魔法少女花騎士☆マギカ   作:繭浮

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増える花騎士系魔法少女1-3

「……ぅ……」

 

 魔女の結界が崩壊し景色が歪み、極度の疲労で自身の視界も歪みそうになるのを必死に耐える。まだ私のやるべき事は終わってません。

 

《ヤバいぜ、禍々しい魔力が混じってきてやがる、魔女になる寸前かもしれねぇ!》

「どこですか!?」

《後ろの茂みあたりだ!》

 

 それを聞いてしまったらなおさら止まる訳にはいきません、トウコさんの具体的指示を待たず背後の茂みに飛び込みます!

 

「おっおいあんた、今度はどうしたよ!?」

 

 キョウコさんの問いかけと悲鳴を上げる身体を無視して探ると、すぐにうつ伏せに倒れ伏し苦しげに呻く2人の少女を発見しました。

 

「ぅ……ぁぅ……」

「て……しょ……」

 

 自分から近くにいた、薄水色の長髪の娘を抱き上げてソウルジェムを探そうと視線を巡らせ――

 

「ステラさん!?」

 

――その少女の容姿が見知った花騎士のものであるのに気付き、一瞬硬直して――

 

《デンドロビウム!》

 

 トウコさんの叱咤する声にハッとなって目的を思い出す。

 

 すぐさま彼女のソウルジェムを探ると、ステラさん(仮)自身が両手で軽く包み込む様に持っていました。手の隙間から見えるソウルジェムはドス黒く、孵化寸前の卵の様に震えています。

 

 指の隙間から無理矢理グリーフシードをねじ込んでソウルジェムに当てがあう。ギリギリもギリギリ、数秒遅ければ魔女が生まれているところでした――となると。

 

「キョウコさん!」

「ああ、こっちもギリギリ間に合ったみたいだぜ」

「……ほっ」

 

 この状態を見てすぐさま状況を理解し適切に動いて下さったのでしょう、もう1人のアッシュグレーの長髪少女を片手で支え、もう片方の手でグリーフシードをソウルジェムに押し当てているのが見えます。

 

 これで一安心――とはいきませんでした。

 

「おいおい、こいつはちょいと普通じゃねえぞ! ソウルジェムの穢れが全然取れねえ……!」

「ええ、こちらもです……!」

 

 ひとつめのグリーフシードに限界まで穢れを吸わせたのに、淀みは僅かにしか取れずにすぐさま黒くなっていきます。

 

 明らかな異常事態。とはいえ今出来るのは、新しいグリーフシードに変えて穢れを吸わせ続けるしかありません。出し惜しみをしている場合ではありませんね。

 

 手持ちのグリーフシードをすべて取り出し、内3個をキョウコさんに投げ渡します。

 

「キョウコさん、これを!」

「っ! サンキュー!」

 

 

 

 

 ……そうしてステラさん(仮)のグリーフシードの穢れを取り除き続けること、約十数分。グリーフシードの残りが最後の1つになったところで、ようやく穢れの異常蓄積は収まりステラさん(仮)の呼吸も整いました。

 

 とはいえ、ソウルジェムはまだかなり黒ずんでいますが……危険域は脱したので、とりあえずその場に静かに横たわらせます。

 

「やっとかよ……ちっ、せっかくやべえ強さの魔女を倒せたってのに、これじゃあ完全に収支マイナスだな」

 

 愚痴ってはいますが、安心したような声色と表情からして、彼女に任せた魔法少女の方も穢れの異常蓄積は収まったようですね……

 

「ぅ……」

 

……安心したら、少しクラッと来てしまいました……私も精進が足りませんね。ですがまだまだやるべき事は残っています、休むのはすべて片付けてからです。

 

《その花騎士ステラに瓜二つな少女だがな。多分アタシらと同類だぜ》

《つまり、花騎士魔法少女ということですか……根拠は?》

《側に落ちてたスマホだ。電池残量が残り2%だ》

《なるほど……》

 

 スマホ世界花は花騎士魔法少女のソウルジェムにしか反応しない。そして私(正確に言えばトウコさんのですが)のスマホは、爆発寸前の完全故障状態。ステラさん(仮)のスマホで確定でしょう。

