カトレアが葉月達のところへ飛んで行った(恐らく文字通り)のを確認してから、アタシは話を戻す。
「さて、今後の更紗帆奈の行動についてだが……その前に、現在の位置予想だ。厳重注意していた竜城明日香が今動いたことから推察して、更紗帆奈は竜城明日香の近くにいると思われる」
「まあ、そうだろうね」
「そして更紗帆奈が標的にしているのは葉月達だから、少なくともカトレアが割り込むまでは、葉月達が追い立てられている様子を陰から愉しく見物してるはずだ」
「までは、とは?」
カトレアの事をまだよく知らない十七夜が、当然の疑問を尋ねる。
「カトレアは更紗帆奈にとっての、というより、魔法少女にとってのジョーカーだ。極論カトレアさえいれば、どんな固有魔法を持っていようが対応出来る可能性がある。得手不得手はあるから絶対とは言えないがな」
「……さっきも思ったのだが。カトレア君の魔法はなんなのだ? 八雲は戦闘が不得手な代わりに「調整」が使えるが、カトレア君はなんの制限も受けていないように見受けられる」
「そうだな……端的に固有魔法と定義するなら、カトレアの固有魔法は「魔法を使える」だ」
「……すまない、意味がわからないのだが。いやまあ、とんでもない事を言っているのはわかるが」
「カトレアは、とあるゲームのキャラクターになると願って魔法少女になった」
「ああ、そういうことか。つまりカトレア君は、「そのキャラクターに出来そうなことなら自分にも出来る」のだな。まるでアニメのようだな!」
「そんなお前も
……理解が早いのはありがたいが、十七夜の思考は意外と斜め上だな。この中で一番普通じゃない自覚があるアタシが言えた事じゃないが。
「話が逸れたが。相手の固有魔法情報がある程度あれば、カトレアならだいたいの固有魔法に対応した魔法を作り出せるはずだ。魔力感知能力も高い。要するに、カトレア自身に暗示が効かない上に、カトレアが側にいる時に更紗帆奈が魔法を使ったら、隠れていても高確率で見つかる」
「ですが、カトレアさんのご友人のこのみさんが暗示で昏倒させられていますから、更紗さんはカトレアさんの魔法をある程度把握していると見た方が良いでしょう」
「そうなると、カトレア君が近くにいる状況の場合、更紗君は魔法を使わないと言える。現状現行犯が最も捕縛するチャンスな以上、静海君達のもとへ行かせたのは逆に悪手だったのでは?」
「だからカトレアに頼んだのは、あくまでサポートだ。3人が無事隠れ家まで見つからずに逃げおおせるまでのな」
「隠れ家か……つまり静海君達は、自ら囮役を買って出てくれたのか」
「七海やちよの話によればな。だから葉月達には予定通り動いてもらう、いや、動かないでいてもらう」
「さっきも言いましたけど……あやめちゃん、じっとしていてくれるでしょうか……」
「まあカトレアのことだ。あやめに「かことはお花好きの友達同士だから」とかなんとか言ってフォローしてるだろうさ」
「そ、そうですね……!」
アイツ、人付き合いが苦手だーとかたまに言ってるが、結構お人好しだからなあ。間違いなくなんらかのお節介は焼いてるだろうな。
「ともあれ。犯人と噂されているこのはさん達が隠れれば、犯人に仕立て上げたい更紗さんは昏倒事件を起こせず、西の顔役である七海さんがこのはさん達の無実を他の魔法少女に伝達することで噂は終息へと向かいます。つまり、噂が終息し始めた時が、次に更紗さんが動く時です」
「だな。だがアタシとしては、その噂の終息を早めることで更紗帆奈を煽りたい。てわけでだ」
「うむ、東の魔法少女は任せてくれ。中央は都君に自分が連絡しておこう」
「ああ、頼む」
チラと十七夜に視線を向けると、すぐに意図を察して返してくれる。
さて、ここまでで更紗帆奈対策の第一段階だ。次に打つべき手は。
「呼び付けておいてなんだが、十七夜には今すぐ家に帰ってくれると助かる」
「ん? どういう事だ?」
「暗示の事を熟知している更紗帆奈なら、カトレアの魔法で暗示を解除出来るかもしれないと気づいてるはずだ。このタイミングならまだ更紗帆奈は葉月達を観察してるから、カトレアと十七夜が接触したとは気づいていない」
「ふむ、なるほど了解した」
「アタシらとは接触していないテイでいて欲しいから、すまないがアタシのスマホ番号はまだ教えられねえ。三日以内に緊急で何かあったら、みたまを通してくれ」
「三日以内?」
「葉月達の噂が終息し始めるのは、アタシの予想では三日後。当然更紗帆奈にとっては面白くない流れだから、その三日後に葉月達に対してなんらかのアクションを起こすだろう。アタシの情報収集も三日あれば十分だ」
