ハツユキが正気に戻ったのを確認するため(無理矢理)起こして、問題なさそうだと判断出来たところでトウコがやって来た。
「どうやらもう解決したみたいだな。早い仕事で関心だ」
「たまたま魔女が弱過ぎただけよ。グリーフシード落とさなかったし」
「……はい、そういう訳で解決しましたので、無理に来なくても大丈夫ですよ」
トウコに状況説明をし、カレンはスマホでりつに無事保護完了を報告していたのだけど。
「……華恋さん、出来れば予定通り、りつちゃんとステラちゃんに来てもらって欲しいんだけど」
「あっ私からもお願いします!」
「え?」
シュシュとハツユキがカレンにそう頼んでから、私達の方に向き真剣な眼差しを向けてきた。
固い決意を抱いだ瞳……はあ、結局カトレアの立てちゃったフラグは回収されてしまうみたいね。
「華恋、りつとステラにはアタシん家に来てくれるように伝えてくれ」
トウコもそれを見て察したのだろう、私達花騎士魔法少女達はいつもの魔法少女会議場である雷電家へ集まることになった。
ちなみに、このみに事後報告と2人して仕事を抜けちゃった事への詫びと感謝の連絡を入れると。
『私も行く! 最近魔法少女関連では仲間外れな感じで寂しかったし!』
「え、ええ、まあいいけど……」
なんか猛烈に来たがったので、勢いに押されて了承してしまった。
……まあ、いい機会かも知れないわね。いつかは魔法少女の真実をこのみにも話す気ではあったし、新たな花騎士魔法少女の穢れの異常蓄積対策で、グリーフシードのストックは十分だ。異常蓄積に対処した上でこのみのソウルジェムが濁っても問題ない程度には集めてある。
……シュシュとハツユキと遭遇してからここ数日、急ピッチで必要数集めたから、若干の疲労はあるけど。久しぶりに沢山暴れられて楽しかったし、何も問題ない。
「一応聞くが。魔法少女になるんだな?」
「「はいっ!」」
トウコの質問に、2人ははっきりと決意表明した。
という訳で、恒例の雷電家。今回は穢れ異常蓄積が(キュゥべえのせいで)起こる可能性があるので、防音やら何やらの対策としてシェルター道場に集まった。
今日集まったのは、花騎士魔法少女全員とレプリカ花騎士のカレン、保護者役として家主のタメジロウさんと、それに加え今回はこのみ。さらには、
「なんであなたがいるのよ」
「燈湖さん、というより為次郎さんに誘われていまして。良いコニャックが手に入ったから
傭兵魔法少女エノテラまで来ていた。いつの間にやら彼と飲み友達のような関係になっていたらしい。
保護者として大人としてそれで良いのか、と一瞬思ったけど、そういえばエノテラの願い的にタメジロウさんではとがめられないんだった。
まあなんにしても、この娘は魔法少女真実は知ってるから問題ないか。悪酔いするタイプでもなさそうだし。
ただ……
「なんか、随分集まったね……何か特別な契約でもするの?」
このみがこの契約会に参加するなら、説明しなければトラブルのもとだ。
「そうなるわね。今回のこの契約会は、普通の魔法少女の契約じゃないわ」
「まあ、そうだよね。花騎士の人格が生まれちゃうかも知れない契約なんだもんね……それにしても、今回の2人も本当に瓜二つだね!」
「……今まではそう説明してきたけどね。真実はちょっと違うのよ。花騎士のことだけじゃなくて、魔法少女全体にも関係する話よ」
「え?」
さて。本当はこのみには私達から説明したいところなのだけど。
「キュゥべえは、真実全てを言わない事はあっても、嘘は吐かないわ」
《だから、この話はキュゥべえ本人から説明させるのが筋ってものよね。その方が真実味は増すし。とにかくこのみさん――気をしっかりね》
「えっえ?」
私とカトレアの言葉から、かなり真面目な、シリアスな話だと気付いたんでしょうね。このみが困惑と不安が入り混じった顔をする。
「さっキュゥべえ、このみに話しなさい。魔法少女の真実と、これから行う契約がどういうものか」
「わかったよ」
私達に促され、キュゥべえが語り始める。ソウルジェムの真実、魔法少女の魔女化システムとその理由、そしてりつとステラが受けた仕打ち、それを再びシュシュとハツユキにもしようとしている事。いつと変わらぬ淡々とした口調でそのすべてを。
「……そ、そっか。カトレアちゃん達が、何か……内緒にしてる、気がしなくもなかったけど……」
話を全部聞いて飲み込んだこのみは、暗い顔で言葉も若干しどろもどろだけど……ふむ、思ったよりは冷静かしらね。
でもやっぱりソウルジェムは濁って来ているし、キュゥべえに対する目つきも先程とは違い、厳しいものになっている。
