魔法少女花騎士☆マギカ   作:繭浮

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バッタ討伐とフリーの傭兵 2-1

 燈湖の家で夕飯を奢ってもらって、現在私達は、いつも燈湖の家で魔法少女関連の話し合いをする時のスタイル――お座敷に座布団を敷いて、向かい合って座っていた。

 

 まあ、このスタイルにこだわる理由はないのだけど。魔法少女になった時このスタイルだったから、なんとなく魔法少女関連の会議をする時はこのスタイルを続けていた。今日はそこにこのみさんが加わっている形だ。

 

 ちなみに、夕飯を作ったのは為次郎さんだ。調整屋を出た直後に今日は二人増えると連絡していたらしく、私達が雷電家に到着した頃には食卓に料理が並べられていた。

 

 急に二人増えたせいで、一人当たりのオカズの量が少し少なめになってしまったのだろうけど、それでも5人前以上はゆうにあったので気にしない。燈湖と為次郎さんが一度の食事で二人前以上食べる健啖家なのは知ってたしね。

 

「あれだけあったのに、なくなっちゃった……」

 

 それを初めて見たこのみさんはさすがに驚いていたけど。呆然とするこのみさん可愛い。

 

 まあ雷電家の食事情については置いといて。飛蝗についての話だ。

 

「これはあくまで、現段階で得られた情報からの推測だが……飛蝗は魔女ではないと、アタシはにらんでいる」

「「え?」」

 

 私とこのみさんの声が被る。

 

「……どういう意味? 魔女の口づけで操られた人の犯行だって、被害者のななかさん達自身が言ってたじゃない」

「だよね……嘘をついてるようには、とても見えなかったよ?」

「アイツらが嘘をついてる訳じゃねぇし、魔女に操られた奴による事件だってのも間違いじゃねえんだろうな」

「「……??」」

 

 意味不明だった。魔女の仕業だけど魔女の仕業ではない……?

 

「ななか組が追ってる飛蝗は魔女じゃない。魔女を操る事の出来る奴の仕業だ」

「「!?」」

 

 燈湖の予想に、驚きのあまり絶句する私達。

 

 キュゥべえですら、魔女を生み出せても操れはしないらしい。キュゥべえは生み出す力しかないからだ。

 

 だから、魔女を操れるかもしれない力を持った存在なんて、同じく魔力があり、魔法を使える存在だけ……そして、燈湖は魔女ではなく「奴」と言った。

 

 それはつまり――

 

《飛蝗の正体は、魔法少女。トウコはそう言いたいわけね》

「そ、そんな……! 燈湖ちゃん、何でそんな突拍子もない予想を……?」

 

 そう、そうだ。思わず絶句してしまったけど……燈湖が突拍子もない予想を語るはずがない。間違いなく、論理立てて考えに考えてから出した、真実味のあることしか燈湖は話さないのを、私は知っている。

 

 ななかさん達と交渉していた時の、燈湖の反応……最も楽しそうにニヤリしていた話題と言えば。

 

「その結論に至った理由は、「魔法少女昏倒事件」?」

「ああ、そうだぜ。正確に言えば、飛蝗の性質を聞いた時から違和感があったんだ」

 

 んー? ……どの辺に違和感があったのかしら。何もおかしなところはなかったように思うんだけど。

 

「今まで出会ってきた魔女の口づけをされた奴らは、どいつも刹那的で短絡的に破滅しようとしていただろ?」

「それはまあ、そうね」

「だが、ななか組の被害はどうだ。常盤家を襲った高弟による謀略、地上げ屋による夏目古書店の放火、蒼海幇を襲った地上げ屋の手口。いずれも魔女の仕業にしては、理性的に過ぎないか?」

 

 うーん、言われてみれば、そう思えるかもしれないけど。

 

「それとだ。ななか組には、ある共通点がある」

「共通点?」

「どいつも「良好な家庭環境で、ささやかながら幸せな日々を送っていた」、だ。アタシの知る限り、魔女は相手が幸か不幸かなんて考慮せず、目についた獲物に食らいつく存在だ。だが飛蝗は明らかに、標的の日常を壊す方向で的確に動いている。幸せな奴らを不幸にすることに愉悦を抱いている、そう感じたんだ」

