キグル・ミッミ ~着ぐるみの聖戦士伝説~   作:ないしのかみ

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〈1〉

「がおっ」

 

 キグル・ミッミが吠えた。青い怪獣の着ぐるみを纏った冗談の様な姿で、本物の怪獣みたいな口調で強獣に対抗して大口を開けている。

 

「《ガザミ》に近づきすぎだ。鋏に捉えられるぞ!」

 

 上空を舞う《グラム》の操縦席でドリン・エッダが叫んだが、閉鎖されたコクピットの中だから果たしてその声がミッミに届いているのかは自信が無い。

 オーラ・ノズルを調整して強獣の上を一航過する。人型をした巨人騎士は低空を舐めながら通過後に、くるりと反転して両手の鉈を構える。

 

「キグル……」

 

 ミッミが溜めの姿勢へと入った。腰を落として両手を腰の位置まで引く。

 強獣《ガザミ》の巨体を前に、それは単なる着ぐるみ少女の蟷螂の斧にしか見えない。

 

「……パーンチっ!」

 

 電光石火の一撃が放たれた。目にも留まらぬストレートパンチは《ガザミ》が振り下ろそうとしていた巨大な鋏を粉砕し、甲殻類の胴体をあっさりと貫通してしまった。

 

「ああ、これだから聖戦士は」

 

 ドリンは呆れていた。自分達コモンが機械を使ってようやく対等とも言える強獣を、着ぐるみ姿の少女が腕を振るうだけで退治してしまうのである。

 

「姫様。トドメを」

「了解した。あれも貴重な原料だ」

 

 状態の悪い無線からの乱れる映像に応え、ドリンは何が起こっているのか理解不可能だが、身の危険を感じて逃走する《ガザミ》に狙いを定める。

 

「お前は貴重な《タンギー》になるのだ」

 

 片刃の斧を振りかざし、強獣の甲羅へ刃を入れてひっくり返すと待ち構えていた歩兵部隊が、比較的柔らかい腹部に弩弓(バリスタ)の毒矢を打ち込む。

 腹部には孔が開いてしまうが、どの道もあそこにはオーラ・キャノンの旋回砲塔が設置されるから惜しくは無い。必要なのは甲羅なのである。

 

「やはり効くな」

 

 《シガラ》の毒は大した物だ。暫く暴れていた《ガザミ》は口から泡を吹いてひっくり返る。ふうと汗を拭うとキマイ・ラグの装甲板の向こうに、きらきらと浮かぶ人影があった。

 

「わーい」

 

 キグル・ミッミだった。着ぐるみの背中に《リーンの翼》が光っている。認めたくは無いが、これが彼女を聖戦士と認めざる得ない証拠なのだ。

 

「助かるよ。これで三匹目だ」

 

 コクピットの正面を開き、キグル・ミッミに声を掛ける。ミッミの方は明後日の方を向いていたが、空に現れた一団を発見して指を指した。

 

「あ、オーラ・マシンだね」

 

 エッダ家の館《ビスコンテイ》から、オーラ・シップ《マルムーク》を含む最後の一団が飛び立って行く。《ナムワン》級に過ぎない旧式だが、エッダ家の旗艦である。

 

「父上が出たか」

 

 主力の出陣だった。旗艦を先頭に虎の子の《ビアレス》と数騎の《ドラムロ》、そして多数を占める《タンギー》の群れが続く。

 

「お別れは言ったの」

「昨日の晩餐で既に済ましてある。別れとかの式典を司るのはリリィ姉の仕事だ」

 

 自分よりよっぽど大人びた姿を浮かべる。歳は僅かに二年だけ年上なのだが、貴族の姫君としては遥かにそれしい雰囲気を持った上品な女性だ。

 

「ナの国に行くのだな」

「ミッミも行きたーい」

「止めとけ、戦で死ぬぞ」

 

 クの国の巨大戦艦《ゲア・ガリング》に乗り組みを命じられ、家の一級戦力を引き連れての参戦戦だ。艦内工房の一翼も担うらしく、熟練の工人もごっそりと引き抜かれている。

 おかげで留守部隊にはろくなオーラ・マシンも残っておらず、居残り組の技術者も若い連中ばかりである。

 

「さて、《ガザミ》を運ぶぞ。こいつもすっかり作業機だな」

 

 ドリンの《グラム》は膝を折り、仕留めた巨大な蟹を抱えたのだった。

 

