女王様のセリフで何かのフラグが立ったかもとしばらく警戒していたけれど、ここ一週間は何事もない日常生活を送れた。まあ、たまにちょっと強めの魔女倒したりしてるので正確にはまったく何事もないとは言えないのだけど。大きな事件の前兆らしきものとは明らかに無関係、フラグとは何の関係もないからノーカンよ。
ちなみに、あの極限級上位レベルのを倒して以降、羊の魔女との遭遇率は明らかに減った。本当に羊の呪いだったのかは不明だけど、同じ魔女ばかりだと飽きるから減って何より。
それと、あの日ブロッサムで花騎士ポーチュラカ……に瓜二つの一般少女を見かけた件をその日の内に燈湖に電話で報告したら、
「次に見かけたら、何としてでも引き止めて花騎士関連の話を聞いといてくれ」
と頼まれた。多分、次にキュゥべえの実験対象として狙われる可能性が高いからでしょうね。
私でも気付いたのだし、燈湖も気付いてるはず。キュゥべえが標的にする花騎士系少女の共通点。
まず第一に。現状判明している、これまで花騎士魔法少女になった少女はすべて、花騎士を真剣に楽しんでいたプレイヤーだ。恐らくそれが、花騎士魔法少女になる確率が上昇する条件なのだろう、と私も燈湖も考えている。
あの時すれ違ったポーチュラカ似の娘は、私を見てなんの反応も示さなかった。ただ単に急いでいて私の顔を見ていなくて気付かなかった、という線もあるけど……とにかく、彼女が花騎士プレイヤーかどうかが現状わからない。だから燈湖は、見つけたら花騎士の話をしろと言ったんでしょうね。
第二に、レアリティだ。花騎士テンナンショウ……と同一存在の、天南 星さんは、キュゥべえの勧誘を受けていないらしい。まあ、魔法少女にする適齢期を過ぎかけてる大学生だから、というのもあるかもだけど……多分理由はそこだけじゃなくて、花騎士としての初期レアリティが☆5、しかもイベント報酬キャラだからだろう。
花騎士魔法少女(エノテラ含む)は、初登場レアリティがいずれも最高レアの虹、☆6花騎士だ。つまり、キュゥべえが主にターゲットにしているのは、初登場時に☆6で実装された花騎士と同一存在で、花騎士をしっかりとプレイしている娘、だと思われる。
これらが予想通りなら、花騎士をプレイしていない上に花騎士ではイベ金な天南 星さんがスルーされている理由に納得がいく。
魔法少女の強さの素質は、因果の量に左右されるらしい。
☆6キャラは最高レアなだけあって、ゲームのストーリー上で割と強者扱いで大活躍する傾向が高い、つまりは実際のスプリングガーデンでも有名人になっている傾向が高い。並行世界の同一人物と因果が繋がっているなら、☆6花騎士と同一人物の因果の量、つまりは魔法少女としての素質は高くなる確率がかなり高い。キュゥべえが狙うのも当然ね。
花騎士ポーチュラカは☆6花騎士だ。高確率でキュゥべえが勧誘しに行く。だから出来れば魔法少女になるのを阻止、もしくは花騎士魔法少女にならないよう注意してあげたい、のだけど。
《とはいえ。魔法少女じゃない、素質があるかもわからない娘を探し出すなんて、現実的じゃないのよね……》
「よね。あの時のあの娘が私服じゃなくて制服着てたら、学校から割り出すって手段が使えたんだけど」
……まあ、そんなまだ見ぬ未来を危惧するより、目の前の問題に目を向けないと、なのよね。
「がるるるるる……」
「ふっ」
金髪ツインテールで低身長の少女が威嚇する野犬のような唸り声を上げて燈湖を睨み、対する燈湖は腕を組んで挑戦的に微笑んでいる。この睨み合いが何故か数分続いてるから、暇でついポーチュラカ似の娘の事を考えてしまっていた。