「なるほどな。つまりは、決戦は三日後」
「私も承知致しました。ふふ……遂に飛蝗との因縁に終止符が打てるのですね」
「長かったような、短かったような。なんにしても、いよいよだね!」
「がっ頑張ります!」
「……必ず捕まえてやるヨ」
ななか組が感慨深げに一言づつ呟く。
「では、自分は早速失礼させてもらおう。皆、くれぐれも無茶はしないようにな!」
そう言いながらガバッと立ち上がり、小走りで出口へ向かう十七夜……真面目に指示通り行動してくれてるのは伝わるが、動きが唐突すぎる。面白い奴。
「さて。本格的に動くのは三日後としまして……それまで私達はどうしましょうか。下手に動くと燈湖さんの計略を阻害してしまいそうですが」
「それはあり得るな。だからみんなには、「更紗帆奈の予想通り」に動いて欲しい」
「……? どういうことですか?」
「難しいことじゃあない。かこなら「三栗あやめが昏倒事件の犯人扱いされていたら、夏目かこはどう動くはずか」を実践してくれればいい」
「要するに、更紗さんの情報をまだ得ていないテイで、昏倒事件について追っているフリをすれば良いのですね」
「そんな感じだ。更紗帆奈の主目的は、あくまで「このは・葉月・あやめの絆をぶち壊すこと」だ。それを中途半端に邪魔しようとすればこっちにも暗示でちょっかいを出しかねない。そうなると、こっちの更紗帆奈の情報量もバレかねない」
「なるほどね、了解! じゃあボクは……明日香とささらに改めて言い聞かせておく程度がいいかな」
「ワタシはななか達と動きつつ、普段通りクンフーを積むネ」
「私は、えっと……あやめちゃんが寂しくないように、応援メッセージを送りますね!」
よし、全員アタシのして欲しい事を理解出来てるみたいだな。
「ところで、燈湖さんはどうするの? 完全勝利のための情報収集とか言ってたけど、下手に動くと更紗帆奈に警戒されない?」
「なら下手に動かなければいいだけだ、とだけ言っても納得は出来ないか。まあ簡単に言えば――アタシは三日後まで、神浜を離れる。更紗帆奈は葉月達から出来るだけ目を離したくないだろうから、仮にアタシの行き先や目的に勘づいても、三日程度なら追ってこないだろう。まあ、追って来た場合の対策もするけどな」
「神浜の外で情報収集をするのですか? ……流石に何をするのか、想像もつかないですわね……」
「ま、色々とツテがあるのさ」
☆
「ただいまー」
「お帰りなさ〜い」
『お帰りなさい。ご苦労様でした、カトレアさん』
ミレナ座前まで帰って来たら、燈湖とみたまさんが待っていた。どうやら今日はもう店仕舞いらしく、みたまさんは制服姿だった。
……なんか年上っぽい雰囲気だからつい忘れがちだけど、みたまさんってこのみさんと同い年らしいのよね。最初は成人した大学生だと思って接してたわ。
「お疲れさん。思ったより早かったな」
「帰りはかなり飛ばしたからね。みたまさんしか見えないけど、みんなはもう解散したの?」
「だいたい説明も終わったしな」
「そう。じゃあ早速出発する?」
「ああ、頼む」
燈湖を杖に座らせて、しっかり腕を私の腰に回させる。
「それじゃ、飛ぶわよ」
「おう」
言って、一緒にゆっくりと浮遊していく。
「あら、いかにもアニメとかの健全な魔法少女らしくていいわね〜。事件が落ち着いたら、お姉さんも乗せてくれない?」
「ええ、いいですよ。月明かりが出ていない日限定ですけど」
「わぁ、ありがと〜! うふふっ、箒に乗って空を飛ぶの、長年の夢だったのよ〜!」
「正確には杖ですけどね」
「似たようなものよ〜。じゃ、気をつけていってらっしゃ〜い」
「はーい」
みたまさんに一言残して、一気に夜空へ舞い上がる。
「えっと、方角は……」
「北西へまっすぐだ」
「OK。飛ばすわよー!」
予告して、一気に加速して遮るものがない高度を飛び抜ける。
《おぉ、なかなか速ぇな! ははっ下手に喋ろうとしたら舌噛むな!》
風圧でまともに喋れないから、燈湖は念話で話しかけて来た。
《かなりのスピードですが、それにしてはあまり空気抵抗を感じませんね。体感気温もそれ程寒くは感じません》
《魔法で防護膜みたいなの張ってるからね》
《……ふふっ。カトレアさん、だいぶ魔法の使い方に慣れて来たようですね。確かな成長が窺えます。素晴らしいです》
お、おぉ……デンドロビウムに褒められた。うふふ、頑張って魔力制御とかの鍛錬しただけあるわ!
