魔法少女花騎士☆マギカ   作:繭浮

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プロローグ 1-1

 私の名前は加戸(かと)希愛(れあ)。神浜市立大附属学校高等部の一年生。派手な赤色の髪色をしているけど、それ以外には特に特徴のない、地味な女だ。

 

 幼馴染からは「お前も十分美少女の部類だろ」と昔から言われているけど、小さい頃にいじめられた経験があるからか、あまり自分に自信を持てない。

 

 私のお母さんの名前は、加戸里奈(りな)。フラワーショップ・ブロッサムの店長をしている。

 

 ちょっと前まで難病で入院していたのだけど、奇跡的に短期間で快復し、今日からブロッサムの営業を再開する。

 

 でまぁ。たまにお小遣い目当てで手伝っていたけど、お母さんはまだ病み上がりだから、しばらくは私が毎日放課後手伝うことになった。

 

 まあ、私も花はお母さん程ではないけど好きだし、同じ学校の一年先輩で友達の春名このみさんがしょっちゅうバイトしに来てるから、手伝う予定がなくても割と頻繁に顔を出してはいたのだけど。

 

 それはそれとして。

 

 元々大繁盛していたお店でもなし、まだ本調子でないお母さんは置き物になっててもらって問題はない。私達だけでも十分回せる。

 

「カトレアちゃん、この花束のラッピングお願いね」

「ん、了解」

 

 そう言いながら手渡してきたカーネーションの花束を受け取ったのを確認し、このみさんは笑顔で次の作業へ移る。

 

 このみさんからは……というか、それなりに親しい人からは、フルネームで呼ばれる。

 

 理由はまあ……その方がしっくりくるかららしい。私自身、自分のフルネームが好きだから、フルで呼ばれるのは嫌じゃない。

 

 私の名前「希愛(れあ)」は、フルネームで「カトレア」となるように意図して付けられたらしい。

 

 由来の「カトレア」は、花の名前だ。豪華で気高く凛と咲く花姿から、「洋ランの女王」と呼ばれる人気の花だ。

 

 花が大好きなお母さんが、カトレアに(あやか)って付けてたらしいのだけど……どうみても名前負けしてるわよねぇ。私地味だし。

 

 まあ、私もカトレアは一番好きな花ではあるけど。自分と同じ名前、嫌いな訳がない。

 

「ようカトレア。再開したばかりにしては、繁盛してるんじゃねぇか?」

 

 ブロッサムの営業再開を祝いに、幼馴染が顔を見せに来てくれた。

 

「いらっしゃい燈湖。まぁ、そうね。忙しいってほどじゃないけど」

 

 彼女の名前は雷電燈湖(らいでんとうこ)。男勝りな口調で名前もなんか強そうだし、実際空手の有段者で超強いけど、見た目は童顔の美少女だ。

 

 私がいじめられていたときに真っ先に守ってくれた娘で、それ以来親友として付き合ってくれている。

 

「あらいらっしゃい燈湖ちゃん。私の退院日以来ね」

「ご無沙汰してます、おばさん。病み上がりなんだから無理だけはしないで下さいよ」

「ふふ、娘にもこのみちゃんにも口酸っぱく言われてるから、したくても無理させて貰えないわよ」

 

 ほんとは動きたくて仕方ないんだけどね、と続けるお母さん。まったく、難病だったって自覚あるのかしら?

 

「…… うん。あの願いにしてほんとに良かったぁ」

 

 私達のやり取りをみて、何やら呟き妙に嬉しそうにニコニコしているこのみさん。

 

「? このみさん、何か言った?」

「ううん。ただ、おば……里奈さん元気になって良かったなって!」

 

 このみさんがお母さんの事をおばさん呼びしそうになって、途中で言い直す。私と知り合う前はおばさん呼びしていたからつい口に出てしまうらしい。

 

 私もお母さん本人も気にしないからいいのに。燈湖はおばさん呼びだしね。

 

 

 ☆

 

 

 お母さんが退院してブロッサムを再開してから数日は、特に何でもない日々が過ぎていった。

 

 変わった事と言えば、秋野かえでちゃんと夏目かこちゃんという、同じ学校の後輩にしてバイト仲間が二人増えたくらいかな。

 

 まぁ二人は中等部だから、正確にはバイトではないんだけど。お駄賃は上げてるらしいからバイトみたいなものだけどね。

 

 二人が手伝ってくれるようになった理由は、花が好きになったから、花の魅力をもっとみんなに知ってもらいたいから。

 

 それと――お母さんが難病から快復したばかりの病み上がりだと知って、心配だったから、らしい。

 

 それを教えてもらった時は……正直、涙が出そうなくらい嬉しかった。これも、お母さんが花好きだったお陰で生まれた縁、なのかな。

 

 

 ☆

 

 

「出来た! お花のバースデーケーキ!」

「「おお〜」」

 

 私の運命が大きく変わったのは、この日の事。

 

 その日は、このみさんかえでちゃんかこちゃんが、私達に秘密で「若いお客さんにもお花の魅力を知ってもらうため」に計画していたものをお披露目されていた。

 

