魔法少女花騎士☆マギカ   作:繭浮

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プロローグ 1-2

「君たちなら、多少強力な魔女相手でも即戦力として戦えるはずだよ。彼女たちの魔女退治の手助けだって出来るだろう」

「……!」

 

 そうだ。このみさん達は、私のお母さんを助けるために魔女を倒しに行った。

 

 なら、私は……私にも、お母さんを助けられる力があるのなら……!

 

「キュゥべえ、私も――!」

「待てカトレア。冷静になれ」

「え、燈湖?」

 

 燈湖に肩を掴まれ、言葉を止められる。

 

「アイツらの目を思い出してみろ。アイツら、覚悟の決まった目をしてやがった」

「……そうね」

 

 あれは、戦士の目だ。燈湖で見慣れてたから分かる。

 

「魔女との戦いは、多分命懸けだ。つまり――命を落とすかもしれねぇんだ。覚悟も決まってねぇ状態で、安易に戦場に向かおうとするな」

「命懸け……戦場……」

 

 燈湖の洞察力は信頼出来る。燈湖がそう判断したのなら、まず間違いはない。

 

「それと――話の続きは、アイツらが戻ってからにしようぜ」

「あら……私、いつの間にお店に戻ったのかしら……」

「お母さん……!」

 

 お母さんが正気に戻った! ということは……

 

「ミッションコンプリート、したようだな」

 

 

 

 

 お母さんが元に戻って数分後、魔法少女三人組は無事帰ってきた。

 

 お母さんは「魔女の口づけ」中の記憶は一切ないらしく、お店の前で倒れて、数分で起きたのだと言い訳しておいた。

 

 その後、病み上がりで無理をしたからとして大事を取って早めに店仕舞いをさせて、現在。私達はこのみさんの家に招待され、情報のすり合わせをしていた。

 

 だいたいは同じ情報だったので、キュゥべえが嘘をついていない事が分かったくらいね。

 魔法少女組が唯一知らなかったのは、魔女の口づけが見える一般人がごく稀にいることくらいか。

 

「聞かれなかったからね」

「びっくりはさせられたけどね。知らなくても問題ないから、別に責めたりなんかしないよ」

 

 と、このみさん達は言っていたけれど。

 

「聞かれなかったから、ねぇ」

 

 燈湖だけは、すぐ隣の私にしか聞こえなさそうな声量でそう呟き、胡乱げな目でキュゥべえを見ていた。

 

 それはともかく。話は魔法少女組の、魔法少女になった理由――つまりは、彼女たちが何を願い、叶えてもらったかに移ったのだけど……

 

「私の願いは、その……」

 

 ちら、とこちらを見るこのみさん。え、私が関係してるの?

 

 ややあってから、少し恥ずかしそうにしながら語った「願い事」を聞いた私は。

 

「おばさんの病気を治して欲しい」

「――っ!!」

 

 カチリと、頭のパズルのピースがはまった感覚。

 

 正直、おかしいとは思っていた。お母さんの病気はあんなすぐに治る類のものじゃなかったらしいし、お医者さんも「奇跡的だ」と言っていた。

 

 それがまさか――本当に奇跡だったなんて。

 

「あっ……ありがとうっ……ありがとうっこのみさんっ」

 

 気がついたら私は、感謝を呟きながら泣きじゃくっていた。

 

「気にしないで、カトレアちゃん。私はただ、大好きなおばさんを、ブロッサムを――カトレアちゃんの笑顔を、守りたかっただけなんだから」

「ありがとうっ……ほんとにっありがとうっ……!」

「ふゆぅ……よかったね、カトレアちゃんっ……!」

「うんっ……うんっ……ぐすっ……」

「ほら、いい加減泣き止め、もらい泣きしちまってるヤツいるじゃねぇか」

「ゔゔぅ〜〜っ」

 

 

 

 

 泣き疲れてぐったりしてしまったので、その日はそれでお開きとなった。うぅ、子供みたいに泣きじゃくっちゃって恥ずかしい……

 

 まあ、それはそれとして……

 

「燈湖、私」

「……覚悟を決めちまったようだな」

 

 私の言いたい事を先読みして、そう言われる。

 

 そう、決まった。私が魔法少女になりたい理由。

 

 燈湖には言わなくても伝わってるだろうけど。決意表明として、口に出す。

 

「このみさんと一緒に戦いたい。魔女との戦いが命懸けだっていうなら尚更。お母さんの、私の恩人を、今度は私が助けたい!」

「それが君の願いかい?」

 