事の発端は、週末土曜に傭兵の仕事をしにチームフラワーナイトのメンバー4人で調整屋を訪ねた時の事。基本依頼が入ったら燈湖の仕事用スマホにメールが入るのだけど、依頼人を連れ歩く関係上一度どこかに集合する必要があり、その集合場所を調整屋が提供してくれているのだ。
で。調整屋で待っていたのは、みたまさんは当然として、今回の依頼者の魔法少女、そして今回はもう1人――
「オレは深月フェリシア! お前らが最強の傭兵チーム、フラワーナインか!?」
「……フェリシアちゃんっナイトだよ、ナイト」
――この神浜で少し前から個人で傭兵を語って活動している魔法少女だった。ていうか微妙な間違い方しないで欲しいわ。
「なんか野球チームみたいねぇ。せっかくだから9人集めてみる?」
「んー、さすがに9人も花騎士系魔法少女が集まる気がしないですし、そもそも集まって欲しくないです」
「……キュゥべえが花騎士の魂で悪巧みしてるのに、その冗談はちょっと笑えないかな……」
「……それもそうね、ごめんなさい」
自身の何気ない軽口に、デュランタとステラから予想外の批判をされて素直に謝るみたまさん。
冗談を言うにしてもチョイスがマズかったわね。2人としてはフェリシアちゃんのかみつきより、次の被害者候補――ポーチュラカ似の娘のことが気がかりでしょうしね。
「お、おう、そうかナイトか。お前らがチームフラワーナイトか!?」
かこちゃんにそう指摘され、言い直して再び問いかけるフェリシアちゃん……オレっ娘かあ。あきらちゃんとかりつとかステラとか、ボクっ娘の友人は複数人いるけど、一人称オレは何気に初遭遇ね。
「……何やら御立腹なようですが。私達に何か御用でしょうか?」
すでに依頼者の前なので、燈湖は傭兵モード(デンドロビウムモードともいう)で対応する。
「お前らがいるから、オレに仕事がほとんど来ねぇんだよ! だからオレと勝負しろ!」
前半はまあわかったけど、後半は意味がわからない。
「えっとぉ……なんで勝負なんでしょう?」
「そりゃあ当然、お前らの誰か1人にでも勝てたら、オレの方が強いってことだ! そうすれば、強いオレへの依頼も増える!」
ステラの呟きへの答えは、随分と幼稚なものだった。中央学園の制服着てるし、多分ステラと同い年くらいでしょうけど……
《ふーん……お子様ねぇ》
……女王様がチーム間念話で、フェリシアちゃんの第一印象への感想を呟く。思考も言動も短絡的な男子小学生のように子供っぽいし、完全に同意だ。
「ふむ。つまりは私に「喧嘩を売っている」、と」
「おうっケンカだ! ケンカで決着付けようぜ!」
あっ。燈湖のモットー、「売られた喧嘩は全部買う」に触れちゃったわね……ご愁傷様、フェリシアちゃん。
「フ、フェリシアちゃん、喧嘩は良くないよ……! 同じ魔法少女、同じ傭兵同士なんだし……というか燈湖さんは喧嘩売っちゃいけない系の――」
「オレは! オレ自身が魔女を倒したいんだよ! オレがやらなきゃ意味ねえんだ……!」
友達であろうかこちゃんの静止にも耳を貸さないフェリシアちゃん。
んー……事情はわからないけど、魔女に向ける憎悪が凄いわね。その辺りが、フェリシアちゃんが魔法少女になったキッカケかしら。
というか、別にかこちゃんはフェリシアちゃんの付き添いで来た訳じゃないのよね。
「ふぅ……彼女は相変わらずですね。まるで成長していません」
ため息とともにそう呟くのはななかさん。そう、かこちゃんはななかさんの方の付き添いで来たのだ。
というか、ななかさんこそが今回の依頼者なのよね。
今回の依頼は少し特殊だ。緊急の依頼だし、知っている魔法少女の中でも強者に位置するななかさんから、という時点で通常とは違う。