             ◆       ◆       ◆

 

 数日前、居城《ビスコンティ》の謁見室。

 

「ビショット殿の助勢か」

 

 マイゼン・エッダは呻いた。半ば強制とも言える命令に近いが、これを拒否する事はクの国の豪族であるエッダ家には無理に近かった。

 当家は一応はクの国の国主であるハッタ家の家臣なのだ。序列は遥かに下位と言えど、古くからの家臣であるのには間違いない。

 建国時のガロウ・ランの掃討戦なんかでは、首代を挙げた事もある。

 だが、それは遙か昔の話に過ぎない。国内では武勇に優れた勢力家なんぞ星の数ほどある。今のエッダ家は下位に近い一豪族に過ぎぬ地方領主であった。

 他の家は既に徴兵され、ナやラウの国へと出兵しているとも聞く。だが、幸か不幸かエッダ家にはお呼びが掛からなかった。

 

「いよいよ、総攻撃なのでしょう」

 

 控えていた娘のリリィ・エッダが意見を述べる。エッダ家の特徴である淡緑色の長い髪がサラリと揺れる。

 

「ふむ。使える物は何でも使え……か」

「《ゲア・ガリング》に搭載するオーラ・マシンを必要としているのでしょう」

 

 先に竣功したクの国の巨大戦艦は膨大な搭載量を誇ると聞いている。

 マイセン自身もこの目で見たが、山が一つ飛んでいる様な偉容であった。噂のアの国のウィル・ウィプスとてこの前では霞んでしまうだろう。

 もっともその為にクの国の国力は目に見えて低下している。各種オーラ・マシンの大領産もそうなのだが、大国である国家の経済力は軍事費の増大で疲弊し、税収も落ち込んでいた。

 

「ナの国を征服すれば、低下した経済も元に戻ると言っていますが……」

「ビショット殿は甘い」

 

 壮年の領主は断言した。

 

「は」

「ナの国とて膨大な戦費を消費しているのだ。仮に我々が勝ったとしても、占領した大地に金目の物が残っている物かよ。アの国とは違うのだ」

 

 確かに下克上でアの国を我が物としたドレイク・ルフトは、その国力を我が物とした。

 だが、アの国と今度戦うナの国では状況が違う。

 当時のアの国には碌な戦力が存在しなかった。オーラ・マシンも数える程で今の軍みたいに、敵も味方も一度に何十機もの数が出る物量戦ではない。

 一機に天文学的な経費の掛かるオーラ・マシンが造られなかったのだから、その分だけ、国の資本が各地に埋蔵されていると言う話になる。だが、今度の相手は巨大戦艦すら建造した大規模な軍を持った敵なのだ。

 

「実際、ドレイク軍がラウの国で資本を得たとは聞いておらん。今度のナの国攻めに我が国を引き込んだのは、ドレイク軍の息切れが原因なのだと感じる」

「息切れ?」

 

 マイセンは目を閉じた。大戦の一翼に加わるのは武家として誉れだろう。だが、条件が悪すぎる。得られる物は少ないのだ。他国の土地を奪うより、今は自国の富増やすべきだと思うからだ。

 

「うむ」

 

 つまり、ドレイク軍はラウ攻めで力を使い果たしているのではないか?

 調子に乗ってラウに攻め込んだのは良いが、ラウの国王フォイゾンは愚王では無く、徹底抗戦でドレイク軍を迎え撃った。高価なオーラ・マシンも惜しげも無く生産した。《ゴラオン》なる巨大戦艦すら投入した。

 

「惜しくも負けたがな」

「父上っ」

「本音を言えば、俺はフォイゾンには負けて欲しくなかった」

 

 玉座に座るマイゼンは本音を語る。

 今の国王ビショット・ハッタは若き当主だ。先代の王から座を譲られてからほぼ10年。未熟だが、周りの家臣に恵まれて、山国であるクを良く盛り立てていた。だが、若いせいで女癖が悪く、特に隣国の王妃しの不倫すら囁かれ始めている。

 だが、それさえ覗けば国王としての器量はある。隣国のアと同盟を結んだのも先見の明があってこそだ。第三者として巧妙に立ち回っていれば、クの国はこのまま大国としてバイストン・ウェルでそれなりの立場を保てたただろう。

 