 

「とりあえず、コイツとそっちのヤツは多分知り合いだろうから、側に寝かせるぞ」

 

 キョウコさんが担当して下さっていた少女を連れてきましたが……うーん、名前はわかりませんが、どこかで見覚えがあるような……

 

《こっちは花騎士デュランタか。季節イベントでステラと一緒に海の家を手伝ってたし、両方の世界で因果が共通ならこっちでも仲良くなってても不思議じゃねえか……》

 

 呟きの意味はよくわかりませんでしたが、少なくともスプリングガーデン(むこう)でもこちらでも、この2人はお互い知り合いなようですね。

 

「あ、ちなみにそいつの近くにスマホが落ちてたから、そいつのだろうし拾っといたぜ」

 

 そう言ってキョウコさんは、拾って来たスマホをデュランタさん(仮)の手に握らせる。失礼して画面をタップすると――やはりこちらのスマホ電池残量も真っ赤で残りわずかでした。やはり彼女も花騎士魔法少女でしたか。

 

《ここに至るまでの状況がさっぱりだが……とりあえず、花騎士魔法少女じゃなかったら、それにアタシらの判断が数秒遅かったら、まず間違いなく魔女になってただろうな》

《ですね……はあ〜……間に合って本当によかったです》

 

 さて。ここでようやく一息付けましたが……早急に原因究明です。幸い?アテはあります。

 

「……そういや、穢れを限界まで吸わせてからその変に放置していたグリーフシード、見当たらねえな……?」

 

 キョウコさんがそう呟き、周辺の地面を見渡しますが、それはまあ無いでしょうね。

 

「視界の端で白いナマモノがウロチョロしていましたので、回収していたのでしょう」

 

 神出鬼没なので、どこいにても不思議ではない白い害獣ですが……ステラさん(仮)達の異常事態にもかかわらず淡々とグリーフシードの回収作業をしていた時点で、この件に関して何か知っているのは明白。

 

「今回は何を企んでいたんですか、キュゥべえ――いえ、インキュベーター」

「インキュ……?」

 

 キョウコさんが聴き慣れない呼び方に疑問の声を上げますが。それはそれとして、白ダヌキは何食わぬ顔、というかいつもの無表情で私達の間にヒョッコリ現れました。

 

「企み、と言われると悪い風に聞こえるね。ボクはボクの使命を全うしていただけだよ」

「貴方達にとっては何よりも優先すべき使命だったとしても、私達にとっては悪事です。なにせ――花騎士(フラワーナイト)に、しかも私の知人に手を出されたのですから」

 

 インキュベーターに、明確に敵意を向けます。私の剣呑な雰囲気に、キョウコさんが息を呑む音が聞こえます。

 

「単刀直入に聞きます。お二人に、何を仕込んだんですか?」

「仕込むというほどのことはしていないよ。ただ単に「不具合修正」しただけさ」

「不具合……?」

「そうだよ。本来の魔法少女のシステム的に、身体とソウルジェムとで二つの魂が同居するなんて仕様はないのさ。だから、本来あるべきプロセスを踏む様に調整したんだ。ほら、企みと言われるようなことはなにもしていないだろう?」

「明らかに異常な速度で穢れが蓄積するのをわかっていた時点で、何らかの企みや実験なのは明白でしょう。はぐらかさないで全てを話しなさい」

「ふむ。君は何が聞きたい?」

 

 わかっているでしょうに、白々しい。すぐにでもその頭部を殴り潰したいですが、聞くことを聞いてからです。

 

「二つの魂が同居しないように調整した結果が、この穢れの異常蓄積ですか?」

「まあ、そんなところだね」

 

 そう言ってから一拍置き、姿勢を正す様に私の正面に猫の様に座りなおすインキュベーター。可愛らしくも思えるしぐさが余計に苛立ちを増幅させます……妙に苛立つのは、やはり私のソウルジェムが黒ずんだままだからでしょうか。

 

