調整屋さんの帰り、私達は休憩とお夕食をかねて、ファミリーレストランに寄っていました。
ちなみに、今一緒しているのは美雨さんだけです。あきらさんとかこさんは、ご家族が待っていらっしゃるでしょうから。
「クラブハウスサンドに、ドリンクバーをひとつ」
「シーフードドリアと、イチゴ杏仁パフェお願いするヨ」
「かしこまりました」
注文をして、店員さんが離れてから内心一息つく。
「美雨さんは、このお店だと毎回イチゴ杏仁パフェを注文されますね」
「そゆうななかも、毎回ドリンクバー頼でるネ。それより……交渉、お疲れネ」
「……疲れているように見えてしまいましたか?」
「見えないケド、アレと対話して疲れないわけないヨ」
「アレ、ですか。正直、交渉させられていた感が強いですね……」
燈湖さんとの交渉を思い出す。
最初はこちらが会話の主導権を握っていたはずなのに、途中で何もかも一気にひっくり返された感覚。これまで交渉してきた相手とは一線を画していたと言えるでしょう。
なにより、あの威圧は強烈にして鮮烈。それでいて、あれだけの威圧を放たれても私の固有魔法はピクリとも反応しなかった。
それはつまり、完全に感情を制御出来ているということ。相手に敵意を感じさせることなく恐怖心を抱かせるなんて、まるで達観した大人の……というより、武の達人のような精神と言えますね。
遊佐葉月さんのような強かさとはまた別種の、圧倒されるような力強さからの自信に溢れた計略。恐らく魔法少女になる以前から、彼女はあらゆる意味で強者なのだ。
「結果的に双方にとって利のある契約を結べたと言えますが、終始相手の手のひらの上で踊らさせられていた気分です。ふふっ」
「にしては、嬉しそネ」
「はい。ここまで見事にこちらの思い通りにいかずあしらわれたのは、初めてでしたので。貴重な体験でした」
とはいえ、精神的に激しく疲れたのは事実。ドリンクバーを堪能して精神回復しなければ、明日からの行動に支障が生じるかもしれません。
今日のドリンクの組み合わせをどうしようか考えつつ、話を続ける。
「言い訳みたいになってしまいますが……元々近いうちに接触する予定ではありましたが、今日出会うことは完全に想定外でした。なので、知らず内心動揺してしまい、功を焦ってしまった気がします。事前に燈湖さん達の情報をもっと集められていれば、もう少し上手く立ち回れていたのでしょうけれど……」
「それはどうカ? ライデントウコ、アレは個人で戦ても勝てない相手思た方がいいヨ」
「……勝利に拘る美雨さんにしては珍しいですね。戦う前から負けを認めるとは」
「アレは気高き虎ヨ、只人は素手で虎に勝てないネ。初めから勝てない分かてる相手に挑むは勇気でなく匹夫の勇。アレにどしても勝ちたいナラ、矜持捨てて囲んで叩くが更好的ネ」
「そこまでですか……」
「マア、ワタシは武闘家。胸を借りるナラ、是非お願いしたい相手ヨ」
私にはわからない感覚ですが、武術家で日々クンフーをモットーにしている美雨さんにとっては理想的な相手のようですね。
「ふと思ったのですが。戦わずして実力を認める燈湖さんに、あえて「目で見るまで強者と認めない」と主張していれば、流れで手合わせをお願い出来たのでは?」
「……それは盲点だたヨ」
私の思いつきに、心底悔しそうに呟く美雨さん。
「マ、マア、今は飛蝗に集中するの時ヨ。どちにしても、手合わせはその後ネ」
「そう言っていただけるのはありがたいですわ」
「トウコはともかく。もう一人、カトレアはどう見るネ」
ふむ、カトレアさんですか。
「話してみた感想としては、彼女は至って普通の感性の持ち主ですね。彼女だけなら、まだ御しやすいと言えたでしょう。燈湖さんさえいなければ、ですが」
「やぱり、トウコ強すぎるネ」
「ですが、もう一人の人格……花騎士のカトレアさんについては、未知数なところがあります。生きてきた世界が文字通り違うので、シビアな考え方が出来る方のように感じました。これはデンドロビウムさんにも言えますが」
「デンドロビウムとは、もと会話したいネ。彼女多分、トウコ以上の武人ヨ」
燈湖さん以上、ですか……となると、燈湖さんがあれ程までに自信を持てていた要因は、花騎士さん達の実力を信頼ているから、というのもあるかもしれませんね。
「ゲームのキャラクターが元になった人格ですから、花騎士の方達の情報は容易に入手出来ましたが……実際に会話してみて、やはり表面上の情報だけを鵜呑みにすべきではないと思いました」
「それが正解ネ。何事も自分の目で確かめるが一番ヨ」
ふう……さて。美雨さんと雑談兼反省会をして、だいぶ気も解れました。今日のドリンクの組み合わせも決めましたし、取りに行きましょう。
「それ何カ?」
「ホットコーヒーの炭酸水割りです」
「また妙な組み合わせ思いついたものネ……」
席に着き早速、いただきます。
「ふむ……なるほど、こうなりますか……ふふっ」
「……美味いカ?」
「温くなったコーヒーと炭酸の刺激が合わさり、絶妙な不味さですわ」
「不味いで嬉しそう、意味わからないヨ……美味い思える組み合わせしないは何故ネ?」
「ドリンクバーは可能性の集う場所です。その自由さ、豊かさ、懐の深さは、一種の芸術の表現の場とも言えるのです。美味いか不味いかはあくまで結果、未知の味に出会えるかもしれないというトキメキの前には、些細なことなのですわ」
「まるで意味わからないネ。これだから芸術家ハ……」
「ご安心下さい、どれだけ不味くても必ず飲み干します。それがドリンクバーに挑む者の責任というものです」
「ドリンクバーでそんな重い言葉、初めて聞いたネ……意味不明はともかく、飲み物粗末しないは良いことヨ」
こうして今日も、私のドリンクバー道の開拓が始まった。