「ラウの戦に本格介入しなかったのは、そう言う事だ」

「聖戦士殿が参加しましたが」

「たった数騎だ。もちろん、精鋭部隊だがな」

 

 最新鋭機の《ライネック》やら。切り札とも言える聖戦士トッド・ギネスを含んだ精鋭部隊をカラカラ山岳地帯に送り込んだのは、同盟者として形ばかりの態度を見せる為だと思う。

 クの国はまだ本格的に戦へと介入していないのだ。

 

「フォイゾンが存命ならば、我が国はまだ介入時期を遅らせただろう。国上げての戦争なんぞしている場合では無いからな」

「国内問題でありますか」

「我が国は絶対王制のナとは違う。各地に豪族や小領主が並んで立つ不安定な国だ。表向きは全てハッタ家の配下だが、内部では家同士の諍いは絶えない」

 

 リリィは今、自領と他家との領土争いが起こっているのを思い出した。

 湿地帯で余り領土としては美味しくない土地だが、近年、そこに生息する強獣がオーラ・マシンの原材料として注目を集めて来のだ

 

「ゲル・バッハの争いですか?」

「エッダ領の関心はそこだがな。今はビショット殿の命令から我が家に有利だが、いつ事態がひっくり返るやも知れん」

 

 マイセンは城の外に立つ《機械の館》に目をやるとため息を付いた。

 エッダ家はクの国でも数少ないオーラ・マシンの製造に携わる家なのだ、その分、直属の部隊数は少ないのが、生産に人手が取られた悩みであるが、だからこそ今まで徴兵を免れていた。

 オーラ・マシンを造る家は、単なる戦士を供給する家よりも価値がある。人員を減らしてまで前線に兵を回し、機械の供給を止めるよりは今まで通りに稼働させた方が効率が良い。

 何しろ、前線では一騎でも機械を揃えたいからだ。金を産む鳥を単なる肉として消費は出来ない。だからエッダ家には今まで、前線行きを命じられた事は無かったが。今度は……。

 

「《ゲア・ガリング》。あそこには艦内に工廠がある」

「戦艦内に拠点を移せと」

「ああ、手元に駒がある方が使い易かろう。それに馬鹿みたいに広大な艦だ。国中の戦力を集めても搭載可能だろうて」

 

 無論、それは国内勢力家の監視も兼ねている。

 

「総動員ですか、うちみたいな家にも」

「ここには最低限の戦力を残す。残りは《ゲア・ガリング》へ移動だな。無論、指揮は俺が取る事になろう。リリィ、お前は留守部隊だ」

「父上っ」

「当主なのだ。俺は」

 

 疲れた顔でマイセンは呟く。エッダ家の頭領で責任者。加えて国王に従う人質なのである。

 唇を嚙み締めながら、リリィが外を一瞥する。

 青い空に灰色のオーラ・バトラーが飛んでいる。妹のドリンだろう。マイセンは感心してそれを眺める。

 

「上手いな。俺より機械向きだ」

 

 まだまだ若いと自負していたが、既に三十路を越えている領主はオーラ・マシンを操る術は低いと自覚していた。無論、機械化部隊を結成するに当たり、慣れないながらも自ら操縦桿を握り、一応は操作する事は出来る。だが、まだ15になったばかりの娘の方が技的には優れているのを認めざる得なかった。

 

「ならば、私が……」

「だが、幾ら優れていてもお前達の様な子供を戦地へは出せん」

 

 かつて13で成人して戦場で初陣を飾った者も存在したと言う。しかし、そんな時代は遙か昔の出来事だ。女しか子がいないエッダの家だが、女子を戦場(いくさば)に連れて行く気はマイセンには毛頭無かった。

 

「工人も主力は我々と共に移動だ」

「私も既に17です」

「若いな。リリィ」

 

 懇願する娘に掌をかざして、緑色の頭髪を撫でる父。「機械の館に残るのは見習いばかりになる。まぁ、ここで生産しているのは《タンギー》ばかりだから、若い奴ら中心でも支障はあるまい」と続ける。

 現在の主要産業すらゲア・ガリングに移動すると言うのだ。だが、これは「想定済みだと」とも不満を現すリリィに告げる。

 

「巨大戦艦内にも機械の館はある。ビショット殿はそこで国中の工業力を集め、更に謀反を警戒して、機械技術を持つ我々を監視したいのだろう」

「例の新型機の量産ですか?」

 

