バカ女とテストと召喚獣   作:53860

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■とある南の島の海賊

時には……革命が必要だ。
死と流血が必要なんだ。
空が焼かれ、世界が混乱の渦に飲み込まれて初めて……傾きは、正される。



バカ女と百合ハーレムと幕引き

 

「瑞希を転校させるという考えは変わない」

 

 姫路父の言葉が教室内に響いた。

 試験召喚大会後のFクラスでは1人の少女の進退を巡って、世にもくだらない騒動が繰り広げられていた。

 

「そんなぁ!お義父さん!考え直してよぉ!」

「君にお義父さんと呼ばれる筋合いはない」

「えぇ!?ひどい!」

「……繰り返しにはなるが、娘をこんな劣悪な環境に置いておけるわけがないだろう」

 

 取り付く島もない姫路父に対して、明奈はぷりぷりと頬を膨らませた。

 何という理不尽な男なのだろうか。愛する娘と可愛いお友達を引き裂くなんて、人の心とかないんか?

 もっとも、彼の判断には十分な合理性があった。

 学園最低の劣等生が集まるFクラス。成績不良はもちろん、素行不良、暴力沙汰、カルト活動、その他もろもろ。教育機関としての存在意義を疑わざるを得ない有様である。

 だというのに、学園屈指の才女である瑞希は、この魔境にすっかり馴染んでしまっていた。

 そりゃあ心配にもなるというものだ。

 

「しかし姫路の親父さんよお。俺たちだって真面目にやるときはやるんだぜ?そういうところも見た上で評価してくれねえか?」

「先ほどの大会で君たちは何をしていた?女子生徒を投げ飛ばしたり、冷凍マグロを人間に突き刺したり。あまつさえ純情な少女の恋心を弄んでいただなんて」

「やめてくれ降参だ」

「敗けたのね……!」

「…………残念でもないし当然」

「いや、アンタも大概でしょ」

「それを言うならば、島田も同罪じゃろうて」

「ウチに罪なし!反省もなーし!」

 

 残念ながら、反論のしようがなかった。

 まったくもって救いようのない集団である。

 

「なあお前ら。そもそも姫路の転校って、ここで話し合ってどうにかなる問題なのか?」

「なに言ってんの雄二!?瑞希ちゃんは私たちの大事なお友達なんだよ!?」

「そうよ!瑞希はウチらの大切な仲間なの!」

「いや、だったら本人を連れてこいよ」

 

 至極まっとうな指摘だった。

 肝心の瑞希が行方不明なのである。

 先ほどから学園中を探し回っているものの、彼女の姿はどこにも見当たらない。

 このとき、失意に暮れる人々からは笑顔が消え世界の経済活動は数週間停止したと伝えられている。

 

「ったく!瑞希のヤツ、どこに行ったのよ!」

 

 美波がいら立たしげに机を叩いた。

 すると、その声に応じるかのごとく教室の扉が開いた。

 

「皆さん。お待たせしました」

「瑞希ちゃん!?」

 

 そこに立っていたのは、長い桃色の髪をなびかせた少女だった。

 姫路瑞希。学年トップクラスの成績と抜群の容姿を併せ持つ、Fクラスの天使である。

 突然の帰還に教室は大いに沸き立った。

 

「姫路さんだ!姫路さんが戻ってきたぞ!」

「おぉ!我らが聖母よ!」

「月に凱旋の雄叫びをォ!」

 

 涙を流しながら歓喜する男子生徒たち。

 実に気持ち悪い。

 そんな救いようのない男たちを尻目に、明奈は瑞希に駆け寄った。

 

「瑞希ちゃーん!どこ行ってたの!?心配したんだよぉ!」

「ふふふ。ごめんなさい、明奈ちゃん」

 

 瑞希は優しく微笑むと、明奈をぎゅっと抱きしめた。

 

「えへへ。瑞希ちゃん、今日は随分と積極的だねぇ」

「はい。もう我慢するのはやめたんです。自分の気持ちに正直になろうって決めましたから」

 

