私達が流れ着いてから3日目。その朝。
私は朝食を終え、図書館から借りた本に目を通した。
デジモン達のデータがまとまっているものでこの街の近くにあるエリアのデジモン中心で参考になる。
「というより、この街の周辺しか探索されてないのかもね。」
2日目は挨拶回りを中心に行動して色んな人やデジモンと会った。
意思疎通ができるデジモンも多く、デジモン、テイマーから共にかなり良くしてもらった。
「今日からクエストボードでお仕事貰わないとね……。」
私はそう呟きながら本をめくった。
お昼少し前。
私はテイマー寮を出た。
ここは新人テイマーを中心に預ける寮で、お金を貯めて個人で住む場所を見つけるまでの仮住まいとなる。
私はその隣の建物にまずは向かう。
隣は牧場となっており、テイマー寮に住むテイマー達のデジモンを一括で預かっている。
この街で個人で牧場を持っている人は2人しか居ないらしくその2人を除けば全てのデジモンがここにいることになる。
もちろんリョウコさんのアグッチもここに居る。
「んーと、どこかしら?」
広すぎる牧場を見回すと1匹のデジモンがこちらに向かってくる。
一本角に毛皮を被ったデジモン。ガブモンだ。
「よしよし、見つけてくれたの?ありがとう。」
私はガブモンの頭を撫でる。
一日目でプニモンからツノモンに。そして、二日目でツノモンから成長期のガブモンに進化した。
リョウコさん曰く幼年期と呼ばれる前2つは戦う力は皆無と言ってよく泡を吹いて驚かすくらいしか出来ないらしい。
このガブモンになってから爪による攻撃や火炎攻撃が出来るらしい。
ちなみに、爬虫類型らしく毛皮の下はアグモンに近いらしい。
是非見たいが毛皮を脱いだ姿を見せるのはいやらしくものすごく怒るので諦めた。
さてさて、ガブモンと合流した私はデジスタジアムに向かう。
着く頃にはお昼回っていたのでガブモンに餌を与えていた。
「あら、見ない顔ですね。」
ガブモンが肉にかぶりついてるのを見ていたら声をかけられた。
白いワンピースに白いハット型の帽子……。THEお嬢様という立ち姿。ひょっとしてこの人が姫という方だろうか。
「失礼。初対面でしたら自己紹介が先ですね。私はミユキと言います。こちらが私の愛しのパートナー。カトリーヌちゃんです。」
そう言われて目線を足元に落とす。
ミユキさんの足元には緑色のぐちゅぐちゅした体をした確かヌメモンと言ったか。それが居た。
「あら、あなたもこの子ダメですか……。」
ちょっと気持ち悪いと思ったのが顔に出てしまったかもしれない。ミユキさんは凄く残念そうに言う。
「皆さん。だいたい同じ反応されるんですよね。こんなに可愛らしいのに……。」
そう言うとヌメモンを拾い上げてほっぺたを擦り付ける。その度にぬちょぬちょと湿っぽい音が響く。
人の好みはそれぞれだけど確かヌメモンって育成が上手くいかないとなる個体だったと聞いたんだが。
「あら?詳しいのね。そうですよ。確かきちんとトイレさせないとなるだとか。皆様もヌメモンちゃんにして可愛がれば良さに気づくと思いますのに。」
実物を見たら回避したくなる気持ちも分かるな……。
私はきちんとお世話しよう。
「ところで、あなたヌメモンちゃんに詳しいみたいですから。ちょっとお願いしたいことがありますけど……いいかしら?」
「お願いしたいこと?」
なんだろう?いい予感がしない。
「実はヌメヌメ平原という場所でたくさんのヌメモンちゃんの目撃情報がありまして、ただ私が行ってもなかなか会えません……。ですのでカメラでヌメモンちゃんを持ってきて欲しいのです。出来れば街近くまで連れてきてくれると嬉しいのですけど。」
依頼の場所。ヌメヌメ平原は確かこの街から徒歩10分もない場所だ。ゴミのデータが沢山流れて着いておりかなりの異臭を放っていると聞く。
正直行きたいと思える場所じゃないんだけど……。
「写真1枚で1000bit。もし、会わせてくれたら2000bitでいかがでしょう?」
ミユキさんはにこやかにお金のマークを作りながらそう言う。
bit(ビット)とはこの世界のお金の単位だ。餌肉が一個50bitなので写真1枚で餌肉50個分。ヌメモンさえ見つかれば値段は破格と言える。
でも!ヌメヌメ平原には行きたくない!
私は頭を抱えた。
鼻がねじ曲がるような異臭。
ところどころにある泥なのかなんなのか分からないけどどう見ても体に良くないであろう色をした水溜まり。
ヌメヌメ平原に着いてすぐに後悔の念が押し寄せてくる。
でも、写真1枚で1000bitは美味しすぎる。
頑張れ。私!
