キグル・ミッミ ~着ぐるみの聖戦士伝説~   作:ないしのかみ

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キグル・ミッミ三回目です。
舞台はクの国の田舎、とゆーかパイストン・ウェルでクの国って全然舞台にならんのですよね。地方領主同士が群雄割拠してるのを、どうにか統一している設定です。
ドレイク領とギブン領みたいな激しい争いがあったのを、ビショットが各地を平定しているので、もし、その重しが取れたなら……


〈3〉

             ◆       ◆       ◆

 

 前年にそんな事があった記憶が、リリィの回想として流れる。

 一年で様々な事があった。ドレイクがミの国をの制圧し、アの国をも下克上で平らげ、大国であるラウの国にまで侵攻した目まぐるしい戦い。

 オーラ・マシンの製造技術も世界に拡散した。

 ルフト家、ギブン家、エッダ家他、数家だけが所持していた機械の技も、今や世界中に広まっている。

 

「ラウの国の《ボゾン》。ナの国の《ボチューン》か」

 

 ドレイク軍に匹敵する生産量を誇るオーラバトラーを口にする。ギブン家の《ダーナ・オシー》から発展した機体だ。それなりの性能を持ち、我が家が生産する《ドラムロ》に比肩、或いは凌駕する性能を発揮していた。

 

「あ、ここにいたんだ」

 

 キグル・ミッミがひょいと顔を出す。いつのまにか《ビスコンテイ》に帰還していたらしい。

 主であるマイセンが去り、がらんとした謁見の間でリリィは振り返る。

 父は《ゲア・ガリング》へ行ってしまい、現在は主な家臣も残らず消えている。

 

「ミッミか。ナの国戦で父上は無事に帰ってくるだろうか」

「《ゲア・ガリング》って、でっかい船だよね」

 

 クの国の総力を挙げた巨大戦艦、いや、機能的には艦載機の搭載数を重視した空母的な艦だ。内部に入った事は無いが、外から見てシルエットがミッミの知る故郷の船を思い出す。

 

「あれって《バイラル・ジン》みたいだから、きっと大丈夫じゃないかな」

「また。良く分からん単語を……」

 

 時々、この聖戦士は理解不能な単語を使う。

 

「あたしの船より大きいから、多分、生き残るよ……が、あれを使わない限り」

「オーラ・シップに乗っていたのですか」

「うーん、オーラ・シップとはちょっと違うかな」

 

 ミッミは小首を傾げた。ミッミの船はサイズだけならオーラ・バトルシップ並みらしいが、それと比べても《ゲア・ガリング》の方が大きいらしい。

 

「宇宙……って、。ペンタゴナ・ワールドならすんなり理解出来るけど、バイストン・ウェルの観念じゃ難しいかな」

「宇宙?」

「そう、あたしのはそれを渡る船」

 

 ぶつぶつと訳の分からない独り言を呟く怪獣着ぐるみ娘。そこへ飛んで来るミ・フェラリオと妹のドリン・エッダ。

 

「強獣の運搬は終わったわ」

「ご苦労様。ドリン」

「あたしも居るわよぅ」

 

 不満を浮かべてくるくるとリリィの周りを飛び回るシルフィール。回転でピンク色のフリル付きレオタードがふわりと広がる。

 

「《ガザミ》を三匹仕留めた。言われた通り、《ポラポラ》の方は仕留めなかったけど、本当に構わなかったのか」

 

 ドリンが兜を置きながら問う。相変わらず色気も何も無い甲冑姿である。

 

「需要が無いから生産を切り替える予定よ」

「時代は《ドロ》から《タンギー》か。まぁ、オーラ・バトラーに匹敵する高性能機だしねぇ」

 

 甲殻類型の強獣《ガザミ》は《タンギー》の主な素材だ。対する《ポラポラ》は陸棲の貝類で、比較的に捕らえ易く、オーラ・ボム《ドロ》の外殻を形取る装甲材でもあるのだが、最近は目に見えて需要が減っている。

 

「《ポラポラ》の方が動きが鈍いから、簡単なんだけどねゃ」

「《ドロ》を元にした新型機を開発する予定よ。中身は全く違うけど」

 

 リニューアルして資源を有効に活用するらしく、開発部が頑張っているらしい。エッダ家の主な産業はこうしたオーラ・ボムの生産なのだ。

 

