「魔法のコピーだと……? さすがに強力過ぎるし、瀬奈君の暗示以上に希少なのでは?」
「かもしれねえが、全く同じことが出来る魔法を使える奴が同時期に同じ市内に2人現れるよりかは、確率高いだろ?」
「ふむ、それは確かに……」
「それとこの結論に至った理由は、十七夜の「瀬奈みことの情報で思い出せていないことがある」っていう点からだ。あんた、暗示魔法をかけられてるぜ」
「なに!? いやしかし、もしそうならこのモヤモヤの理由も説明出来るか……」
「さてみたま」
ここで唐突にみたまさんに話を振る燈湖。
「何かしらぁ?」
「調整中、調整受けている奴が特定の記憶を強く思い出していると、その記憶が見れるよな。アタシの時みたいに」
「え、えぇ。そういえばそんなこともあったわねぇ……」
燈湖のソウルジェム、の中にいたデンドロビウムの記憶を見た時の事を思い出したのだろう、みたまさんが顔を引きつらせる。
「ほう、調整魔法でそんな芸当が」
「ああ。だから、今から十七夜はみたまに調整の要領で記憶を覗いてもらって、その間十七夜は瀬奈みことから暗示魔法の情報を得た時の事を思い出そうとしてくれ。そうすれば多分、みたまがモヤモヤの原因を発見してくれるはずだぜ」
そこまで言ってから、みたまさんが口を開いて何か言おうとした目の前でグリーフシードを差し出す。
「んもぅっ! 燈湖ちゃん大好きっ☆」
まあつまり、料金の交渉を省いた訳ね。
「燈湖さん、グリーフシードを気軽に支払いますよね……魔女との戦いが苦でないくらい強いのと、花騎士魔法少女だから出来る芸当なのは理解してますけど……」
「んー、そういえば、本来は出し渋る程度には貴重品なのよね」
花騎士魔法少女のソウルジェム浄化事情について知っているかこちゃんが、苦笑いで呟く。
《さて、みたまが記憶閲覧してる間に……女王様、そろそろスタンバイしといてくれ》
《…………ん、了解。で、何をさせようってわけ?》
《十七夜にかけられた暗示魔法の解除だ。意識のないこのみじゃあリスキーだったが、意識があって精神的に強いだろう十七夜なら十分耐えられるはずだ》
《ふむ、今みたまが見てる娘ね。わかったわ》
ということで、女王様と交代だ。
▲ ▽
「ふぅ……普段やらない感じに調整魔法使ったから、精神的に疲れたわぁ〜」
「うむ……自分も頭の中を直接覗かれているようで、妙な感じだった」
「でだ。みたま、どうだった?」
「そうねぇ……みことちゃんだと思われる娘ともう1人、誰かと会話してる十七夜が見えたわぁ。ただ、その誰かの姿も声も、黒いモヤがかかったみたいな状態だったわ」
「あからさまにそいつの情報が隠されてるな」
「自分にそんな記憶が……くっ、やはり思い出せない!」
額に手を当て、必死にその場面を思い出そうとしているみたいだけど、やっぱり1人では無理みたいね。
さて、ここで私の出番だけど……私が思い付いた暗示の解除方法は、調整魔法の応用だ。つまり、多分教えればみたまにも出来る。
とはいえ、普段調整でソウルジェムに魔力を流し込む時はかなり慎重に行なっているのを、暗示解除では勢いよく流し込む必要がある。要するに「激流で暗示魔法という汚れを流し去ってしまおう」というものだ。受ける側も施す側も、多少の危険が伴う。
という訳で。1人より2人、それと役割分担をして、成功率と安定性・安全性を高めるわ。
「みたま、今から調整魔法でカナギの暗示を解除するわ、手伝ってちょうだい。方法は……で、役割は……」
「ふむふむ……なるほどねぇ」
「ん? 加戸君は調整魔法が使えるのか?」
「説明するとなると長くなるが、カトレアの固有魔法は特別だからな。とにかく、2人の調整魔法の合わせ技で、十七夜の負担を最低限に抑えつつかけられた暗示の解除を試みるわけだ」
「ほう」
みたまと相談中、トウコがカナギに私達がやろうとしていることの説明をしてくれた。こういう気が利くところはデンドロビウムに似てるわね。
「さて、こっちは準備OKよ。普通の調整と違って苦痛を伴うかもしれないけど……カナギの心の準備はどう?」
