諸々の用事を済ませてから調整屋に来たけれど、ななか組はまだかこちゃんしか来てなかった。まあ急な呼びかけだっただろうし仕方ない。
「そ、そんな……このみさんまで……」
「だから、今回傭兵として雇われる形で協力することになってたけど、私達からも積極的に事件に介入していくわ」
「ま、報酬はキッチリ貰うがな。名を広めるチャンスなのは違いないからな、そこは負からないぜ」
「あはは……さすが燈湖さん、そこはちゃっかりしてますね……」
情報共有を兼ねた雑談をかこちゃんとしていると、
「お待たせ致しました」
「はーい、いらっしゃ〜い」
残りのななか組3人が揃ってやってきた。
「あきらさんの案内で、木崎衣美里さんのところに伺ってから来ました」
「おう。ななかの魔法は反応したか?」
「ええ、敵の――飛蝗の気配がはっきりと。これはもう、挑発と受け取って良いでしょう」
「いい度胸してるわよね、望むところよ!」
「あきらさんの話では、このみさんが被害に遭われたとか」
「他にも被害者が判明したぜ」
全員が揃う前に、みたまさんに尋ねたり七海やちよさんに連絡を取ったりしたところ、さらに二名、昏倒した魔法少女がいることが判明した。
ちなみに、みたまさんに情報料は支払い済みだ。傭兵業の一環ではあるけど、今回は身内――このみさんのためでもあるから、私達の側から出すことにした。
「木崎衣美里、春名このみ。そしてみたまとやちよの情報では、毬子あやか、粟根こころ。計4人が何者かに昏倒させられたってことだ。そしていずれも、遊佐葉月と面識がある奴らだと判明している」
「1日で一気に四名ですか。しかも私の魔法が強く反応するほどの痕跡を残して……ふふ、余程捕まえて欲しいのでしょうか、それともここまでしても捕まらない自信があるのでしょうか……率直に言ってムカつきますわ」
「うわ」
……ななかさん笑顔だけど、怒りのオーラが凄い。かなりおかんむりね……普段穏やかな人を怒らせてはならないってヤツかしらね。
「てことで、今後どういう流れで動くかだが。ななか組の意見はどうだ?」
「すぐに合流すべきです! だって3人とも、犯人じゃありませんから!」
燈湖の問いかけに、かこちゃんが真っ先に意見を上げる。確か容疑者の(噂がまた流れるだろう)うちの三栗あやめちゃんとは、仲良しの友達だって言ってたわね。
というか、「ですよね、カトレアさん!」とでも言いたげにこちらを見ている。かこちゃんもこのみさんとは親友と言っていいし、その気持ちは痛いほど理解出来る。怒りを吐き出してなければ、私は即答でかこちゃんに同意していただろう。
「ボクも賛成。何より3人とも、他人の精神を操れるタイプの固有魔法じゃないし。その情報をみんなに流せば、自然と容疑者からは外されるよ!」
「二人共私情が先行してるネ、冷静になるヨ。狡猾な飛蝗が、その展開想定してない訳ないネ」
ふむ。被害者の誰とも親しくはないからか、美雨さんは冷静な意見ね。
「このは達は、しばらく動かないがいいヨ。囮役ネ。動きがないで焦れた飛蝗が仕掛けて来るを、待ち構えて返り討ち。ソレが更好的ネ」
「ふむ……その案ですと、このはさん達がこちらの意図を正確に把握して、囮役を全うして下さるかどうかが問題になりますね」
「う、うーん……あやめちゃんがジッとしてる姿が思い浮かばないです……」
「悪くないと思ったけど、不安材料がある感じなのね」
3人から意見が出たけど、悪くはないけど最適解とは言い難いわね……
「ななかの意見はどうだ?」
「そうですね……意見とは少々違いますが。犯人の手がかりがまだまだ少な過ぎます。精神干渉の魔法の使い手、ということと、悪意があるということしか判っていません。手持ちの情報だけでは、やはり最適解を導き出すのは難しいでしょう」
そこまで言って、ななかさんはみたまさんの方を見る。
「調整屋として多くの魔法少女と関わりのあるみたまさんなら、どなたか心当たりがお有りではありませんか? 人心を、魔女すら意のままに操ることの出来る魔法の使い手を」
「そう来るだろうと思って、先に聞いといたぜ。情報料も支払い済みだ」
「あら……ふふっ。さすがですわ、燈湖さん」
ニヤッと笑いながらの燈湖の返しに、少し驚いたような顔をしたけど、すぐに微笑みで返すななかさん……うーんこの。
「なんで2人が会話すると、心理戦みたいな雰囲気になるのかしら……」
「2人とも、人一倍負けず嫌いだからじゃないかな……」
あきらちゃんと顔を見合わせて、つい苦笑いで微笑み合う。
まあそれは置いといて。
「てなわけでみたま、ななかにも教えてやってくれ」
「はいはーい。と言ってもぉ、私が直接会ったことのある娘じゃないから、詳しくは知らないのだけどね〜」
そう前置きして、ななかさん達が来る前に聞いた話を改めてしてくれるみたまさん。今の彼女は料金のグリーフシードを奮発してあげたので、かなり上機嫌で饒舌だ。
「
「確か……神浜の東の顔役の魔法少女、だったでしょうか」
「そうそう、合ってるわ〜。彼女に聞いた話なんだけどぉ、自分の言った通りに相手を従わせることが出来る、「暗示」の魔法を使える娘が居るらしいのよ〜」
「従わせる……暗示、ですか」
「燈湖が予想していた精神干渉魔法の一種よね」
「だな」
「その方の所在は?」
「だからぁ、私はちょっと聞いただけだから、それくらいしか知らないのよ〜。でもまぁ、燈湖ちゃんに料金奮発して貰ったから〜」
チリンチリーン……
「邪魔するぞ」
「すぐに来て欲しいってすでに連絡したわ〜。そしてぇ、ナイスタイミンッ!」
「む?」
どうやら、ちょうど調整屋に入店してきた銀髪セミロングの娘が、当の和泉十七夜さんらしい。
「八雲以外は全員初めまして、だな。もう聞いているだろうが、自分は和泉十七夜という」
全員の顔を確認してから自己紹介する十七夜さん。かっちりした礼儀正しい人ね。
全員が軽く自己紹介したところで、満足げに1つ頷いて空いている席に座る。
「さて、電話で軽く事情は聞いている。昏倒事件解決のため、相手を従わせる魔法を使う魔法少女の情報を欲しているそうだが」
「ええ。和泉さんが――」
「十七夜でいいぞ」
「では十七夜さん。「暗示」の使い手について、詳細をお聞かせ願えないでしょうか?」
「うむ……それはかまわないのだが……」
なんか、言いにくそうというか歯切れが悪いというか。まだ詳細を思い出せないとかかしらね?
