その後そのまま雷電家で昼食をいただいた。
ちなみに今日のお昼は、為次郎さんが伝手で軽トラ屋台を借りて来てのドネルケバブを振る舞ってくれた。
「上等な羊肉が手に入ったんでな。せっかく燈湖の友人が集まるんだ、趣向を凝らしたもんを食わせてやりたいからな」
らしい。戦闘狂な人だけど、なんだかんだ家族想いの良い人だ。
「ラム、いやマトンだっけ? まぁどっちでも良いけど、羊肉なんて初めて食べたぜ。ちょいとクセがある感じだけど、メチャクチャうまいな!」
「確かに独特のクセがありますけど、香辛料のおかげかあまり気になりませんね。むしろこのクセがアクセントになってるというか」
「こだわって作ってるからな。食うなら1番旨いと思う食い方しないとな。それが命喰らう者の責任、調理する者の義務ってもんだ」
為次郎さんの食へのこだわり通り、雷電家の料理はいつもどんな料理でもとても美味しい。なんでつい食べ過ぎちゃうから、お呼ばれしてもたまにしかご相伴に預からなかったりする。だってほんと美味しいんだもの。
一度に大量に作るのも食べ過ぎちゃう理由ね。まあ嘘みたいな量でも最終的には燈湖と為次郎さんの胃の中に消えちゃうんだけど……スゴいわね、人体。
「はあ〜〜……食ったぁ〜〜……」
「で、ですね……うぅ、私、しばらくもう何も入らないです……」
「美味し過ぎるものね、仕方ないわ」
幸腹のため息をつく杏子と、食べ過ぎてちょっと苦しそうな華恋を横目に、食後のミルクティーを楽しむ。私もいつもよりはいっぱい食べたけど、流石に加減はわきまえてる。慣れてるとも言う。
《にしても、美味しかったわね羊……という訳で、そろそろそのミルクティーも味わわせなさいよ》
「はいはい」
食事は基本、まず女王様が先に少し食べて私と魂交代して、を繰り返して取っている。最初こそ若干面倒臭かったけど、慣れたものよねー。
▲ ▽
はらはらー舞いー散るー夢の中ーでー♪
「あら、この着信音という事は……」
食休みでまったりしてるところに、トウコのスマホの着信音楽が流れた。美味しいお昼を食べてだいぶ精神回復したようだけど、一応今日いっぱいはデンドロビウムがメイン魂だから、デンドロビウムが対応するのだろう。
「噂をすればなんとやら、ですね」
「うん? 何が?」
「この着信音を設定してあるスマホ、デュランタさんとステラさんにしかアドレス教えていないんです」
「ああ、そういうこと」
どうやら、デュランタかステラ……もとい?ハリマ・リツかチノ・ステラのどちらかからの電話、という事ね。確かに噂をすれば、って感じね。
「もしもし、デンドロビウムです……ふふ、構いませんよ、休憩中でしたから。あ、今は一緒にカトレアもいますよ。はい、以前お話しした……」
デュランタとは直接の知り合いじゃなかったらしいから、相手はステラかしらね。
そうして数分会話をするのを眺めながらミルクティーを堪能する。んー、平和ねー。
「……女王様、今日は何時まで滞在する予定ですか?」
再びマッタリモードに入っていたら、デンドロビウムからそう聞かれた。
スマホはまだ通話中。ということは……
「ステラがここに訪ねてくるの? 今日は別に外せない用事はないし……まあ、深夜になる前には帰るわ」
「カレンさんは?」
「私は、門限の19時前までなら……」
「ふむ」
一瞬考え込み、ステラとの会話を再開するけど、数分で切る。
「デュランタさんとステラさんが、是非私達に挨拶したいからと、これから雷電家に来るようです。予定時刻は15時くらいです」
「15時? 風見野って結構離れてるし、間に合うの?」
「ああ、それもまだ言ってませんでしたか。デュランタさんとステラさん、お二人とも神浜在住ですよ。南凪自由学園中等部一年生で、お住まいも南凪区だそうです」
《南凪ね……傭兵の依頼で一度行ったくらいで、ほとんど行ったことなかったわね。遊園地に行く趣味もないし》
「なるほど、それは出会わない訳よね」
「ちなみに何故風見野で出会ったかといいますと、テンナンショウさんが風見野の音楽大学に通っているそうで。在学中は学生寮にお住まいなようで、時折遊びに行っているそうです」
《あーそっか、神浜には音大ないものね》
そんなわけで。今日はついに、私達以外の花騎士魔法少女に出会う事になった。まあ私はデュランタもステラも向こうで面識ないんだけどね。
「本日は急な訪問を受け入れていただき、とっても感謝です! 花騎士ステラこと日本名千野星です!」
「はじめまして……花騎士デュランタと針麿りつが合体して誕生した魔法少女だよ。これからよろしく……」
15時ちょうど。デュランタとステラが雷電家へ訪ねてきた……なんかデュランタがクーラーボックスを持っているのが気になるけど、挨拶自体は普通……普通、かしら?