 そう言うと瑞希は、明奈の頬にそっと口づけをした。

 

「ほわぁっ!?」

 

 突然のキスに、明奈は顔を真っ赤に染める。

 Fクラス男子たちは絶叫した。

 

「キマシタワァァァァァァ!!!」

「おおおおおお!ミズアキ!ミズアキ!」

「アキミズじゃねぇのかよ!解釈不一致だわ!」

「どっちでもいいだろ!百合は世界を救うんだ!」

 

 男子生徒たちは諸手を挙げて喝采した。

 なんとまぁ、めでたい頭をした連中なのだろうか。

 

「え、えっと?瑞希ちゃん?いきなりどうしたの?」

「愛情表現ですよ?」

「そ、そっかぁ。えへへ、なんだか照れちゃうなぁ」

 

 頬をぽりぽりとかきながら照れ笑いする明奈。

 だが、その隣では美波がぷるぷると震えていた。

 

「ちょっと瑞希!なに勝手にアキにキスしてんのよ!」

「美波ちゃんもしてほしいんですか?」

「はぁっ!?」

「ふふふ。そんなに照れなくてもいいんですよ?」

 

 瑞希はにっこりと微笑んだ。

 その笑顔に美波は、言いようのない不気味さを感じた。

 

「お前、大丈夫か?なんか変なモンでも食ったんじゃねぇだろうな?」

「失礼ですね坂本君。私は至って正常ですよ」

「いや、Fクラスで言う正常ってのは信用できねぇんだよ」

「ふふふ。そうですね。以前の私なら、そう言われても仕方がなかったかもしれません」

 

 そう言うと瑞希は、そっと胸元に手を当てた。

 

「ですが、もう違います。私は生まれ変わったんです」

「生まれ変わった?」

「ええ。これまでの私は、常識や世間体ばかりを気にしていました。でも、そんなものは自分自身を縛りつける鎖でしかなかったんです」

 

 穏やかな口調で語る瑞希。

 その顔には、迷いも不安も感じられなかった。

 

「私はもう、自分自身に嘘をつきません。誰かに嫌われることを恐れて、自分の本心を押し殺したりもしません。これからは、私が正しいと信じる道を歩んでいきます」

「瑞希!」

 

 姫路父が感極まったように声を上げた。

 娘がようやく自分の意志を持ち、将来について真剣に考えるようになったのだ。

 これほど喜ばしいことがあるだろうか。

 

「そうか!そうだったのか!瑞希、お前もようやく理解してくれたんだな!」

「はい。お父さん」

「これまで厳しいことばかり言ってきたが、すべてはお前のためなんだ!私はお前に幸せになってほしいだけなんだよ!」

「わかっています。お父さんが私のことを心配してくれているのも、愛してくれているのも」

 

 瑞希は父親の手を取ると、優しく微笑んだ。

 

「お父さん。今まで心配ばかりかけてごめんなさい」

「瑞希!」

 

 姫路父の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。

 ああ、なんという感動的な親子の和解なのだろうか。

 父と娘が互いの愛情を確かめ合う美しい光景に、周囲の生徒たちも思わず目頭を熱くした。

 だが、そんな温かな空気の中で、瑞希はぽつりと呟く。

 

「ですから、私は転校しません」

「ん?」

「これからはもっと自由に生きようと思います。親の価値観や社会の常識に縛られず、自分の理想を追い求めていきます」

「ちょっと待ちなさい瑞希」

「そのためにも、まずは皆さんに正しい世界の在り方を知っていただきたいんです」

「正しい世界の在り方?」

 

 思わず眉をひそめる。

 どうも話が噛み合っていない。

 娘がまともになったと思ったのに、なぜだか余計に危険な方向へと進んでいる気がする。

 

「ちょっと待ってくれ瑞希。お父さんはお前にそんなことを望んでいるわけじゃないぞ」

「私、もう逃げません。自分の罪と正面から向き合おうと思います」

「罪だと?お前はいったい何を言っているんだ?」

 

