魔法少女花騎士☆マギカ   作:繭浮

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バッタ討伐とフリーの傭兵 4-5

「冷たさしか知らないなら、私が抱き締めて温めてあげます。さあ」

「!? く、来るな……!」

 

 デンドロビウムがゆっくり一歩踏み出すと、得体の知れないモノを見るような目をしてサラサハンナが後退る。これまで大人視点で優しくしようとしてきた人がいなかったみたいだから、まあ仕方ないわね。

 

「ふむ」

 

 デンドロビウムが僅かな黙考の後、再び一歩踏み出し、

 

 ドゴッ!

 

一歩の音がおかしい、と思ったら、デンドロビウムがサラサハンナに抱きついていた。

 

「はい、捕まえた」

 

 ミシッ

 

「ぴぎゅっ!?」

 

 どうやら力技で強引に距離を詰めたらしい……なんかヤバい音と声が聞こえた気がするんだけど……

 

「私はあなたを助けます。ただ、人というものは言われなければ存外気付かないものです。ですから、トウコさんも言っていましたが、助けて欲しい時は伝わるようにアピールしなければ」

「で、でぢゃうなんがでぢゃゔぅ〜!」

 

 あーアレ、抱き締めるっていうかベアハッグだわ。一応手加減はしてるでしょうけど、だいぶ苦しそうねー……

 

 サラサハンナ(見た目シンビジューム)がデンドロビウムの背中に手を回してパンパンパンとタップしている。早速言われたことを実践してるわね……まぁ、さすがに思わずだろうけど。

 

「あら、つい熱が入り過ぎてしまいました♪」

 

 そう言いつつすぐには離さず、数秒極めつづけてから解放する。

 

「くはぁっ……ぜっ、ぜっ、ぜったい、ワザとっ……」

「痛くないとお仕置きになりませんから。この期に及んで逃げようとした罰と、ソウルジェムを粗末に扱った罰です!」

 

 我が子にお説教するかのようにそう言ってから、今度は頭を撫で始めた。

 

「あ……」

「道を踏み外してしまいましたが、ギリギリ崖の淵に手をかけていたと言ったところでしょうか。今まで、1人でよく耐えて来ました。頑張りましたね」

「…………」

 

 自然と安心する穏やかな声色で、優しく撫で続ける……デンドロビウムのアレ、凄く落ち着くのよね……懐かしいわ。

 

「これからは、どうしようもない困難に直面したら、私が手助けします。だからハンナさんも、私に頼って下さい。他人に頼ることは恥ではありません。頼ることを、頼っていいことを、覚えて下さい。人は1人きりでは生きていけないのですから」

「デンドロビウム、さん……う……うう〜〜!!」

 

 大人に優しくされたと初めて認識出来たのだろう、ハンナは子供のように泣きじゃくり始めた。

 

 いや……子供のように、というか。ハンナは今初めて、普通の子供のように扱われて、普通の子供になれたのね。

 

「人は1人きりでは生きていけない、か……」

「キョウコ?」

「ん……いや、なんでもねー」

 

 キョウコが何やら呟いて、遠い目をしていた気がする。詳しくは聞いてないけど、キョウコも訳ありで家なしらしいし、デンドロビウムのセリフに思うところがあったんでしょうね。

 

 

 

 

「さて。ハンナさんも落ち着いたことですし」

 

 しばらく泣きじゃくってから、ハンナはシンビジュームの変身を解いて、集まったみんなに向き合う。

 

「悪い事をしたら、どうすればいいですか?」

「…………。ごめんなさい」

 

 デンドロビウムに促され、深々と謝罪のお辞儀をするハンナ。

 

「……もうしないと約束出来るのなら、私からは特に言うことはないわ」

「うむ。キチンと謝れて偉いぞ、更紗君」

「言いたいことは色々あるが……ささら達からの連絡で、衣美里が起きたのも確認した。謝罪も聞いたし、アタシはもう十分だ」

 

 神浜各地区の顔役の反応は、ハンナが反省もしているし実害もそれほどではないからか、概ね許す方向だ。

 

「んー。ムカついてはいるんだけどさぁ……」

「そうね……更紗さんの境遇を知ってしまったら、責めるに責められないわね……」

 