 着いてきていたのか、後ろからキュゥべえの声。振り返り、答える。

 

「そうよ。私、魔法少女になる」

「お前がなるんだったら、アタシも付き合うぜ」

 

 ニカっと笑って、燈湖が横に並ぶ。

 

「だがなカトレア。その願いでなるのはやめとけ」

 

 けどなぜか、待ったがかけられた。

 

「なによ、文句あるの?」

「動機に関しちゃ文句はねぇ。しかしその願いだと、得られる力がどうなるか、これがわからない」

「……どういうこと?」

「アイツらの願いと得た力から考えて、願いの内容が固有魔法の方向性や強力さに影響するみてぇだ。だから願いはもっと具体的な、「強い力を得られそうな願い」にするべきだぜ。命懸けの戦場に行こうってんだからな」

「な、なるほど」

 

 みんなの叶えた願いと得た魔法から、まさかそこまで読み取っていたなんて。さすが燈湖だわ。

 

「それにだ。命懸けの戦いなんてもんに参加すんなら、アタシら子供だけで決めるべきじゃねぇ」

「え、でもそれは……」

 

 このみさん達の話では、誰かに魔法少女になった事を伝えてもまったく信じてもらえなかったらしい。魔法少女衣装も魔法もキュゥべえの姿も素質がないと見えない以上、仕方ないわよね。

 

「目に見えないものなんて、魔法に限らずあるだろ、風とか電波とかな。だから、信じる奴は信じる。アタシの親父なら、説明すれば信じるはずだぜ」

「……ふふっ、あの人なら確かにね」

 

 燈湖のお父さん、雷電為次郎(ためじろう)さんは、若い頃は自衛隊に入隊していたり世界中の戦場を駆け巡り傭兵をしたり、現在はそのノウハウを活かして?ボディーガード派遣会社を経営しているという、存在自体が冗談みたいな人だ。

 

 ……燈湖が魔法少女でもないのに超人じみているのは、彼の教育のたまものだろう。

 

 そんな彼には、アニメや漫画・ゲーム好きというサブカルチャー趣味がある。だから彼なら、「魔法少女が実在している」と言っても信じてもらえる可能性が高い……いや、燈湖が真面目に説明すればまず信じてくれるだろう。

 

 うちのお母さんは……まず信じてはくれないだろうし、何より病み上がりだから余計な心配はかけたくない。言わない方が良いだろう。

 

「てなわけでだ。話の続きはアタシんちでしようぜ」

 

 

 

 

「……なるほどなぁ。これまでの不自然な事件や自殺は、その魔女とやらが関係してんのかもな」

 

 予想通り、為次郎さんはあっさり信じてくれた。

 

「にしても、魔女か……()ってみてぇなぁ」

 

 ニヤリと獣が牙を剥いたかのような様な笑みを浮かべてそう呟く……相変わらずこの人おかしい。

 

「親父はそもそも女じゃねぇから無理だろ。てか、(アタシ)玩具(獲物)を取り上げようとすんなよ大人げねぇ」

 

 そして娘さんのこの反応である。親子よねぇ。コワイ。

 

 まあ戦闘狂親子の趣味嗜好はともかく。

 

「でだ。どんな願いで魔法少女になるかだが」

 

 ようやく、私にとっての本題に入った。

 

「お前、フラワーナイトガールのカトレアが大好きだろ?」

「え、そうだけど……」

 

 ……本題に入った、のよね?

 

 

 

 

 『FLOWER KNIGHT GIRL』

 

 花の名を冠する少女「花騎士(フラワーナイト)」が、花の世界「スプリングガーデン」を脅かす敵性存在「害虫」との戦いを繰り広げる、スマホ向けRPG。いわゆるソーシャルゲームの一種だ。

 

 私がプレイを始めたきっかけは、親父さんと同じくサブカル趣味のある燈湖から勧められたからだ。「花が好きなお前にぴったりだぜ、操作も簡単だしチビキャラも可愛いしな」とか言われたんだっけ。

 

 ハマったきっかけは、やっぱり「カトレア」だ。私のことじゃなく、「花騎士のカトレア」ね。

 

 「花騎士カトレア」は、私が一目惚れレベルで気に入ったキャラだ。

 

 まあそれも当然、私と同じ花の名前を冠していて、キャラデザも大好きな花である「洋ランの女王カトレア」を擬人化するならまさにこう! といった、私のイメージ通りだったから。

 