「以前から、父上が構想していた奴ね」

「ミッミのアイディアもあるよ」

 

 ドリンの台詞に何故か、ミッミガ口出しして来る。リリィは、首を振り、「あれとは別物」と否定する。父であるマイセンの考えた機体は時期尚早ではないかと個人的に思うからだ。

 

「えーっ」

「残念がらないの。今、必要なのは安価で強力なオーラ・ボムよ」

「バトラーの方が格好いいんだけどな」

 

 騎士の立場から妹が述べる。オーラ・ボムは人型をしていないので、見栄えの点でどうしても映えないのだ、威風堂々、領民に騎士として見栄を張りたいのならオーラ・バトラーの方が望ましかった。

 

「どう考えても下級兵士用だから」

「それでも、当家の担当がオーラ・ボムになったから、注力しなきゃ」

 

 騎士が乗るのには相応しくは無い。だが、リリィの次期領主としての立場からすると、安価でも同程度の戦力が得られるオーラ・ボムの大量配備は魅力的だった。騎士には悪いがそれだけ経費が節約出来るからである。

 現に《タンギー》なら、より高価な《ボゾン》でも対等に戦える。《ドラムロ》よりも対費用は明らかに上だった。

 オーラ増幅器を持った機種だとやや苦しいが、射撃戦に徹していれば負けないと思う。昨晩聞いたオーラ・ファイターなる新型機も、自分の考えと同じく射撃戦メインの機体だと知り、自信が深まっていた。

 

「ゲイン家みたいにオーラ・バトラーを造らないの?」

「国王陛下が決めた事だからね。エッダ家にはオーラ・ボムの生産を命じるって」

 

 若き国王ビショット・ハッタは聡明な男だ。無論、女に弱い欠点はあるが国の舵取りに関しては満点とは行かなくても、ほぼ合格と言って良い政治力を発揮していた。

 その男が前王からクの国を支配下に収めた時、軍と経済を武器に従う豪族達を操って国の支配体制を固めていた。

 国内の支配力を強化した際、各地で燻っていた地方領主達の政策に介入し、国内での乱れを国外に向けて発揮そせる様に調整した。

 ドレイクのルフト家から独自にオーラ・マシンの技術を買い入れて争っていた家同士に「クの国軍を造る為に協力せよ」と持ちかけたのもこの為だ。

 

「よって、クの国の主力機はゲイン家の《ビアレス》。我が家の《タンギー》に集約されたけど」

 

 その他の家で独自開発していた機体は、軒並み製造が停止されてしまい、部品の委託生産が課される事となる。「我が国に、何機種も違う機体を生産出来る余裕は無い」との話だが、いきなり《ドラムロ》の部品だけを生産しろと命じられるのは不本意だったと思う。

 

「それだけ独自の戦力の保有を危惧したんでしょうね」

「手足を造ってる工場が、反乱を起こすのは無理だしねぇ」

 

 多くの家に完成品を造らせないのが、ビショットの政策だった。分業化させて首都であるケミの城へと部品を納入させる手が取られたのである。

 勿論、部品はケミの城で組み立てられてオーラ・マシンとなり、クの国全体へと供給される。こうして戦力の分配をビショットは握ったのだ。

 

「《グラム》の開発停止は痛かったよ」

 

 半ば恨みを込めてドリンが囁く。《グラム》はエッダ家が開発したオリジナルのオーラ・バトラーだが、《ドラムロ》のライセンスと引き替えに開発を止められてしまった。

 最初は全く動かない様な欠陥機だったが、徐々に改造を進め、ある程度まで実用化が見込めた時に開発が中止されたので、今は作業機として館で働いてる機体だ。

 

「ゲイン家の《ビアレス》みたいに売り込めれば」

「無理よ」

 

 リリィが妹の発言を一刀両断する。そのまま玉座に近づいて行って、つるつるした石製の表面を撫でる。父が座っていた椅子だ。

 

「ゲイン家の研究はエッダ家の先を行っていたわ。《ビアレス》も膨大な基礎研究の上に創り出された機体。あたしの《グラム》じゃ太刀打ち出来ないわ」

 

 今の《ビアレス》は《ビランビー》の技術が使われているが、それ以前の機体とて。エッダ家の技術では敵わない完成度だった。自分が設計者だったから、それは痛い程理解している。