「君たちカトレアやデンドロビウムのように、別の人間の魂が何の不具合もなく瞬時に別の人間の肉体に定着するなんて、本来ありえないんだ。けれど君たちは現状何の問題もなく花騎士魔法少女をやれている。なぜならそれは、君たちの魂があり得ないくらい形状が似ていたからだ」

「……」

 

 いつだかトウコさんから聞いた仮説を思い出す。私とトウコさん、女王様とカトレアさんは、並行世界の同一人物なのではないか、というものです。

 

 理由はいくつかあります。容姿が瓜二つレベルで似ているのもそうですが、やはり一番の理由は、私とトウコさん、言動こそだいぶ違いますが、根本的な考え方が物凄く似通っているからです。出会った当初のカトレアさんも、幼少期の女王様がそのままの性格で成長していたらあのような性格だったろうな、と思えるものでしたね。

 

 私の個人的意見にはなりますが。私がこの地球で生まれ育っていたなら、恐らくトウコさんそっくりな性格の人間に育っていたでしょう。そう思えるくらい、私とトウコさんの内奥は近しいと感じています。それこそ、トウコさんはもう1人の私であると言えるくらいには。

 

「その様子だと、君たちも気付いているようだね。デンドロビウムと雷電燈湖が、同一人物であると」

「……それと魔法少女システムの不具合修正に、なんの関係が?」

「君たちの時のようにただ願いを叶えたら、また君たちのように身体とソウルジェムとで魂が同時存在してしまう。それに加えて世界花の加護も発生してしまうから、なかなか魔女化してくれなくなってしまう。花騎士魔法少女が魔女化した時の感情エネルギーはかなりの量の回収が見込めるのに、長期間おあずけを食らうのは確定だ。だから、実験してみることにしたのさ」

「……どの様な実験を?」

「魂が二つに分たれなければ、即魔女化してくれるかもしれないと考えたんだ」

「――――」

 

 ……私達を完全に実験動物扱いしたことにキレそうになりましたが、なんとか抑えて続きを促します。

 

「……なぜその様な予測を?」

「いくら並行世界の同一人物とは言っても、地球とスプリングガーデンでは育ってきた環境がまるで違うよね。当然命のやり取りの経験すら、こちらのステラには全くない。そんな少女に突然、害虫との戦闘記憶――害虫と対峙することへの恐怖心、攻撃を受けた時の痛み、害虫とはいえ自身の手で命を殺した時の感覚。それらが流れ込んできたら――それだけで、一気にグリーフシードになるだけの負の感情、穢れが溜まる。そう予測したのさ」

「……他には?」

「二つに分たれようとする魂を1つにしようとしたんだ。2人分の魂が上手く混ざり合ったとしても、魂の器というものは2人分も受け入れられる様には出来ていないんだ。そうなるとキャパオーバーになって、魂は器から溢れ出す。そして、溢れて不安定になった魂が異常をきたさないわけがない」

「……つまりは今回の穢れの異常蓄積は、それが原因だと」

「そういうことだね……まったく、神浜外で実験を行なったのに、まさか今回も君に邪魔されるとはね。これも因果かな」

 

 やれやれと言った風に首を振りますが、変わらずの無表情。今回はたまたま私達が通りかかって水際で防げましたが、恐らくインキュベーターはまた似たような実験をするでしょう。

 

 別の花騎士の魂を利用して。

 

「……ギリィッ」

 

 ……怒りのあまり、つい歯軋りしてしまいました。そのことでほんの少し怒りが分散されたお陰で、まだ聞き出していないことがあるのに気付きます。

 

「このお二人……ステラさんとデュランタさん、現在は穢れの蓄積は収まっていますが、これは魂が安定したからですか?」

「多分そうだろうね」

「となると……彼女達の魂は、私達のように二つに分たれてはいない状態、ということでしょうか?」

「そうだよ。だからこの娘達も分類的には花騎士魔法少女だし、スマホ世界花の恩恵も受けられるようだけど、魂は1つ――つまりはソウルジェムが本体だ。1つの魂として安定してしまったからね」

「それはつまり――地球のステラさんとスプリングガーデンのステラさんの魂は、完全に1つになってしまった、ということですか?」

「さあ、どうだろうね? こればかりは、起きた彼女達に直接聞くか、ボクが直接彼女達のソウルジェムに触れて干渉してみないと――」

「――これ以上彼女達に触れてみなさい。潰しますよ?」

 

 さすがに怒りも限界です。肉体も精神も悲鳴をあげるくらいに疲弊していますが、一撃放つくらいは――

 

 ザシュ!!