「うん、いいわねこれ。色とりどりで綺麗……誕生日にこれを送られたら、幸せな気持ちになれそうね。さすがこのみさん」

「ふふっ、ありがとカトレアちゃん」

「へぇ、中に菓子が詰まってんのか。見て楽しんだ後に食べて楽しめると。花より団子の奴もいるだろうし、いいんじゃねぇか?」

「えへへ……やっぱりケーキなんだし、食べられるものが入ってたらいいかなって」

「とっても素敵……かえでちゃん、本当にすごいっ……!」

「かこちゃんもね? 誕生花のケーキに、その花の花言葉を添えたメッセージカード。すごく素敵なアイディア!」

 

 私と燈湖の賞賛の言葉に、三人は恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにお互いを褒めあっていた。和む。

 

「フェアの看板も……よし! おば……里奈さん呼んでこようっ」

「また言い直してる。お母さん、「おばさん呼びの方が親しげで嬉しい」って言ってたわよ?」

「そ、そう? それじゃあ戻すね。やっぱり呼び慣れてる方のが自然と口に出ちゃうし」

 

 少し申し訳なさそうにしながら了承するこのみさん。

 

 さて、それよりも。

 

「三人の力作の合作、きっとお母さんびっくりするわよ」

「えへへ……そ、そうかな?」

「おう、自信持って良いと思うぜ? アタシが保証してやる」

「うんっ……! うんっ……!」

「って、そういえば里……おばさんは?」

「近所に用があるからって出かけたけど、すぐ戻るって言ってたし……あ、ほら来た」

「……ただいま……」

 

 ちょうど戻ってきた……あれ? なんかさっきより元気がないような……まぁとりあえず。

 

「見ておばさんっ! お花のバースデーケーキを作ってみたの!」

「このみさんとかえでちゃんとかこちゃん、三人の合作らしいわよ」

「……へぇ……そう……」

「「……え?」」

 

 このみさんと私が、予想外の気のない返事に思わずハモる。

 

 お母さんの様子が明らかにおかしい。こんな素敵な花のバースデーケーキ、お母さんなら絶対絶賛するはず。

 

 どころか、お母さんはとんでもない事を言い出した。

 

「まぁ……勝手にやってくれていいわ……お店はあなたたちに任せるから……私はもう引退するわ……」

「引退……!? 急にどうしたのよ、変よ……?」

 

 近付いて肩を掴み、顔をうかがうと……瞳はやや虚ろで光がない。まるで、入院中の時に戻ったみたいで……

 

 さらにネガティブ発言は続く。

 

「急なんかじゃないわ……本当は病気になったとき思ったのよ……あ〜、これでやっとお店を閉められるってね!」

「……なんで……お母さんあんなに花が好きだったじゃない! 私に素敵な花の名前をつけてくれるくらい……!」

「……うるさいわね……もうね、疲れたのよ……花なんて二度と見たくない……」

「そんな……」

 

 私が絶句していると、燈湖に肩を軽く叩かれる。

 

「カトレア、いくらなんでもこれはおかしいぜ。別人レベルだ」

 

 ……そうだ。いくらネガティブになってても、病に冒されたままでも、お母さんはここまで花を否定したりなんかしない。

 

「――っ! 魔女の口づけ!」

「本当だっ……!」

「え?」「なに?」「魔女の口づけ……!?」

 

 何かに気付いたかえでちゃんとかこちゃんが、唐突に大声を出した。

 

「……お前たち、おばさんのこの状態の原因を知ってるようだな?」

「「あっ……」」

 

 燈湖の洞察力に、かえでちゃんとかこちゃんが「しまった」と言いたげな顔になる。なに、なんなの?

 

「ちっちがっ……えとっあのっ……」

「なっなんでも――」

「――なんでもない、なんて言うなよ? おばさん、今にも自殺しそうな目ぇしてやがるんだ。さっさと知ってる事を吐きやがれ」

「「ぴゆぅっ……!?」」

 

 燈湖の強烈な威圧に、気弱なタイプの二人が肩を抱き合いプルプルと震えてしまっていた。可哀想に。

 

「ちょ、ちょっと燈湖、いきなり威圧放つのやめてよ! ふたりとも怯えちゃってるじゃない!」

 

 ……ていうか私も怖い。燈湖の武人の威圧は直接向けられてなくても一般人メンタルの私にはキツいのよ!

 

「っと。すまねぇ、逸りすぎたな」

「「ほっ……」」「ふゆぅ……」

 

 お母さんを思っての行動だとわかってはいても、燈湖の威圧は構えていない状態だとかなり堪える。

 

「まぁ、なんだ。二人の視線からして……これが魔女の口づけとやらだな」

「え? ……あっ!」

 

 燈湖がお母さんの首筋を指差す。そこには、何をモチーフにしているかはわからないけど、タトゥーのようなものがあった。出かける前まではこんなもの、なかったはずなのに。

 

「……魔女の口づけが見えてるってことは……まさか、全員魔法少女、なの……?」

「……はい?」

「今度は魔法少女ときたか」

 

 私と燈湖がこのみちゃんの質問の意味を測りかねている中、

 

