キグル・ミッミ ~着ぐるみの聖戦士伝説~   作:ないしのかみ

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ミッミ第四弾です。
彼女以前はゾラに居ました。
でも。ジロンだの《ザブングル》とか《ウォーカー・ギャリア》とかには全く関わってません。常に脇役ポジです。
着ぐるみで《レッグ》に乗って吠えてたのかも。



〈4〉

             ◆       ◆       ◆

 

「そっちへ行くよーっ」

 

 庭に面したバルコニーからミッミが叫んだ。

 すたっと欄干を乗り越え、着ぐるみ姿の少女が飛ぶ。背中に半透明な羽が生えているとは言え、余りにも自然に空中を浮かびながら、両足を揃えて地面に着地した。

 

「えへへ」

 

 自慢げな顔で笑顔を見せる聖戦士。傍らに桃色の角が生えた頭部を抱えている。

 青と桃色の着ぐるみ怪獣を眺めながら、私服に着替えたドリンはため息を付いた。

 

「悩みが無くて良いな。ミッミは」

「悩んでるの?」

 

 ドリンは視線を聖戦士から前方に移す。

 

「会議から追い出されたんだ」

「ミッミもそうだよ。一緒だね」

「お前と一緒にするな」

 

 吐き捨てる様に呟く。ドリンもミッミも今後の方針を決める為には不要と判断され、密室から閉め出されたのである。

 

「領内のオーラ・マシンが全て放逐された」

「うん、そうらしいね」

 

 その言葉に完成間近のオーラ・ボムを見ながら、ミッミガ応じる。突然、乗組員も含めてオーラ・マシンが全て消え失せたのは事実だが、例外もある。

 オーラ・コンバーター、もしくはオーラ・エンジンとも言える動力源を入れていない機体は除外された。未完成の機体、もしくは部品状態のパーツは排除されずに残ったのだ。

 

「作りかけの《タンギー》が二騎。いつ出来るのか」

「他家もあるんでしょ」

「完成品を造れる家は少ない」

 

 隣のゲイン家だ。まだ密偵は情報をもたらしてはいないが、こちらと同じ状況なら向こうの家の方がやや有利だろう。何しろオーラ・バトラーを製作可能なのだ。

 

「でも若手しかいないよ。工房もお引っ越し中だったから」

「向こうも同じだと思いたいな」

 

 熟練工は《ゲア・ガリング》へ行って、そのまま行方不明である。クの国は配下の家に同様の命令を発していたから、隣のゲイン家も同じだとは思いたい。

 

「父上達が戻って来れば、事は収まるんだけどな」

「この世界から消えてなけりゃいいね」

 

 ミッミの一言に戦慄が走る。どこかへ転移したのは理解していたが、それも同一世界での出来事かと理解していたからだ。

 

「何だって」

「ミッミだって別の世界から、バイストン・ウェルに放り出されたんだよ」

 

 左利きの手でぽりぽりと頭を掻くミッミ。

 

「地上と言う観念があるから、自分とは違う世界があるのは理解出来るだろうけど……」

 

 自分を例に挙げて平行世界に移行したのを説明しつつ、着ぐるみの手が動きを止める。手を口の前にかざして、ふっと息をかける。

 

「平行世界」

「うん。良く、地上人だと思われてるけど、ミッミは地上人じゃ無いんだよ」

 

 以前、トッド・ギネスと呼ばれる聖戦士と話した事があり、彼の言う地上界とミッミガ生まれた世界との差異に驚いた事がある。

 考え方、文明の違いはミッミの地球とはまた別の世界に近かった。

 

「どっちかと言えば、ゾラだったな」

「何だ?」

「前に転移した世界の一つだよ」

 

 それは広大な荒野とガソリンの揮発油の匂いが漂うた世界だ。 

 聖戦士はかつて闊歩していた世界を思い出していた。あれは何番目の世界だったろうか?

