「家を出た途端にこれか……」
「どうしてあちしたちがこんな目に遭うのさ〜!」
「私達をこんな状況に陥れた奴がいる、ということよ」
今私達は、襲う勢いで問い詰めてくる魔法少女達を躱しつつ、3人でこのはがもしもの時のために目星をつけていたという隠れ家的な場所に向かっていた。
事の始まりは、アタシが夕飯のおかずを買いにスーパーへ寄ろうとした時。竜城明日香さんと美凪ささらさんに詰問紛いの襲撃を受けてからだ。
明日香さんのあまりに危機迫る勢いに、思わず魔法少女に変身して逃げ帰ってしまったけど……やっぱり判断ミスだったよね。
とはいえ、意味もわからず攻撃されそうな勢いで突撃されたら、仕方ないよね……このはから早くに理由を聞きいてたら、もうちょっと冷静に判断出来たかな……
「……やり過ごせた?」
「……みたいね」
「見つけました! このようなところに隠れていようとは!」
と思ったら即行で見つかった。この声、また明日香さんか……
「……大人しくして」
「話を聞かせてもらうよ!」
さらに増えた……こころさんが昏倒させられたらしいから、まさらさんとあいみさんが来るのは予想通りではあるけど…… というか、前後から挟まれて行く手を阻まれてしまっていた。
(あやかさんとこのみさんも襲われたらしいし。となると、雫さんとカトレアさんも来るんだろうなあ……)
雫さんの固有魔法も厄介だけど、特にカトレアさんが来たら逃げられる気がしない。
「神妙にお縄につきなさーい!」
「縄って、縛る気満々じゃんかー!」
「……大人しくしないなら、仕方ない」
「とにかく、逃す気はないよ!」
「はぁ……濡れ衣なのだけど……」
さて、どうしたものか。このはの計画は「しばらく身を隠せば噂が鎮静化へ向かうだろうから、私達を犯人に仕立て上げた奴が焦れて次のアクションを起こすタイミングを狙う」らしいけど……これじゃあそれ以前の問題だ。
「あら、賑やかね。私も混ぜてくれない?」
私達が身を寄せ合うようにして隙をうかがっていると、聞き覚えのある声。やっぱり来ちゃったか……
「だっ誰!? ていうかこの声どこから〜!?」
「……上よ!」
このはの指摘にみんなが意識を上へ向けると、杖に横乗りした赤い少女が降りてきた。
「カトレアさん!」
☆
今回私は、杖に横乗りで空を飛んで現地へ向かった。ふふ、女王様のSDでの移動手段、前からやってみたかったのよね。
昼間はさすがに目立つから出来ないけど、今は夜だし今日は月も出ていないしでこの方法を取った。うん、やっぱり直線で進むと早いわね、十数分で参京区に着いたわ。
ということで、参京区上空を杖に乗って飛びながら、葉月さんの魔力反応を頼りに探知していたのだけけど……明日香さん含む魔法少女何人かが騒がしく誰かを探していたのを見つけたから追っていたら、路地裏でこそこそ移動する葉月さん含む3人の魔法少女を見つけた。確か、亜麻色ストレートロングの娘がこのはさん、ピンクツインテールの幼い感じの娘があやめちゃん、だったかしら。
でまあ。向かおうとしたところで明日香さん達が路地裏に入っていって3人を追い詰めだしたので、上からお邪魔することにした。
「よっと」
杖にぶら下がるような体勢になってから下降し、囲い込もうとしている明日香さん達に向き合うようにして間に降り立つ。
「さて、どういう状況かしら……なんて、惚けたりしないわ。昏倒事件について葉月さんに問い詰めようってとこよね」
「……カトレアさん?」
私の登場に身構えていた葉月さんが、不思議そうな声色で呟く。大方、私にも問い詰められると思ったのだろう。
「みんな、気持ちはわかるけど、この場は解散してくれないかしら? 彼女達にも昏倒事件を解決するための計画があるのよ」
