ちなみに今、デンドロビウムみたいな口調だが、実際に表に出てるのは
傭兵活動時はデンドロビウムの名前を借りてるからな、仕事モードの時はこうだ……実は自然に敬語で話せるよう密かに練習していたんだがな。まぁ言わぬが花か。
それと、更紗帆奈に言った情報収集方法について、もう少し詳しく言うならば。大人の力は親父、コネの力は親父のコネだ。
要するに親父は、国のデータベースにアクセス出来る奴にコネがあるということなんだが、一応不正アクセスした訳じゃあない。まあ正規の手段を踏んだ訳じゃねえから黒い手段ではあるんだが。
つまり、なんというか。表立ってとはいかないが、親父は国を動かせる奴と知り合いと言うことだ。表向き平穏でも、非合法の地下闘技場なんてものがあるこの国だ、裏から国を動かせる奴がいるのも普通だろう。
合法だとか非合法だとかはどうでもいい。使えるものは何でも使って完全勝利を目指す、これがアタシの「敵」に対するスタイルだ。まぁなんにしても、アタシからすれば更紗帆奈は想像力に欠けていると言わざるを得ないな。
さて、心理戦の第一戦はこれくらいにして。
スマホを取り出し手早くタップ、コール音一回で相手に繋がったのでスピーカーモードにすると、
『今から行くわ。ここからなら空を飛んでだいたい1分くらいかしら。首を洗って待ってなさい、更紗帆奈』
「……カトレアァ!!」
カトレアが戦線布告をしてすぐに通話を切った。ははっ、あいつも言うようになったじゃねえか。
「……あは……あっは。あっははははっあひっあははっあひははははっ!」
数秒沈黙したかと思ったら、また先程の様に馬鹿笑いをかました。
「……その神経を逆撫でする笑い方、やめていただけませんか? 何がそんなにおかしいのです」
「何がってそりゃあ、あたしの思い通りに動いてくれるんだもん! 思わず笑っちゃうって〜!」
「思い通り?」
「そうだよ! あたしが警戒してんのはカトレアだけ。なら対策してないわけないじゃん? 奴がここに入ろうとしたら最期、短い魔法少女生活終了! 人生お疲れ様でした〜ってわけ!」
「っ! デンドロビウムさん!」
「私達は何事もなく廃墟内に入れました。となると……どうやら、カトレアにのみ作動する罠を仕掛けていたようですね。それもあの口ぶりからして、カトレアでも突破困難なレベルの罠を」
「そ、そんな……! はっ早く教えないと!」
「飛行して急行中のカトレアではスマホが鳴動しても気づかないでしょうし、もう遅いです」
「そんなことよりさぁ〜、あたしと遊ぼうよ!」
「遊ぶ……? ふざけないで、冗談じゃない!」
カトレアへの罠に余程の自信があるのだろう、狂気を滲ませた笑顔と共にそう提案された……
「……ふふっ」
……アタシは、思わず笑い声をこぼす。
「あ? なんで笑った……? あんたの大事な女王様のピンチだってのに」
「そうですね……先程のあなたのセリフを使わせてもらいましょう。私の思い通りに動いてくれたので、思わず笑ってしまいました。ふふふっ」
「……なんだって?」
ニコリと笑みを深めて、自信満々そうな更紗帆奈に自信満々に煽り返してやる。
「それで足りると思います?」
「えっ」
「あなたが考えつく程度の罠で、事足りると思っていましたか?」
再びスマホを取り出しスピーカーモードにする。ちなみにこれは、先程カトレアにかけたスマホとは別のスマホで、この廃墟に入る前から通話状態にしておいたものだ。
スピーカーモードにした通話先からは戦闘音。どうやらカトレアは、更紗帆奈の罠を「予定通り」踏んだらしい。ただし、通話状態にしておいたスマホの通話相手は、カトレアじゃあない。