「なにか引っかかることでも?」
「引っかかる、というかだな……いやまあ、事件はすでに起きているのだ。とにかく情報提供を優先しよう」
難しい顔をしながらも、暗示魔法の使い手の情報を話し始める十七夜さん。
「暗示の使い手の名前は、瀬奈みこと。ある程度の条件はあるそうだが、平たく言えば「言葉にした指示通りに相手を動かす」というものらしい。だが……」
瞳を閉じて考え込むように数秒置く十七夜さん。話しにくいことなのかしら。
「彼女は、そんな悪事を働くような少女ではない。それに何より……瀬奈君は、最初の昏倒事件が起きるもっと以前に、家族共々行方知れずになっていてな……」
『……!!』
予想と違う展開に、皆が驚いたように息を飲む。
《……魔法少女で行方が分からないってことは……》
《恐らく……瀬奈みことさんはもう、この世に存在しない――魔女になって、家族ごと自身の身体ごと、魔女の結界に飲み込まれてしまったと見るのが妥当でしょう》
《だな……》
魔法少女の末路を全員が知ってはいないだろうから、チームフラワーナイト内だけで念話確認する。悲痛な表情からして、十七夜さんも知っていそうね……
《だが……魔女すら操れる魔法の使い手が、そうホイホイいるとは思えねぇ。とはいえ手口からして、やはり暗示かそれに類する……いや、待てよ……》
《……トウコさん?》
燈湖が念話が通じている状態のまま、ブツブツと呟いている。内容からして何かに勘づいたらしく、早速十七夜さんに質問した。
「その瀬奈みことの固有魔法を知っている、瀬奈みことと親しい関係にあった魔法少女を知らないか?」
「瀬奈君と親密な魔法少女、か……」
また難しい顔になる十七夜さん。
「実はだな……瀬奈君のことを思い出した時から、妙にモヤモヤとするのだ。頭の中で何かがつかえているというか……」
「モヤモヤ、ね」
「うむ。自分はまだ何か、瀬奈君に関する重要なことで、思い出せていない何かがある気がしてならないのだ。思い出せそうで思い出せない、気持ち悪い感覚をずっと抱いている……」
「なるほどな」
得心がいったと言う風にうんうん頷く燈湖。燈湖の中で何かしらの結論が出た時にする仕草だ。
……つまりは、ここから燈湖のターン。流れが大きく動くわね。
《女王様、ちょいといいか?》
《…………、何よ?》
今まで黙っていた女王様に燈湖が念話で話しかけると、少し遅れて返事が聞こえる。
実は女王様は、暗示の魔法についてみたまさんから聞き出してからすぐ、ソウルジェムに引きこもって対抗魔法の構築に集中していたのだ。だから、ななか組が来てからのやり取りを、女王様は一切聞いていないのだ。
《集中してるとこすまない。女王様の出番がありそうなんでな、一応耳を傾けといてくれ》
《ふーん……その時が来たら教えてちょうだい》
素っ気なくそう言って、女王様はすぐに魔法構築へと戻る。なんだかんだで女王様も早く解決してこのみさんを起こしてあげたいのだろう。好き。
雰囲気でまた魔法構築に集中し出したのを察したのだろう、燈湖は十七夜さんとの会話に戻る。
「これはアタシの予想なんだが。暗示の魔法はなかなか希少だ。だから今回の事件も、暗示の魔法だろうぜ」
「しかし、瀬奈君は行方不明だし、魔女に果敢に立ち向かえる正義感の強い少女だと自分は認識している。とても昏倒事件を起こすとは思えん」
「顔役と言われる十七夜が言うんなら、瀬奈みことの性質は実際そうなんだろうな」
「ふむ。つまり昏倒事件は、瀬奈君の魔法を良く知っていて、尚且つ似たような魔法を使える者による犯行。雷電君はそう読んでいるのか?」
十七夜さん、さすが顔役と言われるだけあって、燈湖相手にも物怖じしないし、頭もかなり切れるわね。
けど。燈湖が自信満々の時、燈湖は二手三手先を見ていて、限りなく真実に近い推理をしているのだ。
「似た、じゃあねえな。犯人は、瀬奈みことと全く同じ魔法を使うことが出来るんだろうぜ」
「……なに?」
「瀬奈みことの暗示の魔法は強力だ。似たような魔法を使える奴はいても、同レベルのを使える奴がホイホイ現れると思えねえ。そして、瀬奈みことがありえないなら、答えはひとつ」
勿体ぶるように一呼吸置いて、結論を言う。
「犯人は、瀬奈みことと暗示魔法のことを熟知している、親友と言える間柄の人物。そしてそいつの固有魔法は――他人の魔法のコピーだ」