「カトレアよ。今は花騎士カトレアがメイン魂状態よ……話には聞いてるけど、あなた達2人は魂がひとつ、なのよね」
「あ、はい。えーとですね……日本の
「うん、だからソウルジェムが本体……つまり、2人はソウルジェムが砕けても花騎士の人格は残るらしいけど、ボク達は砕かれたら、普通の魔法少女と同じく死んじゃうと思う」
いきなりキツめの話題をサラッとぶっ込んで来たわね……なるほど確かに、デュランタは独特のマイペースさがあるわね。
「と言う訳で……」
「……ん」
デュランタとステラが一度顔を見合わせ、確認するようにひとつ頷いてからデンドロビウムに向き直り、
「「命の危機を救って下さって、本当にありがとうございました」!」
揃って深々とお辞儀をして、感謝の意を表明した。
「ふふ、謹んでお受けします。その感謝の気持ちを忘れないように。それはそれとして――」
デンドロビウムは、感謝は素直に受け止めつつ、
「――年端も行かぬ子供を巧みに騙して貶めようとしたモノが1番悪いんです。だから自責の念に駆られる必要はありませんからね。キュゥべえはまだ、一番重大な事実を話していませんしね」
「えぇ……まだ何かあるんですかぁ……?」
「うーん……戦い過ぎると味覚障害が起きるとかだと、とても困る……」
すべてはキュゥべえの悪意だと断じて、2人に責任はあんまりないことを強調した。やっぱりデンドロビウムは教育者よね。
話の続きはお茶でも飲みながら、ということで、私が2人をリビングへ案内する。
「よう、久しぶり。て言っても二週間程度だけど」
「ああ、確か佐倉杏子さん! ご無沙汰してます、そしてその節は助けていただいて、ありがとうございました!」
「ショウちゃんの分も含めて……ありがとう」
「たまたま居合わせてたまたま助ける手段があっただけさ。デンドロビウム相手ならともかく、あたしにそんな畏まる必要はないよ」
本当になんでもない事のように言うけど、実際キョウコがいなかったら、少なくともデュランタは魔女化してたわよね……2人の様子からして、魔女化についてはまだ知らなさそうだから、この後デンドロビウムは知りうる限りの魔法少女情報を2人に話すのだろう。
「は、初めまして……デンドロビウムさんの弟子こと、小舟華恋ですー……」
「あっはい、初めましてステラです……あれ、どこかの騎士団で見たことあるような……」
「この苦しみ方……食べ過ぎだね。ぷにぷにを目指すのは実に良い、けど無理はいけない……健康的にぷにぷにを目指そ?」
「え、あっはい……いやいや、別にぷにぷには目指してませんよ?」
「そうなの? それは残念……」
カレンはまだ苦しそうにソファに身体を預けつつ挨拶を交わす。2人はどうやら、シンビジュームとは直接の面識はなさそうね。
《ちょっと気になってたんだけど。2人の魂は混ざり合っててどっちの世界の記憶もあるらしいじゃない? ステラは同じだから良いとして、デュラ……針麿りつさんは、どう呼べば良いかしら?》
2人がソファの空いている場所に仲良く並んで座ると同時、カトレアがそんな事を聞いてきた。
「んー、呼び方……どっちもボクの名前って認識だから、呼びやすい方でいいよ。デュランタでも針麿りつでも、ご自由にどうぞ」
《むう、そう来るかぁ……正直花騎士ユーザーとしてはデュランタって呼びたいんだけど、日本人としての記憶があるならやっぱり、日本名を呼んだ方が……》
何やらつまらないことで悩み出したので、私は私で気になっていた事を聞いときましょ。
「ところで、そのクーラーボックスは何が入ってるのかしら? 今開けないってことは、ケーキ類とかの手土産じゃなさそうだけれど」
