気がついたら、見知らぬ部屋、見知らぬ男の側で正座で座っていた。
そして目の前には、見覚えのない白い生物がいた。魔力からして普通の動物じゃないわね……霊獣の一種かしら。
(え、なにこの状況)
確か私は、屋敷の自室に……いや、バナナオーシャンに……コダイバナにいたような気も……うーん、何故だか直前の記憶が曖昧だわ。
「あら、女王様」
「え? ……なんだ、デンドロビウムじゃない。珍しく髪下ろしてるから、一瞬誰かと思ったわ。あなたがここに連れてきたの?」
「いえ、それが。私にも何が何やら」
いつも穏やかで余程の事がないと動じない印象のデンドロビウムが、珍しくひどく困惑している。彼女にも訳がわからない状況らしい。
《はっ! ……え、なにこの状況。あの自信に満ちた顔つきと豊満なバスト、間違いなく花騎士カトレアだし……願いは叶った、のよね?》
……うん? なんか頭に直接響くような声が……なんとなく、私の声に似てるような?
《なんか体が動かないんだけど……ていうか、なんで目の前に私の体が。ちょっとキュゥべえ? どうなってるのよこれ!》
どうもこの声は、私がいつの間にか手に持っていた真紅の宝石のようなものから発信されているように感じる。
《落ち着けカトレア、慌てるんじゃねぇ》
《えっ燈湖の声!? なにこれ頭に直接……!?》
今度は、デンドロビウムが持っている、私が手に乗せているのと似たようなのから届いた気がする。
《魔法少女同士は、こうやって精神感応――いわゆるテレパシーで会話が出来るんだよ》
と、さらに別の声。今のは白いのからかしら。
《この念話は、親父にも届けられるのか?》
《これも魔法少女か、素質がないと無理だね》
《そうか……んじゃ、デンドロビウム》
《なんでしょうか?》
あ、デンドロビウムも出来るのね。なら私にも出来るのかしら、魔法は大の得意だし。
《アタシの名前は燈湖。んで、そこにいる男はアタシの親父だ。親父に念話は届かないから、デンドロビウムから伝えてくれ。「情報が錯綜してるから、纏まるまで待っててくれ」ってよ。出来れば男口調で》
《男口調、ですか……ええ、わかりました》
……どう見ても宝石人間なのに、この男の人が親父さんって……どういう事かしら。
まあ、トウコとやらが事情を知ってそうだし、今は静観しましょ。
「情報が錯綜しちまってんだ、纏まるまで待っててくれよな」
「おぅ、そうか」
……なかなか様になってるわね。知り合いに男口調の花騎士がいた筈だし、それを真似たのかしら。
《おし。んじゃあ順を追って情報のすり合わせだ》
トウコの進行のもと話し合い、大体の状況が見えてきた。
まず、私の手の中の宝石はソウルジェム。ソウルジェムから聞こえてくる声の主はカトレア。カトが家名でレアが名前らしい。
フルで言うと私と名前が丸かぶりでややこしいからと、トウコの提案で私が「女王様」、ソウルジェムの方は「カトレア」と呼ぶ事になった。
デンドロビウムの方がライデン家のトウコ。親父さんはタメジロウと言うらしい。
白いのはキュゥべえ。私達がここに来た根本原因らしい。
《カトレアは女王様に――花騎士のカトレアに、アタシはデンドロビウムになるって願った。その結果がこれだ》
なんでも、キュゥべえには一人につきひとつだけ、どんな願いでも叶える能力があるらしい。
で、トウコの言った願いを叶えてもらったら――何故か自分たちはソウルジェムの中に閉じ込められ、体には私達の意識が入っていたらしい。
《アタシの目論見では、ちょっと容姿が変わって願った花騎士の力を使えるようになる、程度だと思ってたんだがな……》
《本人降臨は、さすがの燈湖でも読めなかったって事ね》