 事情はよくわからないけど、ハヅキ達もどうやら許す方向っぽいわね。

 

 さて問題は、実害を受けて飛蝗――ハンナを追っていた、ななか組だ。

 

「ボクはまあ、半分くらいはななかに付き合ってたようなものだし。今の謝罪が聞けたから、もういいかなって気分だね」

「わ、私も、ある意味実害はないですし、魔法少女になって結べた縁もあるので……その、許せます」

「えへへ……かこ〜♪」

 

 あきらとかこは許す方向らしい。特にかこは、魔法少女になったからあやめと出会えたから、ある意味感謝してる部分もあるみたいね。

 

「どんな事情あても、家族に手を出した飛蝗を許す気はないヨ。ケド、実害自体は、ななか達が防いだから大してないネ。だから……捕まえたから、ワタシの目的は達成ヨ」

 

 メイユイは、前2人と同じく実害があまりないから、許しはしないけど自ら手を下す気はないらしい。後は今後のハンナの行動次第、かしらね。

 

 となると、問題はななかだ。ここに集まった魔法少女のなかで、ななかだけは人生を狂わされたレベルの被害を受けている。

 

「謝罪は受け入れましょう。私の固有魔法の反応も弱まってきていますので、深く反省もしているのでしょう。ですが……私の魔法は、いまだあなたを敵として認識し続けています。なので申し訳ありませんが、まだあなたを完全には信用しきれません」

 

 そこで一度切り、デンドロビウムを見る。

 

「デンドロビウムさん。あなたとは傭兵として、飛蝗討伐を遂行するという名目で契約を結びました。なので……料金上乗せでかまいませんので、彼女の具体的な処遇ついては、あなたに一任することに致します」

「……要するに、自分の手に余るからデンドロビウムに投げたって事よね」

 

 さすがにそれはどうなのよと思い、思わずジト目を向ける。

 

「仰りたい気持ちはわかります……ですが、申し訳ありません。自分の気持ちにいまだ整理がついていないのです。許せない気持ちと、同情からの許したいという気持ちが、同時に湧き上がってしまっていて……」

 

 苦笑いでそう返すななか。家庭をめちゃくちゃにされたのに許したい気持ちが出てくるあたり、やっぱりななかもお人好しなのよね。

 

「はい、お任せ下さい。私が責任を持って、ハンナさんに教育と罰を施します」

「……え? 今、罰って……さっきの鯖折りが罰だったんじゃ……」

「起こした事件の罰は別です。なにより、あなたがしでかしたことは、ただ一言謝っただけで済むレベルではありませんから。情状酌量の余地があるとはいえ、悪い事をした子にはそれ相応の罰を受けていただきませんと」

 

 実に嬉しそうにニッコリ微笑んで、

 

「あなたには、世界の「愛」と「厳しさ」をみっちり教育してあげます。私の指導は厳しいですよ。覚悟の準備をしていておいて下さい♪」

「え゛」

 

地獄が待っていると宣告した。

 

 ……今のセリフ、デンドロビウムとトウコ、どっちのものかしら?

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 ……こうして「魔法少女昏倒事件」及び「バッタ討伐依頼」は幕を閉じた。

 

 ちなみに、更紗帆奈がソウルジェムを砕こうとしたことについては、

 

「ソウルジェムが修復不可能なまでに砕けてしまうと、どうやら魔法少女として死んでしまうらしいです」

 

と言葉を濁して説明した。

 

 直接的に「ソウルジェムは本人の命そのものだから砕く=生命活動の停止です」とか言ってしまうと、事実に耐えられなくて絶望しちゃう娘が結構いそうだったし、仕方ない。

 

 とはいえ、聡い娘は気づいただろうけど……美雨さんや葉月あたりは、表情からして勘付いたっぽいわね。

 

 まあソウルジェムに関してはともかく。本題の「更紗帆奈がどうなったのか」だ。

 

「一週間後、またこの廃墟に来てください。生まれ変わったサラサハンナさんをお見せしますよ」

 

 そう言い残して、燈湖&デンドロビウムは更紗帆奈を連れていき、一週間姿を眩ませた。

 

 時折スマホに連絡があったから、だいたいの過程は聞いているのだけど。性根を叩き直す……もとい、教育するために、雷電家秘蔵の特訓場に籠っていたらしい。

 