 父親の制止を聞き流し、瑞希は補習室の中央へと歩いていった。

 そして教卓の前で立ち止まると、クラスメイトたちに向かって深々と頭を下げる。

 

「皆さん。少しだけ、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろんです姫路さん!」

「俺たちはいつだって姫路さんの味方だぜ!」

「一生ついていきます!」

 

 Fクラス生徒たちは、我らが聖母の御言葉を聞き逃すまいと続々と座り込んだ。

 普段はおしとやかで控えめな瑞希が、自ら進んで人前に立つのは珍しい。

 

「ありがとうございます、皆さん」

 

 瑞希の笑顔に、男子生徒たちは頬を赤らめた。

 何せ相手は学園でも指折りの美少女だ。そんな彼女が自分たちに向かって優しく微笑みかけてくれている。

 それだけで幸福感を覚えてしまう。子供でも生まれた様な多幸顔じゃん。

 瑞希は両手を広げた。

 

「私たちはこれまで、あまりにも多くのことを我慢してきました。勉強、恋愛、人間関係。好きな人と一緒にいたい。それだけの願いなのに、どうして親や世間に邪魔されなければならないのでしょうか?」

「おお!確かにその通りだ!」

「俺たちだって彼女がいないだけで人間失格みたいな扱いを受けているんだ!」

「それは本人の問題じゃないかのう」

「黙れ秀吉!美少女みたいな男に俺たちの苦しみがわかるか!」

「責任をとって俺と結婚しろ秀吉!」

「痴れ者が。とっとと自害せんか」

 

 どうやら非モテ男子には非モテ男子なりの苦悩があるらしい。

 もっとも、その大半は自業自得なのだが。

 

「そうです!皆さんは何も悪くありません!私たちが不幸なのは、社会の仕組みそのものが間違っているからなのです!」

「「「おおおおおお!」」」

 

 愚民どもの歓声をBGMに、瑞希は世界の真理を説き始めた。

 ディープなステートと光の戦士が戦うFF的なアレではない。

 もっと深淵に浸かった人間の業を映し出した真理であった。

 

「世界では崩壊の交響曲(シンフォニー)が鳴り響いています。相反する正義が終わりなき闘争をもたらし、人々は混乱し疲弊しています。レイシズムとサイレントマジョリティーとか、ポリコレと言論弾圧とか、環境破壊とエコテロリズムとか……その他もろもろ!」

 

 教室内が静まり返る。

 誰もが固唾を呑んで瑞希の言葉を待っていた。

 愛と平和を説く聖女のように。

 あるいは終末を予言する預言者のように。

 

「争いと穢れが充満した世界を生きる私たちは誰もが罪人です。では、なぜこうなってしまったのか?本質的に異なる人間たちが同じ空間で共存することはできない!そう!ゆえに、異性愛こそが人類最大の過ちなのです!」

「「「な……なんだってー!!!」」」

「え、瑞希ちゃん?」

「なにやら雲行きが怪しくなってきたのう」

「女の子同士が仲良しな様子を見ていて幸福を感じませんか?男の子同士の方が和気あいあいとしていて楽しいと思いませんか?その通り。レズやゲイなどのホモソーシャルなつながりは愛と絆をもたらす素晴らしいものなのです」

 

 瑞希は拳を握りしめる。

 

「それに比べて、性欲というつながりしかない異性愛者をご覧なさい!なんと不純で罪深いことか!異種混合こそが憎しみと闘争を生み出し続けているのです!」

「姫路のヤツ、随分とナチナチしてきたな」

「つまりEugenik(優生学)ね。なんだか親近感がわいてきたし一理ある気がするわ」

「美波ちゃん、正気に戻って。かなりカルト的な思想だよこれ」

「…………だが、FFF団の連中には魅力的な妄想」

 

 康太の言う通り、Fクラスの生徒たちは瑞希の演説に熱狂していた。

 

「貴方たちは選ばれし民なのです!リア充爆発しろ!そう、異性愛者への怨嗟の言葉は正しい!政府と社会が覆い隠してきた真理に辿り着きし正義の使徒たちよ!百合と薔薇に満ちた理想郷の扉(エデンズ・ゲート)へと続く道を、ともに歩もうではありませんか!」