ちなみに、願いを叶えてもらう代わりに少女達は魔法の力を得て、人類の敵である「魔女」と戦わされるらしい。私達の世界でいう「害虫」とでも思えば良い、とのこと。
……そう、世界だ。トウコ曰く、この世界はスプリングガーデンではなく、地球という世界の日本という国にある、神浜市という都市らしい。
そして、私達の世界は――
《すまほゲーム……フラワーナイトガール?》
《あー、なんていうかだな……アタシらにとってスプリングガーデンは、いわゆる創作物、物語の中の世界なんだ》
《……はあ? 私達が創作物ですって?》
《にわかには信じがたい話ですが……トウコさんが嘘を言っている感じはありませんね》
《本当のことよ。今はなんか体が動かせないから、スマホを操作して見せてあげられないけど》
《そのことに関してなんだけど。ちょっとソウルジェムに触れさせてもらって良いかい? ソウルジェムを調べてみれば、原因がわかるかもしれない》
キュゥべえの提案に、空いている座布団の上に私とデンドロビウムがソウルジェムをそっと置く。
駆け寄ったキュゥべえが両前足で両方のソウルジェムに触れると、ソウルジェムは微かな光を放ち出す。
《ちょっとくすぐったいよ》
《え? ……うひゃっ! あはっあはははははっ!!》
《むっ……ふっ……》
と同時に、くすぐられたときの笑いを上げるカトレア……トウコは我慢強いわね。
……あら? 何故か私も、どこかはわからないけどなんかムズムズしてきた。笑い声を上げてしまう程ではないけど……
「……んっ」
……デンドロビウムがもぞっと体を動かす。私と同じでムズムズしだしたようね。
《ふーむ……これは……ああ、やっぱりそうか……》
《あはっはひっんうふっらっもうらめっゆるひへっ》
《……っ……んっ……》
……なんかエッチぃわね。
カトレアが笑い転げ出してから数十秒後。キュゥべえがソウルジェムから足を離すと、光も収まる。
《だいたいわかったよ。二人ともお疲れ様》
《……いきなりなんの余韻もなく、唐突にくすぐったさがなくなったわね》
《ああ、妙な感じだぜ》
笑いは治ったようだけど、笑い疲れてるだろうから私から切り出す。
《それでキュゥべえ、何がわかったのかしら》
《魂が空っぽの身体に新たな魂が入ってしまったから、上書きする形で新たな魂の方に身体を操る主導権が移ってしまったんだ。けれど、二人の身体とのリンクは完全に途切れたわけじゃないから、メインの魂の方が許可を出せば、魂の交代は可能なはずだよ》
ああ、私達の方もなんかムズムズしたのはそういう理由なのね。
《ふーん、なるほど…………ん? 魂が空っぽ……?》
キュゥべえのセリフに、カトレアが何かに気づいて声を上げる。
《空っぽって、どういう意味?》
《そのままの意味さ。ソウルジェムは、君たちの身体から魂を抜き取って結晶化したものだからね》
《……ちょっと待って。じゃあ今、私は体を持たない魂の状態ってこと!? そ、それって女王様が入ってなかったら、私死んでたんじゃ……!》
《落ち着けよカトレア、最初から予想出来ることだぜ。ソウルジェム……日本語にすれば、魂の宝石だろ?》
《燈湖! あなた気づいてたの!? なんでそんな重要なこと言わないのよ!》
《言ったとして、お前は魔法少女にならなかったか? このみも同じ立場だぜ?》
《それは……そうよ、このみさん! かえでちゃんとかこちゃんも! あの娘たちは知ってるの!?》
《少なくとも、ボクからは伝えてないね》
《ナンデ!?》
《聞かれなかったからね》
《〜〜っっ!!》
あまりの事実に、カトレアが怒りのあまり言葉を失う。
《……クズね、こいつ》