 その結果。

 

 

 

 

「おう、おはようカトレア」

「あ、おはようございます。お久しぶりです、カトレアさん」

「え、あ、えっ? あー……そうね、一週間ぶりね」

 

 事件解決からちょうど一週間後の朝。学校に行くために家の玄関を開けると、制服を着た燈湖と帆奈がいた。元々は水名女学園の生徒だった帆奈も、神浜市立大附属のを着ている。

 

 ちなみに、帆奈はすでにシンビジュームの姿に変身している。つまり、見た目はうちの制服を着たシンビジュームだ。

 

「ずいぶんと雰囲気が変わったわね」

「はい。これも、燈湖さんとデンドロビウムさんのご指導のお陰です。ほんと、前までの自分はなんであそこまでネガティブだったのか、不思議なくらいです……まあ、まだまだデンドロビウムさんの助けなくしては自立出来ない、弱い私ですが。今後とも、よろしくお願いします!」

 

 そう述べてから、礼儀正しい綺麗なお辞儀を披露する帆奈。

 

 ぶっちゃけ、「人は変われるものね」で済まされないくらいに変わったわね。はっちゃけ帆奈を見ていたら「誰だこいつ」レベルね。

 

「……一体全体、何をしたらここまで綺麗な更紗帆奈になるのよ」

「ふむ……」

 

 ひとつ唸り、おもむろに燈湖が帆奈の正面に立って肩にポンと手を置き、

 

「愛の拳の重さ、理解出来ましたか?」

 

とニッコリ笑顔で告げると。

 

「……は、はいぃ〜〜……(がくがくがくがく)」

「帆奈!?」

 

 帆奈が笑顔のまま、全身を痙攣でも起こしているかのように震わせ始めた。

 

《なんか、トラウマスイッチ入ったみたいね……》

《燈湖達、ほんとどんな教育したのかしらね……怖いからこれ以上は聞かないけど……》

 

 ただひとつ。燈湖もデンドロビウムも、一切の容赦をせずに教育したのは理解出来た。

 

 

 

 

 そしてその日の放課後、例の葉月達の隠れ家にて。

 

「みなさんには、多大なご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ありませんでした」

 

 今回の昏倒事件に関わった(巻き込まれた含め)魔法少女全員の前で、帆奈は見本とも言える綺麗な土下座と共に改めて謝罪をした。

 

 それを見た魔法少女達の反応は、大きく分けてみっつ。

 

 ひとつはこのみさん、こころさん、エミリーちゃんと、多分毬子あやかさんと思われる人、つまりは昏倒させられ勢の反応だ。

 

「起きたら数日経っててびっくりしたけど、驚いたくらいだから!」

「だね。ご丁寧に家族にも暗示をかけてて大騒ぎにはなってなかったし」

「むしろぐっすり寝られてめっちゃスッキリお目覚めあざしたー! はなっち、また時々やってー? え、暗示捨てたらからもうムリ?」

暗示(あんじ)で眠ってたから安心(あんじん)だった! でもそれじゃあ昏倒(こんとう)してたのにコントになっちゃうね!」

 

 全員あまり気にしていないようだった。いつの間にか昏倒させられていつの間にか解決していたから、被害者である実感がないみたいね。はっちゃけ帆奈を見ていないせいもあるかしら。

 

 あやかさんのダジャレはちょっと意味不明だけど。まあ、同じく気にしてないアピールでしょ。

 

 もうひとつは、友人が昏倒させられた少女達の反応。

 

「……変われたのね」

「な、なんという美しい土下座! 心からの謝罪の波動を感じます……! ま、負けてられませんっ、ならば私は自害で!」

「なんで対抗心抱いてるのよ。というか自害しない!」

「あやかがいつも通りだから……文句はないよ」

 

 なんというか、感想の方向性がちょっと予想外な方向に行っていた。友人が目覚めた時点で、彼女達にとって「昏倒事件は終わったもの」だからかしらね。

 

 そして最後。更紗帆奈に因縁があって、一週間前対峙した少女達の反応。

 