「杏子さん、戦況は?」
『おう燈湖、いやデンドロビウムか? お前の予想通り、こいつらカトレアばっかり狙ってあたしの攻撃にほとんど抵抗しやがらねぇ! ははっ楽勝過ぎるぜっ! よっしゃまたグリーフシードゲットぉ!』
「なっ! 誰だそいつ!?」
「大方カトレアを仕留めるために、カトレアにのみ一斉に襲いかかるように暗示で魔女に命令して、密かに配置したのでしょう? それなら対抗策は――カトレアをデコイにして、あなたの知らないベテラン魔法少女に隙だらけの魔女を屠ってもらう、です」
「はあああ!?」
更紗帆奈が知っているだろう神浜のベテラン魔法少女勢では、対抗策を用意されている可能性があった。そして予測通り、神浜外のベテラン魔法少女の杏子にはロクな反撃をしていないようだ。
まぁどっちにしても。カトレア1人では危険でも、ベテランの杏子と2人でなら、多少時間がかかったとしても苦戦する程ではなかっただろう。だがまあ、保険は大事だ。
ちなみに、杏子はスマホを持っていなかったので、スマホ世界花の実験のために複数契約していた奴のひとつを渡しておいた。マイク付きのワイヤレスイヤホンも渡してスマホはアームバンドで腕につけてもらい、動きの邪魔にならないようにもしてある。だからこうして戦闘中でも会話出来るってわけだ。
「要約しますと。あなたの策は、「暗示」と「魔女」による罠は、すでに予測済みで対策済みした。残念でしたね」
「……雷電燈湖ぉぉ!!」
おーおー、凄い形相で怒り狂ってやがる。
「最初の余裕はどうしました?」
「黙れっイカれ女がっ! なんであたしに気持ちよく遊ばせねえんだっ!」
「そういう汚い口調や歪んだ思考は父親を見て学んだのですか? 優秀な反面教師でしたね」
「黙れっつってんだよクソがあ!!」
「「「「うわあ……」」」」
アタシらのやり取りを見て何人かが筆舌に尽くし難いとでも言いたげな声を漏らしてたが気にしない。相手の策を尽く潰せて気分がいいからな!
「あ〜もういい遊びはヤメだっ! お前ら全員「百数えるまで動くな」ぁ!!」
「あぐっ!?」
「くっこれは……! 身体が動かない……!?」
「そうですか、これが暗示の魔法……!」
おっと、ここで唐突に暗示魔法か。何かに縛られた感がある、要するに奴が言った通り「百数えるまでその場から動けない」ようだ。カトレアがこの部屋に来るまで時間の問題だと理解したのだろう、すぐさま逃げに走ったか。
それよりも。この距離なら、女王様の魔力感知の範囲内だろう。図らずして更紗帆奈に暗示を一回使わせられたな。
さて――
★
「…………」
「……あっはははー! ざまぁないねぇ雷電燈湖ぉ? 口も頭も魔女戦も達者だけどぉ、魔法少女戦はザコもいいとこじゃ〜ん! ザーコザーコぉ!」
あっさり暗示にかかった雷電燈湖に接近して、黙りこくる奴に顔を急接近させて盛大に煽る。
ここまでは悔しいけど惨敗だ。けどやっぱり、瀬奈の暗示は最高だ! あたしはこいつに魔法少女として劣ってなんかいないんだ!
「さぁて。このままカトレアが入って来る前に逃げてもいいけど……あんたにもカトレアにも、一矢報いないと気が済まないからさぁ」
そう言って、雷電燈湖の胸元にあるソウルジェムを撫でる。
「あたしがコレを持ち逃げしたらさあ! どうなっちゃうのかな〜!!」
「っ!! やめなさい! ぐっ!?」
「気持ちは判るが落ち着け常盤君、冷静に百まで数えるんだ」
おっ? 常盤ななかの反応……どうやらあいつも、ソウルジェムの真実は知ってるみたいだねぇ。あっはは!
