかからない。栄養価も高くピッタリなメニューと言えるだろう。早速、鍋を火にかけて湯を沸かすと調理に取り掛かった。

 

「まずは卵を割って……キャー!そんなダイレクトに行くー!?すごいよ!?めっちゃ勢い良いよ!?あの……野球ボールじゃないんだから、卵!憎しみでもこもってるの!?」

「え?あぁ……ごめんなさい。少し考え事をしてて」

「……優子、意外とパワー系?」

 

 無意識のうちに愚弟への憎しみを優子が卵にぶつけてしまうなど、多少のひと悶着はあったけども、食材を処理して準備を進める瑞希たち。各々の手際はよく中々、何だかんだで料理に慣れているようだった。レシピ通りに作れば意外と瑞希の料理も大丈夫なのではないか。始めるまで少し心配だった明奈と美波は内心ほっとした。

 だが調理が進む中、事件は起きた。必要な具材を入れてあとは煮込むだけという局面で瑞希が何かを思い出したようだ。がさごそと自分のカバンから見慣れないキノコを取り出してきた。一口サイズにカットされており、料理などで一度使用された形跡がみられる。

 

「そういえば、お母さんが採取したキノコを持ってきたんです。料理で使えないかと思って」

「何この恐竜のうんこの化石みたいに汚いキノコは?まずそう……」

「……これは食用なの?」

「さぁ?これを食べたお父さんはずっと笑ってますね。1人で小躍りとかして」

「もしかして体調不良の原因って……」

「まぁ、加熱すれば大丈夫ですよね。えいっ」

「瑞希っ!?加熱で無毒化できるものにも限りはあるのよっ!?」

「え?また私なにかやっちゃいましたか?」

 

 身元不明キノコがドボンと鍋の中に入る。完成しつつあった卵雑炊に異物混入。これぞ姫路クッキングの神髄であり恐ろしいところだ。足せば足すほど旨くなるといわんばかりに独創性あふれる物質を勝手に追加するのである。

 美波の言葉に疑問符を浮かべる瑞希だが、怪しいキノコはすでに鍋の中で煮込まれてしまっている。修復不可能とみた翔子は我関せずといわんばかりに調味料による味付けを強行した。

 

「……とりあえず味を整えないと。お義母様から貰った魔法の調味料、明日の素を入れる」

「ちょっと代表ッ!?それ殺鼠剤ッ!」

「……ばんなそかな」

 

 瓶には小さく殺鼠剤と書かれていたが後の祭りだ。すでに劇薬が山のように鍋の中に投入されてしまった。お見事ね47、任務完了よ。

 忘れてはならないが、雄二の母親である坂本雪乃はイカれたほどに天然ボケだ。めんつゆとブラックコーヒー、ザリガニと伊勢海老、を間違えてしまうならば当然、台所にある調味料と毒物の区別もつかないのである。そして、そんな雪乃に教わった全てを記憶する翔子は、一部の食材や調味料が毒物と混然一体になっていた。

 信じていた義母(予定)による意図せぬ裏切りに軽く絶望する翔子。信頼した相手の言葉を素直に信じてしまうのは彼女の美徳であり弱点であった。とりわけ、周りに外道ゴリラやアナーキー・バカ女、天然ボケのような逸材が揃う環境で他人をホイホイ信じてしまうのは自殺行為に他ならない。

 慌てふためく明奈たちだが、比較的冷静な瑞希が事態の収束を図った。よく見れば両手いっぱいに様々な薬品の瓶をいつの間にか持っている。

 

「まだ間に合います!中和しましょう!水銀コバルト豆板醤!シアンマンガン豆板醤!」

「豆板醤入れすぎじゃないのこれ?」

「アキッ!それ以前の問題でしょッ!」

「……これじゃあ絶望という名の麻婆豆腐」

「他人事みたいに言わないで。代表にも責任はあるんだからね?」

 

 歌うんだ☆クッキングのお時間です!

