魔法少女花騎士☆マギカ   作:繭浮

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花騎士の新たな戦場、神浜市 閑話1-1

 就寝前。今日はカトレア(親友)に醜態を晒してしまったためか、モヤモヤですぐには寝付けなさそうだった。

 

 という訳で、眠くなるまでデンドロビウムに話し相手になってもらうことにした。

 

「デンドロビウム。アタシは、女王様がブラックバッカラに助けられたあたりのエピソードを知ってる。「氷雪の悪魔」の時代、って言えばわかるか?」

《……懐かしい通り名ですね。それがどうかしましたか?》

「いやまあ、なんだ。こっちだけお前の過去を知ってるってのも、同じ身体を使う身としてはフェアじゃねぇと思ってよ。ちょいとアタシの過去話にでも付き合ってくれ」

《ふむ……流れ的に、トウコさんとカトレアさんの出会いの話でしょうか》

「そんなとこだな」

 

 

 

 

        ――――――――――

 

 

 

 

 アタシの親父は強い。恐らくだが、個人では地上最強レベルなんじゃないかと思う。

 

 そんな親父の教えはこうだ。

 

『強くなりたければ喰え。食に限らず体術に限らず、現実だろうと架空(アニメ)だろうと、己の糧となりそうなモノはなんでも喰らって取り込め』

 

『売られた喧嘩は可能な限り買え。そして勝つならば、考えうる限り誰にも文句を言わせないカタチで勝て』

 

『自分から喧嘩は売るな。己を安売りしない女こそいい女というものだ』

 

『髪と顔は女の命だ。ダメージは出来るだけ避けろ』

 

『百聞は一見にしかず、百見は一触にしかず。己が直に体験し、理解したモノこそが真実だ』

 

 ……他にも色々と言われたし、子供ながらに、というか今でもどうかと思うものもあったが、それらの教えを行動指針にして幼少から生きてきた。

 

 そんな生き方をしていたから、小学二年生にして同級生からも学校の教師陣からも恐れられる存在になっていた。

 

 おかげで色んな意味で喧嘩を売ってくる奴がいなくなって、学校は退屈だった。授業内容も低レベルだったしな。

 

 学校は携帯ゲーム禁止、漫画も禁止で、持ち込めるもんが小説くらいしかなかったから、休み時間は筋トレと小説を読む以外やることがなかった。

 

「……あの。雷電さんも、小説好きなの?」

「……嫌いじゃないが、暇潰しだな」

 

 恐る恐るながら時々話しかけてきたのは、カトレアくらいなもんだな。とはいえ、その話題がきっかけで友達になった訳じゃない。

 

 カトレアは読書少女で、引っ込み思案気味だった。そして客観的に見て、容姿も性格も美少女と言っていいだろう。

 

 だからこそ、気を引こうとするための男子からのイジりと、それを妬む女子からのイジめに合っていた。

 

 だからどうということはない。アタシの知識から状況を分析すれば、十分起こり得ること。だからどうでもよかった。

 

 その頃のアタシには、どうしてもわからない事がひとつあった。それは、「何故周りの奴らは、アタシの知識通りの「普通」に動かないのか」だ。

 

 何故アタシが椅子から立ち上がっただけで近くの席の奴はビクつくのか。威圧放ったわけでもねぇんだから普通にしてろよ。

 

 何故教師は、授業でアタシを指名しないのか。教師なんだから授業中くらいは普通に扱えよ。

 

 クラス(サル山)のボスを気取ろうとする男子・女子は、アタシだけは避ける。頭を取りたいならなんらかのカタチでアタシに挑めよ、色んな意味でアタシがクラスで1番強いんだからそれが普通だろ。

 

 ……それまでの行動からして仕方ないと言える部分もあるにはあるが、それがアタシにとっての「普通」だった。

 

 その点、恐る恐るながら接しようとしてくるカトレアは、今のところアタシ基準での「普通な奴」筆頭ではあった。その時アタシがクラスで唯一名前を覚えてたのもカトレアだけだったな。

 

 アタシがカトレアと友達になりたいと思ったのは、カトレアへのイジめがエスカレートしだしたある日のこと。

 

「小説なんて読んじゃって、生意気!」

「あっ」

 

 低レベルな理由でカトレアが読んでいた本を取り上げる、クラスのトップ(仮)を張る女子。名前は覚えていない。

 

「か、返してっ!」

「返して欲しかったら取り返しにきなさいよ、このブス!」

「……」

 

 少し離れたところからそう煽る女子に、アタシは内心、

 

(お前もどちらかと言えば整ってる方だが、カトレアに比べたらお前の方がブスだろ、容姿も性格も)

 

とは思ったが、まあそれだけだ。動く理由はない。

 

 カトレアに対しても、

 

(何か一言でもいいから言い返せよ、それが普通だろ)

 

と思っていたところ、

 

「……ブ、ブスでいいから、返して」

「!」

 

ややあってからだが、言い返した。引っ込み思案なカトレアが言い返すとは思っていなかったが……そうだ、それが「普通」だ。

 