「うーん……そういう性質の魔女だから、なんじゃないかな……」

 

 自身なさげながら反論するこのみさん。

 

《悪意がカタチを持ったような存在の魔女だって、負の感情のみとはいえ、一応感情を発露させていましたし。このみさんの言う通り、そういう性質の魔女がいたとしてもおかしくはないんじゃないでしょうか》

 

 デンドロビウムも同意見だし、ななかさんも魔女の仕業とみて捜索してるし。この情報だけじゃあ魔法少女の犯行とは断定できないわよね。

 

 まあ、魔女に感情があるって言っても怒りだとか憎悪だとかだし、理性的とはとても言えないから燈湖の言いたい事は分かるけど。

 

「確かに「そういう性質の魔女なんだろう」ってなるのも当然だ。実際、魔女の口づけされた奴の犯行だからな」

 

 燈湖も違和感を感じてはいても、途中までは同じ考えだったのだろう、このみさん達の意見を肯定する。

 

《そこで、「魔法少女昏倒事件」なのね》

「その通り。ななかはその事件に、飛蝗の気配を感じたという。となるともう確定で、「飛蝗は魔女ではない」ってことになる」

「え、確定なの……?」

「魔女が魔法少女を昏倒だけさせるなんて、回りくどいことするわけないだろ? この事件は明らかに人為的だぜ。ななかも多分、確証は出来ないまでもその可能性が出てきたから、仲間に伝えるのに慎重になったんだろうぜ」

「どっちにも飛蝗の気配があるなら、当然犯人も同一ってことよね。そして昏倒事件が魔法少女の仕業なら、もう片方も……」

「でも、そんな……同じ魔法少女なのに?」

《魔法少女も、同じく人間。ならば、悪意を持って動く魔法少女がいても、なんらおかしな事ではないでしょう。残念なことですが……》

「で、でも……動機とか、どうやってとか!」

 

 希望の象徴の魔法少女がそんなことをするのを認めたくないのか、このみさんが目をグルグルさせて反論する。

 

《このみさん、落ち着いて下さい。「冷静」の花言葉を持つ花は?》

 

 唐突にデンドロビウムがそんな問いかけをし出した。

 

「え!? 花言葉、冷静……紫のアサガオ、蒼のアルストロメリア、ホスタ、あとなんだっけ……」

《即三つも出ますか。さすがこのみさんです》

「えへへ、ありがとです……うん、なんかちょっと落ち着いたよ」

 

 なるほど、このみさんを落ち着かせたいなら、花のことを考えさせるべし。さすがデンドロビウム、冷静で的確な判断だわ。

 

 それはともかく、あわあわしていたとはいえこのみさんの意見にも一考の余地があるわね。

 

「このみさんも言ってたけど、どうやって魔女を操っているのかは、気になるところよね。やっぱり固有魔法なんだろうけど」

「まあ、だろうな」

《どんな願いをしたら、魔女を操れるほどの強力な固有魔法になるのかしら》

《そうですね……まさか「魔女を思い通りに操りたい」という、ピンポイント過ぎる願いではないでしょうし》

「というか、最初からそんな悪い事をするために魔法少女になったなんて、私にはやっぱり考えられないなあ……」

「それは確かにね。魔法少女は希望から生まれるとか白いのが言ってたし、飛蝗の黒幕も、最初から悪人だったとは思えないわよね」

「だよね、カトレアちゃん!」

 

 色々と予想を立ててみるけど、これと言って飛蝗の魔法少女の具体像は思いつかない。まあこの場ですぐ正解に辿り着けるようなら、ななかさん達ならとっくに解決出来ているだろう。

 

 まあ、それでも燈湖は、すでにある程度当たりをつけてるんだろうけど。

 

「動機はともかくだ。固有魔法に関しては、恐らく精神操作系だろうぜ」

「精神操作?」

「例えば「目を合わせた奴の精神を支配出来る」とかだな。そういった催眠術的なヤツと予想してる。まあまだ確証はないんだが……昏倒事件のあらましについて聞くとな」

 