 

「!!」

 

 拳を放つより先に、槍がインキュベーターの顔面を貫きます。当然、その槍はキョウコさんのものです。

 

「デンドロビウムに遠慮して、しばらく黙って聞いてたけどよ……わりぃ、もう限界だわ」

 

 そう呟き突き刺した槍を引き抜くと、今度は五月雨突きを繰り出しインキュベーターを滅多刺しにします。

 

「魔法少女を魔女にしてエネルギー回収だと? 即魔女化させる実験だと!?」

 

 そう言ってから攻撃を止め、激昂。

 

 

「ふっざけんじゃねえ!! あたしたちは人間だ!! お前らの都合の良い発電機なんかじゃねえ!!」

 

 

 ビリビリと空間が震えるほどの声量。ステラさん達にした所業に関してもでしょうが、自身の――魔法少女の末路を今まで黙っていた事への怒りもあり、大爆発したのでしょう。

 

「宇宙の延命に、ただの人間の少女が役に立てるというのに、どうして感情を爆発なんてさせるんだい? やっぱり人間は理解出来ないや」

「んな!?」

 

 背後から、インキュベーターの声。初見はやはり驚きますよね。

 

「見ての通り、キュゥべえは群体のような存在です。1匹潰したところで一時的に気が晴れるくらいにしか役に立ちませんよ」

 

 キョウコさんが怒りを爆発させて下さったお陰で、私は冷静になれました。

 

「ボクらをストレス発散の道具扱いは酷いなあ」

「出てきて早々なんですが、実は私も今殴り潰そうとしていたんですよ」

 

 ですがまあ、怒りが収まった訳では全然ないんですが。

 

「さすがにこれ以上の消費は避けたいね。それじゃ今日はこれで失礼するよ」

 

 そう言い残して、闇に消えていくキュゥべえ。

 

「あってめ!」

「ですから、1匹2匹潰してもストレス発散以外に役に立ちませんよ。それよりあれだけ騒ぎましたし、そろそろステラさん達も起き――」

「ぅ……うぅん……」

 

 ……茂みから呻き声。そう、すぐ側に横たえているステラさん達の声ではなく、茂みからです。

 

「魔力反応は感じなかったから、魔法少女じゃねえな……魔女の口づけの被害者とかじゃね?」

「そういえば、そういうのもありましたね……頭から外れていました」

 

 キョウコさんが知らないとなると――ステラさんとデュランタさんが魔法少女の契約をするキッカケとなった人物、あたりかも知れませんね。

 

「あれ〜……なんでわたし、こんなとこで寝て〜……」

 

 上半身を上げ、寝ぼけ眼で後ろ頭をさする、若干ぽっちゃり気味の少女……女性、と言った方が良いでしょうか。成人しているかいないか微妙な年齢の容姿の方でした。大学生くらいでしょうかね。

 

《確かに魔力反応はないから魔法少女じゃあねえんだろうが。あれは……》

《……トウコさん?》

 

 トウコさんの反応が妙です。驚いているというか、戸惑っているというか……

 

《まさかの知り合いですか?》

《アタシの知り合いじゃあねえ……けど、見た目は知ってる。あー……彼女が魔女の口づけ受けてたら、そりゃあデュランタなら魔法少女になるわ。あの白ダヌキ、そこまで計算してやがったのか……?》

《……まさか、彼女は》

《ああ。あの女性、花騎士デュランタの親友――花騎士テンナンショウに瓜二つだぜ》




 キュゥべえがしていた実験に関しては、「花騎士の新たな戦場、神浜市 閑話1-2」を参照していただけると、より分かり易いかと思います。
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