「「全員」ってことは、このみちゃんも……!」

「うっ、うそっ……!?」

 

かえでちゃんとかこちゃんは、すぐさま反応した。

 

「アニメやゲームの話……じゃないわよね、雰囲気的に」

「だな」

 

 私の意見に燈湖も同意してくれる。とはいえ、あまり現実的じゃない単語ばかりで困惑するばかりだ。

 

「色々と聞きたいとこだが……相変わらずおばさんが死にたがりの目をしてやがる。頼む、対処法を知ってるなら教えてくれ」

「そっそうだ、驚いてる場合じゃない!」

 

 このみさんがはっとして、空手の試合直前の燈湖みたいな、力強い目つきになる。

 

 つまり――戦に臨む戦士の目だ。

 

「かえでちゃんとかこちゃんは、魔法少女なんだよね?」

「うんっ……!」

「ふゆぅ……こんな偶然あるんだね……」

「それで、カトレアちゃんと燈湖さんは違うんだね?」

「え、えぇ」

「多分な」

 

 手早く状況を確認するこのみさん。すごい。

 

「私達は、おばさんが変になっちゃった原因――魔女を探して倒してくるっ。そうすれば、おばさんは元通りになるからっ!」

「え?」

「アタシらはどうすればいい?」

「おばさんが早まった行動を取らないように見張ってて!」

「おう、了解。……だそうだぜ、カトレア」

「う、うん」

「カトレアちゃん! わ、私たちが必ず倒すから! 待っててね!」

「うんっ……! 精一杯、がんばるっ……!」

「あ、ありがとう?」

 

 ……はい、私だけまったく話の展開について行けてないです。どうやら一般人メンタルなのは、私だけだったらしい。

 

 三人はそれぞれ手に宝石のようなものを持ってから、お店を飛び出し駆け出した。

 

「って三人とも足速っ!」

「……また聞きたい事が増えたぜ」

 

 三人の身体能力の高さに驚いていると、

 

「彼女たちがなんなのか、知りたいかい?」

「今度は何よ……」

 

突然の第三者の声。下の方から聞こえたような……

 

「やぁ、はじめまして。加戸希愛に雷電燈湖」

 

 視線を下げると、白い謎生物が人語で語りかけてきていた。

 

「……あぁ、なんだ夢か」

 

 お母さんが言わなそうなこと言ってた時点で気付けばよかった。

 

「こらこら、現実逃避してんじゃねぇ」

 

 ばぢんっ!

 

「いったあー!? 何するのよっ!」

「デコピンだが」

「そうじゃなくて! 燈湖のデコピン死ぬほど痛いのよ!?」

「そんなことより、そこの白ダヌキだ」

 

 そう言って、燈湖は白いのを親指で指さす。むぅ、不満はあるけど……とりあえず矛を収める。

 

「ボクの名前はキュゥべえ」

「話の流れやタイミング的に、お前がアイツらを魔法少女にした張本人、てとこか」

「へぇ、話が早いね」

「んで。今度はアタシらをスカウトしに来た、か?」

「本当に話が早い。説明の手間が省けるよ」

「ちょっ、まってまって、私はさっぱりよ!?」

 

 凡人脳な私と、すべてにおいてハイスペックな燈湖では理解度に差がある。説明はキチンとしてもらわないと。

 

「まぁそうだな。アタシも全部は理解出来てねぇしな」

 

 そんな訳で、私達はキュゥべえから情報を聞き出した。

 

 

 

 

「……あぁ、なんだ夢――」

 

 すっ

 

「――みたいだけど、現実なのよね」

 

 すっ

 

 燈湖が上げた手を下ろす。あぶないあぶない……創作物の設定みたいなこと聞かされたんだから、仕方ないじゃない。

 

 キュゥべえの話を要約するとこうだ。

 

 呪いから生まれ絶望を撒き散らす存在・魔女。それに対抗する、祈りから生まれ希望を振りまく存在・魔法少女。

 

 キュゥべえは少女の祈りを聞き届け、どんな願いだろうと奇跡的に叶える事が出来る存在。願いを叶えるかわりに少女は魔法の力を得て、魔女と戦う使命が課せられる。

 

 魔女に目をつけられた人は、「魔女の口づけ」というターゲットにされた印が現れ、自らを滅ぼす行動を取るようになる。魔女の口づけを消す方法はただひとつ、このマーキングをした魔女を倒す事。

 

 キュゥべえは、魔法少女か魔法少女の素質がある人にしか見えない。

 そして、魔女の口づけは魔法少女の素質があるだけでは認識出来ず、魔法少女になるか、キュゥべえが見えるようにした人でないと見えないらしい。

 

「……私達、キュゥべえに会う前にもう見えてたわよね」

「稀に見える子がいるんだよね。そしてそういった子は、契約したとき強力な魔法少女になる傾向が極めて高い」

 

 らしい。

 

 まあ……ここまで聞けば、私もだいたい理解出来た。

 

 私の考えを肯定するかのように、キュゥべえが目的を告げる。

 

「ボクと契約して、魔法少女になって欲しいんだ! 君たちみたいな素質が高い子は大歓迎さ!」

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