「せいっ! カトレアっそちらに飛ばしました!」
「飛んで火に入る夏の虫ねっ! 害虫じゃないけどっ!」
燈湖が殴り飛ばした巨大な羊のような魔女がこちらに飛ばされて来たので火炎弾の連射を浴びせかけ無理矢理急停止させ、包まれた炎を消そうとするかのようにその場で暴れまくる、
「ふっ!」
ゴッ!!
そこにすかさず燈湖の震脚、魔女がよろめき転倒したところに、
「破っ!」
ドゴンッ!!
飛び上がっての「華砕拳」をマトモに受けて潰され消滅し、グリーフシードを落とす羊の魔女。
「うん……息のあった連携……とても良い」
「さすが、デンドロビウムさんとカトレアさんです!」
それを離れた位置で見学していたデュランタとステラが賞賛してくれる。
ちなみに、丁寧口調でデンドロビウムと呼ばれているけど、今のメインは燈湖、私は女王様でなくて加戸希愛だ。
最近の魔女戦は、魔女から感じた魔力の強さに応じて私が対応するか女王様がメイン魂で戦うかを変えているのだ。燈湖の方も余程強力な魔女でない限り、基本燈湖がメインだ。
というか、デンドロビウムと女王様両方がメイン魂じゃないと対応出来ない強さって、ベテラン魔法少女でも危険なレベルだ。害虫で言うなら極限級、らしい。
さて、今は何をしているのかというと。一応、傭兵業中だ。
「とまあこのような感じです。勿論相手の強さや行動などによって思い通りにいくとは限りませんが、上手く連携出来ればより危なげなく魔女を倒せるようになるはずです。それにはまず、自分の得意分野を正確に把握し生かす事と、仲間の能力とどう組み合わせ生かすかが重要です」
「「はーい!」」「は、はいっ……!」
なので燈湖もデンドロビウム口調なわけだけど……何故か、初心者魔法少女の講習みたいなこともしている。なんだかんだ言って燈湖って人に教えるの好きなのよね。
依頼内容は「グリーフシード一個落とすまで狩り続ける」で、この魔女で2体目だ。運は良くもなく悪くもなくって感じね。
ちなみに一体目も羊の魔女だった。燈湖が「華砕拳・零式」で打ち上げたところにスーパーノヴァを当ててあっさり倒せた。
ていうか、昨日傭兵業外で見つけたのも羊の魔女だったし、この間羊肉料理を食べてからなんかよく遭遇する気がする……ま、まあ偶然よね。
数秒して景色が歪み結界が消滅したところで、悠々と歩いていきグリーフシードを拾う。
「依頼完了。また歯応えのない魔女だったわね」
「ありがとーございましたー!」
「いやあ〜相変わらず、調整屋さんの宣伝に違わずな実力ですよねっ!」
「うん……凄い強い、です……!」
「ふふ、ありがとうございます」
「ま、世界に愛されてる私の実力は、まだまだこんなものじゃないけど」
3人が近寄ってきて、感謝と賞賛を送ってくれる。ふふ、いい気分。
ちなみに今日の依頼者の3人は、昏倒事件解決に集まったメンバーにいた、十七夜さんに連れられて来ていた大東団地の仲良しトリオだ。
名前は……フワフワな緑茶色の髪をツインにしている弓持ちの娘が、相野みとちゃん。3人の中ではムードメーカー的な位置ね。この娘ブロッサムの常連さんだから前から知ってたけど、まさか魔法少女になってるとはね。
桃色ロングの踊り子を思わせる際どい魔法少女衣装で、戦闘でも両手に異なる形状の武器を持って舞うように戦う、伊吹れいらちゃん。3人のまとめ役な立ち位置のしっかり者ね。
水色ロングを左サイドポニーに纏めた鞭持ちの娘が、桑水せいかちゃん。出会った当初からなんか怖い顔で睨んでくる警戒心の強い娘……と思ったら緊張しいで強張っていただけらしい。今はわりと……まあ、まだまだ強張った顔の時の方が多いけど、口数は増えたので私達には慣れて来たのだろう。
3人についてずいぶん詳しいけれど、団地組は傭兵の常連だったりする。
なんでも3人は魔法少女になりたての初心者らしく、使い魔戦はともかく魔女戦の勝率は低いらしい。ので、ただ単に傭兵として雇っているのではなく、私達から戦闘のいろはを学ぶ目的もあるらしい。燈湖も楽しそうに戦闘指導してるし、何気にお互いwin-winなんでしょうね。
