お母さんが退院する前から、放課後ブロッサムを手伝う日は、毎回このみさんと一緒に行っていたのだけど。魔法少女になってからはそれにプラスして、燈湖組も一緒にお店までついてきていた。
ついてくるだけで、人手がどうしても足りないとき以外はあまり手伝ってはくれない。まあ、手伝ってもらったら非正規とはいえバイト代払わないとだし、バイト人員が多すぎてもお母さんのリハビリ的にあまり良くないから、それは別にいいんだけど。
じゃあ燈湖組は、自宅の方向とは違うブロッサムに来た後、どこで何をしているのか。
大まかに分ければ2パターン。公園で筋トレか、魔法少女関連の情報収集だ。
筋トレはともかく、情報収集はお店を手伝わない日には私も参加するし、お店の定休日にはこのみさんも付き合ってくれてるんだけどね。
そんな訳で。最近の手伝いの日は、燈湖達が何かしらの新情報を持ってくるの待ちながら仕事している感じだ。
☆
《戻ったぜ》
《あ、お帰り2人とも》
そんなある日の、日が傾きかける時刻。燈湖達から念話で連絡が届いた。今は念話がギリギリ届くお店近くの公園の鉄棒で、高速片手懸垂しながら情報整理中らしい。
……魔法少女になって身体能力上がってから、デンドロビウムの影響もあってか燈湖はさらに化け物じみて来たわね……地上最強でも目指してるのかしら。
まあそれはともかく。
《それで、えーと……確か今日は、新西区の顔役の、七海やちよさん? に、会ってきたのよね。どうだった?》
《ちょいと堅物で難儀したが、色々と教わったぜ》
《ベテランらしい貫禄のある方でしたね。是非一度お手合わせ願いたいです》
《へえ、デンドロビウムにそこまで思わせるとはね。神浜最古参って言われるだけあるってことかしら》
声の雰囲気から、有意義な情報交換の場だったのがうかがえる。
《私達に関しては、どこまで話したの?》
《魔法少女の真実についてカマかけしたら、大体知ってたからな。アタシらがそれを承知で動いてることは話した。花騎士関連は、軽くだな。願いの結果で、アタシらにはもうひとりの人格が存在してる、くらいだ》
《交代して挨拶はしましたが、基本的にはトウコさんにお任せしました》
ふむ。まあ、同じ魔法少女とはいえ気の置けない仲でもないのに、一から十まで話す理由はない。それでも、慎重な燈湖と穏やかなデンドロビウムのコンビなら、変に不信感を与えることもなかっただろう。
《でだ。ここからは、魔法少女に関する新情報、みたいなものだ》
《みたいなもの?》
《神浜の、て意味だ》
燈湖の話を要約すると。神浜市には、今日燈湖が会ってきた西のまとめ役の七海やちよさんの他、中央のまとめ役的な位置にいる都ひなのさん、東のまとめ役の和泉十七夜さん、と、大きく分けて3つの区にトップがいるらしい。
《つまりは、アタシらが他の区、特に東だな。魔法少女としてなんらかの活動をしたいなら、区のトップに話を通せば無用な軋轢を避けやすい、て事だ》
《神浜の東西の対立は、魔法少女の間にも存在してるってことね》
《なんか面倒臭いわね……》
《この都市にも、色々と歴史と事情があるようです。そうですね……他国の大規模な害虫討伐に参加するなら、その国の騎士団長の指示の下に動かなければならない。それと似たようなものと考えて下さい》
《なるほどね。まあ、面倒臭い事に変わりはないけど》
私も燈湖も生まれも育ちも西だけど、私自身は別に東の人だからと言って毛嫌いするつもりはない。東の人だろうと市外の人だろうと、重要なのはその人がどんな人か、だと思うし。
だから私も女王様と同じく、ちょっと面倒臭いなぁとしか思わない。
《他の区に関しては、とりあえずそんなもんだが。あとひとつ、興味深い店がある》
《店? 魔法少女関連のお店ってこと?》
《ああそうだ。割と最近開業したばかりらしいんだが……調整屋っていう、ソウルジェムに干渉して魔法少女を強化することを生業にしてるヤツがいるらしいぜ》
☆
という訳で、翌日の放課後。今日はブロッサムが定休曜日なので、このみさんも連れて件の調整屋さんへと向かった。新西区の郊外にある廃墟でひっそりと営業しているらしい。
「神浜ミレナ座、か。まだ建物残ってたのね」
「私達がまだ小さい頃に廃館しちゃったんだよね。まぁ私は昔から映画よりお花だったから、あんまり思い出はないんだけど」
「同じく、出かけるより家で本読んでる事の方が多かったから、数える程しか来た事ないわね」
「アタシは映画館自体行ったことねぇな」
《なんでこんな廃墟で開いてるのかしら》
《どうも、調整屋の方は戦闘が不得手なようです。魔女も使い魔もひとけのない場所にはあまり近寄らないので、ここなら営業しやすいのだそうです》
それぞれが感想を述べ合ってから、廃墟へと侵入……入店?する。
しばらく奥に進んでいくと、「調整屋さん♡」と書かれた看板がぶら下がっている扉が現れた。分かりやすい、のはともかく、あんまりお店感はないわね。
チリンチリーン……
「いらっしゃ〜い、調整屋へようこそ〜。あらあらぁ、新規のお客さんね〜! 可愛い娘ばっかりで嬉しいわ〜♪」
扉の先にいたのは、間延びした語尾が特徴的な、飄々とした雰囲気の少女だった。少し年上、かしら?