そう思ってちらっと隣のガブモンを見る。
どう見ても体調が悪そうだ。
私より鼻が利きそうだしこの異臭のダメージはやばいのかもしれない。
さっさと終わらせよう……。
私はヌメヌメ平原の中心の方へとりあえず足を進めた。
「出てくるデジモンは大したことないんだけどなー。」
私はそう呟きながら歩を進める。
さっきからゲレモンというヌメモンを黄色くしたようなデジモンに戦闘を仕掛けられておりガブモンがそれを返り討ちにするというのを繰り返しているばかり……。
もう既に鼻は効いておらず何も匂いを感じないレベルまで達してしまった。
これ、治るのかな……。
そんな不安もよぎるが目的のヌメモンにまだ会えていない。
多数の目撃情報があると聞いていたからすぐに会えると思ってたんだけど……。
「ゲレモンでは……ダメなんだろうなー。」
あそこまで溺愛してる人が妥協してくれるなんて思えない。
ため息をついているとどこからか悲鳴が聞こえた。
「タスケテー!」
どこからだろうか?私は声のする方に駆けていく。
しばらく走ると緑色の何かが黄色い何か達に追いかけられてるのが見えた。
「大丈夫ですかー?」
私が声をかけると緑色のそれはこっちに向かってくる。
「タスケテクダサイ!」
近づくつれそれが何か認識した。
「あ、ヌメモンじゃん。」
ついに会えた。苦労した分感動が……。
いや、そんなんでもないか。
追いかけていた黄色いのもなにか分かった。ゲレモンである。
「また、ゲレモン?しつこいわね。」
「ナンダ、オマエジャマスルノカ!」
どのゲレモンかちょっと分からなかったがどうやら喋る子が居るらしい。
こういうのは普通のよりちょっと強いのが鉄則だ。
「ガブモン。気をつけてね。」
ガブモンはキリッと身構えた。
まぁ。実際は大したことなく……。ゲレモン達は倒されたんだけど。
「アリガトウゴザイマス。タスカリマシタ。」
ヌメモンは頭を下げる。
「いえいえ。でも、あなたここに住んでるのでしょ?毎回追いかけ回されて大変ね。」
そう言うとヌメモンは、よく分からない顔をして
「オレガココニイルノハ、ココニアルミズヲトリニキタダケデココニハスンデナイゾ。」
「え?どうゆうこと?」
少し考えてある可能性に行き着く。
ひょっとしてゲレモンとヌメモンを勘違いしてるのではないだろうか?
だから、その違いを知っているミユキさんが探しても会えなかったのかもしれない。
「つまりここに来たのは無駄足……。という訳でもなさそうか。ねえ?ちょっとお願いがあるんだけど。」
「アナタハイノチノオンジンダ。ナンデモイッテケロ。」
その言葉に私はニヤッとした。
「この子が野生のヌメモンちゃんなのね!すっごくいい匂い!」
私は鼻がきかないがあそこにいたデジモンが『一般的な』いい匂いだとは思えないんだけど。
そう思うが口には出さないようにする。
「コレガアワセタイヒトカ。カワッタヒトダナ!」
当の本人もあんなこと言ってるし。
あれから事情を説明して街まで来てもらった。
ついでに、ヌメヌメ平原にはヌメモンは生息してないことを伝える。
「なるほど。この子達とゲレモンを間違えていた……。という訳ですか。全く!街の方々は見る目無さすぎます!」
まぁ、確かに色がかなり違うし間違えるのもどうかと思うが。
そこまでご立腹することもないと思う。
私が呆れているととりあえず満足したのか一旦ヌメモンを下ろしてこちらに歩いてくる。
「とりあえず依頼達成ですね。さすがわたしが見込んだヌメモン博士。事の真相まで突き止めてくれるなんてあなたに頼んでよかった!」
ヌメモン博士ではないんだけど……。とりあえず喜んでもらえてよかった。
「とりあえずこの子への勧誘は後にして。お礼を渡しませんと。2000bitに情報代を乗せて……。5000bitでいいかしら?」
そういえば写真撮るの忘れてた。まぁ、十分多いしいいか。
私がそれでいいと伝えるとにこにこと5000bit渡してくれた。
「あと、これ。差し上げます。心ばかりのお礼です。」
そう言って渡されたのは携帯のような端末だった。
「それはデジフォンと言ってまだ高価で出回ってませんけど通信ができる。将来では必須になる端末です。もちろん私も持ってますから。今度ヌメモンちゃんの可愛いところをもっと教えて差し上げますね!」
今すぐ着信拒否の設定を教えて欲しい。私はそう切に願った。
もちろんそんなことしたらあとが怖いのだが……。
「それでは、失礼します。ありがとうございました。」
そう優雅に頭を下げた後ミユキさんは去っていった。
あんな優雅な人のパートナーがヌメモンとは。世の中分からないものである。
そういえば……。
「彼女なんであんなにお金持ちなんだろう?」
この後、着ていた服に移っていた異臭がなかなか消えず……。5000bitのほとんどが服代とクリーニング代に消えた。
注意1 本来はトイレを外でさせるとスカモンになるのが大体のゲーム設定です
ヌメモンになるのは育成をサボりまくった場合です。
(詳しくは各自調べてください)
注意2 作中のミユキさんはモデルとしてデジモンストーリー(DS版)に出てくるモブ女性です