《ふふふ、予想通りみんな驚いてるわね》
そんな中、女王様の楽しそうな声が脳内に響いた。
《さ、次の検証に移りましょ》
《あ、もう対抗魔法出来たの?》
《簡易だけどね》
ということで、代わって一回ジャンケンしただけだけど、再度交代だ。
▲ ▽
「さて、それじゃあ後2回ね。それとアスカ、そんなに不満なら、一度解除してもう一度かけ直してみなさい」
「は、はい……」
提案すると、気落ちしたままながらすぐに規律厳守を解除して、
「カトレアさん、あなたはジャンケンで「パー」以外を出してはいけません……」
元気のない声で、再び固有魔法を私に放つ。
ふふ、け・ど。
ぱちんっ
「へ?」
他の人は特にリアクションないけど、さすがにアスカは自分が放ったから感じ取れたのだろう。
まあそれはそれとして、キチンと効果が出ているか検証よ。
「それじゃあアスカ対戦しましょ私はグーを出すわ、はいジャンケン――」
「はっ? あっ、ちょま」
早口でまくし立てるように告げ、有無を言わさずジャンケンをする。
「――ポン!」
私はチョキ、アスカは当然規律厳守がかかっているのでパーだ。
「ですよねー……いえいえいえ!! これは一体どういう事ですか〜!?」
さて、私とアスカはアスカに規律厳守がかかってると認識出来ているけど、他のみんなは頭にハテナが見えそうな顔をしている。
「さあもう一度よ、ジャンケンポン!」
「ぽっポン!」
再び私がチョキ、アスカがパー。
「はうぅ〜……」
「これは……もしかして、明日香に規律厳守がかかってる?」
ふむ、アスカと付き合いが長そうなささらが最初に気づいたようね。
《カト……今は女王様かな? これって、明日香さんの魔法を跳ね返したってこと?》
このみが念話でこっそり聞いて来た。
《ええそうよ。私が構築したのは、魔法反射結界。相手がかけてきたあらゆる魔法を反射して、かけて来た相手に効果を返す魔法よ。これで私一人なら、どんな固有魔法も跳ね返せるわ。急造だから、理論上は、だけどね》
《おお、さすが女王様!》
《……あれ、でもそれだと、良い効果のも跳ね返しちゃわない?》
《そこが問題なのよね。まあ急造だからね、後で改良するわ》
私は魔法が大の得意だし、魔法で割と色んな事を起こせるけど、なんでも出来る訳じゃない。力技系はわりと得意だけど、防御系なんかは比較的苦手なのだ。時間をかければ作れるけれどね。
さて、慎重なトウコの提案としては、最低でも二種類は対抗魔法を用意してくれってことだし。ふふっ後はどんなのを作ろうかしらねー。
「自害します〜! 止めないで下さい〜!!」
「ダメ、絶対に!」
ちなみにアスカは、あっさり対抗策を作られた自分の不甲斐なさに憤慨して、また自害自害と騒いでいた。賑やかで毎日楽しそうね、ここは。
「明日香、やるにしても外でやってよ……」
……その様子を見て、あきらはなんか疲れたような声でそう呟いていた。
まあ、これが毎回のようにだったらさすがに疲れるわよね。私もオンシジューム相手にしてるから分かるわ。
目的を果たせたお礼と、エミリーのスイーツ休憩の邪魔をしたお詫びもかねて、エミリーとアスカにみつ豆を奢ることにした。
《また勝手に私のおこずかいを……》
《私だってブロッサムの手伝いしてるし、今後は傭兵業でも稼げるんだからいいじゃない。硬いこと言わないの》
《あはは……私も出すから気にしないで、カトレアちゃん》
ついでに、魔法少女の知り合いが多そうなエミリーに、情報収集もかねて魔法少女関連の情報を引き出してみた。雑談が主な感じだったけど、思ったより集まったわね。
その内の一人に、飛蝗の――昏倒事件で犯人と疑われた、ユサハヅキの情報もあった。
なんでもハヅキは、自分達のチームの絆をぶち壊そうとした昏倒事件の真犯人を探し当てるため、神浜市内の様々な地区の魔法少女と直に会い、情報収集しているらしい。そのため、交友関係の広いエミリーとも頻繁に交流を持っているとのこと。
「運が悪ければ、エミリー相談所で鉢合わせしてたかもしれないわね」
《いやいや女王様、言わないでよ。フラグになるわ……》