さて、
「私の固有魔法って、バァーって光るだけなんで、直接戦闘に貢献し辛いんですよねー。目潰しレベルで光らせると凄い疲れちゃいますし。その点せいかさんの魔法は水こそ必要ですけどテレポートが出来るなんて、凄いしカッコイイです!」
「そ、そう、かな……? あ、ありがとう……」
「だよねー! だから3人の武器を考えると、私が遠距離、れいらが近距離、せいかが中距離時々水のテレポートで不意打ち近距離とか、いい感じじゃない?」
「悪くないけど、もう一工夫欲しいよね」
ステラは親しげに3人と雑談している。結構コミュ力高いわねこの娘。でも趣味は引きこもってゴロゴロダラダラする事らしい。
「…………」
そして、それをぼーっと眺めているデュランタこと針麿りつ。
話を振られない限り彼女は基本無口で、何を考えているかわかり辛いけど……花騎士をプレイしてるから私は知っている。こういう時彼女が考えていることは、だいたい夕飯の献立とか高カロリー料理のレシピについてだ。
なんで2人が一緒しているのかだけど、別に2人から傭兵の依頼を受けた訳じゃない。数日前の初顔合わせの夕食後の、ステラの提案だ。
☆
「りつさんと2人で話し合って決めたんですけど……出来ればボク達を、チームフラワーナイトのメンバーに入れさせて下さい!」
「……お願いします」
「私達チームフラワーナイトが、傭兵チームだというのは、すでにご存知ですよね」
「はい、同じ学校の魔法少女な先輩から聞きました!」
同じ学校の先輩、というと……南凪だから都ひなのさんでしょうね。
「つまり、傭兵をしたい、お金を稼ぎたいという理由でかまいませんか?」
「もちろんそれもありますけど……やっぱり同じ花騎士魔法少女同士、一緒なチームがいいじゃないですか」
「うん……花騎士の記憶がある者同士、上手くやれると思う……」
「ふむ……デュランタさんはともかく。ステラさんは、本当にそれだけですか?」
ステラの言動から何かを察したのか、理由をさらに深く聞いてくるデンドロビウム。
「あはは、やっぱりデンドロビウムさんに隠し事は出来ませんねぇ」
苦笑いを浮かべてから、もうひとつの理由を話してくれるステラ。
「花騎士魔法少女になってから、りつさんは花騎士の時に得た料理の知識も増えたらしくてですね……りつさんのカロリー責めが最近特に激しいんです!」
「は?」
「りつさんの料理は美味しいからお裾分けされたらやっぱり一度で食べ切っちゃいますし、それでゴロゴロしたらぷにぷにまっしぐらなんですー!」
「普通に運動すれば?」
「一応魔女退治に行ったり、もう一つの趣味のバッティングセンターには変わらず定期的に通ってますけど、それでも追いつかないといいますか……」
《ああ、一応ゴロゴロしてても太らないよう運動系の趣味も前からあるのね》
「傭兵業ならお金も入りますし、魔女と戦える機会も必然的に増えてカロリー消費も増えるかなーと。欲しいゴロゴロアイテムにも手が届くようになるかもですし、スマホ世界花のことも考えると色々揃えたいですし……」
「……料理研究用の費用も、もっと欲しいし……」
ふむ。一応、私腹を肥したいだけではない、と。
「ほんと、末席に名前を置かせていただけるだけでも構いませんので! ご検討いただけないでしょうか!!」
「……お願いします」
☆
……ということがあり、今は傭兵見習いとして同行している形なのだ。
なんにしても、花騎士魔法少女が増えたのは私的には嬉しいから問題ないので即採用したのだけど。燈湖的には別の算段あるらしい。
「アタシらは高校生で、アイツらは中学生だ。一応指名制だからな、年齢が近いヤツを雇いたいって顧客もいるだろう。入団を断る理由はねえな」
2人が正式に傭兵メンバーになったら、依頼人が中学生なら依頼する気軽さは断然上だろう。現に目の前で中学生同士フィーリングが合うのか話が弾んでいるし、燈湖の読みは当たっていたようね。