 

「そう言えば、ジャコバ・アオンが世界を憂えているとの噂があったが……」

「フェラリオの偉い人だっけ」

「ああ」

 

 ふーんと頷くとミッミは尻尾をバタバタ振る。

 どんな仕組みなのかは知らないが、背から尻尾までずらりと桃色の角が生えた着ぐるみは、ミッミの意志に反応して自在に動けるらしい。背中にある《リーンの翼》がどんな風に作用しているのかも判らないのと同じく、そんな物なのだろうと納得するしか無い。

 

「機械によって世は乱される、とか言ってたらしい

「有ろうが無かろうが、世は乱れて平静となり、また世は乱れるモンなんだけどね」

 

 地球の歴史を思い出しながら、ミッミが述べる。

 このまま行けば、誰かがバイストン・ウェルを支配するだろう。それがドレイク・ルフトなのか、或いはビショット・ハッタなのかは知らない。もしかするとナのシーラ・ラバーナか、ラウのエレ・ハンムなのかも知れないし、第三者、例えばリの国の聖戦士と呼ばれる男なのかも知れない。

 

「それで良いんじゃない?」

「エ・フェラリオが介入したのを否定するのか」

「うん。歪んでいる」

 

 人為的な力で流れに介入するのが良い方法なのか、オーラ・マシンは確かに世界を変えたが、変わったなら変わったで、その流れを見守るべきだろう。

 地上人を呼び寄せたのに端を発するなら、その時に素早く行動しなかったのに責任がある。即座にオーラ・ロードを開いて送り返せば悲劇は抑えられた筈だ。事態がここまで進行した時、ようやく対処するなんて不手際だろう。

 

「この件は、ジャコバとか言うおばさんの我が儘だね」

「我が儘?」

「事態を放置した挙げ句、手に負えないと見るやオーラ・マシンを無責任に放逐したんだよ」

 

 珍しくミッミが語気を荒げている。

 

「転移させられた世界の事とか、おばさんは知らんぷりで、部屋のゴミを他所に叩き出してすっきりしたと思い込んでるだけに見えるんだよね」

「無責任だと……まぁ、他にも理由があるかも知れない。このままだと世界が滅ぶとか」

「世界が滅ぶとでも言うなら少し考えなければならないけど、それは推論じゃん。だいたいオーラ力は、あれと違って意志を持たないんだしね」

「何だ、それ」

「この世にあってはならぬ力だよ。意志を持っていないなら、制御可能なんだと思うよ」

 

 ミッミはそう言って立ち上がった。そのまま機械の館の方へ歩いて行く。

 前庭では半分組み上がった《タンギー》が置かれている。まだ四肢は付けられておらず、武装も未搭載で大勢の工人が取り付いて作業をしている。

 

「聖戦士殿」

 

 ミッミに気が付いた工人の一人が、手を休めて彼女の方を見た。

 手許のガラスケースに液体で満たされた繊維の束がある。オーラ・マルスと呼ばれる部位でマシンの稼働部分に使われる筋繊維だ。強獣の何かを移植した物で、多分、筋肉か何かなのだろうが、詳しくは知らない。

 最初に《グラム》を製造した時、何度も作成に失敗した部品だ。今は城の裏手で養殖していると聞くが、城の裏手は沼だった気がする。

 

「ご苦労さん。完成予定は?」

「コアさえ揃えば……。あ、《ピグシー改》の組み上げは終わっています」

「ん」

 

 頷くと改めてドリンへ向き直る。《ピグシー改》は改造オーラ・マシンで、文字通り、騎兵が使用していた《ピグシー》から発展した機体だ。ミッミの提案で作られたと聞くが、地を走るだけの騎兵が、今時。ドリンには役に立つとは思えなかった。

 だが、父のマイセンはこれの研究に熱心だった。浸透戦術とか言う、ミッミがもたらした訳の分からぬ新戦法に最適らしいが、大したリソースも要らないので放置していた趣味の機体だった。

 

「これがドリンの次の愛機になるね」

 

 そんな声がした。赤い機体の表面を撫でる聖戦士が発した言葉だ。

 

「何だって」

「オーラ・マシンがこれしか無いなら、当然でしょ」

 

 にやにやと笑っているミッミ。「それとも《ピグシー》に乗るの?」と問われて、ドリンは頭を左右に振った。

オーラ・ボムの艇長は嫌だが、吹き曝しのセミもどきに乗るよりはマシである。

 

「う、でもオーラ・バトラーだってあるんだろ」

「分解された《レプラカーン》? 組み上がるのかなぁ」

 