「どーも初めまして、調整屋さん。アタシは雷電燈湖だ」
「加戸希愛です」
「春名このみです!」
「はぁい、初めまして〜。調整屋さんのぉ、八雲みたまよ〜」
にっこり笑顔でそう返された。第一印象としては、悪い感じはしない。
「ここがどういうお店なのか、知ってて来たみたいだけど。説明は必要かしらぁ?」
「そうだな、一通り頼む」
「ふふ、りょうか〜い!」
そうして、調整屋についての説明が始まる。半分以上は燈湖が事前に得ていたのと同じだったので、完全新規情報だけ抜粋しよう。
「調整をする時、その人のソウルジェムに触れさせてもらうわぁ。そうして私の魔力を流すことで、その子に眠っている潜在魔力を探って引き出したり、魔力の流れを整えて、その子がより魔力を効率良く使えるようにしたりする。それが調整魔法よ〜」
「ふむ。つまりは楽器の調律みたいなもんか。まさしく調整屋って事だな」
「あら、いい例えねぇ。今度使わせて貰おうかしらぁ」
「でだ。こちらのデメリットは?」
「調整するためには、その子の深いところを覗くことになるわぁ。つまり、その子の魔法少女としての記憶。どんな願いで魔法少女になったのかとか、その子の印象に残っている思い出だとか、色々個人情報が見えちゃうのよぉ」
「なるほどな……まあ、ソウルジェムを弄るわけだ、そのくらいは起こり得るか」
燈湖の台詞に、ピクリと一瞬表情を固まらせるみたまさん。
「プライバシーの侵害を避けるか、魔法少女として強化されて生存率を上げるか。お代は要求するし選ぶのは個人の自由だから、無理強いはしないわぁ。調整屋は、完全中立ですもの〜」
すぐに笑顔に戻って話を続けるけど……
《……今の反応。みたまは真実を知ってるみたいね》
《そのようですね。私達全員が知っているとは限らないので、深くは聞き返さなかったようですが》
《んー、とりあえず、悪い人じゃなさそうよね》
《さてな。人当たりが良いのは、ただ単に商売人気質の現れかもしれねえぜ。ま、アタシとしては、それが逆に信用に値する要素なんだが》
超慎重な燈湖も、現段階ではそれ程警戒はしていないっぽいかしら? それでも内心は、信用し切ってはいないんだろうけど。
「うーん……ちょっと恥ずかしいけど、知られて困る願いじゃないし……」
説明を聞いたこのみさんは考え込む様子を見せながら、ちらと私の方を見る。まあ確かに恥ずべき願いではない、むしろ私にとっては誇らしくすらある。
「初回だから、サービスしちゃうわよぉ♪ 使いかけのグリーフシードか、現金二千円でも良いわぁ」
二千円、かあ……高いような、安いような。サービスしてその値段と考えると高い気もするけど、魔女との命懸けの戦いが少しでも有利になるなら、安いとも言える。
中学生でも一応無理なく払える金額だし、目に見えて強くなれれば多少値段が上がっても、リピーターになる娘は必ず増える。そう考えれば、絶妙な値段なのかも。
気になるのは、やっぱりソウルジェムを弄られる事よね。真実を知らないこのみさんはともかく、強くなれると言われても、おいそれと
《不安に思うのは普通だぜ、カトレア。だがよく考えろ。調整屋の情報をくれたのは、魔法少女の真実を知っている七海やちよだ。西の顔役でもある。そして、七海やちよは八雲みたまにソウルジェムを預けても問題はないと判断している》
《……なるほど》
……ああ、やっぱり燈湖がいると心強い。ほんと頼りになるわぁ。
「……とりあえず、私は調整してもらうよ」
私達が念話で相談している内に、このみさんは決心したらしい。