「うぷ……け、ケーキはまだ、入らない……」
呻くカレンは無視する。
「……手土産って意味なら合ってる。入ってるのは材料だけど……」
「材料……食材?」
「そう……お礼も兼ねて、得意料理を作ろうかなって」
「あー、なるほどね」
デンドロビウムが帰る時間を聞いてきたのはそれね。要するに、デュランタが夕飯を作りに来てくれるから食べていきますか、と。
「りつさん特製甘口カレーですね! ボクも大好きで、時々お裾分けしてもらうんです!」
「杏子さんもいたのは好都合……お礼、したかったから。たくさん作る予定だから、是非食べて」
「へえ、甘口ねぇ。カレーっていうと辛い印象が強いけど、敢えて甘口を強調するってことは、相当腕に自信がありそうだね」
「それはもちろん、なければ食材を持ってこない。ショウちゃんのぷにぷにはボクが育てた、今はステラぷにぷに化を計画中……ステラは、あんまり順調ではないけど」
「……ぷにぷにへの執念が凄いですね」
「あはは……りつさんの作る料理はどれも美味しいんですけど、一見ヘルシーな味付けなヤツでも、だいたいカロリー爆弾系なんですよねー……」
「ふふふ……みんなぷにぷにになあれ……」
……ほんとに独特な個性の持ち主が来たわね。今までに会ったことない系だわ。
「お待たせしました。ふふ、もうすっかり打ち解けているようですね」
デンドロビウムがお茶を持って戻って来た。
各人の前にお茶を置き終わると、デンドロビウムも静かに着席し、しばし無言で佇む。ここまで楽しい雑談だったけど、しばらくシリアスな会話になるから間を置いて空気を変えたのだろう。
「さて――お勉強の時間です。まずは――ソウルジェムが限界以上に濁ったらどうなるか、です」
「そんなのってないですっあんまりですっ! 希望の象徴の魔法少女の行き着く先が、絶望を振り撒く存在になり果てるだなんて……! それじゃあまるで、害虫化じゃないですか!!」
「キュゥべえ……許せない」
……案の定、デュランタとステラはソウルジェムが濁るくらいに憤慨した。
「でもまあ、切り替えていこう……キュゥべえが害虫毒みたいなものだとすると、現状対処法がない。気にし過ぎたら穢れが溜まって、相手の思う壺……」
「そ、それもそうですね……スマホ世界花とか、良い情報もありましたし! りつさんの言う通り、切り替えて行きましょう!」
《相手をぷにぷににしたがる以外は、やっぱりデュランタは冷静で頼りになるわね》
「2人が前向きな性格なようでなによりよ。はい、グリーフシード」
「え? あ、思ったより濁っちゃってますね……ありがとうございます!」
「……ありがと。女王様も良い人」
私が差し出すと、感謝を述べて受け取り順にソウルジェムを浄化する。
「さて、現状私達が得ている情報は大体話し終えましたが。何か質問はありますか?」
「あっあの! 質問と言いますか、提案なんですけど!」
ステラが若干緊張気味にしゅびっと手を挙げる、
「の前に、ボクからの提案を先にお願い」
のに続けてデュランタが手を挙げてステラを見つめると、ステラはゆっくりと手を下ろす。
「はい、りつさん」
「そろそろ良い時間……料理を始めたい。ステラの提案は、食事の後にしよう」
……予想外の提案に、皆の気が抜けるのを感じた。まあ、がっつりシリアスな話をしたし、ガス抜きは必要よね。
お夕飯のデュランタ特製「甘口カレーとサラダのセット」は、名前の通り結構な甘口だったけどスパイシーなカレーにはない独特の味わいがあって、おかわりをするくらい美味しかった。
ちなみに正式名称は、「ギリギリ太るカレーセット」らしい。デュランタのぷにぷにへの飽くなき執念を感じた。