 テンポ良くリズムに合わせて化学物質を大量投入していく瑞希を止められる者などいない。卵粥になるはずだった料理は毒々しいほどに赤黒く変色してしまった。最も天国に近いオリジナルな火鍋と呼ぶのもおこがましい。誰がどう見ても手遅れです。

 RPGのラストダンジョンにありがちなマグマのようだ。隣接するだけでHPが減ってしまう。一度触れたが最後、爛れ続けてしまいそうだ。

 頭を抱えて絶叫する優子と美波だが、明奈はお玉を持って顎に手を当てている。

 

「ちょっと!どうすんのよこれっ!?」

「なんかデーモンとか湧いてきそうじゃない!?ヤバいわよっ!」

「もしかしたら、底の部分とかで毒の少ない箇所とかないかな?」

 

 一縷の望みにかけて鍋の中にお玉を突っ込む明奈だが刹那、何かが焦げる音がした。奇妙に思った明奈はくいっとお玉を引き上げる。

 だが、ないのである。液体などを掬う円形の部分が、ない。

 冷や汗をたらす明奈。ふと鍋の中を見ると金属片がキラリと光を反射した。おそらくこれが、お玉の残骸なのだろう。予測不可能な異常事態に明奈は悲鳴をあげた。

 

「ピカピカ見つけたゴブーっ!?」

「金属を溶かすとかもはや食べ物じゃないでしょ……!アキ!廃棄するわよ!」

「ダメだよぅ!食べ物を粗末にしたら先生に食材にされちゃうからぁ!」

「ゼンブアノバカノセイダ……!ヒデヨシコロスコロスコロス……!」

 

 笑顔を絶やさない家庭科の先生は平常時であればほのぼのとした存在だ。ただ、食材を無駄にすると般若のように人格が豹変してしまう。食べ物を粗末にした生徒は地の果てまで追い回すし、場合によっては彼ら・彼女らを食材にしてしまうとか。当然、お残しも許されない。料理の廃棄は死に直結するのである。

 では、どうすればいいのか。明奈は美波や優子とともに打開策を編み出すべく議論を始めた。喧々諤々。

 そんな風にわちゃわちゃしている明奈たちを翔子と瑞希は遠目に見ていた。これ以上、鍋に近づくなと真剣な表情をした美波にクギを刺されてしまったためだ。あれは何人かをすでに殺めている女の眼に違いない。何だかんだで友達には甘い明奈と違い、愛する彼女を守るために美波は容赦のない対応をしがちである。

 どことなくションボリしている翔子だったが、対照的に隣に立つ瑞希はにっこにこしていた。

 

「……明奈を困らせてしまった」

「そんなに落胆しないでください、翔子ちゃん。ほら!慌てふためく明奈ちゃんも可愛いでしょう?」

「……でも、好きな人にはずっと笑顔でいてほしいから」

「うーん?私はそうは思いませんけどね」

 

 耳を疑うような瑞希の発言に翔子は驚愕した。不思議そうに首を傾げている瑞希のことを思わず凝視してしまう。対して瑞希は考え込むように指先で髪の毛をいじりながら怪訝そうな表情を浮かべている。

 

「どうして人は喜怒哀楽のうち喜びだけを尊ぶのでしょうか?喜びしか知らぬ者から祈りは生まれません。それに愛する人は笑っていても泣いていても怒っていても素晴らしいはずです」

「……どういうこと?」

「マクドナルドにだってハンバーガー以外のメニューが一杯ありますよね?でも喜びなんてせいぜいハンバーガー4個分くらいにしかなりません。せっかく色んな感情があるのに、すごくもったいないことだと思いませんか?怒りや悲しみにだって味わうべきところはあるはずなのに」

 

 唇を弓なりにする瑞希の瞳にはアビスのごとき深淵が広がっており、彼女の真意を読むことはできない。それでも何か仄暗く強烈な感情が伝わってくる。しっとりとした粘着質な欲望が。

 

「私は明奈ちゃんの全てを余すところなく味わいたいんです。そしてきっとその先に私の憧れがあるはずなんです」

 