なんでも、昨日の夕刻にななかさんとかこちゃんとで魔女の結界を発見、交戦したらしいのだけど。神浜で見かけたことのない、恐らくは神浜外から流れてきた強力な魔女で、その上魔女の結界内の足場が悪くかなり戦い辛く、さらには魔女の攻撃が遠距離攻撃主体と、近・中距離攻撃が主体の2人にとって相性最悪だったため、あえなく撤退したらしい。恐らくななか組フルメンバーでも苦戦しただろう、とのこと。
交戦したから魔女の強さは把握済みらしく、新人魔法少女や弱い魔法少女が遭遇する前に速やかに排除したい、ということで、私達に緊急任務として依頼したらしい。
ちなみにあきらちゃんは、飛蝗討伐を成し遂げたこともあってか、最近は相談所の助手として呼ばれることが多くてその日は一緒していなかったらしい。
美雨さんも同じく、悲願の飛蝗討伐が終わったため、しばらくは「
「いいじゃないですか、ケンカ。魔法少女はソウルジェムさえ無事なら割とどうとでもなります。短期に沢山戦って強くなる、という少年漫画的強化方法が使えますし、エノテラ的にはアリアリです」
ちなみにエノテラもいる。というか、実はエノテラ、神浜に滞在中は調整屋、というかみたまさんが調整屋として(勝手に)使っている神浜ミレナ座に寝泊まりしているらしい。
滞在する条件として、みたまさんが学校に行っている、つまりは調整屋を閉じている間の店内の掃除と、たまに調整屋店内に侵入してくる使い魔や魔女の排除をお願いしているらしい。
今までは、戦闘が不得手なみたまさんの代わりにももこが無償で用心棒を買って出ていたらしいのだけど。ももこも学生だし、レナちゃんかえでちゃんとチームを組んでいるから魔女と使い魔が侵入していた場合どうしても後手に回らざるを得なかったので、調整屋内が無人になる時間が減るのはありがたい、とももこが言っていた。
その話は、学校でももこから聞いたのだけど……話している際のももこの表情が若干寂しそうに見えたのは、気のせいじゃないわよね。ふふふ。
エノテラの事情はこのくらいにして、話を戻そう。
「「手合わせ」ならまだしも、「喧嘩」という体裁ですと、傍目には同じ決闘行為でも不和や後の遺恨になりかねません。私としては、推奨しかねます……ましてや、ただでさえ暴走して周囲との不和を生みやすいフェリシアさんですと」
エノテラの意見……持論?に対し、ななかさんは否定的な意見を返す。自由人なエノテラとしっかり者のななかさん、相性悪そうよね。
「弱い犬はよく吠える、と言いますが。あなたはどちらでしょうね?」
「……あぁ? オレが弱そうに見えるってぇ?」
「見えますね」
「んだとー!? がるるるるる……!」
「あら、子犬のような可愛らしい威嚇行動ですね」
気がついたら、興が乗って来たのか燈湖が煽っていて、フェリシアちゃんがまんまと乗せられて過剰に反応していた。
……でまあ、冒頭に繋がるわけ。
《見ていて楽しくはあったけど、さすがに数分も見るものじゃないわね。流石に飽きてきたわ》
「ええ、同意だわ」
《ふふっ、そうですね。とはいえ、勝負の内容はどうしましょうか……魔法少女同士の一対一の決闘形式でハッキリ白黒付けるか、いかに早く魔女を倒せるかの競争系にするか》
どうやらデンドロビウムは、話し合いとかで穏便に済ます選択肢は考えていないらしい。デンドロビウムらしいというか、燈湖らしいというか、やっぱり考え方が同一人物よねぇ。
「深月フェリシアさんは、魔法少女としては強い部類に入るとは思いますが……魔女を前にすると、猪突猛進どころではない暴走状態で魔女を叩きに行きます。ソロならまだしも、チームフラワーナイトのように依頼者を引き連れての傭兵には向かないと言わざるを得ないでしょう。普段の言動も協調性に欠ける幼稚なもので、話し合いで解決、という選択は難しいですわ」
