ななかの笑顔と動きがピキリと固まる。
「……この流れで断られるとは思いませんでした」
それでもすぐにセリフが出てくるあたり、強い精神力の持ち主よね。
「理由をお伺いしても?」
「さっきも言ったが、お前達のチームに入るメリットがあんまりないからだ。それに、「狙われる確率が高い」であって、「確定」じゃねぇんだろ?」
「それはそうなのですが……」
「なによりも。アタシらなら、ブロッサムを狙い撃ちされても撃退出来る自信がある」
「……お言葉ですが――」
「――敵は潰す。当然飛蝗でも潰す、牙を向いた時点で徹底的に潰す。アタシの大事にしているモノに手を出すヤツは、魔女だろうと魔法少女だろうと普通の人間だろうとすべて潰す」
『……っ!!』
トウコの威圧を放ちつつの宣言に、ななか達が思わず息を呑む……まあ気持ちは分かる。
「楽しそうね、トウコ……」
「あはは……それにしても、相変わらず強烈だよね……」
「うぅ……燈湖さん、そ、そのくらいで……」
どんな教育されたらこんな威圧を放てる娘が生まれるのか、戦い慣れしている私ですら意味不明だもの。
《い、威圧……威圧はやめてぇ……》
というか、一番慣れているはずの親友であるカトレアが一番怖がっている、いや、知っているからこそかしら。まあ、かく言う私も怖い。
《ふふっ、やはりトウコさんは素敵ですね》
……この場で純粋に喜んでるだけなのは、デンドロビウムくらいよね。
「燈湖さんの威圧、やっぱりすごいキくなあ……」
「前言撤回ネ……目にするまでもない、圧倒的強者にしか出せないの覇気ヨ」
ななか組の格闘家二人ですら震えて……あら、どちらかといえば嬉しそう? 武者震いとかいうヤツかしら。
「……あきらとかこの反応はいつも通りとして。ななかと美雨も、予想通り強いな」
威圧を消してから、トウコが嬉しそにそう呟く。
「……ふう。どうやら試されてしまったようですね……私達は合格でしょうか?」
「まあそうだな。お前達の精神力とななかの固有魔法があれば、近いうちに飛蝗を捕捉できるだろうぜ」
ふう……どうやら、目的があって威圧を放ったらしい。
「お前達のチームには入らない。だがバッタ討伐は手伝う」
「メリットがないのでは?」
「ないなら作ればいいだろ?」
「作ったつもりなのですが……なるほど、別のメリットが欲しいと」
「その通り。要するに、アタシが求める条件でいいなら手伝うってことだ。そこで――」
話の途中で唐突にトウコがみたまの方を見る。すると、私を含めて全員が一斉にみたまに視線を向ける。
「うぐ? ……な、なによみんなして。そんなに見つめられると恥ずかしいわぁ」
ちなみにみたまは、我関せずといった感じで一人、ジャムのようなモノをたい焼きにかけて美味しそうに頬張っていた。よくわからないけど、私の勘があのオレンジ色っぽい謎のジャムは食べ物じゃないと言っている。
まあそれはそれとして。
「みたまに頼みたい事があるんだが」
「あらあら、何かしらぁ。ここで私にってことは、調整屋さんにってことでいいのよね?」
「そんなとこだな」
そう言って、トウコがみたまにグリーフシードを手渡す。感じる魔力からして未使用品ね。
「うふふっマイドアリ〜! 話が早い娘は大好きよぉ♪ それで、ご注文は何かしら〜?」
「今日からアタシは、傭兵魔法少女として活動することにする。みたまには、調整に来たヤツに宣伝を頼む」
「なるほどねぇ。料金プランは?」
「魔女との戦闘代行、一人基本2000円。グリーフシードがドロップしたら追加で1000円。追加で魔女を倒す場合は一体ごとに1000円追加で、料金の上限は1万円。つまり、どんだけグリーフシードが出なくても、一顧客につき日に倒す魔女は最大7体までだ。ただし、中学生以下のヤツからは5000円以上は取らない」
「ふむふむ」
「基本的に予約制。傭兵用のケータイ番号をみたまに渡しとくから、それを口頭で伝えたり店内に張り出したりしてくれ。それと、顔と実力も売りたいから、依頼人の魔法少女は魔女戦に同行させる」
「同行ね……それでもし、怪我を負わせちゃった場合の補償は?」