「だーかーらー、返して欲しかったら来なさいよ!」

「……うー」

 

 そう言う奴の側には、取り巻きが数名。カトレアの体育の成績からして、取り返すのは難しいだろう。

 

「そ、その本は、お誕生日に買ってもらった大切な、好きな本なの。だ、だから返して」

 

 力では敵わないから、説得で返してもらう。うん、それが「普通」の対処だ。

 

 アタシの中でのカトレアの株が上がる。だがまだだ、アタシが動きたいと思えるにはまだ足りない。もうしばらく観察だ。

 

「へー、そーなんだー。じゃあ……」

「っ!」

 

 そいつは小説の適当なページを開いて、自身が持ってきた水筒の中身をぶちまけた。

 

「や、やめてよ!」

「あっはは! 涙ぐんでやんのー!」

 

 本や飲み物を粗末にするんじゃねぇ、とちょいと憤ったが、まあ今は抑えて……自分では本を取り返すのは不可能に近いと判断したなら、「普通」に考えたらどう行動すべきか。

 

 涙ぐみながらオロオロするカトレアは――アタシを見た。

 

「……っ。ら、雷電さんっ助けて!」

「あっおま! それはズルいだろ!」

 

 少し逡巡したが、アタシに助けを求めてきた。

 

 そう、それだ。自分では力不足なら、奴らより強い奴に頼る。それが「普通」。

 

 もうこの時点でアタシはこいつと友達になりたいと思い始めていたが、アタシは慎重だった。手を貸す気がないことを示すように、やり取りを見ていた視線を下に、さっきまで見ていた小説へと戻す。

 

「……あー、ビビって損した。あの人がこの程度で動くわけないじゃん、バカでブスなカトちゃん?」

「……」

 

 貶されて思わずうつむくカトレア。ちょいと罪悪感。

 

 それはそれとして。クラスで1番強いアタシが手を貸さないなら、アタシの思う「普通の行動」は。

 

「……っ!」

 

 しばらくうつむいていたカトレアが唐突に席を立ち、教室から出て行こうとする。逃げるのもまあ普通の行動だとは思うが、大切なモノを奪われたまま逃げるのはどうなんだ、とも思う。

 

「はーい、通行止めでーっす」

 

 だが、取り巻きが進行方向を塞いでしまった。

 

「どこ行こうってのよ。あんたの大切な本、私が持ってるんですけどー?」

「せ、先生に言って、返してもらうの!」

 

 ああ、そう来るか。クラス最強の奴が手を貸してくれないなら、次に助けてくれそうで手近なのは教師。うん、「普通の判断」だ。

 

 もういいな。百見は一触にしかず、百見は一考にしかず。カトレアはアタシの中で知識でしかなかった「普通」を十分実践した。

 

 この日この時、アタシの「普通」の基準は「カトレア」になった。

 

「行かせるわけないっしょ?」

「せ、先生がダメなら、お母さんに――」

「その必要はねぇぞ」

「「えっ?」」

 

 アタシは席から立ち、カトレアに近づき肩に手を置き、宣言する。

 

「アタシの友達の大事にしてる本、返してもらおうか」

「「……え?」」

 

 イジめてる奴とイジめられてる奴が仲良く同じ反応するのに笑いそうになりながらも、カトレア以外に向けて威圧を放つ。

 

「早くしろよ」

「「ひゃい!!」」

 

 こうして、アタシはカトレアと友達になった。

 

 

 

 

 無事……とは言えねぇが、一応大きく破損することなく本を取り返せたカトレアは。

 

「あ、ありがと、雷電さん……でも、なんで友達?」

「お前は「普通」だ。だから友達になりたい」

「意味わかんない、けど……助けてくれたし。友達なら、助けるのは普通のこと、だよね」

「ああそうだ、それが普通だ」

「じ、じゃあ……今日から雷電さんとは、お友達!」

「おう」

 

 困惑しつつも、嬉しそうに友達になるのを了承してくれた。

 

 

 

 

        ――――――――――

 

 

 

 

《まず一言。タメジロウさんの教育は素晴らしいですね》

「おう。ってそこかよ」

《ふふ、冗談です。本心ではありますが》

「どっちやねん。んで、それ以外には?」

 

 ツッコミをいれつつ、感想を聞き直す。

 

《カトレアさんがトウコさんの「普通」の基準なら、あなたがカトレアさんに対して過保護になるのも頷ける、と思いました。カトレアさんを害することは、すなわちあなたの「普通」を――あなたの価値観を害するのと同義ですから》

「おう。だからこそ、アタシにとってカトレアは親友なんだ」

 

 ……さて。聞き上手なデンドロビウムに話していたら、モヤモヤはだいぶ晴れた。話はここまでにして、目をつぶる。

 

「そろそろ寝るわ……話に付き合ってくれてありがとな。んじゃ、おやすみさん、デンドロビウム」

《はい、おやすみなさい。良い夢を》

 

 楽しい思い出を振り返ったからか。デンドロビウムの言う通り……今日は、良い夢が見れそうな気がするぜ……

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