表情から私の考えを読み取ったのか、ななかさんにそう指摘された。一時期フェリシアちゃんを傭兵として雇った経験のあるななかさんの意見だし、まあ私自身そうだろうとは思っていたけど……私が思っていた以上に精神が未熟な娘なようね。
となると。
《ふふふっ。教育者として腕がなりますね》
燈湖とデンドロビウム、両方に獲物として捕捉されたフェリシアちゃんなのだった。ほんと、ご愁傷様……
さて、それはそれとして。
「問題は勝負内容をどうするか、だけど」
「それに関してですが、私から提案があります」
私達が話し合おうとしたところで、ななかさんから案が上がった。
「私は今回の依頼を、チームフラワーナイトとフェリシアさん、両方に出そうと思います。報酬は、1人雇うのに2000円のチームフラワーナイトの額に準拠。報酬の支払いは魔女にトドメを刺した方に、刺せなかった方にも半額の1000円お支払いします。さらにグリーフシードを落とした場合は、トドメを刺した方の報酬に含めます。これでいかがでしょうか?」
「ふーむ……つまりは、ななかさんとかこちゃんが戦術的撤退を余儀なくされた相手をどちらが早く倒せるか、という勝負ですねっ」
「……チームフラワーナイト全員で当たれば勝つのが確定しちゃうから、勝負にすらならない。だから、フラワーナイト側からは代表者一名、フェリシアと
ななかさんの提案を発端に、いくつかの勝負内容に関する意見が出る。それをすり合わせて、今回の勝負内容が決まった。
「えっと……まとめます。勝負内容は、フェリシアちゃんと、チームフラワーナイトから代表者一名、今回は燈……デンドロビウムさんですね。この2人の内どちらが早く依頼した魔女を倒したかで、勝敗を決します。勝負の審判役は私、夏目かこと」
「ボク……デュランタが務めさせてもらうよ」
フェリシアちゃんに出来るだけ不平を言わせないために、勝負の審判役はななか組からかこちゃん、チームフラワーナイトからデュランタ、この2人にやってもらうことになった。かこちゃんは燈湖ともフェリシアちゃんとも友達だから身内贔屓が出来ないし、デュランタは身内が相手だろうと、物事を冷静に公平に判定してくれるからだ。
ちなみに、ななかさんでも公平に判定してくれるとは思うけど。どうもななかさんはフェリシアちゃんから嫌われているらしく、判定にダダをこねられかねないから今回は外れさせてもらう、とのこと。
《ななかの狡猾さと気丈さにばかりに目が向いてて、冷静な判断能力や思慮深さが見えないなんて。やっぱりお子様ね》
「まぁまぁ。世の中そういう娘もいるものよ」
女王様の酷評は置いといて。勝負形式をフェリシアちゃん用にさらに噛み砕いて説明すると、
「ええ、私はそれでかまいません」
「おうよっ! ぜってー負けねー! 魔女はオレが必ず全部ぶっ倒すっ!!」
2人とも即了承した。同じ即決でも、燈湖はキチンとルールを理解してるんでしょうけど、フェリシアちゃんはよく考えず脊髄反射的に返したみたいだし、ちゃんと理解してるか怪しいわね……
というわけで。売られた喧嘩は全部買うガールな燈湖と、魔女絶対殺すガールなフェリシアちゃんとの勝負が始まった。
……燈湖のことだから、既に「誰にも有無を言わせない完全勝利」の絵図を描いてるんでしょうけれど。今回は神浜外の魔女だ、燈湖が勝つとは思うけれど、最終的にどう転ぶかは私にもわからない。
《決闘か……ふふっ楽しみね、カトレア》
「もう、他人事だからって……まぁ、気持ちはちょっとわかるけど」