 

「技巧的に追いついたのは最近よ。あたしにはオーラ・バトラー設計の天賦の才が欠けてているのかもね」

「姉様」

「《ライネック》の生産もゲイン家中心だし、我が家はオーラ・ボムに活路を見いだすしか無いのよ。ミサイルポッドだけじゃ戦えないからね」

 

 分担として《ライネック》のミサイルポッドだけは下請け生産している。オーラ・マルス関連の手足とか担当したいのだが、新型機だけに生産は許可されていない。

 重要な《ドラムロ》の頭部とかを生産許可が降りたのも、最近の事だ。

 エッダ家はオーラ・ボムに生産を集中しろとばかり、注文は《タンギー》や《ドロ》ばかりだ。もっとも、最近では《ドロ》の注文は絶えている。さすがに売れなくなったからだ。

 

「悔しいですね」

「まだ丸ごとオーラ・マシンを製作しているだけ、マシよ」

 

 四肢の一部だけ、コクピットだけ、オーラ・コンバーターだけを許されている家も多い中、エッダ家はオーラ・ボムを完成品の形で納入するのを認められていた。

 これは当家が《タンギー》を開発した功績からで、オーラ・バトラーは生産が許されないが、オーラ・ボムは開発・生産を認められたからだ。

 まぁ、仕組みが単純なオーラ・ボムまで、細部に分散して造り上げるのは非効率との考えもあるかも知れない。もっとも《タンギー》は《ドロ》に比較して遥かに複雑なのだが、《ドロ》を基準に考えられた決定なのだろう。

 

「助かっているわ。オーラ・バトラー製作は禁止されちゃったけどね」

 

 度々登場するゲイン家に、対抗する意味で始まったオーラ・マシン製造だが、向こうもハッタ家からの圧力で完成品を造れない事態に陥っている。

 部品状態で製作された部分完成品はケミ、今は《ゲア・ガリング》に送られ、そこで組み立てられて完動品となるのだから、新規にオーラ・バトラーは購入するには主家の許可が必要となる。

 対して、エッダ家はやろうと思えば《ドロ》だの《タンギー》を配置可能だ。無論、やらないが潜在的な圧力にはなる。

 

「広いねーっ」

 

 キグル・ミッミが謁見の間を見て呟く。

 領主も重臣も丸ごと旗艦へ引っ越した為、今の《ビスコンティ》の人口は希薄だった。機械の館には人が残っているが、見習いを中心とした若手だけだ。熟練工は全て領主が引き連れて行ってしまった。

 

「リリィ様、入ります」

 

 人が消えただだっ広い室内にそんな声が響いた。領主の長女は擦っていた玉座に座ると、「入れ」と宣言した。ややあって正面の扉が開く。

 

「ユイゲンか」

「はっ、騎士団長ギタムが長子、ユイゲン・ドラージュであります」

 

 玉座の前で畏まる若き騎士。留守部隊の隊長格に抜擢されていた筈だ。歳は確かリリィと同い年の17だったか。実戦経験はガロウ・ランとの小競り合いが数度で、全くの素人では無いがオーラ・マシン戦では皆無だった気がする。

 

「この度、父より留守部隊の長に任命されました。領主代行にお目通りすべく……」

「ご苦労」

 

 長ったらしい挨拶をリリィは制止させた。

 

「誰も居ないんだから、形式や礼儀に拘る必要は無いわよ」

 

 ドリンもそう言いつつ、どっかと床に座り込んだ。視線の先には「わーい」とフェラリオと追いかけっこする着ぐるみ少女か居る。脚を投げ出す。

 

「はぁ」

 

 腰を落として腕を前に回して礼をしていたユイゲンが立ち上がる。

 

「では略式にさせて頂きます。騎士団の方は総員24名です」

「少ないな」

 

 リリスがドレスの裾を直しながら嘆息する。無論、これは騎士の位を持った人員の数でで兵士では無い。実質的にオーラ・バトラーに騎乗可能な人間だ。

 

「ベテランは全て御館様が引き連れてしまいましたので、予備役を含めてです」

「今、使えそうな機体を申せ」

「《グラム》を含むオーラ・バトラー三機。オーラ・ボムが二機です」

 