「だから、それならそれを含めて話しを聞かせてって……!」
「ささらさん、あなた確か、あきらちゃんに明日香さんが暴走しないように見ていてって頼まれてなかった? なに一緒になって暴走してるのよ」
「え? ……そんなこと、言われたかな……」
「私は暴走などしておりません! それにささらさんは止めようなどとは……あれ? していたような……?」
……あー、やっぱり2人して暗示かけられてるわね。
まあとにかく。戸惑って一時思考停止してるし、まさらさん達は私の立ち位置を測りかねて距離を置いてるし。今の内に手早く念話で情報伝達だ。
《葉月さんは昨日ぶり。2人は初めましてね。私はカトレア、あなた達が逃げるのを手伝いに来たわ》
《……私達が何をしようとしているか、知っているの? 七海さんにしか伝えていないはずなのだけど……》
《親友が、頭の切れすぎる探偵さんなのよ。あなた達はしばらく身を潜めて、犯人の行動を誘発するつもりなのよね?》
《……その通りよ》
私の念話での発言に、逆にこのはさんが警戒を強めた気がする。
《このは、カトレアさんは信頼していいと思う》
《葉月?》
《昨日話したけど、カトレアさんは私達3人を相手にしても圧倒出来るくらい強い。なのに逃そうって言うんだから、素直に善意と受け取っていいと思うよ》
《……葉月がそう言うなら》
おぉ……こういうのを怪我の功名っていうのかしら。昨日の出会いのお陰でスムーズに話が進みそう。
「そ、それよりも!」
あっと、時間切れか。
「カトレアさん、庇うということはあなたもグルなのですね!」
……そう来るか。一応予想していたパターンの一つだけど……まあ、向かってくるなら私がするのはただ一つ。
「葉月さん達は犯人じゃないし、私も当然違う。それでも捕まえようって言うなら――私が全員叩き潰してあげるわ!」
『!!』
不敵に宣言してみせて、燈湖の見様見真似で威圧……は無理だけど、代わりに制御していた魔力を一気に解放して、威圧紛いのことをする。
「な、なんて魔力……!」
「これでさらに、固有魔法が「魔法の反射」とは……! か、勝ち筋が見えません……!」
あ、明日香さん私の魔法勘違いしてる。燈湖にダメ出しされた魔法反射だけど、こんな形で役に立つとはね……でも燈湖のことだし、これも計算の内で私だけを向かわせたのかもしれない。
なんにしても、実力差を体感した明日香さん達は、私が味方している限り迂闊には手を出せないと思わず一歩後ずさった。今の内に逃しましょ。
《あなた達は予定通りに動いて。この事件の犯人を捕まえたいなら、やっぱり現行犯を狙うのが確実だから》
《ありがと、カトレアさん!》
《……恩に着るわ》
《う、うん……》
葉月さん以外の2人も、戸惑いながらだけど了承してくれた……このはさんは警戒心が強いみたいだから仕方ないとして、あやめちゃんが元気ないのが気になるわね。
ふむ。3人には数日間引きこもってもらわないといけないのだし、ちょっとだけお節介。
《実はね、私はかこちゃんと友達なのよ。時々私の実家のお花屋さんに手伝いに来てくれてるから》
《! かこと!?》
《そんなかこちゃんから伝言よ。「葉月さんが犯人じゃないってわかってるから、ちょっとだけ我慢しててね」、だそうよ》
《そ、それって、かこも犯人捕まえるの手伝ってくれるってこと!?》
《そういうこと。ちなみに私もね》
急いで来たから本当は言伝なんて預かってないけど、かこちゃんなら言いそうだから問題ないわよね。
《さっおしゃべりはここまでよ。今から目眩しするからその隙に駆け抜けなさい。3・2・1――》
カウントダウンをしつつ垂れ流していた魔力を操って、
「ゼロ!」
と声に出すと同時に着火!
ボボオオオ――――!!
