「マジ……? ブラフじゃなくて、ほんとにあの強力に育てた魔女達を殲滅したっての……?」
「ここに私がいるのが何よりの証拠じゃない。ねえキョウコ?」
そう告げてから、顔だけ振り返り後ろの共闘者に尋ねる。
「おうよ。魔女はあたしらが全部美味しくいただいたぜ」
そう言って肩に槍を担いで、不敵な笑顔と共に前に進み出るキョウコ。もう片方の手には、先程の戦闘で得たグリーフシードが複数個あり、それでカチャカチャと手遊びをしていた。
「ほんとに誰だよお前ぇ……」
全然知らない第三者が参戦していた事実に、ちょっと涙目になって悔しそうにそう漏らす。ちょっと可愛い。
「それよりも。あなたの暗示魔法がなんでみんなに効果がなくなったか、聞きたい?」
「別に〜……どうせお前の魔法で防いでんでしょ〜。はぁ〜……」
「ふふふ、ご明察」
不貞腐れたように呟くサラサハンナに、得意気に返す。
それにしても。ついさっきまではっちゃけてたみたいだけど、すっかりやる気がなくなっちゃってるわね。張り合いのないこと。
まあ、デンドロビウムとだいぶ激しくぶつかったみたいだし、ここにいる全員に向かって何回も暗示を使ってたし。魔力も気力も体力も限界で、無駄な抵抗は諦めたってところかしら?
《油断大敵ですよ、女王様。サラサハンナさんの性格からして、最後の最後で何かやらかそうとするはずです》
《う……はーい》
ここまで圧勝出来たから顔に楽観的なことを考えてると出ていたのだろう、デンドロビウムに注意された。反省。
《とは言っても、暗示は封じられて疲労困憊、さらには大勢の魔法少女に囲まれたこの状況じゃあ、さすがの更紗帆奈も何か出来るとは思えないんだけど》
《まあ、出来るとしたら精神攻撃しかないな。とはいえこれだけ魔法少女が集まってんだ、誰かしらの心に爪痕を残す事をするかもな》
……トウコの口ぶりからして、何をやらかすかまで予測してそうよね。ほんとこの娘、頼もしいと同時に怖い。
「さて、更紗帆奈さんの沙汰についてですが。まず最初に、暗示で昏倒させた魔法少女の暗示を解いていただきます」
「多分あたしが死ねば、勝手に暗示も解けると思うけど〜?」
「そうですか。ですがそれは最終手段です」
「……あっは。即座にそう言い切れちゃうなんて、やっぱお前イカれてるわぁ。そういうとこ、あたし結構好きだよ?」
「……大人しくはなったけど、反省は全然してないみたいだね」
サラサハンナの軽口に、あきらが不快そうにそう呟く。
「まぁ、完敗しちゃったしねー。敗者は敗者らしく、勝者の言うことを聞くよ〜っと」
そう言って、ぱんぱんと手を叩く。みんなにはただ短く拍手したようにしか感じられなかったかもだけど、私は僅かに魔力が放たれたのを感じた。言われた通り暗示解除をしたようね。
「次です。これ以上悪質なイタズラが出来ないように、あなたには暗示を捨ててもらいます」
「はいは〜い。ていうかぁ、あたしの上書き魔法から暗示を消せば、暗示も自動で解除されただろうけどね〜。あっは、二度手間〜」
「いちいちイラつくこというわねぇ、黙ってやりなさいよ」
「まあまあレナ、負け犬の遠吠えだと思っときなよ」
再び手を叩くサラサハンナ。今度は私でも魔力感知出来なかったから、本当に「暗示」を捨てて「上書き」を白紙にしたかはわからない。恐らく自己で完結してて魔力放出してないから、私にも感知出来なかったのだろう。
「次です。更紗帆奈さんには、本当に暗示を捨てたのかを皆さんが確認出来るよう、ここにいる方達の誰かの魔法を上書きして使っていただきます」
スラスラと次々リクエストを告げる。さすが慎重者トウコ、みんなが納得する方法をすでに考えていたらしい。
「それで問題は、どなたの魔法を上書きさせるか、ですが……」
「それに関してなんだけど。レナの固有魔法とかどうかな?」
「へ?」
トウコが逡巡していると、ももこがそう提案して来た。
「ふむ。どういった固有魔法なのですか?」
「この娘の魔法は「変身」。名前の通り、見た目から声から完全な別人に変われるんだよ」
「ちょっと、勝手に話を進めないでよ! 嫌よ、レナの魔法をコピーされるなんて!」
「そうですか、それは残念です。これ以上ないくらい、誰から見ても暗示を捨てたとわかる良い魔法だと思ったのですが」