「……驚いたわ……まるで別人ね。あの時その姿に変身していなければ、多分更紗さんとは思わないわ……」

「私の魔法も反応していません。今度こそ、本心から悔い改めたからでしょう。正直、一週間で改心までするか疑問はありましたが……よくぞここまで教育されました。依頼の完遂、誠に感謝致します」

「ふふっこちらこそ、ありがとうございます。とはいえ、感謝されるほどのことではないですよ。半分は私の我儘を押し通したようなものですから」

 

 帆奈を生かしたのも教育したのも、デンドロビウムの判断、いわば我儘だ。まだ更生の余地があると判断したからでしょうけど……それでも、昏倒させられた少女やその友人から、批判の声があがる可能性もあったのだ。みんな良い子だったからなかったけど。

 

「そういえばさ〜。なんで制服、かことお揃いなのさ?」

 

 話の区切りが付いたと見たのか、あやめちゃんが帆奈がシンビジュームの姿で神浜市立大附属の制服を着ていることへの疑問を呈した。

 

「それは、私――あたしこと更紗帆奈は「死んだことになった」からです」

「んー?? ……どゆこと?」

「ハンナさんへの罰の一環です。ある意味ご褒美でもあるんですが」

 

 帆奈とデンドロビウムが言った通り、更紗帆奈への罰の1つとして「更紗帆奈としては死んでもらう」ことになった。

 

 世界に絶望していた帆奈は、いろんなものをめちゃめちゃのぐちゃぐちゃのごちゃまぜにして、最終的には盛大に弾けて誰かの記憶に爪痕を残すような最期を迎えたかったらしい……誰にも知られずに、惨めなだけの人生で終わりたくなかったから、とかなんとか。

 

 つまりこの罰は、その願いを叶えさせない、というものだ。更紗帆奈には、望んだ派手な最期を迎えさせることなく、ひっそりと死んでもらう。もちろん、死んでもらうというのは表向き、だけど。

 

「戸籍上、「更紗帆奈は死亡した」ことになりました。代わりに私には、新たな戸籍と名前が与えられました」

 

 とはいえ、それは更紗帆奈への罰。燈湖&デンドロビウムの教育……調教?を頑張って受けて改心した元帆奈にとっては、新しい戸籍と名前、それにシンビジュームの姿まで与えられたのは、ご褒美とも言える。

 

 なぜなら。それまでのすべてを捨てて、ようやく彼女は「更紗帆奈」という呪いから抜け出せたのだから。

 

「いやいやいや! 戸籍を与えるってそんなこと……え、マジでやったの?」

「マジです♪ まあ正確には、私の親父殿のコネで、ですが」

「いやいや……あなたの親父さん、ほんとに何者……?」

「冗談の塊みたいな人ですよ。世の中、魔法少女並に普通じゃない人が何人かはいるものですから♪」

 

 葉月のツッコミに、実に楽しそうに返す燈湖、可愛い。燈湖にとっては尊敬する父親を褒められたようなものだし、それはもう嬉しいのだろう。

 

「ふむ……となると、あなたはもう更紗帆奈という名前ではないのですね。新たな戸籍と名前はなんというのですか?」

 

 ななかさんの問いに、帆奈――旧名帆奈は一度姿勢を正し、綺麗なお辞儀をしてから新たな名前を告げる。

 

「私の名前は小舟華恋(こふねかれん)。学校は制服の通り、神浜市立大附属に転校することになります。扱いとしては更紗帆奈と同じく孤児ですが、別の施設に移住することになりました。新たな住所は――「つつじの家」です」

「「「え……ええーー!?」」」

 

 ……後で聞いた話だけど。「つつじの家」は葉月達3人が魔法少女になる以前に住んでいた施設で、しかも魔法少女になるキッカケにもなった施設らしい。

 

 ちなみに、転居の手続きとかは燈湖の、というか為次郎さんの計らいによるものだけど。それを知っていて転居させたわけではなく、完全に偶然らしい。

 

「なんというか……こういうのも、因果は巡るってヤツなのかね」

「……そうかもね」




 更紗帆奈の新名は、シンビジュームの語源と花言葉から付けました。

 名字は、「シンビ」がギリシャ語で「ボート」なので、それを日本語にして「小舟」。名前は花言葉の「華やかな恋」から取って「華恋」。合体させて「小舟華恋」です。

 ちなみに「小舟」は実在する名字です。
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