『うわあああっっ!?』
炎の壁で明日香さん達追っ手組を囲い、逃げ場と視界を奪う。
「ず、随分と攻撃的な目眩しね……」
「すっごーー!!」
「ほら2人とも、今の内!」
突然の業火に2人が驚きで固まっているところを、私の火力(正確には女王様のだけど)を知っている葉月さんが冷静に2人の背中を押して走り去っていく。
《またね、3人とも》
振り返らず、念話を飛ばして無事逃げられることを祈る。
ぱちんっ
十分気配が遠ざかったところで指を鳴らし、炎を消す。
「さて。3人はもういないけど、それでも追おうっていうなら、本当に力づくで大人しくなってもら……」
「「「がくがくぶるぶる……」」」
「……あら」
妙に静かだと思ったら、明日香さんとささらさん、まさらさんと……花騎士ホウセンカっぽいガンマン風の少女が、抱き合って涙目で震えていた。多分こころさんと仲が良い魔法少女なのだろう。
それにしても、ちょっと怯え過ぎじゃない? そんなに凄い火力だったかしら……キチンと制御出来てたはずだし、直接触れでもしない限り火傷はしてないはずだけど。
「……結局、事情を話してはくれないのね……」
抱き合っていた、というよりガンマンさんに抱きつかれていただけで、まさらさんだけは震えても怯えてもいなかったらしい。肝が据わってるというか、やっぱりいつでも冷静沈着なのね。
「そうね……んー」
更紗帆奈は人心を操れる。下手に事情を話してその情報を暗示で引き出されたら、警戒されて燈湖の予想通りの行動をしてくれないかもしれない。
つまり、今はまだみんなに詳細は明かしてはならない時だ。最低でも、燈湖の情報収集が終わるまでは。
とはいえ、何も言わないままじゃあ疑われるばかりだし、またいつ暴走する娘が出るとも限らない。
「三日よ。三日以内に、傭兵チーム・フラワーナイトはこの昏倒事件を解決してみせるわ。解決次第、事件のあらましを全て開示するから、それまで待っていて頂戴」
だから、みたまさんや各地区の顔役の魔法少女が葉月さんが犯人ではないと理由付きで流してくれるらしいけど、私からもアクションを起こして置くことにした。
「それを越えても解決しないようなら、私達は傭兵業を廃業するわ。ま、必ず解決するから、あまり意味のない宣誓だけど」
不敵に自信満々に、
「それって、この事件解決に傭兵として誰かに雇われてるってこと?」
ようやく落ち着いてきたのか、ささらさんがそう尋ねる。
「その通りよ。そして三日って期日を決めたのは、それだけあれば犯人を追い詰めるための情報が十分揃えられるからよ」
そう。燈湖なら、三日あれば欲しい情報を手に入れる。どんな手でも使うだろうし。
「明日香、この場は引こう。ああもハッキリ誓ったんだし、それだけの自信があるのよ」
「で、ですが! なんかスッキリしません〜!」
「うん、納得いかない! いかない、けど……カトレアさんに勝てる気がしないしなぁ……」
「……ん、それが懸命。彼女は強すぎる……」
「まあね。私は世界に愛されているから」
ふふ、冷静なまさらさんに私の強さを評価されて、ちょっと気分いいわね!
「というわけで、今夜は解散! 明日は月曜なんだし、夜更かしはお肌の大敵よ、早めに帰って休みなさいねー」
そう言って手をパンパンと打ち、解散を促してから杖に横座りして真上に飛び……路地裏を形成していた建物の屋上で急停止し、そこで様子を伺っていた誰かに声をかける。
「というわけで、あなたもお家に帰りなさい」
「っ!? 気付いてたんだ……」
「私は魔力反応に敏感なのよ。さっきの追跡組からして、あなたはえーと……毬子あやかさんの友達の魔法少女、かしらね?」
「うん……私は
……なんか、雰囲気といい髪色や髪型といい、初期の花騎士アネモネを彷彿とさせる娘ね。
まあそれはそれとして。
「聞いていた通りよ。葉月さん達も私も犯人じゃないし、犯人は必ず捕まえる。世界に愛されたこの私が保証するんだから、絶対よ」
「……凄い自信だね。何か根拠がありそうだけど」
「それは秘密よ。じゃあ、三日後を楽しみにしてなさい」
最後に一言残して、私は今度こそその場を飛び去った。
(ふう〜……ふ、ふふふっ。誰かに啖呵を切ったのなんて初めて。私、燈湖の期待通りに動けたわよね?)
慣れないことをした精神疲労と高揚感で火照った身体を夜風で冷ましながら、私は帰路を辿った。