「……え? そ、そうかしら?」
「ええ。その魔法が一番適切だと私は思いました」
「そ、そうなんだ……ふふ、良い魔法……」
あ。この娘チョロいわね。
ということで、他に異論も出なかったので、ももこの案が採用された。
でまあ。更なる問題として、変身魔法でどんな見た目に変わらせるか、の話になったのだけど……
「レナの魔法をコピーするのは百歩譲って許すけど。絶対に! レナの知り合いにだけは変身しないでよね!」
「あー、まあそれはねぇ」
散々悪意を持って引っ掻き回した奴に親しい友人の姿になんて変身されたくない、という声が複数人から出た。とはいえモデルとなる人物像がないと、変身魔法は上手く発動しないらしい。
ということで。ここに集まった魔法少女達のほとんどが知らない人物で、私とデンドロビウムしか実物を見たことがない人物に変身させることにした。
「……よし、出来ました。ハンナさん、この絵姿を元に変身して下さい」
「はーい……」
デンドロビウムが妙に写実的なタッチの似顔絵を書き上げ、サラサハンナに手渡す。
うーん、それにしてもリアルだわ。まるで本人、ほぼ写真ね。デンドロビウムにこんな芸当があったとはねぇ。
《おぉー……シンビちゃん、リアルだとこんな感じなのね……素朴な美人さんだわ》
《だな》
カトレアとトウコが呟いた通り。サラサハンナに変身させるのは、シンビジュームの姿だ。これが一番角が立たないとデンドロビウムは判断したらしい。
……私的には、コイツに親友の姿になられるのは大反対なんだけど。どうもデンドロビウムは何か他にも意図があるらしく、是非にと押して来たので仕方なく了承した。
ということで、サラサハンナがシンビジュームの絵を眺めること数分後。サラサハンナが魔法少女に変身する時のように発光する。
「……どう?」
光が消えた後、そこにはシンビジュームがいた。
「よく見れば、細かいところに違和感はありますが……少し遠目に見れば、ほぼシンビジュームですね」
確かに、パッと見はシンビジュームにしか見えない。自身の杖の形状まで変えてシンビジュームのメイス?まで再現したのは予想外ね。それがなければ辛口評価で、50点を付けようと思っていたけど……
「そうね……60……いえ、70点ってところかしら」
「……ふーん」
……少し俯き加減で引っ込み思案そうな雰囲気がシンビジュームを思い出させたので、思わず点数を上げていた。
それにしても。少し前から……具体的にはトウコに「暗示を捨てて下さい」と言われた後から、妙に言動が大人しい。
まるで、人が変わったレベルで……もしかして。
「シンビ……じゃない、サラサハンナ。ちょっと質問いいかしら」
「……どーぞ」
「あなた……もしかして、自分自身にも暗示魔法をかけてたんじゃない?」
「でしょうね。狂っているかのようで、妙に理性的でもありましたし。「愉悦心だけで動く狂人のように振る舞う」とでも、自身に暗示魔法をかけたのでしょう」
「あはは……当たり……」
いきなり減らず口を叩かなくなったから、もしかしたら、と思って聞いたんだけど……予想通りか。
つまり、今のこの口数の少ない自己主張の出来なそうなのが、本来のサラサハンナなのね。
「なんでそこまでして……何かあったんですか……?」
かこがサラサハンナを気遣うような表情と口調で問う……まったく、お人好しね。自分を貶めようとしてた奴にまで気を配るなんて。
「……なんでも何も……あたしの人生、なーんにも良いことなかったんだもん……」
ややあって、俯いたサラサハンナがポツポツと内心を語り出した。
「やっと両親から解放されたと思ったのに、施設には全然上手く馴染めないし……学校では、執拗で陰湿なイジめが待ってるし……魔法少女になって、瀬奈にも出会えて。今度こそクソみたいな現状から抜け出せる……! そう思ったのにさぁ……!」
嗚咽のような声で語る……というより、これは独白ね。
《うーん、その境遇には同情せざるを得ないけど……特にイジめとか》
カトレアの呟きに、サラサハンナは唐突に顔を上げて、こっちを向いて尋ねてきた。
「ねぁ、教えてよカトレア……なんであたしはこんなにうまくいかないことばかりで、お前は何か障害があってもうまくいってるんだよ……」