《リスクを伝えず魅力的な部分だけを強調し、契約させる。詐欺師の常套手段ですね》
《まだなんか重要なこと隠してそうだよな。最初っからこいつは信用ならねぇ》
となると、私とデンドロビウムもある意味被害者かしら。
まだまだ色々と聞きたい事はあるけれど……
《とりあえず。カトレア、魂の交代してみましょうか? 特別に私の体を使うことを許可してあげるわ》
《……え? あ、そういえばそんな話もしてたわね……》
《まあ、もとになったのはあなたの体だし。必要なときは貸してあげる》
《あ、ありがと……で良いのかしら》
《そう思ったのなら、感謝で間違いないわ。大いに感謝しなさい》
《……ふふ。やっぱりあなたは、私の知ってる「花騎士のカトレア」なのね》
《どういう意味?》
《いかにもあなたが言いそうなセリフってこと……うん、ちょっとだけ安心した》
よくわからないけど……まあ、気分が良くなったのならいいか。
《では、私達も交代しましょうか》
《おう》
△ ▼ △ ▼
……自分の体に戻ったら、胸元が少しキツかった。さすがナイスバディカトレア……まあ、そこは嬉しい悲鳴ね。
その後、花騎士二人にフラワーナイトガールのゲーム画面の二人を紹介したり、無言で待ってくれていた為次郎さんに状況説明したりした。
……その時の為次郎さんと燈湖の反応に、私は大いに呆れた。
「人体は時にとてつもない底力を発揮するもんだが、有象無象にとって人体ってのは基本、脆いもんだ。その点、コンパクトなソウルジェムさえ守ってればどんな致命傷を負っても魔力で治せるってんなら、命のやり取りすんなら余程有利じゃねぇか。嘆く必要を感じねぇな」
「だよな。物は考えようだぜカトレア」
「やはり燈湖は理解が早いね」
「……私は戦闘狂じゃないから、わからないわよ……」
《あら、私だって戦闘狂じゃないけど、ライデン家の考えは理解できるわよ? 私達の世界でも、体の傷を治す魔法はわりと希少だし》
《ですね。鍛錬も捗りそうです》
……ヤバい。私の周り、メンタルがまともじゃない。まあ花騎士組は日々害虫と命のやり取りしてたから、強メンタルでもおかしくはないけど……でもなんか解せない。
「とりあえず、今日は色々あり過ぎて疲れたわ……ほんと、色々ね」
「そうだな。んじゃ今回はお開きにして、話の続きは明日にでもしようぜ。ブロッサムでいいか?」
「ええ、明日も手伝う予定だし、このみさん達も全員来るはずよ。今日やるはずだったフェアを開催したい筈だし」
「そっか、そうだったな。土曜日だし忙しくなりそうだな、アタシも手伝ってやるか」
「ふふ、ありがと。じゃあまた明日」
「おう」
「為次郎さん、お邪魔しました」
「あぁ、いつでも来い」
すっかり日が傾いた帰り道の道中。
《そういえばカトレア》
《うん? どうしたの、女王様》
《私はまだこの世界を、あなた達に聞いたわずかなことしか知らないわ。だから、色々教えなさいよね》
……それを聞いて、何故だか無性に嬉しくなった。
《……ええ! 任せてちょうだい!》
《それから、もう知ってるでしょうけど改めて》
そう言ってから一拍置いて。
《私の名前はカトレア。花言葉は「魔力」。世界に愛された私の体と超絶な魔力を扱えること、光栄に思いなさい? もう一人の私》
花騎士カトレアらしい、自信に満ちた自己紹介をされた……大好き。
「くぁwせdrftgyふじこlp」
《何事!?》
……テンション上がり過ぎて、思わず意味不明な声を上げてしまっていた。
オリキャラの名前は、モデルの花騎士や花をなるべく想起させる響きで、実在するものにしています。
つまり、加戸も雷電も実在する苗字です。私の調査が間違っていなければ、ですが。雷電って強そうですよね。