けどそれでも。その視線に、怒りや恨み、軽蔑の感情はないように見えた。
「……やっぱりこのみは優しい娘ね。カトレアなんか、真実を知った時なんか魔女になりかけるくらい一気に穢れ溜めてたわよ」
《ちょっ女王様!? 黒歴史暴露しないでよ!?》
「ええ!? だ、大丈夫なのカトレアちゃん!」
《え、えぇそれは当然……でなきゃ今こうして会話出来てないわけだし》
「あ、あぁそれもそうだね……はぁー、よかったぁ」
今の自分の方が精神的に辛いでしょうに、このみったら……ふふ。この様子なら問題ないかしら。
でも、念には念を。後で1人になった時とかに思い出し絶望とかしないとは言い切れない。
だからフォローを――私の想いを、この機会に伝えましょ。
《今更だし繰り返しになるけど。このみさんが私のお母さんの病気を癒してくれた事、感謝しても仕切れないくらい感謝してるし、尊敬しているわ》
「えっ……カトレアちゃん?」
突然の感謝の言葉に戸惑うこのみ。どうやらカトレアもわたしと同じようなことを考えていたようね。ま、もう1人の私なのだから当然か。
カトレアが私に続きを促すように言葉を止めたので、引き継いで話し始める。
「あなたが魔法少女だと知ったから、カトレアは魔法少女になった。そして、本来出会うはずのなかった私、花騎士カトレアと出会えた」
「う、うん、まあそうとも言えるかな?」
そこまで言ってから一旦区切り、ソウルジェムのカトレアに意識を向ける。特に何も言ってこないけど、発している雰囲気でわかる。
私とカトレアが次にこのみに言うセリフは、同じものだ。
「《魔法少女になってくれて、ありがとう。あなたは私の最高の友達よ》」
「……!」
私達の親愛の感情を込めたセリフを聞いたこのみは、
「ぁ、ぁぅぁぅぁ…………え、えへへへ……」
頬に手を当て顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせて照れに照れまくり、最後にはニヤケ出した。
《このみさんが最高に可愛い!》
《ええそうね、完全に同意だわ》
2人だけの念話でお互い同意する。今日も親友のこのみはとても可愛い。
まあともかく。これで、魔法少女になったことに絶望したりはしなくなるでしょ。
《疑っちゃいないんだが。女王様はこのみの事を親友だと思ってるんだよな?》
《そうよ? 何か変かしら?》
《いやなに、キッカケは何かと思ってな》
キッカケねぇ……んー……あえて言うなら。
《このみが花をこよなく愛する少女だったから、かしら。バイト中の――花に囲まれている時のこのみ、とても素敵な顔をするのよ》
《そりゃ知ってるが……まあ、女王様の琴線に触れたってとこか》
私達花騎士の大半は、世界花の加護を受けているだけあって自然と花を大切に思っているけれど。こちらの世界でここまで花を愛している少女に出会えたのには、何か運命的なものを感じた。
それが理由のひとつ。もうひとつは――
《それに――私を見て、一目で花騎士カトレアと気付いてくれたから》
《……なるほどな。ちなみにアタシとカトレアは?》
《カトレアは、同一存在なだけあって双子の妹みたいな感じね》
《ああ、それは私も解ります。私もトウコさんは生き別れの双子の妹に出会えた感覚ですね》
ふむ、やっぱりデンドロビウムも同じなのね。
《だから、私がトウコに感じているのは……まあ、その。親愛の情とは言えるけど、でも親友というより……デンドロビウムが分裂した感じ、かしら》
《言いたいことはなんとなくわかるが……それは感情なのか?》
《ま、まあ、デンドロビウムへ向けている感情と同等ってことよ》
《ふむ、なるほどなぁ》
《女王様と、双子……うへへぇ》
私の受け答えに、トウコは何やら感心したように頷き、カトレアはなんか気持ち悪い笑い声を上げていた。
さて。何故だか恋バナした後みたいな雰囲気になったけど……それはこのみのために事前説明をした結果仕方なく発生してしまったものであって、本題はあくまでシュシュとハツユキの魔法少女契約を守護る会だ。
という訳で、いい加減本題に移りましょ。
「1番っ奈雪初雪! いっきまーす!」
ハツユキは私達が雑談?を挟んだからか、あまり緊張した様子もなく……というよりノリノリで契約に挑んでいた。
んー。ハツユキソウらしいといえばらしいけど、ちょっと調子に乗りすぎてないかしら……ふむ。
「ここで体験談を話して貰おうかしら」
気を引き締めるため、ちらとりつとステラを見ると、私の意を汲んで警告してくれた。