「うむ、問題ないし、願ってもない。よろしく頼む!」
「そう。ならみたま、始めるわよ」
「は〜い」
というわけで、数分後。
「……ふう。手応えあり」
「――っはぁっ!はあっはあっはあっ!!」
「はあぁぁ〜〜……つ、つかれたぁ〜……」
カナギのソウルジェムに魔力を流すのを止めると、カナギが忘れていた呼吸を思い出したかのように激しく空気を取り込み、みたまは疲労困憊といった感じの深いため息を吐き、近くのテーブルへ突っ伏した。
「どうかしら? まとわりついていた暗示の魔力は、綺麗に取れたと思うのだけど」
「音は拾えなかったけどぉ……私にも一応、もう1人の娘の姿は見えたし、成功してるはずよ〜……はふぅ〜……」
具体的に私達が調整魔法でどんなことをしたかというと。みたまがカナギの「瀬奈みことと会話している場面」を固定して、私が人が吹き飛ぶくらいの勢いの激流のような魔力をぶつけ続けた、て感じかしら。
「お疲れ様、2人とも」
結構な力技だったからか、2人のソウルジェムは濁っている。特に調整魔法を受けていたカナギは、危険域一歩手前くらいまで濁っていた。
うーん、初めての試みだったから仕方ない部分もあるけど、患者?に負担がかかり過ぎたわ。まだまだ気軽に試せるレベルじゃないわね。
余裕がなさそうなカナギにグリーフシードを当ててあげていると、静観していたななかが尋ねてきた。
「それで、十七夜さん。隠されていたもう1人の情報は、思い出せましたか……?」
「あ、ああ……瀬奈君に彼女を紹介された時間も場所も、会話内容も完璧に思い出した……!」
絞り出すようにそう言ってから大きく一呼吸入れ、トウコを見る。
「しかし末恐ろしいな、雷電君の推理力は……9割方当たっていたぞ……」
「はは、そいつはどうも。それより回復と記憶の整理に専念してくれ」
「そうだな……ああ、加戸君もありがとう」
そう言って、カナギは自分のグリーフシードを2つ取り出して差し出してくる。
「別に構わないわよ、私のせいで濁ったんだし。結構な無理を強いちゃったしね」
「納得の上で施術を受けたのだ、是非受け取って欲しい」
「……じゃ、これと交換ってことで」
私が押し当てて穢れを移したのとカナギの未使用のを一個、取り替える。
「はは、欲がないな、加戸君は」
「聞き慣れないからカトレアでいいわ。それと欲がないんじゃなくて、グリーフシードは余ってるくらい持ってるってだけよ」
「ふむ。加戸君……カトレア君は、強い魔法少女なのだな」
「ええ、私は世界に愛されてるもの」
「ふふ、そうか……さて。そろそろ今思い出した情報の共有といこうか」
私と雑談している内に説明出来る程度には回復したらしく、まだ疲れた顔ながらそう切り出した。なら私も、対抗魔法構築に戻らせてもらおうかしら。
《私の出番は終わったみたいだから、代わるわよ》
《ん。お疲れ様、女王様》
△ ▼
「隠蔽されていた少女の名前は、
「上書きか……てことは、一度にコピー出来るのは一つまで、別の魔法をコピーすると上書きされて一つ前に使っていた魔法は使えなくなるんだろうな」
「うむ、自分もそう認識していた。つまり今回の事件の犯人が更紗君なら、瀬奈君の魔法にして以来変えていないということになる。親友の魔法だから、手放したくないのはわかるが……」
「行方不明の親友の魔法なら、尚更手放したくはないでしょう。魔女すら従わせられる強力な魔法という点でも手放す理由は無いと言えます。ですが……」
「ああ。それで悪事を働いているのは見過ごせないな。一応2人とは知り合いだ、自分も協力しよう」
「ありがとうございます……!」
ふむ。流れで情報提供者として十七夜さんと知り合ったけど、東の顔役って言われるほどの人が協力してくれるのは頼もしいわね。
「更紗帆奈の固有魔法情報はそれくらいか。じゃあ次はそれ以外の個人情報だな」
「うむ。と言っても、自分も一度しか会っていないから、後はどんな見た目かしか伝えられないが……」
「それで十分ですわ」
というわけで、更紗帆奈の姿を見た十七夜さんと、調整魔法で姿を見たみたまさんとで似顔絵を描いてもらった。