勿論既に実力が知れ渡っている私達の方が安心できるとして、依頼がなくなったりはしないだろう……とまあ、燈湖の思惑はそんな感じ。強かよねえ。
ちなみに、2人の呼び方だけど。「ステラ」はまあ、どっちの世界でもステラだから変わらずステラ呼び。
で、問題のもう1人だけど……やはり日本人としての記憶もあるのだから、普段は「りつ」、傭兵業中は傭兵ネームとして「デュランタ」と呼ぶことになった。やっぱり花騎士ユーザーとしてはデュランタ呼びしたい。
「さて、雑談しているところ申し訳ありませんが。ご依頼通りグリーフシードを落としましたし、仕事としては一応終了なのですが……この後お時間ありますか?」
仲良くわいわいしている5人に、燈湖が語りかける。
「え? それはまあ、2戦共瞬殺されてましたし、時間は余裕で余ってますよ! 特別予定もないですし……ないよね、2人とも?」
「特にないでーす!」
「お、同じく大丈夫です、けど……一体何を……?」
「それは良かったです」
満足そうにひとつ頷き、デュランタとステラを手招きする。2人が近寄って来たところで、今日のもうひとつの仕事の始まりだ。
まあ、仕事っていうか、
「お時間が許すようでしたら、今から新人のお二人、デュランタさんとステラさんに、あなた達を連れて魔女退治をして頂きたいんです」
新人研修的なヤツを行うのだけど。
「内容は、デュランタさんとステラさんについて行くだけ。攻撃は彼女達のみ、守護も基本彼女達のみで対応してもらいます。要するに先程まで私達がしていた傭兵業務と同じ内容ですね。あなた達は最低限、自分の身が危ないと感じた時だけ動いて下さい」
「えっと……それって傭兵のお仕事ですよね。追加料金発生したりとかは……」
まあ、当然気になるわよね。まだ中学生で割安で依頼出来るとはいえ、お小遣いから自腹で払ってるのだろうし。
「ふふ、ご安心下さい。新人研修のようなものなので、特別サービスです。料金は取りませんし、落としたグリーフシードもお付き合い頂いたお礼に差し上げます」
「なるほどー」
納得顔でそう言いつつ、実際にデュランタとステラが戦闘しているところを見ていないから、引き受けるかどうか迷っている、てとこかしら。
まあ仕方ないわね。自分達と同じく2人は魔法少女として新人、傭兵としても新人未満だし、タダと言われても魔女結界に入る以上命の危険は伴うのだし。さらには一学年下、即決出来なくて当然よね。
「ご安心下さい。お二人は傭兵としては確かに新人ですが、戦闘経験は並の魔法少女以上です。要するに3人には、新入りの2人の実力が確かなものであると体感して知っていただきたいのです。つまりは宣伝役、ですね」
「ほえー、デンドロビウムさんがそこまで推すってことは、2人ともとっても強いんですねー!」
「お願い出来ませんでしょうか?」
「えっと、ど、どうしたらいいかな……?」
「うーん、デンドロビウムさん達が推してるって時点で信頼していいと思うけど。私の勘的にも、2人は相当強いと思う!」
「おー、れいらの勘は鋭いからね! なら決まりだね!」
「うん……というわけでその依頼、受けさせていただきます……!」
3人でしっかり話し合った結果、無事研修に付き合ってくれる事になった。
「というわけですので、デュランタさん、ステラさん」
「はい!」
「……はい」
「くれぐれも恥をかかないように、しっかり護衛と魔女討伐を成し遂げて下さい」
ニッコリ笑顔と共に、2人に軽く威圧を放つ燈湖。
「お、おぉう、なんかプレッシャーが……が、頑張ります!」
「ん……ステラ、大丈夫。いつも通りやれば問題ないよ……」
それでステラは若干緊張しちゃったみたいだけど、デュランタは変わらず冷静だ。ふむ、なかなか相性の良いコンビかもね。
というわけで。デュランタとステラの傭兵新人研修が開始した。まあ花騎士での2人の実力は十分知ってるし、十中八九合格してくれるでしょ。