「────おい、なんだと?」
報告を受けたイツキは顔を青くした。どうして、なんだってそんなことが起きたというのか。悪い夢でも見てる気分だ。
「それで、無事なのか?」
あまりに予想外過ぎることだ。トウクから報告は受けていた。フォンロンの塔でツバキと合流したことや、一度ユクモに停留すること。
飛行船はユクモを迂回したあとに、当初の通りタンジアから海路の上空を通る形でドンドルマに向かう予定と聞いていた。天候に問題さえなけりゃ、もう四、五日でツバキと合流出来たはずだろう。
「ですから、現在生存者を確認しておりますので……」
報せを寄越したギルドカウンターは、イツキの剣幕に怯えてすらいるようだった。
「なら、死亡が確認されたのは誰だ?わかってる範囲でいい。なあ、わかれよ、あの船には俺の親友と妹が乗ってたんだ」
握り拳がカウンターを叩きつける。
まさか、飛行船が原因不明の攻撃を受け、墜落してしまうだなんて。
エンジンは小爆発のあと炎上し、デッキはひしゃげ、救助が駆けつけた時の現状はあまりに無惨であったという。
「……死亡の報告があったのは……操縦士一名、整備士二名、それと、ハンターの────」
海辺の崖っ淵に辛うじて引っかかった機体は、その壮絶さを物語るには十分過ぎるダメージを一身に受けていた。黒焦げて身元不明となった遺体も海から引き上げられて、現在は身元の確認を急ぐという。
幸いなことに全員死亡ではなく、保護された人間もいる。ただ、遠く離れたドンドルマへは、まだそれが誰であるかの詳細までは届いてなかった。
「生存者はタンジアの協会が保護しています。報告をお待ち下さい」
ギルドカウンターは冷静に努めようと無慈悲にそう言い、取り乱すイツキを窘める。
……どうして、こんなことになったのだろうか。ただ一つ言えることは、飛行船は外部からの干渉により墜落したということだ。これは事故ではなくて事件であった。イツキは悔しくて、もう一度カウンターを強く叩いた。
……………………
「………………ついらく?」
報せを復唱するノイアーが真っ先に疑問に思ったことは、「墜落とは如何なる意味の単語であったか」ということだ。
シドの家で目覚めた彼女は置いて行かれたことに腹を立てたが、そんな怒りどころではどうやらないらしい。
何故なら……
「シドは?」
「ですから……」
「シド、帰って来ないの?」
現場はタンジア付近の崖だと言う。生存者も重傷を負った。
だがノイアーにとって大き過ぎた一つの事実はそれではなくて、もっと悲しく取り返しのつかないものだ。
「シドが、死んだ?嘘でしょ?」
つい昨晩だ。
彼はノイアーを抱き締めて、約束の言葉を口にした。それなのに、なんでこんな笑えない報告を受けているのか。ノイアーの混乱が冷め止まない。
「ねえ、嘘でしょ?」
一体眠ってる間になにが起きたというのだろうか。墜落は午前七時前後であったという。その間に、飛行船で一体何が起きたというのか。ノイアーはなにもわからない。
「残念ながら……」
「じゃあ、シドはもう帰って来ないの?ねぇ、シドは?」
冗談ですよ。全部嘘です。ドッキリでした。
そんな言葉を待ってた気がする。だのに報せに来たギルドスタッフは、そんなお天気な発言などただの一言も発しやしないのだ。
ノイアーは自らの肩を抱いた。そうしていないと、絶望でバラバラになってしまいそうだったのだ。
彼女の脳裏に、たくさんの思い出が駆けてゆく。
シドが、シドが、死んでしまった。
その事実を受け入れるには、空はあまりに穏やか過ぎた。