「…………」
対して、自身の命の危機なのに無言を貫く雷電燈湖。
「アンタも知ってるんでしょ? なーに黙っちゃってんのさ、降参したのかなぁ〜?」
「…………」
あたしの問いには答えず、無言のまま不意に足を上げる雷電燈湖……え? なっなん!?
ゴッ!!
『うわああっ!?』
あたしは地面が激しく揺れる前にジャンプして震脚の影響をギリギリ回避出来たけど、暗示で動けなかった奴らは避けられずにつんのめったり転げたりしていた。
そんな事より!
「何で動けるっ!? 雷電燈湖おっ!!」
あたしの叫びには応えず、腰だめに拳を構え――ってヤバイヤバイマトモに受けたら死ねる!?
「破っ!」
ボッ!!
空間が破裂したような音と衝撃と共に、あたしは気の拳に吹っ飛ばされた。
☆
ドガンッ!
「かはぁっ!」
サラサハンナさんは私の
とはいえ、暗示があるので油断は出来ません――ですが、先程のサラサハンナさんへの問いには答えましょうか。
「なぜ動けるのか。それは、今の私は「ライデントウコ」ではないからです」
私は廃墟に入る直前からトウコさんに呼ばれるまでソウルジェムに完全に引きこもっていたので、交代直後は無言で状況把握に努めていたのですが……サラサハンナさんらしき方が不快な煽りと共に
ちなみトウコさんは、私と交代した直後からソウルジェムにて何やら猛スピードで数字をカウント中です。恐らく一定数まで数字をカウントしないと動けない暗示をかけられたのでしょう。
暗示の条件を出来るだけ早くクリアして、私の方が暗示で行動制限を受けたとしてもすぐに動けるようにしておく。トウコさんはやはり素晴らしい戦士です。
「うっぐ……どういう屁理屈だよ……!」
「カトレアに暗示が効かないのと同じ理屈です」
「同じ……そうか、花騎士の魂かっ!」
「さて、おしゃべりはここまでですっ」
あまり話し込むのは得策ではありません。カトレアとトウコさんの考察によると、暗示魔法は「命令の音声に魔力を乗せる」ことで発動しているのだろうと結論付けられているからです。
つまりは、カトレアの対抗魔法がなくとも、意味のある命令を口にさせなければ、暗示の発動をある程度は防げる。なので、
「「ちょっとストッ――」
「はあっせいっ!」
飛び蹴りを放ちギリギリ避けられたところですぐ側に着地、息をつく暇もないような密着状態による
「くうっ! ちっバレてるか……!」
「やはりっある程度余裕がないと、はあっ! 声に魔力を込められないようですねっ! せいっ!」
……そうして数分格闘戦をしていると、皆さんも百まで数え終えたらしく、各自得物を手に私達を囲むように戦闘態勢を取っていた。
「てやぁっ!」
ゴッ
一撃叩き込んでその反動でバックステップし、少し距離を取り、
「さあ、今度こそ詰みですよ、サラサハンナさん」
私は彼女の敗北を宣言する。
「あっははぁ! もう勝ったつもりかよ甘ちゃんがぁ! 「コロシアエー」!!」
空気の振動と口の動きから後半にも何やら言ったようですが、その部分だけ不自然に聞こえなかった。
「何かおっしゃいましたか?」
「……え? な、なんで何もしないんだよお前らぁ!」
「なんでも何も、何を言ったか聞こえなかったもので。どなたか聞き取れましたか?」
「なるほど……ふふ。いいえ、私にもわかりませんでしたわ」
私の問いかけに、何が起こったか理解したななかさんがそう答える。
「常盤ななかぁ! 澄ました顔しやがって……ムカつくんだよ! 「自害しろ、常盤ななか」!!」
再び後半が聞こえない。恐らく私達が聞こえていない部分に、暗示の魔法が込められているのでしょう。
ですが、もう遅いんです。
「デンドロビウムのセリフが聞こえなかったのかしら? あなたは詰みなのよ、大人しく捕まりなさい!」
カトレアの声が、廃墟内に響き渡った。