 リリィもエッダ家の幹部なのだ。国の機密とて多少の情報は伝わって来る。《ライネック》なる隣国アの国との共同開発機の噂は耳にしている。先日、聖戦士の手で初陣を飾った高性能オーラ・バトラーである。

 

「だけではないぞ。更にその上を行く新型機も試作中らしい」

「《ズワァース》ですか」

「耳が早いな。が、あれは不採用だ。高すぎて数を揃えられん。上はオーラ・ファイターとか言う奴に関心が集まっているのだが、そいつを実戦化したいらしいな」

 

 実物はまだ見た事は無いらしい。だが、アの国から来た地上人がクの国へと派遣され、《ライネック》の量産工程に手を貸しているのは聞いた事がある。彼が持ち込んだ試作機が恐らく、その機体なのだろう。

 

「そいつの開発を手伝わされるのでしょうか?」

「恐らくな」

「こうして考えると、我が家がオーラ・マシンの製作に着手したのは凶と出ましたね」

「言うな。しかし、だからこそ我が家はハッタ家に厚遇を受けてきたのだ」

 

 もうもうと黒煙を上げる機械の館の煙突を凝視し、苦笑するマイセン。

 思えばここまでが長かった。

 

             ◆       ◆       ◆

 

 話を前年に戻す。

 エッダ領郊外にある秘密工場の敷地、成功作、失敗作を問わずに試作機が並べられ、その列戦の中に巨人騎士(オーラ・バトラー)が立っていた。

 

「凄いな。《ドラムロ》は」

 

 一通り、機体の内外を調べたドリン・エッダは驚嘆していた。

 流石はアの国の量産機だけはある。同時に仕入れた《レプラカーン》の方も凄いが、操縦性の素直さから行けば、明らかに分はこっちの方が上だ。

 

「見劣りしますな」

 

 列戦に並べられたオーラ・バトラー《グラム》を見比べながら、爺である騎士団長のギタムが呟く。《グラム》は《ゲド》を元にしてエッダ家が初めて開発したオーラ・バトラーだが、各部の仕上げが《ドラムロ》には及ばないのは明かだった。

 

「モニターの性能が段違いだ」

「そこですか、姫様」

「大切な事だぞ」

 

 《グラム》の通信用モニターは不良品で役に立たない事が多いが、《ドラムロ》のそれは完璧に映る。通信で後方との連絡を取りたいドリンにとって、これは一大事であった。

 

「ライセンス生産とやらをビショット殿は結んだのだな」

「《ドラムロ》」と《ビランビー》の二機種です。残念ながら、《レプラカーン》は除外されました」

 

ドレイク軍でも最新鋭機だからだろう。この《レプラカーン》はハッタ家の契約外の機体で、エッダ家が参考用に輸入した物だ。

 

「《ビランビー》とやらが見当たらないが」

「そっちはゲイン家へ渡っております」

 

 ゲイン家はクの国でも数少ないオーラ・マシン製造家だ。エッダ家と同じ時期にオーラ・マシンの製作に手を染め、ハッタ家の庇護の下、機械化部隊を製造している。

 既にドラムロのライセンスに成功しているらしく、今度の《ビランビー》もコピー生産に成功するだろう。噂ではオリジナルの新しい機体の設計すら進んでいると小耳に挟んでいる。

 ゲイン家と違い、エッダ家は規模も技術も低い。《ドラムロ》を任されたのも、当家の技術が《ビランビー》をコピー出来ないと踏んでいるからだろう。

 この機体の無償提供も、ハッタ家の命令で各種の部品製作を《ドラムロ》のリバースエジニアリングで学ばせ、大量生産を目論んでの話だ。

 

「うちも理論的にはゲイン家に負けないのに……」

 

 脇に立つ《レプラカーン》の巨体を見上げ、ドリンがごちる。

 

「机上の空論。質が低いのよ」

「あ、姉様」

 

 機械の館から姿を現したのは、ドリンの姉リリィであった。妹がお転婆でオーラ・バトラーを駆る武官なのに対し、姉は内向的で技師と言っても良かった。最初はろくな性能を発揮しなかった《グラム》を改良しているのも姉である。

 

「設計だけが良くても、部品が高品位で無ければね」

 