なんかカトレアが意味わからないこと言ってるけど。とにかく、手に入れた情報の精査はトウコと一緒にした方がいいわよね。
「うん? この魔力……」
「どうしたの、カトレアさん?」
エミリー達とのスイーツ堪能会(違う)を解散して、水徳商店街から出ようと移動を始めたところで、不快な魔力波長を感知した。
「……あっちの方から、魔女の魔力を感じるわね」
そう言い、魔力感知した方向を指差す。
「うーん、お寺さんの方かな。カトレアさんが感じたならまず間違いなく結界があるだろうし、行ってみよう!」
「水徳寺」と彫られた石看板を横目に、階段を見上げる。
「ふーん、ここがお寺ね……神殿に似た清浄な雰囲気を感じるわね」
《神殿……あぁ、エトゥ神殿ね。アレまんま神社よね》
「まぁ確かに、お寺と神社は色々と似てるよね。それはともかく、魔女の気配は?」
「えーと……境内じゃないわね。この道を直進、かしら」
そこから1分ほど歩くと、
「あっ見つけた!」
このみが結界の入口を見つけた……んー?
《女王様?》
結界入口に手をかざし、魔力を探る。
「魔力が震えてる……? 結界内で魔女が暴れてる、のかしら」
「それって……もしかしたら、すでに魔法少女が中で戦闘してるのかも」
《へえ……そういえば何気に、他の魔法少女が魔女と戦ってる最中に出くわしたことなかったわね》
ふむ。どうしようかしらね……助太刀扱いになるなら問題ないけど、横入りしたって判断されたら揉め事になる。
こういう時は、先達に意見を尋ねるべきよね。
「先輩魔法少女のこのみ、こういう場合どうしたらいいかしら?」
「うぇっ私!? わ、私だってこういう場面に出くわしたの初めてだから、わからないよー……」
まあ、予想はしてたから、一応聞いてみただけだ。このみが初めて自分以外の魔法少女に出会ったのはかことかえでで、わりと最近のことらしいし。
《とりあえず、結界内に入った方が女王様もハッキリ感知出来るでしょ。現場を見て判断しましょ》
「まあそうね。苦戦しているようなら助けて、問題なさそうなら退出しましょ」
「うん、賛成!」
★
結界に入ってから最深部前まで、使い魔とは全く遭遇しなかった。ここまでにいたはずの使い魔は全て倒されていた、のなら良かったのだけど……中から感じる不快な魔力は複数。どうやら最深部に集結しているらしい。
「この感じ……苦戦してるわね。魔法少女の魔力がみっつもあるのに、魔女は暴れてるし使い魔の減りも遅いもの」
《かなり強力な魔女ってことね》
「それじゃ、早く助けないと!」
「落ち着きなさい。確かに私達が参戦すれば負けはしないだろうけど、いつもと違ってトウコとデンドロビウムがいないんだから、いつも以上に慎重にいきましょ。このみ、突入前に固有魔法をお願い」
「うん、了解だよ! ……あなたに、鮮やかに咲き誇る花の彩りを!」
このみの固有魔法で私に魔力の花が添えられ、全身に魔力と気力が満たされる……うん、みたまの調整を受けてから、さらに効果が上がったわね。
「ん、完璧ね。それじゃ突入!」
掛け声と共に、私は先陣を切って最深部に飛び込んだ。
「こ、れはっくうっ! ちょっと、ヤバいかも……!」
「……っ!」
「まさらっ前に出ないでっ!」
最深部では、金髪ポニーテールの娘と銀髪ロングの娘、茶髪ロングを輪っかヘアーにした娘が、魔女と使い魔の猛攻に晒されていた。
だいぶ激しいけど、輪っかの娘が前に出て壁役になっていることでなんとか凌いでいる、てとこかしら。
これは、下手に声をかけると隙が生まれてしまって危険ね……よし。
「……目の前の敵に夢中になってるし、不意打ちで魔女を直接叩くわ」
「ちょっと距離あるよ、大丈夫?」
「それなら一気に詰めるだけよ」
魔力を背中に集中。炎の翼を生み出しさらに魔力を溜める。
《エンゼル・プロミネンス! なるほど、上から強襲仕掛けるのね!》
「ご明察。このみ、少し離れて」
「うん。頑張って、女王様!」
このみの声援に微笑みで返し、目標を見据える。
(さて……巻き添えにならないように気をつけないと)
巨大なウサギのぬいぐるみのような魔女と魔法少女3人組との距離を、キチンと見極めて――今!