「彼女いない歴イコール年齢なんておかしくない!むしろ先進的で多様性に満ちた正しい生き方なんだ!」

「「「異性愛は異端!異性愛者は咎人!リア充を滅ぼせ!」」」

 

 百合の世界に男は不要!と言わんばかりの剣幕だ。その投げたブーメランで自害していけば、この世から憎き男の数が減るのだが、狂信者たちはそのことを棚に上げて理解しようとしない。なんとまぁ都合の良い男たちだ。

 

「あっ、おい待てい!子孫を残す上では男女ペアが前提となるからには、生物学的に異性愛が妥当なのでは?やはり男女カップルが普通……な……ん、じゃ……」

「迷える憐れな子羊よ。恐れることはありません。異性と交わらぬ貴方の生き様は正しい。間違っているのは社会なのだから」

 

 瑞希は慈しむように男子生徒を抱きしめた。豊満なバストを顔に押し付けられ、正常な判断能力が奪われていく。正確には、瑞希がさりげなく首を絞めているせいだが。

 

「ただ1つ、社会に屈するその弱さだけが貴方の罪です。必要なのは、前へと踏み出す勇気だ」

 

 床へと崩れ落ちるFクラス生徒。彼の周りには祝福を称えるように拍手するクラスメイトたちが集まる。さながら愛に満ちた宗教的共同体だ。

 満足げな笑みを浮かべた瑞希は両腕を広げると聴衆たちに訴えかけた。

 

「私が勇気を教えましょう。己の弱さに立ち向かう『YES』を。自身の弱さと対峙し、忌むべき自らの罪に立ち向かい、荒れ狂う苦痛の大海を泳ぎ切って自由になれ!そこからが……真の償いの始まりです……」

 

 信じよ。崇めよ。服従せよ。

 瑞希の言葉にFクラス生徒たちは大きく口を開け、涙と涎を滝のように流し、絶頂するかのごとく痙攣している。

 

「嗚呼……主よ、ついに!われわれのような目覚めたマイノリティがようやく!救済されるというのかッ!」

「吉井大天使、バンザーイ!マザー・ミズキ、バンザーイ!FFF団バンザーイ!」

 

 ようこそ絶望と狂気の学園へ。

 愚民どもの扇動を終えた瑞希は両親の方を向いた。

 美しいシャフ度だった。

 

「お父さん、お母さん。私やっと自分が自分で居られる場所を見つけたよ」

「待て待て待て待て!お父さんはお前にそんな風にハジけて欲しいなんて1ミリも思っていないぞ!?」

「瑞希ちゃんったらホント立派になったわね……。今までおっぱいばっかりすくすく育っていくから心配だったのよ」

「母さん!?愛娘に対してどういう感情を抱いていたんだ!?」

「可愛い女の子たちがゆりゆりしているのを見ると幸せですよね?百合ハーレム、私の好きな言葉です」

「やめろ!お父さんは娘がヤバい方向に成長しているなんて認めたくない!」

「自分には自分の知らない自分がいる、という言葉を、私はFクラスの皆さんを通して実感しました。まさかまさかの連続でしたから。でも、まさかがあるのが人生。自分の知らない自分は必ずいるんです」

「瑞希、お前もそうなのか!?」

「ええ。今まで私は自分を押し殺そうとしていたみたいです。でも、これからはもっと自由かつ素直に自分を見せていきたいと思っています」

「だが、お前が進もうとしているのは破滅の道だ!」

 

 焦点の合わない目で、娘に問いかける。

 

「……なぜこの父の想いがわからぬのだ……世の掟を忘れたか」

「掟は己で定める。そう決めました。私が愛する天使のように……」

「なんと罪深いことを……」

「わがままで欲張りで傲慢で、強欲なのが恋する乙女なんです」

「瑞希……!やはりお前をこの学園に置いておくわけにはいかん!転校だ!絶対に転校させるぞ!」

「あらあら、お父さん。瑞希ちゃんが自分の意見を言えるようになったんですよ?まずは褒めてあげないと」

「褒められるか!娘がとんでもない思想に染まっているんだぞ!?」

「うふふ。じゃあ今晩、家族会議をしましょうね。もちろん多数決で」

 