 品質が低いのが泣き所なのである。

 幾ら設計が優れていても、構成する部品の質が低いのなら出来上がった機体の出来映えは芳しい物では無くなる。エッダ家の機体はそんな感じだった。

 先に問題だったモニターの品質が低いのも、筋肉に当たるオーラ・マルスの力が弱いのも、大雑把に造られた部品の品位が問題だった。

 

「今度の《ドラムロ》でそこら辺を改善させるわ」

 

 姉はドレス姿で笑う。妹が甲冑で身を固めているのと違い、普段から領主の姫らしいスタイルを崩さないのが、ドリンにとっては憧れである。

 だが、生来の性格の違いもあり、どうしてもお城の姫と言うより、妹は戦士として駆け回っている活動的なスタイルが好みであった。小さな頃から女騎士として育ったのだから仕方が無いのだが、人は自分に無い物に憧憬を抱く物なのだ。

 

「リリィ様、解体の準備が出来ました」

「ご苦労です。ガモン」

 

 工人の頭、ガモン・ズロワが姉に報告する。その内容に驚くのは妹だ。

 

「バラバラにしてしまうのですか?」

「ええ、部品の精度を上げる為にね」

 

 既にオーラ・バトラーの側には足場が組まれ始めていた。

 エッダ家は主家の命令で《ドラムロ》のライセンス生産を開始する予定だった。上に収める税としてオーラ・マシンをハッタ家へと納入するのだが、今まで納入してきた《ドロ》や《バラウ》とでは、新たなオーラ・バトラーでは構造も複雑さも違いすぎた。

 オーラ・ボムやウイング・キャリバーは構造は単純で、稼働する部分も少ないから品質に拘らなくとも何とかなった。せいぜいフレイ・ボム・アームガンを動かすだけで事は足りるし、こいつで格闘戦をする必要性は低い。

 

「オーラ・バトラーは剣戟をする。

 力の弱い、そして動きの鈍いオーラ・マルスでは対応出来ないわ」

 

 だからこそ、各パーツのの品質向上が課題になる。幸い、ライセンスと同時にアの国からも技術指導が入る予定だが、それでも自前で研究は必要なのだ。

 

「何としても新型のオーラ・マルスが必要となるのよ」

「アの国から教えられるのでしょう?」

 

 不思議に顔をするドリンの兜を、軽くコツンと叩く姉。

 機体から降りたのに、未だヘルメットを被っているのに気が付いたドリンは慌ててそれを脱ぐ。クの国仕様の面貌に支柱が付いた兜を外すと、緑色の髪の毛がばあっと広がる。

 

「素直にアの国が技術提供してくれるのかしら?」

 

 同盟国とは言え、クの国も潜在的な敵国である。無論《ビランビー》や《レプラカーン》も開発に成功し、この《ドラムロ》はやや旧式化した機体だから、素直に技術を迂回してくれる可能医性は高いが、そうではない場合、リスクを見越す必要がある。

 

「昔、《ドロ》を購入した時にオーラ・マルスの原料が判らなくてね」

 

 壊れても部品を自作出来ずに、途方に暮れた事件を引き当いに出した。結局、高価なパーツを全てドレイク領から取り寄せる羽目となる。

 

「ギブン家から技術を買ったのでしたっけ」

「ええ」

 

 今は敵となったギブン家はアの国の地方領だ。

 ハッタ家の配下に入る以前の仲は悪くなかった。オーラ・マルスの製法だけでは無く、オーラ・マシンに関する殆どの基礎技術も入手した父は、それからオーラ・マシンの独自開発に着手した。

 

「曲がりなりにも《グラム》を造り上げたけど、それが吉と出るか凶と出るか……」

「姫様、ビショット殿の配下になったのは仕方の無い事です」

 

 それまで沈黙を貫いていたガモンが口を挟む。騎士団長ギタムも頷いている。

 

「勢力に差がありすぎた。お館様も苦渋の決断でエッダ家の運命をハッタ家に委ねられたのです」

 

 相手は国王。こちらは独立して封土を持つが家臣格に過ぎず、軍勢も遥かに劣る。もし逆らったのなら、たちまち攻め滅ぼされてしまうだろう。

 

「ガモン。それは解っております」

「開始されるだろうラウの国戦に我が家が投入されないのは。我が技術のお陰です」

 

 エッダ家はオーラ・ボムを生産してクの国へ配備していた。戦力の拡充を図るビショット・ハッタは、エッダ家が従軍より生産に優れている特性を理解し、クの国のオーラ・マシン製造をエッダ家に命じて拡大させつつあった。