フワリと浮き上がり、ある程度上昇したら一気に魔女の真上まで瞬時に移動する。
さすがに強力に成長した魔女だけあって、私の強大な魔力に気付いて天を仰ぐ、けどもう遅い!
「蒸発しなさい!!」
ボゴオウッ!!
炎の翼を身に纏うようにしてからショルダータックルのように激突し、魔法少女達から距離を引き離して安全マージンを十分に取って魔女の側に着地、からの溜めた魔力を全力解放!!
ブゴオオオオッッ!!
私を中心にして巨大な火柱が立ち、魔女と近くにいた使い魔を巻き込んで燃やし尽くす。
「ふう……ま、こんなものね」
炎を消してから立ち上がり、不敵に微笑んで魔法少女3人組を見据える。全力の大技でさすがにちょっと疲れたけど、情けない様子は見せてあげない。
「「…………(ぽかーん)」」
「…………」
ポニーの娘と輪っかの娘の呆然とした顔を見て、優越感が湧き上がる。銀髪の娘は無表情で何考えてるかわからないけど、
「とても強いのね……ありがとう」
すぐにお礼が出てくる辺り、表情と同じく冷静で平静らしい。
「世界に愛されている私だもの、これくらい当然よ。それより、横取りしちゃったみたいでごめんなさいね」
私が台詞を言い終えると同時、結界が崩壊して外へと出る。そこでようやく魔女が倒されたのだと実感したのだろう、変身を解除してその場にへたり込む。
「た、助かった〜……今回ばかりはダメかと思ったわ〜……」
「あはは、ほんとにね……」
「大丈夫? グリーフシードいる?」
今出たグリーフシードを拾い上げ、2人に差し出す。2人とも、危険域ではないけどだいぶ濁ってきている。
「あー、ありがと……でもあなたが倒した魔女のなのに、いいの?」
「あなた達が最初に戦っていたのだし、横取りするほどグリーフシードには困っていないもの」
「そんな、横取りだなんて思わないよっ! あのままじゃあジリ貧だったし、それは正当にあなたのグリーフシードだよ!」
「そうね……」
ふむ、助けられた上にグリーフシードまで恵んでもらうのは、さすがに気が引けるか。でも、一度あげると言ったのに引くのも気持ち悪い。
「これも何かの縁だろうし、ありがたく受け取りなさい」
「うーん、でも……」
「あははっ、せっかくだしここは貰っとこうよ、こころさん」
「相手は引く気はなさそうよ」
「ん、2人がそう言うなら。じゃあ……えっと?」
受け取ろうと手を伸ばすけど、途中で止めてこちらの顔を窺う輪っかの……確かこころとか言われてた……ああ、そう言えばまだお互い自己紹介してなかったわね。
「お疲れ様、カトレアさん……あっ」
このみが近づき労いの言葉をかけてくれるけど、金髪ポニーの娘を間近でみて一瞬止まり、念話を飛ばしてきた。
《あのー……女王様。その金髪の娘、もしかして……》
《このみさんも気づいたのね。名前聞いてないけど、特徴一致してるしねえ……》
《特徴? ……あー》
昏倒事件の犯人にされそうになった、3人の魔法少女。金髪の娘は、その1人と聞いていた特徴が合致してしまっていた。
えっと……と、とりあえず、私から自己紹介する流れだったわね。
「私はカトレア。通りすがりの魔法少女よ」
「粟根こころだよ、よろしくねっ!」
「……加賀見まさら」
「アタシは遊佐葉月。いやほんと、死を覚悟するくらいピンチだったから、助かったわ〜」
予想通り、当たりを引いていた。いや、この場合ハズレかしら。