 瑞穂は、頭を押さえてふらつく夫を支えながら教室を後にする。

 去り際、娘に向かってウィンクした。

 きっと今晩はすさまじい家族会議が開かれるだろう。

 そして姫路父は負ける。なぜなら民主主義において、少数派の意見は往々にして踏みにじられるからだ。

 多数決って最高だね。

 

「のう姫路よ。おぬしは百合と薔薇の世界を求めておるのか?さきほどから百合ハーレムの話ばかりのようじゃが」

「いえ?男は害悪化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいいと思っています」

「「「「は!?」」」」

「俺は百合を眺める観葉植物になりたい、とか言って同じ空間に居座ろうとするなんて……迷惑じゃないですか。百合世界のために殉教してほしいです」

「…………濁りのない純度100%の悪魔だ」

 

 康太は頭を抱えながら震えている。

 悪魔のような瑞希の言葉に、Fクラス男子が声をあげた。

 

「ちょっと待ってください姫路さん!それだと我々も滅ぼされるのでは!?」

「そうですね。ですが安心してください。皆さんの尊い犠牲は、百合の理想郷を築く礎となるのです」

「な、なるほど!我らが犠牲となることで百合が守られるのか!」

「「「姫路さんバンザーイ!」」」

 

 もうダメだこいつら。完全に洗脳されてやがる。

 端から人知を超えた狂気から逃れる術なんてなかった。

 

「私は美波ちゃんや翔子ちゃんのことも好きですし愛してます。優先順位をつけると明奈ちゃんにはどうしても劣りますが、2人が相手ならチュウも厭いません」

「こっちから願い下げよ。何が悲しくてアンタとウチでキスしなきゃいけないの。反吐が出る」

「私、美波ちゃんとならエッチなことも喜んでしますよ?」

「オロロロロロロロー!」

「美波ちゃん!?マーライオンみたいになってるけど大丈夫っ!?」

 

 平然とイカれたことを言い出す瑞希に、リバースしてしまう。

 明奈に背中をさすってもらいながら、美波は微笑みを崩さない瑞希を睨みつけた。

 

「はぁ……はぁ……アキと坂本の気持ちがようやくわかったわ」

「と、いいますと?」

「友情と恋愛は完全に別物ってことよ!瑞希!アンタのことは友達としては好きだけど、恋愛感情を抱くのは生理的に何が何でも無理!百合ハーレム?んなのクソくらえだっての!」

「おぉ……見るがいいムッツリーニよ。島田の身体中に蕁麻疹がでておる」

「…………このカップリング特有の過剰なストレスだといえます」

「美波ちゃん酷いです。友情って百合なんですよ?どうして自分の気持ちを頑なに認めないんですか」

「そうやってなんでもかんでも百合とかぬかすな!お前は、安い取引で好きなものの価値を下げてるんだよ!」

「美波ちゃんだって男の人が明奈ちゃんに近づくと怒りますよね?」

「ウチが嫌いなのはアキに手を出す男よ!異性愛者全員を滅ぼそうなんて思ってないわ!」

「そこになんの違いもありはしないでしょう?」

「違うのよ!」

「……美波の言う通り。そうやって百合のバーゲンセールを開催するのは、百合豚の悪癖」

 

 うわ出た。

 いつの間にか美波の後ろに翔子が立っていた。

 

「……瑞希は危険。寛容とか多様性なんて言葉で見過ごせない排他的な過激思想を広めている」

「翔子ちゃんまで私の崇高な理念を否定するんですね……」

「……私は今日、ようやく雄二と恋人になれた。その恋まで間違いだと言うの?」

「そうですか。おめでとうございます。いつか翔子ちゃんも正気に戻れるといいですね」

「……ハーレムの思想自体は素晴らしい。だけど瑞希は、自分の理想のために他人の恋愛も人生も否定する百合豚に成り下がっている」

 