 さらに、華霊石11連で初めて虹鉢になったときに通常バージョンと水着バージョンと光華祭バージョン全部引くという神引きをして、運命ひらりした。

 

 ……何を言ってるかわからないと思うけど、とにかくあらゆる創作物のキャラクターで一番好きなキャラということだ。性格も能力設定もゲーム内設定もカトレアの名を冠するに相応しいものだしキャラストーリーも……これ以上は長くなるからやめよう。

 

 話を戻そう。燈湖が「花騎士のカトレア」のことを持ち出した理由だ。

 

「「花騎士カトレア」は、お前がもっとも深く愛していてもっとも容易にイメージ出来る、「強力な力を持っているキャラクター」だろう?」

 

 ……なるほどね。

 

「「フラワーナイトガールのカトレアになりたい」って願えば、強力な力を手に入れられる。そう言いたいのね?」

「そういう事だ」

 

 うん……うん! 良いじゃない良いじゃない! 大好きな「花騎士カトレア」になれるかもなんて、テンション上がるわ!

 

「私の願いはそれがいい、いいえ! それ以外ないわ!」

「喜んでもらえて何よりだぜ」

 

 私の願いを聞いて、燈湖が楽しそうにうんうん頷き、

 

「お前がカトレアになるなら、アタシはデンドロビウムだ」

 

と続けた。ちょっとだけ意外ね。

 

「あら、あなたの普段の口調からして、ブラックバッカラにするかと思ったわ」

 

 ちなみに、「デンドロビウム」も「ブラックバッカラ」も、花騎士カトレアに深い関わりのある花騎士だ。

 

「アタシは格闘家だからな。デンドロビウムは花騎士で一番のお気に入りキャラでもある。なにより、リアルで華砕拳打ちてぇ」

「あぁ、わかるぜ。似たような事は出来なくもないが」

 

 為次郎さん出来ちゃうんだ……本当に人間……いや、深く考えるのはよそう。

 

「二人の願いはそれで決まりかい?」

 

 キュゥべえが願いを確認してくる。相談中ずっと側にいたけど、話が纏まるのを黙って待ってくれていた。

 

 ちなみに、為次郎さんに説明する前に燈湖がキュゥべえを猫の首根っこを掴むみたいに雑に持ち上げて、親父さんの眼前でプラプラさせて見えないかどうか確認していた。当然見えていなかったけど。

 

「ええ。私は、花騎士のカトレアになりたい!」

「いや、ちょっと待て」

 

 ここでまた待ったが入る。

 

「今度はなによ?」

「そこは断言しろ。「なりたい」じゃなくて「なる」だ。そうすれば曖昧さ回避に繋がるはずだ」

「注文が多いわね……」

 

 でも、言われてみれば確かにそうかも。燈湖の洞察力は頼りになるし、説得力もある。

 

「後な。イメージをより強固にするために、今からキャラストーリーをプレイしよう。その直後に契約だ」

「……さすがに慎重過ぎない?」

「願いは一生に一度きり、その後は命懸けの戦いの日々だぜ? 慎重に慎重を重ねるに越した事はないだろう」

「あ……そ、それもそうね」

 

 危うく忘れかけてたけど、魔法少女になったら魔女と命のやり取りするんだった。

 花騎士カトレアになれることでテンション上がり過ぎたわ。さすが燈湖、すでに戦う者なだけあって危機察知がずば抜けてるわね。

 

 

 

 

 それから小一時間。さらに慎重に、キャラストーリー以外にもカトレアが登場したメインストーリーやイベントすべてを確認して、カトレアが辿った道筋を丹念になぞり、カトレア愛を存分に高めた。燈湖も同じくデンドロビウムが出たストーリーすべてを念入りに確認したらしい。

 

 さあ――準備は完璧に整った。

 

「さあ、君たちの願いを言うといい」

「……。すうぅーー……はあぁぁーー……」

 

 一度深呼吸してから正座し直し、願いを告げる。

 

 力強く、はっきりとした口調で、確信を持って。

 

「私は、フラワーナイトガールの花騎士・カトレアになる!」

「アタシは、フラワーナイトガールの花騎士・デンドロビウムになる!」

 

 間を置かず燈湖も願いを告げる。

 

 

 

 

 ……この時の私は、私達は、思いもしなかった。

 

「契約は成立だ。君たちの祈りはエントロピーを凌駕――な!? これは……!」

 

 まさかこの願いで、私達は。

 

「この力は、一体……?」

 

 本当に「花騎士のカトレア」「花騎士のデンドロビウム」になってしまうだなんて。

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