 なんという悪食。なんという強欲。なんという邪悪。

 無邪気な笑顔でおぞましい願望をあらわにする瑞希には悪意もなければ邪念もない。ただただ純粋に愛する明奈の全てを欲しているのだ。くいしん坊万才なんて言ってられない。こいつやはりやべー奴なのかもしれない。

 突如、異常さをあらわにした瑞希を一瞥すると翔子は片眉を上げた。

 

「……愛する人の幸せだけを願うのがいけないとでも?」

「おやおやおや。誤解しないでください。あくまで私の考えに過ぎないのですから」

「……瑞希の考えは危険」

「ふふふ。翔子ちゃんに共感してもらえなくて残念です」

 

 言葉とは裏腹に楽しげな笑みを浮かべる瑞希。その表情からは本当に残念だと思っているようには見えない。ほのぼのイチャラブ至上主義者と曇らせ愉悦部はもとより相容れぬ存在なのだ。

 そんな性癖バトルが繰り広げられる中、毒々しい料理をどうすべきか審判団は結論を出したようだ。

 

「えー、使った食材に申し訳ないのでこれから実際に食べてみたいと思います。で、もし無理そうであれば瑞希ちゃんのお父さんにあげることにしましょう。ほら、瑞希ちゃんと翔子ちゃんもこっちおいで」

「………………え?食べるんですか?これを?」

「気乗りしないけど仕方ないでしょ。食べないとウチらが食材になっちゃうんだから」

「でも、薬を使って評価を上げるなんて料理じゃないです。料理とは人の心を満たす愛情ですから」

「つまりどういうこと?」

「要約するとこの料理は生ゴミ以下、ということです」

「そうなったのは瑞希が原因なんだけどっ!?」

 

 さもありなん。美波のツッコミの通りである。適当な理屈をこねて逃れようとする瑞希だったが、そう思うならばそもそも薬物を投入するな、という話である。隣に指導役がいてちゃんとしたレシピもある中で、あえて化学品をぶち込むあたり肝が据わっているというか、おそらく確信犯なのだろう。

 だが、愛しの天使を曇らせようとすると何らかの形で自分に返ってくるのである。これぞ天罰。瑞希は心の底から後悔した。これからは料理を作るときはレシピに忠実に作ろう。自分の料理によって窮地に追いやられたことで、瑞希はそう固く誓うのであった。

 だが、1人の少女が改心しようと目の前の最後の晩餐は消えてなくなりはしない。どんよりとした空気の中、紫色の煙を立ち上がらせる灼熱の溶岩のような卵雑炊らしきものを乙女たちが囲んでいる。いざ、試食のときである。

 

「じゃあみんな、行くよ?いざ、滅びゆく者のために!」

「……滅びゆく者のために」

 

 明奈の呼びかけとともに少女たちは一斉にパクリと卵雑炊だったはずのものを食べた。天国の味を理解するには一度地獄を見ておかなければならない!そうでなければ天国の素晴らしさは解らない!そういう観点からすれば、これも試練の1つなのかもしれない。

 だが、瑞希の作り出したバイオ兵器は乙女たちにはヘヴィすぎたようだ。校内を巡回していた現代国語の竹内先生が発見するまで、明奈たちは白目を剥いて痙攣していたという。ちなみに、余った分は全て瑞希の父親が完食した。MOTTAINAI精神の犠牲となった男の入院期間は少し延びたとかなんとか。

 これが次の騒動の発端になるなんて、このとき明奈が知る由などなかった。

 





「お父さん、お母さん。私やっと自分が自分で居られる場所を見つけたよ」

あなたに見えるのは、偽りの居場所。

「お前のせいだからな吉井ィ!お前のせいで俺は……俺はッ!」

そこに見えるのは、虚ろな眼差し。

「……何度やっても無駄。私に勝てるわけがない」

私に見えるのは、繰り返す悲しみ。 

「失礼。君がFクラスの吉井さんかな?」 

次回、「疑心」。またの名を「清涼祭~史上最低の学園祭~」(時期未定)

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