 ここで終わっていれば良い感じだったのに。

 残念ながら翔子は名誉Fクラス生徒。

 勉強はできるけど、まぎれもない狂人だ。

 

「……美少女たちのハーレムを夢見るのが男の性。美少女同士が愛し合っていればなおよし。美男子たちの逆ハーレムを望むのが女の性。男同士でホモセクシュアルなつながりがあればなおよし。そう、同性愛と異性愛の入り乱れたハーレムこそが人間本能に合致している」

「私が言うのもなんですが、さすがに悪食すぎませんか?」

「……私と雄二と明奈が織りなす無限重婚は、そうした人類の革新に向けて踏み出す歴史的な一歩。つまりニュータイプ」

「黙れ異常者!瑞希が百合のバーゲンセールなら、あんたは愛の叩き売りよ!乱交前提の爛れた関係を妄想すんな気持ち悪い!」

「……美波は雄二と同じ。一夫一妻制に魂を縛られているから、そんな無意味でつまらない意地を張っている」

「はぁっ!?ウチが信奉するのは一妻一妻制よ!たった1人の女に生涯を捧げるからこそ愛ってのは尊いんでしょうが!」

「ねぇねぇ。みんな、好きな人と仲良くすればいいんじゃないの?なんでそんなに喧嘩するのさ」

「明奈ちゃん。それができないから世界は争いに満ちているんですよ」

「……明奈はまだニュータイプの恋愛を理解していない」

「アンタは黙ってなさい!余計に話がややこしくなるから!」

 

 泣いた。悲しみを胸に明奈は、隣に立つ雄二の足を踏んだ。

 完全な八つ当たりだったが、すぐさま雄二にぶん殴られる。

 これでお相子だ。

 

「……そもそも尊ぶべき愛に制約なんてない。1人を愛するのと10人を愛するのになぜ優劣をつけようとするの?」

「まさに翔子ちゃんの言う通りです。だからこそ異性愛という穢れを浄化して、百合ハーレムを実現すべきなのです」

「……異性愛も尊重すべき。いかなる差別や排除も許されない」

「翔子ちゃんだって私の考えを否定していますよね?それって差別じゃないですか?」

「……理性ある人間社会において排他的な差別思想は尊重されるべきではない」

 

 至極まっとうな正論だった。

 だが、多様性を説く翔子もまた、他人の意思を無視して無限重婚を実現しようとしている。

 結局のところ、自分の欲望を正当化したいだけではないか。

 頭だけは良い狂人による地獄の討論会に、とうとう美波は匙を投げた。

 もはや理屈で説得するのは不可能だ。

 となれば、頼れるのはただ1人。

 頭は悪いが、少なくともこんな狂った思想には染まっていないはずの親友である。

 

「アキ!アンタならわかるわよね?このサイコ女どもはイカれてるって!」

「私はわかっていますよ。何が正義なのか明奈ちゃんなら理解してくれるって」

「……明奈、雄二。わからず屋の2人にニュータイプの恋愛を教えてあげて」

 

 明奈と雄二は絶叫する。

 

「「勝手に戦え!」」

 

 めでたしめでたし?

 





この戦争を終わらせにきた!

大変ご無沙汰しております。
いかがお過ごしでしょうか。
あ、石を投げないで。すみません、私はゴミです……。

約5年にわたり細々と投稿してきたパロディ満載のカオスな作品でした。
皆様の応援のおかげで何とか完結することができました。ありがとうございます。

実は最終話は以前からほぼできていたのですが、その前の大会で雄二たちが翔子に勝つ展開をどうしても思いつかず、長らく更新が止まってしまいました。
結局、勝てないものは勝てないという結論に落ち着きました。学力って残酷ですね。
散々お待たせして申し訳ございませんでした。

別作品も不定期で投稿していますので、そちらもぜひご笑覧ください。
最後になりますが、これまで本当にありがとうございました!
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