「そうですねぇ……あの時の感覚は、それはもうとにかく気持ち悪くって、頭の中をかき混ぜられたかのような、というか……そんな感じでした」
「……死ぬほど苦しいよ?」
「せっかくバッチリ覚悟決めてたのにぃっ! 上から無理矢理押し潰すかのようにテンション下げさせないでくださいよぅ!?」
「いえ、だいぶ調子に乗ってるように見えたから、痛い目を見るかもしれないのを忘れないようにと思ってね?」
「……はぁ。まぁ確かにちょーっと調子には乗ってたかもなので……一応感謝します」
「もういいかい? それじゃあ奈雪初雪。君の願いを言うといい」
「はい!」
元気よく手を挙げ、一旦瞳を閉じて深呼吸をするハツユキ。
ちなみに、穢れ異常蓄積対策は万全だ。トウコがりつとステラに使用した時と同数のグリーフシードを用意し、ハツユキ自身には花騎士アプリ(トウコが用意したやつ)をインストールしてあるスマホを6台、つまりは上限数である6本の世界花の加護がすべて発動する状態のスマホを服に仕込んでもらっている。
トウコの予測通りなら、これで問題なく対処出来るはず。さて……
「私は、花騎士ハツユキソウの力を欲しています。なので、私をフラワーナイトガールのハツユキソウにして下さい!」
ハツユキは瞳をクワっと開き、キュゥべえをハッキリ見据えてそう告げた。
「……うぅっ!」
直後、ハツユキの身体が淡く発光し、胸元から光の玉――ハツユキの魂が抜き出される。
「おめでとう。君の祈りはエントロピーを凌駕した。目の前のそれが君のソウルジェム、魂の輝きさ…………さあ、その力を解き放ってごらん」
……キュゥべえのセリフに妙な間があったけど。理由は私も気付いている。
まあ、新たな魔法少女の誕生なのは違いないし、変に水を差さない方が良いかしらね。もう少し様子見しましょ。
「はい! えーと……変っ身!」
一瞬悩んでから未だ目の前に浮かぶ自身の魂をハツユキが掴み取ると、
「お、おおおー……!」
ハツユキの身体を光が包み、それが晴れると、聖リリアンナの制服から魔法少女衣装に変わり、ハツユキから魔力を感じ取れるようになる……ふむ、魔法少女ってこうやって成るのね。
さてそれはそれとして。
「トウコ、ハツユキは穢れ異常蓄積を起こさないわ」
未だ身構えているトウコの緊張を一旦解かす。
「そうなのか?」
「ええ。だって――ハツユキから、世界花の加護は感じられないもの」
「そうだね。君たちの時のように花騎士の魂が来た様子もなかった。つまり奈雪初雪は、普通の魔法少女だ」
「ほうほう、つまりはエノテラと同じく、花騎士っぽい魔法少女ということですか。お仲間ですね」
しばらく静観していたエノテラが、ハツユキが同類の魔法少女になったと知って呟く。
「おおー……えへへっ自画自賛みたいでなんですが、ハツユキソウの衣装はやっぱり可愛いですねぇ〜」
周りの会話が聞こえていないのか、ハツユキは姿見に映る自身の衣装を確認する事に夢中だ。くるくると動いて可愛いわね。
《ふむ、これは……開花絵ね》
「だな」
「ハツユキソウは開花衣装が1番好きなので、それを思い浮かべながら願いました!」
満面の笑顔でぴょんぴょん飛び跳ねて嬉しさを体全体で表すハツユキ。
《ついでです。ハツユキソウの力、といいますか。魔法は問題なく使えますか? ここはシェルターなので頑丈です、軽く使ってみてくれませんか?》
キチンとハツユキソウの力が扱えるのか気になったのか、デンドロビウムがそう提案する。
「あっそうですね。じゃあちょっと試して見ます! むむむ……こんな感じかな……ほいっ!」
ハツユキが手をかざし魔力を集め、目の前の空間にバレーボールくらいのサイズの氷塊が出現した。
「わっとと! ってうわ重っ冷たっ!」
ハツユキは、出現と共に自由落下しはじめた氷塊を慌てて両手で掴み……悲鳴を上げて思わず氷塊を手放す。多分、予想より重たかったのと、予想以上にキンキンに冷たくて驚いちゃったんでしょうね。
「「あっ」」
落下先に気付いた幾人かが、思わず声をあげた。氷塊が落ちた先は――
ゴッ
「ァッ――――――!!!!」
ハツユキの足、それも小指あたりだった。ハツユキが顎が外れそうなくらいに大口を開け、声にならない叫びをあげる……凄く痛そう。
……ま、まあとりあえず。ハツユキは問題なく……多少ある気がしないでもないけれど。魔力の流れを見る限り、ハツユキソウと同等の力を扱えそうね。
「はぅぅ〜〜……やっぱり不幸ですー……」
次回の投稿予定は、2021年12月17日(金)を予定しております。