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ゆっくりゆっくりまばたきをする。瞼の裏には輝かしい若き日が写り出し、目の前の現実と交互に彼女の視界を覆った。浸る追憶は、追憶と呼ぶには鮮やかすぎた。
鼻先が潮の香りを拾う。闇の海上、荒くれどもの海賊船。たった一人、ツバキはそこに乗り込んでいた。決戦まではもう幾許か。
昔の夢を見た。それだけだ。それだけのことで、泣いてしまいそうになる。まばたきの間に、追憶は彼女の頭に流れる。
……泥濘んだ草木の生い茂る原生林で、あの時ダラハイドは彼女に言った。
〝悪かった、お前に被弾させた〟
あの時から、彼は自分を守ることをまるで役割のように思っていたのかもしれない。極限化した幼いラージャンが、放った気功を防げなかったことを口惜しそうな顔だった。
戦いは自己責任だ。なのに思えばいつしか、彼は彼女を守ろうとその剣を振るってた。
霧の立ち込める深夜の海で、船上の彼女は風を聞く。前を行くもう一隻の海賊船が、その側面から火を吹いた。飛来する黒きリオレウスに、大砲を放ったせいだろう。
あの日から、ずっと共だった仲間達はもう居ない。
無鉄砲な剣斧使いも、その剣斧使いをいつも心配していた太刀の男も。そして、彼女を守ると大剣を背に傍にいたダラハイドでさえ、もう隣で笑ってくれない。
潮風に髪を靡かせて、狂い続けた運命の根源を彼女は睨む。闇色の空で、何より黒い竜が飛んでる。先に応戦を始めた船に続いて、彼女の乗る船もまたバリスタの標準を合わせ始めた。船長が大声で指示を出す。
直後に轟音が響き渡った。
一瞬、暗闇が真昼のように輝いたのだ。熱風が前髪を逆立てる。まばたきの間に、前の一隻がごうごうと業火に焼かれていたのだ。
「やりやがった!」
誰かが叫んだ。リオレウスが火を吹いたのだ。マストが斜めに倒れてく。木材の焼ける匂いが立ち込める。一隻を焼き払ったリオレウスが、ツバキ達の乗るもう一隻の方を向く。しかし、追撃は終ぞ来なかった。黒きリオレウスはツバキをまじまじ睨んでいたのに、攻撃することもなく、再び空高くへと距離を取る。
「誘導か?」
顎髭を撫でながら船長は言った。
「かつてない動きだ。本当に〝あいつ〟と知り合いなんだな。今までは、容赦なく攻撃してきて手に負えなかったが……」
「……」
彼女は多くを語らなかった。思い出は、たくさんある。目を閉じれば、昨日のことのように思い出すのだ。初めて一緒に戦ったのはザボアザキルで、その次にはバギィの群れを撃退した。
ひょんなことから合流したシドとノイアーは、セルレギオス戦を機に打ち解けた。その後、極限化したラージャンに辛勝したことで、四人に絆が芽生えたのもよく覚えてる。
四人で肩を支えあい、僅かな回復薬を分け合いながら帰還した。ようやっとユクモに着いた時には、旧友のようにみんなで酒を飲んだのだ。
「……あれは、私の人生の黄金時代だ」
彼女は闇色の空を睨む。失ったものが大き過ぎた。ここまでの喪失でなかったなら、また、笑い合えたかもしれないのに。
ユクモに着いて、それで、みんなでG級に行こうと誓った。まるで黄金のように輝いている、人生でもっとも気力に満ちた時期があったのだ。
「だから、殺しあうのも私の役目だ」
彼女の目は冷徹だった。それは、洪水のように溢れ出る、輝かしい思い出を振り払いたい故かもしれない。
それだけ、仲間との日々は彼女にとっての幸せだった。