「……なんで2人して漫画チックなの?」
「え〜だってぇ、その方が可愛いじゃない?」
「自分はバイト柄、こういう画調で描くのに慣れていてな……」
十七夜さんのバイト先は、なんとメイドカフェらしい。予想外過ぎて燈湖ですらちょっと驚いてたのが面白い。
まあそれはともかく。
「髪の長さに髪色、髪型。それにこれは、水名女学園の制服ですね……情報としては十分です」
「ようやくたどり着いたね!」
「はい……!」
「コイツが飛蝗の正体、カ」
感慨深げにななか組それぞれが呟く。
「そう、十分だ。十二分とは言えねぇ」
『え?』
(あー、やっぱりそう来るわよねー……)
私以外、全員がその声の主に注目する。当然今の発言は、燈湖のものだ。
「アタシのモットーは、「誰にも有無を言わせない完全勝利」だ。そのためには、準備も情報もまだ足りねえ」
「更紗帆奈を捕らえる上では、十分なのでは?」
「だから、それじゃあもはや足りねえんだ。アタシの身内に手を出した奴を、ただ捕まえるだけじゃあな……!」
燈湖がニヤッと笑いと威圧を放つ。怖い、けど頼もしい。
「ひうっ……!」
「うわあ、ゾクッと来た……やっぱりキくなあ……」
「雷電燈湖……やはり気高き虎ネ」
「おお……雷電君は、根っからの戦士なのだな……!」
それを受けて、それぞれが個性的な反応をする。
「ですが、欲をかき過ぎて取り逃してしまっては元も子もありません。とにかく捕らえて拘束することを優先すべきでは?」
ななかさんは気にせず冷静に返す。強い。
「ああ、勿論最優先にするべきなのはそれだ。だが、捕らえるための最低限の情報が揃っている以上、必ずしもアタシがいる必要はねえだろ?」
「そう言われればそうですが……」
「だからここからの情報収集は、完全にアタシの趣味だ。これからアタシはツテを使って独自に更紗帆奈の情報を調べる。完全勝利のためにな」
「ふむ……しかし、何をもって完全勝利とする?」
「ここまでの情報は、魔法少女だから得られたものだ。だからアタシが取る手段は、魔法少女では――一般少女だけでは難しい手段で情報を得るつもりだ」
うわあ、悪い顔してるわね。具体的に何をするつもりかは私でもわからないけど、大人気ない手段を使うわね、燈湖だし間違いなく。
「私の助けは必要かしら?」
「カトレアは、当初の予定通りに動いてくれ。それが間接的にアタシの助けにもなる」
「ん、了解」
まあ一応聞いただけだ、その返答も予想通り。
「でだ。ここからは、今後更紗帆奈がどう動くか、それに合わせてアタシらがどう動くべきかのアタシなりの予想なんだが」
ピロン♪
誰かのスマホのメッセージアプリ通知音が響いた。
「あ、ごめんボクのだ。ちょっと失礼」
あきらちゃんのだったらしく、席を立って少し離れて通知内容を確認しにいく……と、険しい表情ですぐに戻ってきた。
「どうした、緊急案件か?」
「うん。ささらからなんだけど……」
あっ。嫌な予感しかしない。
「明日香が、葉月さんを探しに飛び出したって」
予感通り明日香さんだった。
あきらちゃんの話では、一応こちらに来る前に早まらないように言い聞かせて、ささらさんにもストッパーになってくれるように頼んだらしいのだけど……明日香さん猪突猛進だからね、こうなる気はしていたわ。
「タイミング的に、更紗帆奈が動いたんだろうな」
「だろうね……ななかと一緒に丁寧に説明したから、少なくとも今日は暴走しないはずだし。思考をいじられでもしない限りね」
さて……実はこれも、すでに燈湖の予想通りだ。さすがに今日動くだろうとは言ってなかったけど。
というわけで。
「カトレア、葉月達のところに行って、サポートしてやってくれ。こっちの説明はアタシがしておく」
「OK!」
私の出番だ。
団地組の出番は大幅カットです。団地組が好きな方には申し訳ない。
それと、デンドロビウムが若干空気気味ですが、やちよさんがギリ未成年ですが彼女は完全に成人、というかおb……とにかく、保護者目線で見守っている感じなので、発言を控えている状態です。