「……それは」
《え、えっと……》
サラサハンナはカトレアに言ったんでしょうけど……なんとなく、私にも響いた。
私も、少し道が違えば。育ててくれたのがデンドロビウムでなければ、世界を憎んでいたかもしれない。
「理不尽だろ……! なんであたしばっか……なんであたしのことは、あたしの時は! 誰も助けてくれないんだよ! 誰か助けろよぉ……!」
「……狂ってしまいたいほどの辛いことばかりに遭遇して、でも完全には狂いきれなくて。暗示魔法を自身に使ってまで、狂人のフリをしたかったのですか?」
ななかが複雑そうな顔でそう問いかける。加害者も単なる愉快犯じゃないと知ったら、それはそんな顔にもなるわよね……
「あっは……」
それには答えず、乾いた様な笑い声をひとつ漏らす。
「カトレアとお前の違い。それは、お前が1人だったからだ」
ライデントウコとして伝えたいと思ったからだろう、先程までデンドロビウム口調だっだトウコが、いつもの口調でそう告げる。
「……だってあたしには、味方なんていなくて……いつも1人きりで……」
「違うな。お前はただ声を出さず耐えることを選んだ。お前は自ら1人であり続けたんだ」
「いなかったんだよ!」
「ないわけないだろ。親がダメでも近所の大人、学校の教師、クラスメイトでもいい。いくら他人に無関心な奴が多いこの国でも、本気で助けを叫べは誰かしら手を差し伸べただろうさ」
「……っ」
「苦しかったなら、辛かったなら。助けてもらえるまで誰かに助けを求め続ければよかったんだよ、お前は」
突き放すような容赦ない言いようにもとれるけど……これ、トウコなりの気遣いよね。ちょっと格好良い。
「そんな……そんな綺麗事……!」
「アタシは普通のことを言ってるだけなんだがな。事実カトレアは、自分ではどうにもならないと判断した時、誰かに助けを求めたぜ」
《え? あーうん……そうね、そんな事もあったわね》
カトレアが少し恥ずかしそうに返す……2人の過去に何があったのかしらね、ちょっと興味あるわ。
「……いい、もういい。いつだって世界は、あたしに冷たいんだ……世界に愛されてるカトレアとあたしは、まさに対極ってとこだよね……」
当のサラサハンナはトウコの助言には気付かず、自嘲気味に呟く。
「はぁ〜……ほんっと、つまんない人生だった……」
「……だった?」
ハッとして探ると、襟に付いていたアクセサリー――ソウルジェムがない。
「じゃ、お先〜」
「待ち――」
何かを宙に放り投げ、下段にメイスを構える。私を含め何人かが止めようと手を伸ばしていたけど、間に合わないだろう。
ただ1人――
「はあっ!」
「!!」
――行動を読んでいたトウコだけは間に合った。サラサハンナとソウルジェムの間に入って気を纏った拳で振り上げたメイスを殴り付けて弾き飛ばし、殴った流れのまま回転してサラサハンナのソウルジェムをキャッチする。
「な……なんで、助けたんだよ……?」
「今、言ったじゃないですか。「助けて欲しかった」と」
「……え?」
……トウコかと思ったけど、口調からして動いたのはデンドロビウムだったらしい。
「それを聞いてしまったからには、見殺しになんて出来ません。してあげせん」
「…………」
「世界があなたに冷たい、と言っていましたが。それはあなたが世界の「冷たい」という一面しか体験していないからこその感想です」
子供を宥めるような口調でサラサハンナに語りかける。
魔法少女は、なんだかんだ言って人生経験の少ない少女ばかりだろう……だけど、この中で唯一デンドロビウムだけは、私を十数年育てて来た大人だ。まあ、身体はトウコベースだから少女だけど。
つまり。デンドロビウムだけは、大人として接してあげられる。
「世界は決して冷たいだけではないと、私が教えてあげます。嫌がっても、キチンと理解出来るまで見放してあげません」
「……あんたが、あたしを……?」
(あ……そっか、なるほどね)
デンドロビウムがシンビジュームの姿を押した理由に、察しが付いた。デンドロビウムにとって、シンビジュームは弟子だからだ。
要するにデンドロビウムは、サラサハンナの人生の師匠になるつもりなのだ。