 この《ドラムロ》も戦力拡大の一環だろう。アの国オリジナルと遜色の無い機体を独自で生産させる為、無償で主家から提供されたのだ。

 

「とにかく、質を高めて誇れる機体を造らないとね」

「《レプラカーン》を調べた所、オーラ増幅器なる部品が特筆される物でありました。これは《ビランビー》にも備わっていますが……」

「ゲイン家に回った奴ね」

 

 ショット・ウエポンから秘密裏に購入した《レプラカーン》が無ければ得られなかった情報である。パイロットのオーラ力を増幅させる物だそうだ。

 

「複製は可能?」

「やってみます。ただ、ラウやナでも実用されていない技術ですから……」

「時間は掛かりそうね」

 

 手探りで進むのには前途多難そうだ。ただ、これまでの経緯からゲイン家に対してエッダ家の地位は低いと感じる。オーラ増幅器の技術が供給されないのも、いざと言う時の謀反を警戒して高度な技術を渡さぬ為なのかも知れない。

 

「他は搭載火器関係が面白いですな。特にオーラ・キャノンとグリネイドは面白い」

「応用が可能なのですか」

「仕組みを調べて、新しく、オーラ・ボムに載せましょう」

 

 ガモンが試作中の新型オーラ・ポム《タンギー》に目をやる。オーラ・コンバーターを搭載して高性能を発揮していると聞く。コンバーターのお陰で単に操縦だけなら一人で可能になり、速度は並みのオーラ・バトラー、例えばこの《ドラムロ》すら越えるらしい。

 四人乗ってようゆく戦闘可能だった《ドロ》に比べ、省力化が可能なのは人材の乏しいエッダ家では朗報だ。

 

「砲の旋回機構は参考になります。地上爆撃用に底部へ載せられますな」

「必要なのですか?ガロウ・ラン相手ならフレイ・ボムで充分でしょう」

 

 リリィの意見はまっとうだったが、ガモンは首を振る。フレイ・ボム、別名火焔砲は《ドロ》が搭載しているナパーム・ランチャーだ。

 燃える水、地上人は石油と称している液体を圧縮点火して撃ち出す火器だ。火球状の弾は命中すると燃え広がり、一定の地域を猛烈な炎で包み込む。《タンギー》にも引き続き四肢に装備されている。

 

「姫様。あれがビショット殿からの注文でなければ、その意見は正論でありましょう」

「確かに、父がケミからの命令を受けていましたね」

 

 今のエッダ家はハッタ家から《ドロ》の生産を請け負い、続けて《タンギー》の新規開発も命じられていた。オーラ・マシンの生産自体は収入になるので構わないが、まだ未完の新型機にまで細かく色々と注文を入れてくるのは、リリィはいささか鬱陶しかった。

 

「主家がオーラ・マシンを使う相手が問題なのです」

「今の仮想敵はラウ、そしてナですが……」

 

 はっと気が付く。

 国力の問題で開戦はされていない。だがドレイク・ルフトに味方している現状では、これらに敵対しているクの国が、戦端を開くのは時間の問題でもあった。

 

「ゲミドゥルで建造している船。それが答えになりましょう」

「相手はオーラ・バトル・シップですか」

 

 各国が建造している巨大戦艦。クの国でもハッタ家が何処かで建造しているらしい。建造先は首都ケミの側のゲミドォル峡谷との噂があるが、確認はされていない。

 

「フレイ・ボムは装甲に対して効果が薄い。ま、ある程度の効き目はありますがね。だから、これからは貫通力と射程のある火器が望まれる」

「だから、対オーラ・マシン戦用の備えがいると?」

 

 ガモンは頷く。「ラウの国も《ゴラオン》を建造していました。ナも恐らく……」と続ける。確かにこれからはオーラ・キャノンが必要になる。

 装甲で砲員を保護する地上砲塔も出現するかも知れない。剥き出しの砲手を焼き殺すだけでは対処不可能な時代が来れば、フレイ・ボムは過去の物となるだろう。

 

「別の形の新型機も必要になるわね」

「《タンギー》の後継機ですか、しかし、我が家にはリソースがありませんぜ」

「設計だけはしておくわ。試作は今の仕事が済んでから」

 