 確か……静海このはさん・遊佐葉月さん・三栗あやめさんの、最近神浜に越してきた三人組の魔法少女チームが、魔法少女昏倒事件の犯人ではないかって噂が立った……だったかしら。

 その解決に、ななか組含む複数の魔法少女が奔走し、最終的に「このはさん達は犯人ではない」ということ以外分からなかったという、なんともモヤモヤの残る結末のままの未解決事件らしい。

 

「その時の静海このはの挙動不審さからして、精神を操られてたと見るのが妥当だろう」

《なるほど。かなり厄介な魔法ね……》

「だが、この事件で読み取れることで一番重要視すべきなのはだ。これまでは一般人を標的にしていた飛蝗の魔法少女が、今度は魔法少女を標的にしやがったって事だ。つまり、アタシら魔法少女が直接狙われる可能性が出てきた訳だ」

《狙いが明確化した分、捕まる可能性も高まったはずですが……飛蝗の魔法少女は、何を考えているのでしょう?》

「さてな。さすがにアタシも、会った事もない奴の考え全部は予想出来ねぇからな」

 

 だが、と言って一拍置き、続ける燈湖。

 

「飛蝗がアタシの予想通り、人を貶める愉悦心で動いているクソ女なら、じっとしてなんていられないだろうぜ」

《それは、飛蝗の魔法少女はまた似たような事件を魔法少女間に起こすってことかしら》

「似たような、というか……魔法少女昏倒事件をまた起こすだろうぜ。それも近いうちにな」

 

 同じ事件をもう一度……それに何の意味があるのかしら。

 

「そんなことしたら、捕まりにいくようなものじゃない? 事件を繰り返す意味が分からないわ」

「そここそが、飛蝗の性質――性格だろうからな。高確率で昏倒事件を、しかもまた同じ奴らをハメようとするはずだ」

 

 ますます意味が分からない。燈湖は、飛蝗の魔法少女は捕まりたいと思ってるって言いたいのかしら。

 

「ななかの家は乗っ取られる寸前まで追い詰められ、かこの家の古書店は、願いで元通りになったらしいが一度全焼したらしい。そこまで滅茶苦茶になるまで食い漁るヤツなのに、今回の昏倒事件の結末はあまりにヌルい」

《なるほど。飛蝗の性格からして、この程度では食い足りたりないと》

「もっとグチャグチャにぶち壊したかったはずだぜ。だから、静海このはのチームがまた飛蝗の標的にされる確率は高いと思う」

「何よそれ。性格悪いにも程があるわね……」

《ですね……教育のし甲斐がありそうですが》

 

 ……そこで矯正する方向で考えられるデンドロビウムは、さすが師匠と呼ばれるだけあるわよね。

 

「それじゃあ、私達はどうすればいいかしら。まさかななかさん達との契約通り、ななかさん達が飛蝗を完全捕捉するまで座して待ってる訳じゃないでしょ?」

「ああ。やるべき事と、避けるべ事がある」

《避けるべき?》

「飛蝗に標的にされた、静海このはのチーム。そいつらとは出来る限り接触しない方がいいだろうな。安易に接触すると、飛蝗に目をつけられる恐れがあるからな」

「それはまあ、そうね」

《そのチームの三人とは、出来るだけ接触しない。偶然会っても親睦を深めようとしない。そんなところかしらね》

「うーん。せっかく同じ魔法少女なのに仲良くなっちゃダメなんて、なんか変な感じだね……」

《このみさんのお気持ちは分かりますが、飛蝗の件が解決するまでは致し方ありません》

 

 私と同じく乗り気だったこのみさんとしては、また狙われるかもしれないのに手助け出来ないのはヤキモキするでしょうね。

 

《それじゃあ、やるべき事は……飛蝗の魔法少女の固有魔法対策、かしらね》

「ああそうだ。という訳で、だ」

 

 燈湖はひとつ頷き、私の肩にポンと手を置き、

 

「カトレア、それと女王様に、やってもらいたいことがある」

「《え?》」

 

なんか頼まれた。


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