「怪我の具合で変わる。かすり傷なら、油断していたそいつの責任。大怪我なら、その日は基本料金以上取らない。重症なら、魔法で怪我を治した上で詫びとして未使用のグリーフシードをひとつ補填。そもそも顧客にかすり傷以上を負わせることは万に一つくらいしかねぇから、これは便宜上の保険みたいなもんだがな」
「ふふっ、大した自信ねぇ」
トウコはスラスラと口に出し、みたまがメモを取る。どうやら元から今日は、調整の後みたまにこの話するつもりだったみたいね。
それにしても、かなり詳細に考えられてるわね……さすが超慎重者のトウコ。
それはともかく、ちょっと質問。
「命懸けの魔女との戦いを代行してその料金は、ちょっと安すぎじゃない?」
「そうよねぇ……これで本当にいいのかしらぁ?」
「安すぎると思えるくらいがいいんだ。また利用しようって気になるし、何より魔法少女の大半は、社会に出たことのない少女だろうしな。調整屋だって子供の小遣いで無理せず払える料金設定なんだ、万以上は重い」
トウコも結構甘いところあるのね、とも思ったけど……この国で生まれ育った人間からしたら、それくらいが現実的な料金なのかしらね。
その辺りはやっぱり、こっちに来てひと月程度の私にはまだまだ分からない感覚なのよね。だからまあ、ちょっと納得はいかないけど、これ以上口を挟むのはやめておきましょ。
「それと、集客のために料金は低めにしたが、自分を安売りしてる気はねぇぜ。客を同行させるってことは、実力の誤魔化しが効かないってことだしな」
「ま、トウコがそれでいいなら、私からは特にないわ」
なんだかんだでトウコらしい理由があって、ちょっと安心した。
「というわけで、だ」
みたまとの交渉を終えて、トウコは静観していたななか組に視線を戻して告げる。
「ちょいと色々入り用でな。傭兵として雇ってくれるなら力になってやれるぜ?」
トウコは情報収集と並行して、世界花の加護(仮)の検証を個人的に続けているらしいのだけど……父親からの
「つまり――捜査はこれまで通り私達が行い、飛蝗の存在をはっきりと捉えられた暁には傭兵として雇われてくださる、と」
「その方が、お互い時間も金も有意義に使えるだろ? その代わり――バッタ討伐は確実に遂行する」
ニヤリと不敵に笑い、自信満々にそう宣言する。格好良いわね。
「ふふ、頼もしい方ですね?」
なぜか私に向かって意味深な視線を飛ばして言うななか。どちらかというと、カトレアへ向けたものかしらね。
「傭兵かあ。うん、確かにその方が燈湖さんらしいかもね」
「わ、私も、強くて格好良い燈湖さんらしくて、良いと思いますっ……!」
「美雨さんも、それでよろしいでしょうか」
「まあ、傭兵は一番分かりやすくて良いネ」
どうやら、傭兵として雇われるという方向で決まりみたいね……ふむ。この話の流れだと、傭兵やるのはトウコ(とデンドロビウム)だけっぽいけど。
《女王様、代わってもらえない? 念話じゃなくて、直接私の口から言いたいことがあるの》
《ん、了解》
……まあ、親友が傭兵やるのに、カトレアが黙ってるわけないわよね。
△ ▼
ななかさん達と燈湖の話はまとまりつつあるけど、まだ終わりじゃない。
「ななかさん、それにみたまさん」
「はい?」
「あら、なにかしらぁ?」
「さっきから燈湖との契約で話が進んでますけど。傭兵は「私と燈湖」のチームです」
「!」
燈湖にしては珍しく、一瞬だけ驚いたような顔になったけど。すぐに笑顔を浮かべ、
「ああ、そうだったな。とりあえず傭兵として雇われる流れで話を進めたかったから、つい後回しにしちまった」
悩む間もなく、私が傭兵をやるのを認めてくれた。私が飛蝗討伐に乗り気なのは気づいていただろうし、驚きはしたけど燈湖の中では予想の範囲内だったのだろう。
「そうですね。もとより私は、カトレアさんと燈湖さんお二人にお声がけするつもりでしたから。願ったり叶ったりですわ」
ななかさんも、私が半ば思いつきで傭兵をやると言ったと気づいただろうけど、私の気持ちを尊重して後押ししてくれた。やっぱりいい人よね。