 殆どは出陣してしまったのだろう。《グラム》みたいな旧式機と《ドラムロ》に、騎士団長用の《ビアレス》が残るのみ。

 オーラ・ボムに至っては、引き取り手もない《ドロ》だけという始末だ。

 

「ガロウ・ランが攻めて来たら対処は出来るか?」

「問題ありません。数日中に、今、仕上げている《タンギー》が使えると思います」

「完成次第、《ゲア・ガリング》に至急送れと命令されてるけどね」

 

 ドリンのぼやきの言が入る。戦力増強を急いでいるクの国は一騎でも多くのオーラ・マシンをかき集めており、生産した機体は直ちに軍へ納入する必要があった。

 造っても使い道が見当たらない《ドロ》を除けば、エッダ家の機体は完成直後に買い取られて行く状況が続いていた。

 

「実験機があるじゃん」

 

 転げ回ってたミッミが、突然それを口にする。

 それは戦力にもならない、オーラマシン《ピグシー》の改造機だった。ミッミと領主のマイセンが趣味で実験してる様な奴で、空も飛べないし強くも無い。

 アの国には楯を付けて騎兵用ら強化した機体もあるらしいが、有用性は《ドロ》にも劣っていた。

 

「戦力外」

 

 そっけなく騎士姿の姫が言った。

 

「可愛いのになぁ」

 

 残念そうにミッミは呟くが、セミの幼虫みたいな姿は確かに愛嬌があるものの、坂念だが領内警備にも使えまい。伝令としてならかろうじて役に立つ位か。

 

「ここがゾラだったら……。うちだったら偵察用に活用するんだけど」

「何の話?」

「んとね。ガダッカ。いや、レッグかな」

 

 ドリン問われ、何だが訳の分からぬ単語を返すミッミ。

 

「大変です!」

 

 そんな時にノックもせず、兵が謁見の間に駆け込んで来た。

 ユイゲンは「リリィ様の前だ。控えよ」し命じ、息を切らせていた兵を落ち着かせると玉座に座っていた姫が「申せ」とおごそかに口を開く。

 

「はっ、本隊との定時連絡が取れません」

「な」

 

 今朝、向かったのを含め、本隊はエッダ家の戦力のほぼ全てだ。

 

「《ゲア・ガリング》に連絡は?」

 

 ビショットの命令で無線封鎖しているかもとも考えるが、ドリンは尋ねてみた。

 首を振る兵士、それだけでなく「オーラ・マシンが消失しました」とのとんでもない続報がもたらされる。

 

「消失ですって」

 

 その報告にドリンは立ち上がる。バタバタと表から誰かが走って来る音がする。開け放したままの扉から、数名の男女が飛び込んで来る。

 

「姫様、侍女長のマイアでございます」

「何事か」

 

 慌てた風情を察してリリィが居を正して睥睨する。留守の間は領主代行で責任者なのだ。動揺はしていたがおくびも見せずにどっしりと構えて、平然とした態度を装わねばならない。

 

「夫が消えました」

「消えた?」

「庭に駐機していた《ドロ》と共に」

 

 確か、留守部隊に残されていた数少ないオーラ・マシンだ。連絡機に改装して戦闘力はほぼ無かった機体だが、それが消え失せたのか。

 

「光と共にハルカンが……」

「詳しく申せ」

 

 だが、そこまで話すと、侍女長はわっと泣き崩れてしまった。

 ハルカン、《ドロ》の艇長であの若き兵士だったなと思い出すドリン。結婚していたのかと泣き崩れる女を見て思う。

 バイストン・ウェルの結婚適齢期は若いから、結婚していてもおかしくは無い。

 

「代わりに報告しても構いませんか?」

「クタニか、申せ」

 

 先の兵士が口上を述べ始める。それを聞きながら、リリィの顔が段々強ばって行く。

 臨時に集結した会合は一旦解散となる。

 本来、留守部隊が今後の方針を決定すべき為に、暫く間を置いて会議を招集する予定だったが、この異常事態ではそうも言って居られず、会議室に残余の家臣を集め、臨時の会議が直ちに開始される事となった。

 

 

〈続く〉




一応、ビショットは「有能な国王」と設定してます。確かにルーザが居なかったら有能だったかも知れません。
こいつを主人公に転生する話も構想していたんだけど、今回はパス。タグの「富野アニメ」がそろそろ現れるかな。
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