 ハッタ家とは違って開発に人員は割けない。ハッタ家だって本家のルフト家と違い、次々に新型を開発するだけの力は無く、家臣のゲイン家やエッダ家みたいな配下の豪族に生産や開発を担当させ、自身は巨大戦艦建造に特化しているのだが、未だ、自国産のオーラ・マシンで代表格とも言える機体が無いのは、人材の数が明らかに足りないからだ。

 

「ねぇ」

 

 頭と姉が会話している傍らで、不満そうにドリンはオーラ・バトラーの方を向く。

 技術的な事柄は専門外なのである。

 

「解体する前に《レプラカーン》の試運転をしたいのだけど」

「ん、ああ、バラす前に試したいのね」

「火器も撃ちたいわ」

 

 リリィは少し考える。そして「一射だけよ」と判断を下す。火焔砲だけなら威力は把握しているが、《レプラカーン》にはオーラ・バルカンやら多様な火器が付いている。それの威力を知る必要もあった。

 

「やった」

「報告はちゃんと上げなさいよ」

 嬉々として《レプラカーン》のドアをくぐる妹。訊いているのか居ないのか、返事も無くノズルが唸りを上げ始め、やがて紅色の機体が飛翔する。

 

「ほぅ、ドリン様もなかなか……」

「妹は騎士の真似事をしているだけです。行き遅れになれそうで」

 

 《レプラカーン》の動作を観察していた工人の長は感心したが、今年15になる妹にリリィの心配イは尽きない。嫁の貰い手が無くなるのではないかとの危惧だ。

 リリィとて同様の問題はあるのだが、一応、婚約者は決定しているから嫁に行きそびれる事は無いだろう。昔はビショット・ハッタを父は狙っていた時期も有ったが、今はハッタ家の家臣で騎士団長の息子が決定されている。

 

「確かリリィ様の婚約者は決まっておりますが、ドリン様の方は鷹揚に構えても構わぬのでは?」

 

 娘しか後継者の存在しない家だある。だが、長女の婿は既に決定しているのだから、後継者問題は解決している筈であった。多少、行き遅れても問題は無いのではないか。

 

「有力な家と縁を結んで貰わねば困ります」

「手厳しいですな」

「エッダ家の保全の策は多い方が良い」

 

 きっぱりと言い切るリリィ。彼女は婿が入って来ても権力を譲る気は無かった。エッダ家主導のまま、女領主として君臨する予定だったのだ。

 圧力を弱める為にハッタ家が手を回した婚約だが、彼女は他家の傀儡となるつもりは毛頭無かった。事実、婿はあくまでエッダ家の養子扱いになっている。

 

「今は主家には従わざる得ない。しかし……」

 

 婚約は半ば命令なのではあるが、主家の意向に逆らえるだけの力は無い。だが、今は機会を窺う時期であった。その為の手が何としてリリィには必要だったのだ。

オーラ・マシンの生産を請け負ったのも、下請けを引き受けたのも力を蓄える為だ。

  

「姫様」

 

 騎士団長のギタムが割り込んで来た。クの国正式の甲冑姿をした初老の男である。

 

「何か?」

「《ビスコンティ》より通信が入りました。姫様は至急、御館(おやかた)にお戻り下さい」

 

 (ビスコンティ)はエッダ家の城館を指した別名である。この秘密工場からは数リル離れている。見る間に妹のオーラ・バトラーが着地をし、コクピットから飛び出したドリンが慌てて《グラム》の機内へ駆け込むのが見えた。

 

「呼ばれているのは私だけではない様ですね」

 

 リリィの脳裏に『何かあったな』と勘が告げる。

 

「ガモン殿と拙者も含めてです。ドリン様にも招集が掛かっております」

「ドリンも《レプラカーン》で行かない分別はあるみたいですね」

 

 飛び立つ《グラム》を確認しながら指示を出す。秘密裏に購入した《レプラカーン》で館に乗り着ける愚は犯せない。それが人里離れた僻地の工場がある意味だ。馬車では間に合わないと察して、随伴させていたオーラ・ボム《ドロ》を急遽用意させる。

 武装も取り外した作業用だが、連絡艇として使うのだから支障はあるまい。これならば数分で《ビスコンティ》へ辿り着けるだろう。

 

「出しなさい」

 

 作業班を残したまま、呼吸音を残してオーラ・ボムは空中へ舞った。

 

 

〈続く〉

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