「うーん……ツーマンセルで活動するなら、料金設定は変えた方がいいんじゃないかしらぁ?」
それは確かに。どうしようかしら……そこまで考えてなかったわ。
んー……まあ、私が傭兵で得た収入も、燈湖の世界花の加護(仮)の研究費用に当ててもらうつもりだし。適当でいいか。
「燈湖と私、コンビのチームで基本料金は3000円。どうしてもソロで雇いたい場合は一人2000円。そんなとこかしらね」
「……それだけでいいの?」
みたまさんが不思議そうに聞いてくる。まあ自分でも、適当過ぎる気はするけれど。
「燈湖と傭兵をやること自体が私の目的ですし。さすがに二人で2000円は安すぎるから足しましたけど」
「セットだと値引き料金になるのは普通だしな。アタシに異論はないぜ」
「まぁ二人がそれでいいなら、私からはこれ以上口出ししないわぁ」
ということで。私も今日から傭兵魔法少女をすることになった。
「あ、そうだ! ソロじゃないなら、チーム名があると宣伝力的にいいと思うわよ〜」
「チーム名ですか……」
みたまさんに突然そう提案されて少し考える。
「せっかく花騎士魔法少女なんだし、それにちなんだ名前がいいわよね」
「ああ、そうだな。店の名前と向こうの国名から取って、チーム・ブロッサムとかどうだ?」
「それだとこのみさんも傭兵やるみたいじゃない? というか、女王様もデンドロビウムもウィンターローズ所属じゃない」
《正確に言えば、ウィンターローズの屋敷にいるだけで、花騎士としてはフリーみたいなものだけどね》
《私も、国や騎士団からの依頼で動くこともありましたが、基本的にフリーの傭兵みたいなものでした》
「そういえば……普段魔女討伐を一緒してるこのみさんは、傭兵はやらない感じです……?」
「うーん。さすがに二人ほど強くはないし、傭兵は私の柄じゃないかなぁ……オマケ程度な実力の私がお金を貰うのもどうかと思うし」
「それはさすがに卑下しすぎじゃない? このみさんのサポートがあるから苦戦を経験してないとこあるもの」
「ふふっありがとカトレアちゃん! それはともかくチーム名だけど、二人ともラン科のお花の花騎士なわけだし、オーキッドとかどうかな?」
「……ポ○モンの博士が真っ先に思い浮かぶな」
「うーん、そっかあ」
んー。さすがにすぐに良い案は出ないわね。
「シンプルに、チーム・フラワーナイトで良いのでは?」
「いいわね」「それだ」「いいですね!」
ななかさんの何気ない一言であっさり決まった。捻って考え過ぎてたわね。
ということで。
「チーム名は、フラワーナイト。チームメンバーはアタシ、デンドロビウムと」
「カトレアの二名よ」
そういうことで決まった。
ついでにチームで活動する時は、傭兵名的な感じで花騎士としての名前を名乗ることにした。「その方がインパクトがあって、宣伝力的に大正解なはずよ〜」と、実に楽しそうにみたまさんが提案してきたからだけど。燈湖からも異論はないし女王様とデンドロビウムも異議はなかったので、即採用となった。
その後、傭兵の契約内容をまとめた書類を調整屋さんの店内にあった印刷機で刷って、改めて問題がないかみんなで内容を確認してから解散となった。
「今日は二人ともうちに寄ってかないか? アタシのせいで少し遅くなったようなもんだし、夕飯を奢らせてくれ」
「あら、そう? せっかくだし、お邪魔するわね」
「わあ、私もいいの? 何気に燈湖ちゃんのお家には行ったことなかったから、ぜひお呼ばれするよ〜!」
もうすでに夕飯時だし、ここからだと若干燈湖の家の方が近いから、ありがたくご相伴に預かることにした。お母さんもう夕飯準備しちゃってるだろうから、ちょっと申し訳ないけど……燈湖からのお呼ばれだしいいわよね。
お母さんに、夕飯はこのみさんと一緒に燈湖の家で食べるとメールを打ち始めたところで、追加の一言。
「それとだ。飛蝗について、アタシが気づいたことを早めに話しときたい」
「あー……」
……そういえば燈湖、「魔法少女昏倒事件」の話を聞いた後、楽しくて仕方がない時の顔してたわね。どうやら、飛蝗についての話し合いはもうちょっと続くらしい。