 あの機体はバラして解析に回されている。オーラ・キャノンだの、オーラ増幅器だののお手本としてだ。もしかしたら原型も残っていないのかも知れない。

 機械の館の中にあるかも知れぬ部品をほいほいと組み立てられるかと問えば、そんな事はほぼ不可能なのに違いない。

 

「まぁ、一号機が回るとは限らないしね」

「え……」

「最初の機体は騎士団長代理の物」

 

 とミッミ。ユイゲンが居たを忘れていたが、現在の騎士団で最高位なのは彼なのだ。ドリンは騎士としての資格があるが、領主の娘でも地位的にはユイケンよりも下位なのだ。

 当然、オーラ・マシンも真っ先に彼に配される筈だ。

 

「二号機があるから、ドリンはそっちだね」

 

 庭には確かにもう一機の《タンギー》が並んでいる。しかし、こちらはまだ中身さえも空のがらんどうだ。外形はほぼ完成だけはしているが、窓ガラスも填まっていない。

 

「くっ、《ライネック》いや、《ビアレス》とは言わない。せめて《ドラムロ》があれば……」

「《ドラムロ》? 確か、頭だけなら生産してたな」

 

 黒くて丸い頭だ。分業生産でエッダ家でも頭部だけ生産していた。結構、重要な部品でモニターアイを製作するのに高度な技術が要るらしい。

 庭の片隅に無造作に山積みされているのを見た覚えがある。

 

「丸ごと一騎だよ」

「当分、無理じゃないかな」

 

そんな時、きらきらした軌跡を引きながら、すいっとシルフィールが飛んで来た、

 

「シル?」

「大変よーっ」

 

 フェラリオが大声で叫んだが、サイズが小さいので迫力は無い。

 彼女はドリンの周りをくるくると周り、続けて「ガロウ・ランが攻めて来たわ」と早口で叫んだ。

 

「何だって!」

「伝令からの報告よ。ポカの村にガロウ・ランが現れたの」

 

 ガロウ・ランは討伐で暫くは息を潜めていたらしいが。異変を察知して活動を再開したのか。数は小規模みたいだが、オーラ・ボムが使えない今、空から火弾で焼き尽くす戦法は使えない。

 

「姉上は?」

「まだ会議中よ。私は門番と遊んでたら、伝令が来て……」

「聞きかじったんだな」

 

 ドリンはすくっと立ち上がった。直ぐに「馬を引け!」周囲の兵に命じる。

 

「一人で行くの?」

「敵の顔を拝みに行くだけだ」

 

 当惑顔のミ・フェラリオに返事する。

 事前偵察の予定だった。さすがに多勢に無勢なのは理解しているからだ。

 だが《ビスコンティ》に駐留する留守部隊は数が少なく、しかもオーラ・マシシ消失で混乱している。本格的に軍勢を整えるには時間も掛かろう。

 

「とにかく敵情視察してみるさ」

 

 まぁ、それだけが理由では無い。一応、彼女は「姫」なのだ。

 姉の予備でしか無いが、立場上、戦場へと気軽には出かけられない。万が一、身の上に何かが起これば大問題となる。だから、後方の陣幕に座っているか、厳重な護衛に伴われた戦場視察しかやらせて貰えない。

 それがいつも不満であった。オーラ・バトラーに乗る様になったら、ガロウ・ラン討伐には出陣させて貰える様にはなったが、それはガロウ・ランの武器が空に届かないからで、安全性が確保された上での散歩に近かった。

 空飛ぶ《ドラウゲン》みたいな強獣が出ないと確認後、騎士ごっこをさせられている八百長なのではとも疑っている。

 

「ユイゲンが居ない間に何とやら、だ」

「あー、確かに会議中よね」

 

 親の騎士団長同様。ユイゲンも口煩く行動を制限するだろう。なら、口が出さない内にさっさと行動するに限る。

 

「それに、行くのはあたしだけじゃないさ」

 

 新しいオーラ・マシンをチェックしていたミッミが顔を上げた。

 

「見せて貰うぞ、聖戦士!」」

 

 

〈続く〉




いかん、執筆速度が下がってる。
誤字が増えた。修正に時間が掛かるのは病のせいなのか。
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