「はいは〜い、一名様ごあんな〜い♪」
妙に楽しそうな声でこのみさんを手招きする。
《……調整魔法か。じっくり見たいから代わるわよ》
《えっあ、うん》
唐突に告げられて生返事する。女王様の勝手にも慣れたなあ。
△ ▼
「服を脱いで、この寝台に横になってね〜」
「あっはーい……え、脱がないとなんですか……?」
「……ソウルジェムに触れるだけなら、脱ぐ意味ないんじゃないかしら」
「なくもないわよぉ。調整する側もされる側もリラックスした状態だと、スムーズに施術出来るのよぉ。それにぃ」
「それに?」
「女の子の恥じらう姿って、最高に可愛いわよねぇ♪」
「このみ、脱ぐ必要はねぇぞ」
「あら残念」
「あはは……」
ちょっとした軽口を挟んでだことで、このみの緊張をほぐしたみたいね。なるほど、手慣れてるわね。
「まぁ冗談はこのくらいにして。脱がなくてもいいけどぉ、出来るだけリラックスはしてちょうだいね〜」
「はーい」
さて。調整の魔法、どんなものか見極めさせて貰おうかしら。
「んっ……っ……」
みたまがソウルジェムに魔力を流し込んでいる間、このみは時折りくすぐったそうに息を吐いたりピクリと身体を震わせたりしていた。なんかちょっとエッチぃ。
それが続くこと、十数分。
「……はい、終了。お疲れ様、このみちゃん」
「は、はい……はふぅ」
ため息ひとつついて、このみがゆっくりと身を起こす。顔が少し上気しているけれど、それ以外は……魔力反応が少し強くなってるくらいか。
施術中の魔力の流し方も丁寧だったし、問題はなさそうだけど……一応、受けた本人から感想を聞いてみましょ。
「このみ、どんな感じ?」
「そうだね……暖かい何かでじっくり全身マッサージされ続けた感じ、かな? 今は、少し体がだるいけど、凝りがほぐれてポカポカしてるというか……」
「……なんか例えがちょいとババくさいな」
「バ!? わ、私女子高生なのにぃ〜……」
「ま、まあ、分かりやすい例えだったと思うわよ」
嘆くこのみを励ましつつ、調整魔法について振り返る。
(だいたいわかったけど……あともう一回くらい、じっくり観察したいところね)
「さぁて。燈湖ちゃんとカトレアちゃんは、どうする?」
「んじゃ、次はアタシが――」
トウコが前に進み出たところで、
チリンチリーン……
調整屋の扉についていた入店を知らせるベルが鳴る。どうやら新たなお客が来たらしい。
「あら……どうやら先客がいるようですね」
入店してきたのは、私と髪色が似ているメガネをかけた少女。
「ど見ても廃墟で心配したケド、繁盛してるネ」
それに続いて入ってきたのは、青黒髪をツインの三つ編みにした少女と、
「そうだね……って、燈湖、さん? 燈湖さんじゃないか!!」
「ん? おう、あきらじゃねぇか。そういや最近指輪してたな……なるほど、魔法少女としては先輩だったか」
「そういう燈湖さんこそ、いつの間に魔法少女に……というか、髪型変えたんだね、可愛いよ!」
銀短髪でボーイッシュな少女。こっちはトウコと知り合いみたいね。
《メガネの娘と訛ってる娘はわからないけど、銀髪の娘は
カトレアが自慢げに教えてくれる。可愛い。
「どうかしましたか、あきらさ……あっ!」
最後に入ってきたのは、かこだった。そういえば、4人でチームを組んでるって言ってたわね。
となると……赤髪メガネの彼女が、かこが言っていたチームリーダー。
「なるほど。あなた達が、かこさんが言っていた……お初にお目にかかります。私は常盤ななかと申します」