ちなみに、私達が空を飛んで移動している理由と目的地だけど。これも更紗帆奈対策だったりする。
《飛蝗は葉月達を追って隠れ家を特定したら、カトレアを抑えるために次はアタシを狙うはずだ。カトレアとアタシ、両方が各自宅に帰ったのを確認したらだな。だからアタシは家には帰らず、カトレアと一緒に神浜外に出る。さらには目的地を悟らせないために、陸路を避ける。要するに、カトレアにアタシを空輸して貰いたいんだ》
七海やちよさんから情報を入手した際に、燈湖からそう頼まれていた。念には念を入れて、念話で私以外に情報を漏らさない徹底ぶりだ。
で、今向かっている目的地についても、実は本来燈湖が向かおうとしていた目的地じゃないらしい。
《飛蝗はカトレアが空を飛ぶのを見てるだろうならな、アタシを乗せてどこかに飛んで行くと予想して空を注視してるかもしれねぇし、飛んで行った方角から目的地までのルートを計算して追ってくるかも知れねえ》
《……さすがに慎重過ぎない?》
《まぁアタシも、神浜を離れた時点で深追いはしないとは思うが、飛蝗はかなりねちっこい性格みたいだからな、ゼロとは言えねえ。だからさらに念を入れて、普通に考えてまず取らないルートを取って目的地を悟らせねぇようにするんだ》
と説明していた。燈湖らしい慎重さではあるんだけど、慎重過ぎてさすがの私でもちょっと引いた。
《よし、目的の市に入る、スピードを下げてくれ》
《ん、了解》
という訳で、飛ぶこと……えっと、だいたい30分くらいかしら。目的地、へ向かうためのフェイクの目的地、風見野市上空に到着した。
「で、どこに行けばいいんだっけ?」
「川沿いにある緑地公園だ」
燈湖の指示に従い目的地へゆっくり飛ぶ。
そこを指定したのは、夜で人目につかない場所に降りるためと、もう一つ。とある魔法少女と待ち合わせしていて、私との顔合わせをしたかったらしい。
相手は、昨日電話でデンドロビウムが言っていた、風見野で共闘した魔法少女。相対した魔女が強力過ぎてピンチになっていたとはいえ、デンドロビウムも認めるほどの実力者らしい。
「おぉ、空を飛んでくるとはなかなか粋じゃねぇか」
人影を見つけてゆっくり降りて行ったら、2人いた内の1人は為次郎さんだった。
「はぁ……はぁ……よ、よう燈湖……はあ〜〜。おっさん、本当に普通の人間かよ……?」
件の少女は魔法少女に変身しており、地面に刺した槍を支えにして呼吸を整えていた。どうやら為次郎さんと組手をしていたようだ……魔法少女の方がへばってるのに余裕そうな為次郎さんはやっぱりおかしい。まあ、さすがに魔法少女の方は身体強化だけで戦っていたのだろうけど。
「……しかし、聞いてた通りデケぇな……マミレベルじゃねえか」
私に視線を向けた、赤髪ポニーテールで魔法少女衣装も赤い、なんか私とカラーリングがかぶってる魔法少女がそう呟いていた。ちなみに視線の先は、私の胸。
「……ちょっと燈湖。私の事どういう紹介してるのよ」
「ははっ見た目の特徴で一番わかりやすい要素だろ?」
「それはそうだけど……」
なんとなく胸元を手で隠してしまう。
「恥ずかしがりな部分もあってツンデレ気味? とかも聞いてるな」
「……こ、この話はここまでよ! 私はカトレア、よろしく!」
なんか妙に気恥ずかしくなってきたので、話題を無理矢理打ち切って勢いで自己紹介する。
「アタシは佐倉杏子だ。燈湖とはヤベー強さの魔女を倒すために共闘した仲だ。ま、よろしくな」